「地熱発電の現状と将来」


地球環境研究会2015年3月5日議事録


独立行政法人 産業技術総合研究所 福島再生可能エネルギー研究所 
再生エネルギー研究センター 地熱チーム長 浅沼宏先生

文責 山田健太郎


【自己紹介】

 

・産総研(AIST):経産省管轄の研究所。研究員3000名、予算1000億円。鉱工業の科学技術に関する研究及び開発などの業務を総合的に行なうことにより、産業技術の向上及びその成果の普及を測り、もって経済及び産業の発展並びに鉱物資源及びエネルギーの安定的かつ効率的な供給の確保に資すること。
・再生可能エネルギー研究所:再生可能エネルギーの技術開発、実証。郡山市に位置、平成26年4月開所。再生可能エネルギーの大量導入を支える、被災地企業への貢献。総人員の約260名のうち、220名は地元住民を職員として採用。
・再生可能エネルギーを使いきる、貯蔵する、地熱利用(地熱発電・地中熱)、風力発電、太陽光発電の6チーム。
・地熱の適正利用技術。地熱発電の適切な開発や、温泉資源との共生等。

 

【地熱エネルギーについて】

・日本は世界有数の地熱エネルギー国。ハワイなどの地下から熱いものが上がってくる地域ではなく、それらが沈み込む場所。だが、水を含んだ海洋プレートが地下に潜ると岩石が水の作用によって融解し、溶けたもの(スラブ)は比重が軽くなって上昇する。そのまま岩の割れ目から地表に出てくると噴火。
・日本で起こる地震はプレート境界付近の深いところで起こるものと、地殻内の浅いところで起こるもの2つ。上記のやわらかい岩石の部分は地震が起こりにくい。
・御嶽山の水蒸気爆発はマグマの中の水。地下のマグマ溜まりの中には1-3%の水が含まれているらしい。

 

・日本では地下深くまで行くと御影石(花崗岩)にあたる。それが日本の基盤岩。
・雨水が染みこんで地下に溜まっているところが貯留層。火山の熱で温められる。また、関東平野のような火山と関係のないところでも、地下深くからの熱で地下の水が温められる(深層熱水)。

 

・再生可能エネルギーで人類活動のエネルギーはまかなえるのか?可能。人類の消費するエネルギーの1万倍の量が太陽エネルギーとして存在。地熱エネルギーも人類の消費エネルギーを上回る。
・地熱エネルギーの特徴:低CO2排出、膨大な賦存量、季節や天候の影響小、世界中に広範に分布、多様な存在形態。
→地球温暖化防止、持続的利用、安定供給、地域のエネルギーセキュリティ、需要に応じた使い分け、高設備利用率、などの効果。
・しかしデメリットとして、開発期間やコストの問題、低エネルギー密度がある。それにより化石燃料との価格競争、大量のエネルギー生産が困難であるなどの問題が生じる。
・我が国での地熱エネルギーの主な利用法:温泉、発電(ボーリングして高温の上記を採取し、タービンを回す)、地中熱利用
・発電コスト:1kwhあたり5円程度が原子力(異論あり)、水力、火力。地熱は16円、風力は12円、太陽光は40円。再生可能エネルギーはコストが高い。
・発電時の二酸化炭素排出量:再生可能エネルギーは排出量は少ないが、太陽光発電は半導体作成時の排出量が多く、環境負荷が大きい。地熱発電は中小の水力発電の次に排出量が少ない。(水力発電は設備が100年以上運用可能であるため、設備分の排出量が少ない上に、発電コストも低い。)
・コストパフォーマンスは水力発電が非常に優れているが、水利権の問題でダムを設置できる河川がもう少ない。実際に水力発電ができる河川は、沢や農業用水路程度。その程度の発電量であれば需要が無いのが現状。
・地熱発電は稼働率が70%程度。風力は20%、太陽光は12%。稼働率は地熱発電が優れている。
・エネルギー収支比(1のエネルギーを入れるといくらのエネルギーが出てくるか)で見ると、原子力は17.4。1を切ると赤字なので役に立たない。地熱発電は火力発電と同等の6.8。他の再生エネルギーは約2なので、優れている。
・世界の地熱資源量:世界一はインドネシア、次いでアメリカ、日本、メキシコ、フィリピン、アイスランド、ニュージーランド、イタリア、と続く。アメリカの場合は非火山性の地熱資源が西海岸の方に多い。
・世界の地熱発電容量で見ると、アメリカが世界一、フィリピン、インドネシア、メキシコ、イタリア、となり、日本は8位。世界3位の資源量を持っていながら、発電量は8位。しかも日本は他の国と異なり、地熱発電量が右肩下がりに落ちてきている。
・日本の地熱発電量は1997年頃まで伸びていたが、発電所が作られなくなり、落ちてきてしまった。経済的に自立した、原子力への方針転換があった、などの理由により、政府が支援をやめたため。予算が研究予算以外は止まった。2011年までその流れは続いたが、東日本大震災をきっかけにまた見直しが始まっている。
・地熱の発電タービンは日本は海外に輸出している。日本政府の保護はなく、会社が自立して行っている。
・国民一人あたりの地熱開発予算を見ると、世界で一番多いのはニュージーランド。次いでスイス、ドイツ、スロバキア、チェコという火山のほとんどない国。日本はランク外。なぜ日本には火山がたくさんあるのに、政府は予算を投入しないのか?

 

【地熱発電はどうやるのか?】

 

 

・地下水が岩の割れ目を伝って地下に溜まり、地熱で熱せられる(地熱貯留層)。そこへ穴を掘って蒸気や熱水を採取し、火力発電と同様にタービンを回す。
・生産井から上がってきた200度の熱水は地上で蒸気になりタービンへ、そして発電に使った水は還元井から地下に戻す。(フラッシュ蒸気発電プラント)
・沸点の低い流体に熱だけ移して発電するシステムもあるが、システム自体が電力を多く使うが、それでも差し引きで発電量が多い。(バイナリサイクル発電プラント)
・地熱資源の多いインドネシアなどはフラッシュ蒸気発電プラントが優勢だが、そうでない国はバイナリサイクル発電プラント。フラッシュ蒸気発電プラントのタービンは日本が大きなシェアを持っているが、バイナリサイクル発電プラントの開発は遅れた。

 

・地熱発電はドリルビットの付いたドリルでボーリング掘削して地下の熱水を回収する。切りくずはパイプ内の人工的な泥水を通じて回収、その泥水は孔内の冷却の役割も果たす。石油掘削に比べ孔内温度が高いため、冷却が重要。
・ポンプを穴に入れ、組み上げる。部屋くらいの大きさのバイナリサイクル発電プラントで、人口3万人くらいの都市の発電はまかなえる。
・1kmくらいの穴だと、パイプを持ち上げてビットの歯を取り替えるのに半日、パイプを元に戻すのに半日。井戸のコストは1日3-400万円なので、それだけのロスになる。耐用年数は30年。

 

・日本の地熱発電は、18地点、21プラント、530mW。原子力発電1基の半分程度。東北地方と九州地方に偏って分布。
・有望な場所は国立公園と重なるところもあり、難しい。
・日本の地熱発電の問題点:
・国立公園や温泉との共存。
・地震誘発の事例がある。
・開発期間が長い。
・山中の発電所への送電線の設置コストが高額。
・パイプ内への析出物であるスケールへの対策。
・高温の岩の中に亀裂と水があることが重要だが、それを見つけるのは難しい。
・発電コストが石炭火力や原子力に比べると高い。
・1ヶ所で持続的に発電するためには5万kW程度の発電が上限となる。原子力は100万kW。

 

・不確実性…亀裂の中に蒸気が入っているが、全ての亀裂に蒸気が入っているわけではない。亀裂はほぼ垂直に入るため、そこをピンポイントで掘削するのは難しい。許される誤差はせいぜい5

m。縦に2km掘るので、高い技術が必要。
・地下構造は地震波探査を行なう。地熱地帯は山がちな場所であり、地下が亀裂が多いため、反射像がきれいに見えない。
・開発初期段階は掘削の成功率は20-30%程度。発電が始まっても、70%程度。投資家が尻込みする原因となる。
・横向きに掘る技術はコストが高く、石油とは異なり地熱の場合は赤字。また、亀裂の位置も正確に把握できないため、ペイしない。
・固定価格買い取り制度は、太陽光は破綻しかかっている。地熱とバイオマスに移行しようとしているが、地熱は開発に時間がかかるため、まだ実現しない。

 

 

・有望な地熱資源は特別保護地区の中にある。環境省が認めないため、国立公園との共存が難しい。
・福島では、温泉事業者から強い反対。地熱発電の方が掘削深度が深く、温泉の方が浅い。もし地熱発電で掘削する深度と温泉掘削の深度との間に水を通さない層があれば問題がないが、実際にそれがどれくらい水を通さないのかは分からない。最近、そのモニタリングをするための申請を行なうところ。本来はそのモニタリングは温泉事業者がやらなくてはならないが、モニタリング装置が100万円程度するため、コスト削減を行って廉価なモニタリング装置を作成しなくてはいけない。
・日本の在来型の地熱発電の将来像:有望地域の開発(425万kW)、高温温泉でのバイナリー方式発電(約830万kW)、既存地熱発電所へのバイナリー発電システムの導入、離島におけるディーゼル発電の代替。しかし、バイナリーシステムは最後に蒸気を冷やさなくてはいけないが、その冷媒で地下水を用いてしまい、地元の地下水使用者と問題が生じたこともある。

 

 

・熱需要:家庭では上限60℃。化石燃料を800℃で燃やして水を100℃にして60℃に冷却するのは効率が悪い。そこに温泉を使えると良い。また、温泉は娯楽、治療やリハビリテーション、ビジネスなどに使用できる。ただし、日本では温泉は「かけ流し」でないと客が集まらないという問題がある。また、温泉は実際には浴槽にしか用いておらず、他は灯油を用いて給湯や暖房をまかなっている。温泉の排熱を利用した方が効率が良いのだが、熱交換器を古い温泉旅館などに導入することは経済的に難しい。
・オーストラリアの有名温泉リゾートでは、エネルギーを温泉の熱から取り、冷えた温泉に入浴する形式をとっている。

 

・地熱発電の新展開:人工的に高温の岩の中に亀裂を作成する(Engineering Geothermal System:EGS)。1970年代に概念が提唱。掘削井の中に高圧水を流し、地下の亀裂を押し広げ、横向きにずらす。すると亀裂がずれて閉じなくなるため、そこが帯水層になる。地層がずれる際に微小な地震が起こるため、地上で観測する。最初の井戸から少し離れたところにもう1本掘削井を設ければ、そこから熱水が上がってくる。
・少し異なったEGSの例として、蒸気圧が下がってきた井戸の横で掘削して水を入れ、蒸気圧を回復させるという方法や、マグマ溜り中の水分を直接取り出す方法もある。
・しかし山形でそれを試したところ、入れた水がほとんど外へ流出してしまった。日本の地下には亀裂が多いためである。また、やはり1つの原子炉に比べると生産性は低い。
・日本の全発電設備の容量は209GW。2050年の日本の地熱発電の容量の予測は3GW。どうするか。
・日本の地下には亀裂が生じやすい深度よりも深いところに、地震の生じない亀裂の少ない深度がある。深いため、温度が高く地熱も多い。そこで亀裂を人工的に作れば、効率的にEGSを用いることが出来る。しかし、その深度まで掘削することが技術的に非常に困難。過去に2例あるだけ。その深度でどういう現象が起こるかも科学的に分かっていないことが多い。また、地下深くの水は海水由来であることもあり、熱水中に海塩に由来する塩酸が含まれていることもある。
・冷たい水を入れ、少し圧力を抜くと、気体の体積が膨張して温度が下がり、それによって周囲の岩石が熱応力によって破壊される。その方法によって深部に亀裂を作る。

 

 

 

・また、東日本の方が目的とする地熱の深度が浅い、カルデラの地下には冷えたマグマ溜まりがありその中に水が入っている、などが分かっているため、その地域をターゲットとすればよい。カルデラ1つあたりのポテンシャルは6GWで30年間の発電が可能と考えられている。地上周りの問題(例:塩酸をどうするか)、地下の構造の推定、孔をどうやって掘るか、などの問題を総がかりで取り組まなくてはいけない。2030年までに様々な技術と有機的にリンクを結び、パイロットプランを開発したい。最終的にはTW(テラワット)単位のエネルギー生産へ。(地熱アポロ計画)

 

・社会的問題も解決しなくてはいけない。温泉事業者との関係、地域活性化戦略、など。リスクもきちんと計上する。

 

・地球熱シミュレータ計画:地球熱のシミュレーションを詳細に行いたい。沈み込み帯から地下浅部の地熱までを含めて包括的に熱循環をシミュレーションする。
・最終的には他の再生可能エネルギーとも合わせて今後をシミュレーションしたい。
・2040年になると人類の必要なエネルギーの3分の1は不足する。特に日本はエネルギーを自前で用意することは喫緊の課題である。
・原発は、地域住民が原発運転再開の差し止めを請求すると、おそらく運転が止まってしまう(大飯原発の例)。従って、それをまかなう量のエネルギーを他で準備しなくてはいけない。地熱発電でそれを行いたい。
・火山の分布と人口密集地帯はおおよそ一致している。日本こそ地熱発電をリードして開発していかなくてはいけない。

【質疑応答】
Q. 9人のスタッフのうち3人は新人とのこと。原発研究の人は来ないのか?
A. それはなさそう。また、うまく行っても年間に1人採用。優秀な学生は青田買いになっており、人材確保は難しい。
Q. 研究所前の空き地で掘削はしないのか?
A. 請求したけれども落ちた。
Q. 地熱発電が進まないのは国のせいか?
A. 国のせいだけではない。研究者にもデベロッパーにも問題がある。自分たちのエネルギーをどうしていくか、という議論が足りなかったのでは。それは他のエネルギーでも同じこと。もしかしてそういう話し合いの情報は隠されてきたのではないか。それは問題の根底にあるように思う。
Q. カルデラのアイデアはすごいのか?
A. すごい。しかし、今すぐできるものではない。政府は2040年までの計画で考えていて、ハイリスクハイリターンである。それまでは在来型のシステムでやっていなかくてはいけない。
Q. 地熱発電の環境破壊の側面はどのようなものか?
A. 景観への問題、温泉への影響、硫化水素が漏出して異臭のもととなる、などの問題がある。また、EGSの場合は地震誘発の問題が生じる。スイスのバーゼルではM2.6の地震が起き、被害額が数億円にのぼった。地震誘発はCO2貯留など流体を地下に入れる技術が抱える問題である。
Q. 国の投資には限界があると思うが、民間がリスクのある状態で投資することは厳しい。まずは国が安全であることを示せるよう支援すべき。
A. その通り。以前政府が支援を止めたのは良くなかった。民間が参入するには、不確定な部分をどれらけ減らせるかが重要。
Q. 何十年もかかるとのことだが、スピードアップするには?
A. 人と金があれば一番良いが、海外との共同開発によっても可能。
Q. 国際共同開発の場合は特許の問題は起こるのか?
A. 今も起こりつつある。知財をどうするかというのはモメる。
Q. 国際共同開発はブレーキになる可能性もあるのでは?
A. 完全にオープンにするというのも一つの手。例えばソフト開発。しかし知財の問題は出てくるだろう。
Q. 有望地域が国立公園の中にあるとのことだが、開発の可能性は?
A. 開発に10年かかり、温泉との共存をはかるとすると、2050年に3GWを達成することも難しいとの見方も。
Q. 横から掘るのは?
A. 環境省が許していない。また、開発者側もメンテナンスが難しいので好まない。
Q. 地中熱とは?
A. 太陽光の熱と地下の熱で地下数メートルで13℃くらいになる。夏は冷たく、冬は暖かい。
Q. 家の暖房のようなシステムでは?
A. コストが高い。
Q. 地中熱も析出の問題はでるのか?
A. 出ない。
Q. 水以外のものを地下に送るのはどうか?
A. ありえるが、効率が悪い。パイプの中の流体が接する面積は小さい。大量の発電には向かない。
Q. 工場の排熱をバイナリ発電に使えないか?
A. 非常に重要だと思う。排熱の性質が分かっているので使いやすい。システムとして実用化もされている。あとは熱電素子を使う方法もありえるが、まだ研究途上。

・社会科学的側面も考えなくてはいけない。「東京にエネルギーを送るためになぜ自分たちが苦労しなくてはならないのか」という福島県の意見。
・発電所への交付金などを目的にしていては、エネルギーシステムとしては出来上がらない。雇用の創出なども考えるべき。

Q. 福島県の知事が変わって、意見も変わるのではないか。また、福島県民はそこまで気にしていないのではないかと思う。
A. エネルギーに関わるプレーヤーは県民全員のはずなのに、温泉事業者などの偏った部分からしか意見が来ない。その課題をどうにか解決しないといけない。
Q. 防潮堤などの予算も地熱発電に使ってはどうか。
A. 2020年が1つの区切りとなっている。