【世界的な第二次ブームを迎えた海洋温度差発電の現状と今後の展望】

2014年3月6日     記録者 澁谷泰蔵
講演者 佐賀大学海洋エネルギー研究センター 教授 池上康之先生

講演題目: ■講演者略歴
昭和61年 佐賀大学理工学部生産機械工学科卒業
平成 3年 九州大学大学院総合理工学研究科博士後期課程修了
平成 3年 佐賀大学理工学部生産機械工学科講師       
平成 8年 米国Duke大学 訪問研究員
平成14年 佐賀大学海洋エネルギー研究センター 助教授  平成19年  准教授
平成25年 同上 副センター長   教授

 

■講演概要
 海洋温度差発電(OTEC)とは,海洋における深層水と表層水の温度差を利用した発電方法である.深層水をポンプで汲み上げ,アンモニアなどの低沸点液体を凝縮・蒸発させることでタービンを回し発電する.深層水の温度は年間を通して安定しているため,太陽光・風力などに比べて高い設備利用率を実現できる.従来は設備稼働に必要なエネルギーが大きすぎて採算が合わないとされてきたが,佐賀大グループによる熱交換器の改良や,取水管の進歩・オフショア油田の技術利用などによって効率改善が進められてきた.この結果,現在では10MW規模の施設であれば30円/kWh程度が実現できると考えられている.2000年代後半の石油価格上昇を背景に米・仏の企業が急ピッチでOTEC開発を進めており,韓国・中国もこれに続いている.日本では佐賀大が中心となって,久米島での実証試験が始まっているほか,企業コンソーシアムによるインドネシアへのOTEC導入も検討されているが,実証レベルでは米仏に10年は遅れていると言われている.世界に遅れを取らないため,今後もオールジャパン体制をより一層強化していきたい.

 

■海洋温度差発電とは
 海洋温度差発電(Ocean Thermal Energy Conversion,以下OTEC)とは, 海洋における低音の深層水と高温の表層水の温度差を利用してタービンを回す発電方法である.20℃程度の温度差を利用するため,熱媒体としてアンモニアや代替フロンなどの低沸点液体が用いられる.深層水の温度は安定しているため,安定した発電が可能である.特に,赤道付近は表層水の温度も安定して高いため,年間通して安定した高出力が期待できる.反対に,表層水の温度が低い地域での発電は困難である.また,小さい温度差を利用するため,経済性を良くするためには規模を大きくする必要がある.


■日本の海洋発電への取り組み・現状
 平成19年に海洋基本法が成立し,20年には海洋基本計画が策定された.25年の同計画の見直しで発電が項目として追加され,洋上風力発電をはじめ,波力・潮流・海流・海洋温度差を含めて海洋エネルギーの利用を促進するための施策を具体的に提示されている.このように,海洋エネルギーの利用に向けた国家としての取り組みが始まっている.
 実際のOTEC開発には実証試験が不可欠であるが,日本の漁業組合は声が大きく,実証試験がしづらい状況にある.EUの実証フィールドは予約で一杯であり,日本は自前の実証フィールドを広げる必要があるが,先日海洋発電の実証フィールドにに7県が名乗りを上げたことがニュースで取り上げられた.少しずつであるが,日本でもOTEC開発の環境が整いつつある.

 

■日本におけるOTECのポテンシャル
 日本は国土は少ないが,排他的経済水域は世界6位の海洋大国である.波力・海流・潮流・OTECなどの海洋発電のポテンシャルに関する平成22年のNEDOの調査によれば,OTECは南鳥島や沖ノ鳥島などで効率が高く,適地とされる表面海水温が20℃を超える海域は和歌山県以南であることが示されている.同報告によれば,OTECは原発8基分のポテンシャルを擁している.

 

■OTEC第一次ブームと第二次ブーム
 第一次ブームは40年前のオイルショックが契機となっている.この時,国内のエネルギー意識が高まり,様々な発電方法が検討された.その一つがOTECであった.
ちなみに,このときテレビで佐賀大の上原グループの取り組みを見たことが,講演者がOTECと関わるきっかけとなった.1980年には米ロッキード社がプロジェクトを立ち上げており,技術的に可能であることは確かめられていたが,石油価格が1バレル49ドルを越えないと採算が合わないと言う結論が出され,このプロジェクトは99年にストップした.
 石油価格の上昇と共に,2008年以降に米ロッキード社や仏DCNS社がプロジェクトを開始しており,2013年10月にはロッキード社と中国Reignwood社による海南島のOTECプラント計画が発表された.これが現在も続く第二次ブームである.40年前に2ドル/バレルだった石油はいまや100ドルを超えている.第一次ブームと第二次ブーム存在は,特許の数を見てもその時期に山があり,明らかである.

 

■第二次ブームを支える技術革新
 第一次ブームの時に比べ,熱交換器・取水管が大きく進歩している.また,これに加えてオフショア油田(水深2−3km)開発技術の進歩もOTEC開発を支えている.佐賀大の開発したプレート式熱交換器は,従来の大きい温度差を想定した円管型の熱交換器に比べてOTECで利用する小さい温度差に最適化されている.取水管は硬化ポリエチレンから繊維強化プラスチック(FRP)になった.

 

■日本と米国の技術的アプローチの違い
 日本は台風を想定し,それに強い完全没水型の浮体プラントをIHI社とジャパンマリンユナイテッド(JMU)社が中心となって開発している.これは,プラント全体が20m以上の水深に水没するもので,平成25年9月,海事協会よりJMU社が佐賀大と共同開発した浮体式没水型の概念承認を取得している.これは,完全没水型では世界初である.
それに対し,米国はオフショア油田型の半没水式を採用している.これはコストが安い反面,台風には弱い.
 また熱交換器の材料として,米国はアルミ合金を採用している.この背景にはカナダの水力発電による安価なアルミの供給がある.日本は神戸製鋼を中心としたチタンを採用している.チタンのほうが値段が高いが海水による腐食には強い.

 

■OTECプラントの複合利用
 OTECプラントは,発電以外にも海水の淡水化,汲み上げた深層水の直接利用,海中のリチウム回収などの複合利用が考えられている.海水淡水化は,フラッシュ蒸発という技術を用いた処理能力1000t/日の装置が佐賀大とインド政府との共同で運用中である.また,水深200m以深の海水は無菌で栄養分が多く,飲用としての利用のほか,漁場の活性化効果も知られている.
佐賀大では二酸化マンガン系材料による吸着を利用した海中のリチウム回収技術も研究中である.

 

■設備容量ごとの発電コスト・建設コスト
 NEDOの報告によると,設備容量1MWのプラントの発電コストは 40-60円/kWh,10MWで15-25円/kWh,100MWで10円/kWh程度となっている.プラントの建設費は目安で言えば,
10MW が 300億円,100Wが 1000億円程度である.なお,OTECプラントの設備利用率は太陽光発電の6-7倍はある(およそ80%程度)ことが知られている.

 

■OTECの効率
 OTECプラントの効率は,(出力エネルギー)/(入力エネルギー)で評価する.現在の技術ではこれは最大で80%に至っている.黎明期には,OTECは深層水汲み上げに必要なポンプの電力を賄えないのではないかとの疑念もあったが,それは杞憂である.

 

■現在進めているプロジェクト(企業コンソーシアムのターゲット:インドネシア・沖縄の取り組み)
 インドネシアは国民が若く,エネルギー消費は増加傾向にある.また,赤道に近いためOTECのポテンシャルも高い.現在佐賀大も含めた企業コンソーシアムを作り,インドネシアへのOTEC導入を進めている.台風の影響を考えると,完全没水型の日本方式は有利であると考えている.
 また,沖縄県は自らの予算でOTECプロジェクトを始動している.
沖縄の電気は全て化石燃料由来
であり,100MWのOTECプラント4基で10%程度の電力を賄うことが出来る.複合利用に関しても,
久米島が既に商業的に1.3万t/日 の深層水を利用しているため,展開は容易であり,これに関するプロジェクトも進んでいる.

 

■日頃考えていること,IQからEQへ
 エネルギーはIntensive Quantity(IQ,示強変数) x Extensive Quantity(示量変数)で表現できる.例えばIQは温度差,EQはエントロピー差と読み替えることが出来る.化石燃料は局所的な高い温度差を利用したIQ型のエネルギーであり,OTECは大域的な低い温度差を利用したエネルギーである.これからの時代はIQ型エネルギーを脱却し,EQ型エネルギーへ
向かうべきである.そして人間も,IQ(知力)だけではなくEQ(度量)で勝負する時代であろう.

 

■質疑応答

Q.送電ケーブルの敷設コストはどの程度になるのか
A.陸上式は送電コストは考えなくて良い.浮体式の場合は1億円/kmと言われている.これを賄うためにも,大規模化が必要である.
沖合20−30kmで発電する場合は,100MWクラスであれば送電ケーブルの敷設コストは初期コストの数%に収めることが出来る.

Q.環境アセスメントや漁民との摩擦でプロジェクトが遅れることはないのか
A.正直なところ,ようやくそれらを気にすることが出来るほどにOTECが実現性を帯びてきたという感はある.環境アセスに関しては,現在国際基準の策定中であり,漁民との摩擦に関しては漁協と合意が出来た所でのみOTEC開発をする.深層水による漁場の活性化ができるため,漁協とは協力関係を築けるはずである.

Q.初期コストは火力発電所に比べ高いか
A.初期コストは高い.10MW規模で100億円,100MWで1000億円程度と見積もられている.

Q.陸上式の場合は,既存の発電所の近くに置くことも出来るか
A.できる.韓国など表層水の温度が低い地域はこれを積極的に利用しようとしている.発電所の排熱と深層水との温度差によって効率的な発電が可能となる.

Q.九州電力・沖縄電力の関心はどの程度か
A.沖縄電力は離島用の発電法として興味を持っている.離島での発電コストは50-70円/kWhと高いことが理由である.但し,本島では石炭火力が8円/kWhの電気を作っており,これとは勝負にならない.

Q.OTEC施設の移動は簡単か
A.取水管を浮かべるなどすれば,海上を容易に移動できる.

Q.台風や海流の変化には対応できるのか
A.日本が採用している水没式(熱交換器が水面下20mにある)であれば,問題ない.

Q.アンモニアがリークするとどんな問題があるか
A.常圧ではガスとして揮発していくためになるため,海洋汚染などは限定的であると思われる.銅はアンモニアによって腐食されるため,その点は注意が必要である.