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【たたかう地理学/泊原発から考える】

 

小野有五先生ご講演 議事録
交詢社 地球環境研究会 2014年11月6日
文責 山田健太郎

 

【先生の著書「たたかう地理学」について】


・日本の政策決定は一つの組織が牛耳っている。例:ダムについて…これから作るダムは無駄が多い。
・自然のことをよく知る専門家として、戦っていかなくてはならない。「ムラ」の外部の人間は戦って行かなくては中に入って討論をすることができない。


・「学問のすすめ」にもあるように、学問だけでなく、実行をしなくてはならない。環境問題は内輪だけで議論するわけには行かず、社会にも目を向けなくてはいけない。
・昔の科学と今の科学は異なる。今の科学は勉強だけしていれば良いというわけではない。自分の専門ではないから知らない、というわけにはいかない。例:臨床医と基礎研究医…研究医だからといって、目の前の患者を放置するわけなには行かない。


・最初のきっかけは「シマフクロウ」。ゴルフ場の開発を止めるところまで科学者が動くことになった。

 

【前回お話された内容と今回の講演内容】


・前回は原発を止めるべきではないかという話をした。しかし、生きて行くためには他のエネルギーが必要。その辺りについて話してほしいと頼まれた。
・今回は泊原発廃炉のパンフレットを持参。
・「結び場」、NPO法人「耳すま」を設立。原発によって札幌に避難してきた方たちのための場を作った。
・札幌は泊原発の風下だ。
・食料自給率は北海道だけで見れば200%。日本の食料庫としての役割を持つ北海道だけでも原発は作らない方が良いのではないか。
・3年以上経ち、原発問題は風化しつつある。福島だけの問題に「され」つつある。政府によって再稼働が具体化されつつある。
・原発に関する勉強会を開いても参加者が少なくなってきた。原発に熱心に反対する人は毎回出席するが、低関心から無関心層は来なくなった。
・パンフレットを作成した。「原発反対」を謳ってはいない。原発に関する事実を述べ、読み手の判断に委ねる内容にした。

【パンフレットの内容について】


・泊原発は積丹半島の付け根南西部。北海道全体で見ても西部にある。よって泊原発の上空や地上では西風が卓越する。つまり、泊原発に事故があれば、それより東にある札幌を含め北海道の広域が被害を受ける。
・SPEEDIのようなコンピューターシミュレーションにより、原発事故被害の様子をシミュレーションした。札幌で最も線量が高いところは87~170mSv/年となる。成人男性の許容量は1~2mSv/年。
・高い山が周囲にないため、広範囲まで放射性物質が広がる可能性がある。
・放射性物質は同心円状には広がらない。風向きと地形の影響を強く受ける。
 


・泊原発の近くから風船を飛ばすと、一番遠いものでは旭川の方まで飛来。同心円状ではなく、東側の方に多く分布。
・大飯原発は司法により原発停止が決定。そこでの事例では250km遠くまで放射性物質が飛ぶ可能性が指摘された。

 


 
・福島原発の事例では、SPPEDIの結果が隠された結果、原発付近の住民は福島市に向かって避難、つまり北西へ避難した。実際は放射性物質は北西方向へ多く飛ぶため、住民が無用に被爆する結果となってしまった。
・ベクレル…放射線をどれだけ出すかの値 シーベルト…放射線をどれだけ受けるかの値
・チェルノブイリの事例を考慮すると、飯舘村や二本松市も移住の義務がある地域(補償が出る)。特に子供は移住すべき。福島原発北西部では30km圏内よりも外側でも「移住義務」相当。
・日本は国土が狭いのに、電気を作るために人が住めない地域を生み出すかもしれないリスクをとる必要はあるのか?

・放射性物質の除染の際、表層の5cmを削る。それが袋の中に濃集される形になるので、非常に高い線量になる。それを他の場所に持って行こうとする。その置き場は決まっていない。仮の置き場も決まっていない。仮の仮の置き場が決まりつつある。住民感情との兼ね合いもあり、なかなか決まらない。今決まっている仮仮置き場は、水田に向いた平地。山からの土砂崩れを避けるため。また、その水田の農家はもう米を作っても売れず、さらに仮仮置き場にすれば補償費が出るため、結果農地に置くことになった。

・「原発事故はこんなものか」というムードがある。福島は被害を被ったが、東京には影響がなかった、という雰囲気が人々の中に刷り込まれつつある。しかしそれは間違い。福島原発はたまたま太平洋岸にあったたけで、偏西風の影響で放射性物質のほとんどが太平洋に流出したというだけのこと。それでも13万人の避難者を出している。これが日本海側の原発ならどうだろうか。風上側の原発が事故を起こしたら、こんなものでは済まない。
・海側にはどれだけ放射性物質は広がったのか。震災直後は日本からは情報が分からないので、ドイツやフランスの情報から知った。現在、海側にどれだけ放射性物質が広がったのか、まだ分かっていない。チェルノブイリは大陸の内部なので調査ができた。海は調査が難しいので、まだ分からない。放射線のもたらす被害は何世代もあとになって明らかになるかもしれない。
・「原子力規制委員会」は「安全委員会」ではない。田中委員長は「基準をパスしたからといって安全と言えない」とは言っている。

 


 
・実際に被害が出たときに、どう避難するか。それは規制委員会の審査基準に入っていない。アメリカは入っている。アメリカでは「避難できない原発はアウト」。
・積丹半島は東京近辺だと、伊豆半島のようなもの。火山堆積物によるもろい岩盤であり、地震が起きれば崩れる可能性がある。しかし、避難訓練を行ったが、現実離れした条件で訓練していたので、避難できたとしても実際には適用できないのではないか。
・例え避難できたとしても、避難先は札幌になっている。しかし、札幌も風下なので、避難先としては良くない。

 


 
・泊原発の付近にプレート境界はないと言われていたが、奥尻の方にあった。4つのプレートに囲まれた稀有な国が日本である。
・地球科学は、事が起きてからではないと危ない場所は分からない。地震や火山噴火もそうだ。
・日本海側はプレート境界だが、沈み込むわけではないく、押し合っている形。まだその地域の力学はよく分かっていない。

 


 
・「鳥瞰図」と「鯨瞰図」(パンフレット5ページ)。
・奥尻の方は後志トラフ(盆地)と奥尻海嶺(山脈)がある。奥尻海嶺が少しだけ海面上に顔を出したのが奥尻島。奥尻海嶺近辺の地震も、3.11と同様に断層が連動して起きた。
・奥尻海嶺の西側の断層が動いたので奥尻島西岸へ津波が来たが、奥尻海嶺の東側にも活断層はたくさんある。もしそれが動いていたら、泊原発は津波の被害を受けていたかもしれない。

・地震も人間のストレスと同じで、プレート境界がストレスを溜め込んで一気に発散すると大きなエネルギーの地震を引き起こす。これまでに大きな地震の記録がないところ(地震の空白域)が怖い。礼文島・利尻島付近、奥尻よりも陸側の海域、北陸沿岸は危ないかもしれない。
・ユーラシアプレートと北米プレートの「つっぱり合い」は太平洋側にあるプレートの沈み込みよりもエネルギーは小さいので、地震のマグニチュードは小さい。しかし、深海は太平洋側に比べて陸に近い。つまり、津波の到達時間が早い。

 


 
・原発のコストは本当は高い。電力会社が株主に対する説明責任のために公表している全収支を用いて計算をすると、火力と原子力のコストはほとんど変わらない。水力はもっと安い。
・原子力は発電能力の調節が利かないため、電力の余る夜間などは揚水(ダム湖に水を汲み上げる)に用いる。そのような揚水コストも組み入れると、火力よりもコストが高くなる。

・これから原発を再稼動させると、他のコストがかかる。例えば福島の処理は4兆円がほぼ全て税金から投入されている。本当は民間会社なので、それもコストに組み入れなくてはいけない。将来的に10兆円まで膨らむかもしれない。そうすると、火力発電の約2倍になる。さらに核のゴミ処理のコストまで含めるともっと高くなる。

・泊村への原発に伴う資金援助がなくなることはない。廃炉には30から50年はかかる。そのために村に人が定期的に来るので、村の経済は保たれる。
・福島4号機は使用済み核燃料を保存するプールが壊れつつあったが、改修工事の遅れや弁の配置によってかろうじて水が抜けず、奇跡的に核燃料が水に浸かったままだった。もしそれが剥き出しになってしまっていたら、東京も壊滅していただろう。同じリスクは他の原発にもある。廃炉にしてからも長年にわたって処理をし続けなくてはいけない。

 


 
・原発に代わるエネルギー。LNG(液化天然ガス)を用いたガス・コンバインド・サイクル発電は熱効率の良い発電。熱を捨てず、再利用する。
・ソーラーや風力は370万kWの発電能力。泊原発はせいぜい200万kW。しかし、送電網の未発達により、北電があまり電力を買い取ってくれない。送電網にこそ税金を投入すべきである。しかし、原発は減価償却が終わり、発電すれば儲かる。しかも福島原発のケースから、リスクは税金から賄われることが分かったので、この状態は促進される。どうやったら現状を打破できるのか?
(・ただし、泊原発は安定的に200万kWの「発電能力」だが、ソーラーや風力では照っている時や吹いている時の「発電能力」が370万kWということなので、発電効率も考慮しなくてはいけない、というコメントが参加者から指摘される)
・バイオガス(牛の糞)による発電で鹿追町は電気の自給自足ができる。電気の地産地消が望ましい。東京でもソーラーパネルで一つのビル内の電力を自給自足できるのではないか。


 
・原発のゴミについて。10万年間保存できるのか。燃料棒は原発から取り出した時もかなり放射能が高い(ただし発電できるレベルではない)。それが地下にあった時と同じ状態(つまり天然資源の元の状態に戻る)のに10万年かかる。
・12.5万年前が温度が最も高く、その後温度は低下。最後の氷河時代が終わり、今はもう少し気温が高い。10万年前はホモ・サピエンスはいない。そのような長い時間、燃料を保存できると考えるのは不遜ではないか。
・氷河時代はだいたい10万年周期。そのような長い時間、はたして「ゴミ」を保存できるのか?氷床は今は南極やグリーンランドにしかないが、2万年前はスカンジナビアの方も厚さ3800mの氷床に覆われていた。その氷床が溶け、250m以上地表が隆起した。

・フィンランドは高レベル放射性廃棄物を埋蔵処分するための施設を地下に作った。しかし、小泉首相は日本にそのようなものを作ることは無理と判断。
・フィンランドは安定している大陸。しかし、それでも250m以上地盤が移動する。それによって地層に亀裂ができる可能性もある。
・日本では幌延が埋蔵処分の候補地として挙がっている。地下300mまで掘って調査中。まだ核廃棄物は持ち込まず、地下水の条件などを調べている。しかし、近くに活断層(サロベツ断層帯)があり、それによって震度7の地震が起こる可能性がある。

・約20億年前、スカンジナビアやカナダやシベリアなどの楯状地の岩盤が出来た。そういうところでは埋蔵処分の可能性がある。しかし、日本はもっと新しくなってから形成された変動帯であるため、両者は比較にならない。日本では埋蔵処分は無理ではないか。
・日本にある核のゴミは1万7千トン、アメリカは7万トン。アメリカでは地層処分、地上保管、リサイクルを検討。地上保管がコスト・リスクが一番低いかもしれない。リサイクルは一見すると良さそうだが、もんじゅの事例を見ても分かるように良くない。

 


 
・地層処分の進捗はフィンランドがトップ。しかしどの国も実現には至っていない。
・地盤が安定しているとはいえ、10万年間安全とは言えない。ましてや日本のようにプレート境界に位置している日本では無理だろう。しかし、今既にある1万7千トンの核のゴミはどうにかしなくてはいけない。
・安全なところに置くのはもちろん大事だが、それに加えこれ以上増やさないことが大事である。


【愛知さんコメント】

 

・原子力発電は、人類が手を出してはいけないところに手を出してしまった。しかしもうやってしまったので、せめてこれ以上は増やさないというのも一理ある。一方、エネルギーの観点から見ると、日本のエネルギーの30%を担う原発の代替エネルギーをどうするか、ということもあり難しい問題だ。

 

【質疑応答】

 

Q. パンフレット6番、地層処分のコストは組み入れられているか?
A. 入っていない。計算すればもっと高くなるはず。

 

Q. 原発の出す熱について。
A. 温暖化に利く。ゼロにはならない。

 

Q. 廃炉費用はどれくらいか?
A. 詳細は分からないが、電気代が数円は上がるだろう。

 

Q. 主要国の原発の状況はどんな感じか?地盤の良さとの関連も含めて。
A. 世界中の原発は約400台、稼働数は分からない。フランスが一番多くて、日本は54台。途上国はこれから作りたい。しかしアメリカやフランスは減らしたい。ドイツは脱原発。このように、先進国は原発を減らす方向。代替エネルギーは基本的には再生可能エネルギー。核ゴミの問題と温暖化の問題を考えるとそれしかない。

 


A. 中心よりやや右(線で比較的大きく囲まれた地域)。西風が吹けば直撃。20μSv/hくらい。

Q. 原発を40年で廃炉にしようとしていたのでは?廃炉後はどうするのか?再生可能エネルギーやLNGでどうにかできないのか?
A. 最初はそうしていた。時期は伸びても、いずれにしろ廃炉にするという。新しく作らなければゼロになる。その40~50年で再生可能エネルギーに移行したい。再生可能エネルギーとLNGで代替できるはず。あとは蓄電。揚水発電もソーラー用に転用できるかもしれない。現在は原発が止まっていてもやっていけている。石油代で赤字になっているというが、けいけんがそれは円安の影響もある。

 

大森さんコメント


・フランスは実は原発事故がとても多くて経験豊富。だから日本にも手伝いに来た。中国は危ないかも。インドは自分では直せないことは当然だと思っている。そういう国々に原発を売っていくことは怖いことではないか。
・アメリカは原子力を軍事で使っているので、5から6万人の専門の部隊があるという。日本もそういうのが必要ではないか。

・放射線を遮蔽する金属の強度は40年で半減する試験結果がある。だから廃炉を40年にしている。しかし、儲かるのでさらに長期間運用したくなる。壊した廃材を再利用するわけにはいかないので、果たしてスクラップビルドできるのか問題。
・日本海沿岸に断層があることを電力会社は隠していた。技術屋は弱点を知っているもので。何が隠蔽されているのか、怖いところである。