【地球環境研究会 (交詢社 ) 】地球環境問題の全てを知ろう

 

    お客様歓迎です。地球環境研究会(中央区銀座6丁目8 交詢社内)は、地球環境問題を理解し、人の千年未来に役立ちたいと考えている集まりです。毎回、関係する分野の専門家をお招きしています。

  毎月第1木曜が例会日です。社員の方、また会員のご友人の方、ゲストとしてお招きします、ご参加ください。また続けての参加される場合はご入会下さい。

  

月からの計画

 5月11日:野澤拓磨 慶應大学博士課程 「スイスでの国連環境計画 化学物質廃棄物課 GEFチームでの体験」、当会の元助手、その延長でスイスへ、その体験を聞く。

 5月19日:大人の遠足、三島の復元した清流、柿田川、静岡県に芽生える温暖化対応の新産業。

 6月1日:今井倫太 慶應理工学部情報工学科教授「ロボットの未来学、人を幸せにする方向」

 6月27日:福島第1見学(会員のみ)

 7月6日:野辺継男 :インテル事業開発ダイレクター:「IoTの未来」

 8月3日::秋元博路 大阪大教授 「海上風力発電と海流発電」

 9月7日:川越美一 商船三井常務 「外航海運業のCOとのかかわり」

 9月29日~10月6日:地球環境展

 10月5日:押谷仁 東北大学生物学教授「伝染病の脅威、パンデミックに立ち向かう」

 11月2日:尾本恵市 東大名誉教授 「ヒトと文明」

 12月7日:武田康男 「日本の美しい空」

 2018年 1月11日:吉川真 JAXA宇宙科学研究所准教授「小惑星の軌道予測の話」

 3月1日:長尾年恭  東海大学教授「地下天気図と地震予知」

 

図書について

地球環境と関係する図書を順次集めています、例会日にお貸しします。それの一部を紹介します、番号をお使いください。図書リストをご覧ください。

 

 17-06:骨が語る日本人の歴史:片山一道:日本人とは何者か

 17-04入門トランプ政権:杉山弘毅:「壊し屋」大統領は世界をどう変えるのか

 17-05無農薬野菜作りの新鉄則:山下一

 17-07:生命の逆襲:福岡伸一:心は人間だけのものではない

  17-08:最古の文字なのか?:J.V.べツィンガー:氷河期の洞窟の32の記号の謎を解く

 17-09:日本人起源論:篠田謙一::たちは何者か、DNA分析による人類研究

 17-10:日本人と中国人はなぜ水と油なのか:太田尚樹:日本もしたたかに

 17-11:大地の5億年:藤井一至:せめぎ合う土と生き物たち

 17-12:〈こころ〉はどこから来て、どこへ行くのか:河合俊雄・下條信輔・山極寿一:京都こころ会議

 17-13:人工知能が変える仕事の未来:野村直之:AIを産業・経営・仕事に活かせるか

 17-14:昭和史の現場:太田尚樹:東京をめぐる新たな謎の発見

 17-15:地質職人たちのアーカイブ:中尾健児:すばるの会

 17-03:地球を「売り物」にする人たち(返却)

 17-16:儒教に支配された中国人と韓国人の悲劇:ケント・ギルバート:講談社

 17-17:プルトニウム消滅:森中定治

 17-18:ヒトと文明:尾本恵市

 

2017年10月にも地球環境展という壁面展示会をやります。これは2015年の時にお見せした、地球環境問題の地図の中を歩き回った足跡、6年間の軌跡です。これらの記録こちら をご覧ください。

 

 

 講義録をいくつかお見せします。お役立て下さい。(zero@qb3.so-net.jp大森)


【国連での体験から】 2016年5月11日
慶應義塾大学理工学研究科博士課程 野澤拓磨
記録者:森田一軌

 

■ 講演者略歴
平成 26年 慶應義塾大学 理工学部 機械工学科 卒業
平成 28年 慶應義塾大学 理工学研究科 開放環境科学専攻 前期博士課程修了

 

■ 概要
 講演者の野澤氏は,博士課程教育リーディングプログラムの一環として6ヶ月間国連の国連環境計画(UN Environment)でインターンシップを行った.インターンシップ中は,主に環境問題の文献調査に取り組み,本講演では,その一例として鉱滓に関する問題を紹介した.


図1:国連環境計画(UN Environment)のジュネーブオフィスの外観

■ 国連の紹介
 国際連合(国連)は多数の国際機関によって構成されている.各組織は別々のテーマを目標にしており,それぞれ異なる機能を有している.国連環境計画(UN Environment)は国連総会内の諸計画・基金に属している機関である.UN Environmentは世界中に拠点があり, 地球の環境問題の解決を手助けすることを目標にしている.講演者が滞在したジュネーブオフィス(図1)のChemicals and Waste Branchでは,人体や環境に有害になりえる化学物質および廃棄物の各国・各地域の管理を取り扱っている.

 

■ インターンシップについて
 UN Environmentでのインターンシップは平日9時から17時までを勤務時間とするフルタイムであるが,給料が支払われることはない.インターン1人に対し1人の上司がつき,その上司が仕事内容を決定する.仕事はコンピューターを用いる作業が殆どで,各インターンに1台ずつコンピューターが与えられる.上司によってはインターンにルーチンワークを与える人もいるが,幸いにも発表者の上司は難易度の高い仕事や発想力を要求される仕事も任せてくれる人だった.ちなみに,この上司は非常に多忙な人であり,常に100件以上のプロジェクトに関わっており,年間で80日は国外で過ごしている.国連職員への応募は通常の日本企業などとは異なり,公募が出ているタイミングで応募しなくてはならない.仮に採用されたとしても,契約は有期であるため,契約終了までに次のポストを常に探し続けなくてはならない.しかし,全員が数年で国連を出て行くわけではなく,中には10年くらいの職歴を持っている人もいる.職員は事務職と専門職に分かれており,基本的に専門職が主体的に活動し,それを事務職がサポートする形を採っている.

■ プロジェクトの事例
 インターンシップでは,複数のプロジェクトに携わったそうだが,今回の講演では,鉱滓に関する調査の内容が紹介された.鉱滓とは,金属の採掘および製造過程で出現する副産物であり,毒性が強い重金属を含んでいるため適切に扱う必要がある.近年,鉱滓の誤った方法による廃棄が問題になっており,鉱滓を安全かつ環境に負荷が少ないように処理する方法を採用するように求めてられている.特に,水銀,鉛,カドニウム,ヒ素は人体に深刻な健康障害をもたらすことから,正しい方法で管理される必要がある.例えば,水銀は水俣病に代表されるように,深刻な中枢神経系障害をもたらす.(UN Environmentは,水銀の扱いを国際的に規定する「水銀に関する水俣条約」を提案しており,現在までに世界43カ国がこの条約に批准している.この条約は名前の通り,水俣病のような水銀由来による病気を再発させないことを理念としていることから水俣病から名前を取っている.) その他の問題として,硫黄化合物が挙げられる.硫黄化合物は鉱山に多く存在するが,水と酸素の存在する環境において,硫黄酸化物が化学反応を起こし,硫酸が生成される.硫酸は土壌を酸化し,深刻な水質汚染や生態系破壊を引き起こす.すなわち,鉱滓中の硫黄化合物が化学反応を起こすことができる環境にある場合,生成物によって環

境が汚染されるリスクがあるため,鉱滓は安定な環境に安置される必要がある.
 
図2:鉱滓の処理過程

 

■ 鉱滓の前処理
 鉱滓の廃棄の方法として,地上に保管する方法,埋め戻す方法,投棄する方法などある(図2).鉱滓は生成された状態では大量の水分を含んでおり,有害物質が周囲の環境への流出するリスクが高い.そこで,鉱滓を廃棄する前に脱水する処理が行われるようになった.脱水方法には,処理の強さに応じて段階があり,一部の水分を取り除き泥状にする方法から水分を殆ど含んでいない土状にする方法まで様々な方法が考案されている.当然のことながら,水分を多く取り出す方法はコストが高いが,鉱滓の流出によって周囲へ汚染が広がるリスクは大きく低減できる.


■ 鉱滓の廃棄
 鉱滓の最終的な廃棄は,鉱滓ダムに安置する方法,地中に埋め戻す方法,河川や海洋に投棄する方法などが提案されている(図2).日本は古くから鉱滓ダムを運用してきた実績があり,ノウハウも蓄積されているため,他国への技術提供も行っている.鉱滓ダムはシンプルな反面,広大な敷地面積が必要や十分な降水量が必要などの制約があり,建設できる地域が限定される欠点を持っている.地中に鉱滓を埋め戻す方法は,脱水処理した鉱滓とセメントの混合物をパイプラインで地中に戻す方法である.この方法では,鉱滓は地中深くに安置されるため,地上への影響を最小化することができる.しかしながら,脱水処理や漏水を防ぐためのバリケード建設などが必要でありコストは高い.地理的および経済的要因から河川や海洋への廃棄を行っている国も存在する.河川への廃棄が最も安価であるが,水質汚染や鉱滓が空気と触れるリスクがあることから,環境へ対する悪影響も大きく,現在は減少傾向にある.海洋への廃棄も同様に行われており,生態系への影響が懸念されている.現在,インドネシア,パプア・ニューギニア,ノルウェー,トルコなどの国は河川・海洋への鉱滓の投棄を行っている. IMOやUN Environmentを中心に, 環境への影響の調査が進められていており, 将来期には河川や海洋への投棄を減らすような動きが出てきている. 特に,発展途上国においては技術的・経済的理由から鉱滓ダムが建設出来ないケースが存在し,UN Environmentは対策法を模索している. 現在は,鉱滓廃棄による人体や環境への汚染を最小限にするため,鉱滓に含まれる毒が深海の生物に与える影響,海洋生物の増減,毒物の生体内蓄積,汚染から回復までの時間の調査を行われているが,まだまだ研究は不足しているのが現状である.

まとめ
本講演では,UN Environmentでの活動の一環として,鉱滓に関する文献調査を紹介した.講演者曰く,UN Environmentには環境問題に対処するための条約を制定する機能と,その条約の実行をサポートする機能があるという.いずれの場合も国連は国家間の中立のサポーターとしての役割を担っており,プレイヤーである国家に情報や技術を交換する場の提供や経済的支援を行うことが国連の重要な役割である.

 

■ Q&A(重要なものを抽出,重複するものは省略)
Q: 残留性有機汚染物質(POPS)の具体例.
A: ダイオキシン,プラスチック.これらは分解がなかなかされず残る.

 

Q: フロンは廃棄物の分類ではどれに分類されるか.
A: オゾン層破壊物質(ODS).複数の廃棄物の分類に含まれるものも存在する.これらは世界的に取り組まないといけない.

 

Q: 農薬は廃棄物の分類ではどれに分類されるか.
A: 残留性有機汚染物質(POPS),もしくは,難分解性,生物蓄積性および有毒性を有する物質(PBTs),重金属などが入っている.

 

Q: 出張は遠いから大変なのか.
A: 出張は基本的に自腹だから大変.UN Environmentはインターンに支払う予算を持っていない.

 

Q: インターンシップは国からの支援が前提か.
A: 殆どが自腹.インターンは基本的に学生を対象にしているが,修士を終えてから来ている人も多い.ジュネーブは物価が高く,経済的支援なしでは生活が厳しい.国連内のインターンの待遇改善を要求するストライキが3ヶ月に1回程度の頻度で起きる.国連総会に属していないILOやWIPOなどは給料が出ることもある.

 

Q: インターン募集はあるのか.
A: 職員と同じで,就職試験のようなものがある.基本的に今回も自分で応募しており,学校からの推薦などは受けていない.公募期間は短く,2週間で閉まる.自分は行く前に中の人と合う機会に恵まれ,そこからアンテナを張るようにしていた.面接は40分ほどで,チームマネジメントや男女平等についての考えなどを聞かれた.面接の内容は,コアコンピテンシーに関する5つのトピックから選ばれる.

 

Q: (環境問題の調査について)書類などを調べるだけではなく,現地調査に行く必要があるのでは.
A: インターンの仕事は文献の調査がメイン.その文献の中には,職員が現地に行ってまとめたものが含まれるため,現地の情報も調査に含まれていることになる.

 

Q: 露天掘りを埋め戻す作業は発展途上国でも行われているのか.
A: 雑に処理しているケースが多い.

 

Q: 昔は水銀を破棄するために埋めていた.あれは,大丈夫か.
A: 水銀単独では基本的に無害だが,他の物質と反応することを考えると潜在的な脅威ではある.

Q: 最近でも使われているものがあるのか.水銀はスイッチに使用されていたこともある.
A: 一部の製

品に使われているが,日本では管理されている.発展途上国だと金の生成に水銀が使われる例もある. 国連は水銀を使用しない方法を採用するようにガイドラインを作成している.

Q: このような水銀の使用に対し国連は規制しているのか.
A: 規制はしない. 国連の条約には基本的に法的拘束力はないが,各国が動き出せるようにきっかけを作っている.

 

Q: 水俣病のとき,国連はどのような役割を担ったか.
A: 当時は,水銀がもたらす被害について十分に知られていなかった.

 

Q: (鉱滓の処理について)採掘時に作った穴をセメントで固めてそこに鉱滓を埋めるという方法は可能か.
A: 埋め戻しのコストが高い.よって現在は鉱滓ダムが使われている.

Q: 埋め戻しはコストがかかることから実行するとは考えられない.国連としてはどのように対処するか.
A: 国連は情報提供することにより,各国に鉱滓のリスクを伝えることが役目.

Q: もし水俣病みたい

なものがあったら国連はなにするか.
A: 国連は関係国と協力し,問題解決の手助けを行う.

Q: 問題解決の方法を研究する費用は国連が払うのか.
A: それぞれの国のシンクタンクなどによって研究されることが望ましい.その国が技術を持っていない場合,国連が技術を持っている人材を紹介できる.

Q: 鉱滓の破棄はOECD各国では禁止されているのか.
A: 国際条約がないため,各国の善意によって行われていると思われる.日本では鉱滓ダムが使用されるケースが多い.

Q: 問題がある場合,国連はどのように働いて解決できるのか.
A: 国連の役割は,ガイドライン作成とそれを達成するためのサポートの2つある.現地でのプロジェクトに関しては,国連は政府の依頼がないと動けないと思われる.

Q: 国家を越えて,国が相手にしないことを国連に言うことはできるのか.
A:啓蒙活動は行っている.国家に不利益を与えることは基本的にできないと思われる.

Q: 核廃棄物が近年問題になっているが,核廃棄物を扱う組織はあるか.
A: IAEAが行っているはず.核廃棄物のガイドラインはあるかどうかわからない.IAEAは国連の総会には所属していない

が,国際機関ではあり,国連の各組織との連携はできる.

Q: 原子炉の核廃棄物として毒性が非常に高いプルトニウムが出るが,このような危険物質の対策はどうするか.
A: 対策には2つアプローチが考えられる.1つ目は核廃棄物が増えるのを抑えること.2つ目は既存のものを減らすこと.

Q: 国連はリーダーシップを取って地球規模の問題を解決することはできるのか.
A: 歴史的に気候変動がそうだったように,今後国連が先んじて問題解決に取り組む可能性はある.

 

Q: 農薬問題.十年間で生産が倍になっている.地球に残るのか
A: 残る.農薬に関する条約はいくつかある.

 

Q: エボラ出血熱のとき,国連はどのように動いたか.
A: 国連は災害時の動きは速く,人と物資を派遣し

 

 

 

 


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2015年9月3日
交詢社地球環境研究会例会 講演録
記録者:小暮亮介
講演者:オフィス・マサル・エモト代表、IHM総合研究所所長 根本泰行先生
講演題目:「水からの伝言」と「新しい水の科学」

 

講演概要:構成は2部に分けられた。前半は、故江本勝博士についてと彼の功績である波動カウンセリングや、水の結晶写真撮影法についてだ。後半は最新の水の科学についてのお話を2人の科学者を中心とした解説だった。

 

江本勝博士とは
科学というより直感を大事にする人である。2011年にはワトキンス・レビューのスピリチュアルな面で影響力の最も大きな100名の存命の人々というものに18位でランクインした。著書である『水は答えを知っている』はニューヨーク・タイムズのベストセラー25週以上のランクインという快挙。ランクインは日本人2人目だが、江本氏は同時に2冊のランクインということでこれは日本人初の快挙である。

 

江本博士の業績
彼は水が情報を記憶・伝達することを示唆した。水の記憶という見えないものを見るために、波動水を用いた波動カウンセリングや水の結晶写真撮影法といった方法を探した。

波動水を用いた波動カウンセリング
江本博士はMRA(共鳴磁場分析器)をアメリカから輸入した。この機械を使い、水に情報を刻印した。医学的には証明されていないものの深刻な病が良くなった例は多数報告されている。

 

水の結晶撮影法
江本博士が水の結晶を撮影しようとしたきっかけは北海道大学の中谷教授の「雪は天から送られた手紙である」という言葉である。
水を1滴たらし、−30℃の冷凍庫で凍らせてできた結晶を顕微鏡で観察するというものだ。江本博士は雪の結晶がその雪のできた時の環境を示しているのと同じように水の情報を結晶から読み取れると考えたためだ。

 

(写真:P4東京の水道水)(写真:P5 山梨県三分一湧水)(写真P5 隅田川)

 

上の写真は根本先生のレジュメの中から3つの例である。塩素が入っていたり、汚れている水だと結晶ができにくいと推測し、体にいい水は結晶を作りやすいという仮説をたてた。

 

様々な効果
下にイルカの写真を置いた水から作った結晶にはイルカが集まっているような模様ができた例がある。他にもゾウの写真だと象の鼻、出雲大社の写真ではしめ縄の形の模様が出た。
※ 全部が全部というわけではなく、複数の結晶を用意しても1つ出るか出ないか。
紙にばかやろうと書くよりもありがとうと書いて水に見せたほうがきれいな結晶ができるといったこともある。


「水からの伝言」の概要として以下の3点があげられた。
① 良い水は美しい結晶を作り、悪い水は全く結晶を作らないことが示唆された。
② 水は、音楽やイメージや言葉や、祈りなどによって変化する可能性がある。
③ 水は「愛」「感謝」の波動を最も好むようである。

 

ここまでが前半部である。

ジェラルド・ポラック博士の研究
ワシントン大学生物工学科の教授であり、水の研究者である。
アインシュタインの3大功績とは「特殊相対性理論」「光量子仮説」「ブラウン運動」の3つの理論の発表である。そのうちの1つである、「ブラウン運動」についてポラック博士は否定し、液体・固体・気体に次ぐ「第4の水の相」を考えなければならないとした。第4の水の相とは固体と水の液体の間の存在である。アインシュタインを否定した理由として水滴が水の表面に浮く理由が表面張力だけでは足りないことを主張した。


物質の表面は2種類に分けることができる。親水性(ペットボトルなど水にぬれるもの)と疎水性(レインコートなど水をはじくもの)である。
親水性の固体を小さな黒い粒の入った水の中にいれると、黒い粒が固体の反対に向かって移動し、水と固体の間に黒い粒のない層ができる。これを「排除層」という。


(写真:P11 右下第4の水の相はどこにでも存在する)

 

その排除層だけを回収すれば綺麗な水を入手することができる。この第4の相は一般的に水を示す「H2O」ではなく「H3O2」で構成されていることが特徴である。
Hは1の電荷を持ち、Oは−2の電荷を持つことからH2Oは中性であり電荷を持たない。しかしH3O2は−1の電荷を持っていることになる。この電荷を利用して電池として使用することは可能である。また、光エネルギーを排除層にあてると排除層は厚くなるので充電池ともいえる。研究の結果第4の水の相を形成するために最も有効だったのは赤外線であった。

また、ポラック博士には親水性のチューブを用いた実験もある。これは心臓のポンプ作用でのみ血液が循環するのはパワーが足りないのではとした博士が、光エネルギーが循環を助けていると仮設をたてて行ったものだ。チューブの中心にたまったヒドロニウム・イオンがお互い反発することで水の流れが生じる結果になった。

 

これらの実験からの結論として
① ポラック博士の「第4の水の相」により、人間の感情や意識、祈りなどによって、水の構造が変化する可能性がある。
② このことから、「水からの伝言」が本物である可能性が示唆される。

 

リュック・モンタニエ博士の研究
HIVを発見した功績で2008年にノーベル医学・生理学賞を受賞した人物である。彼が水の記憶について調べようとしたきっかけとしてエイズを見つける作業があげられる。彼はマイコプラズマが入ってこないようにろ過した水を使用したにも関わらず、再びマイコプラズマが発生した。水にDNAが存在しないにも関わらず発生したのは水がマイコプラズマを記憶していたのではないかと推測した。そこで彼は次の水の記憶についての実験を行った。

DNA(長さ104文字)の希釈溶液を用意した。この溶液からはEMS(電磁波信号)を発するようになった。DNA溶液のそばに純水を置いて放置した18時間後に水からDNA希釈溶液と同じEMSを発するようになった。これはEMSを通じての情報伝達だといえる。尚、7ヘルツ前後の電磁波がないと信号は発されないことも分かった。これはシューマン周波数の有無に差をつけることでわかったことである。

※ シューマン周波数…自然界に存在する電磁波で7ヘルツ前後。1ヘルツ4万キロ(地球1周と同じ為)定常的に進む。

その後DNAを増幅させる効果のあるPCR反応液を純水に投入すると純粋から長さ104文字のDNAを回収することに成功した。


このDNAを配列解析すると104文字のうち102文字が同一であった。

モンタニエ博士はこの次にDNAのテレポーション実験を行った。DNAをEMSとして録音し、別の研究所におくり、別の研究所で水に送られてきたEMSの録音を聴かせた。その後純水にPCR反応液を投入すると同じ配列のDNAを回収することに成功した。

 

実験の結果より、以下のことが示唆される。
① DNAの情報は、電磁波信号として、水に転写することができる。
② このようにして水に転写されたDNAの情報は再物質化することができる。

またこれらから波動水を用いた波動カウンセリングが本物であることが示唆される。


まとめ

両氏の実験より、江本博士が直感的に得た2つの結論(水からの伝言、波動カウンセリングは本物である)が正しいことが強く示唆されている。
宇宙で最も複雑な物質とされるDNAすらも水は記憶することができた。地球型生命の情報は彗星の氷を通して宇宙の水からもたらされた可能性がある。

 

質疑応答
Q. 実験で使用したDNAは特殊なものか。
A. 特殊なものではない。実在するなかで短いDNAを使用した。
Q. 第4の水の相は凍るのか。
A. 氷に変化する。第4の水の相とは固体と液体の間の存在である。
Q. 水の結晶が雪の結晶と比較して芯が大きいことに理由はあるのか。
A. 最初の核の構造がその後の形成を決めていると推測している。
Q. ありがとうの文字を使ったものは水が文字を読んだのではなく、実験者の波動を感じたのではないか。
A. 水が文字を読んだだけではなく、文字と人両方の影響を受けていると思われる。江本博士は写真を見るだけで3人の撮影者のうち誰が撮影したかわかっていたこともある。これは水が撮影者の波動を感じた影響だと思われる。
Q. (結晶観察で) 顕微鏡で見るときには結晶の羽がでてしまっているのではないだろうか。
A.  スピード勝負。いかにスムーズに作業を行うかが大事である。
Q. 何かをしたほうが良い結晶ができるというのは実験者の思い込みではないか。
A. 実験時にそれがなにかわからないように「ブラインド」という手法を二重にかけた。その上で統計学的に優位な結果がでた。ブラインドは多ければ多いほど結果がより正確なデータになる。
Q. 水道水に祈りを捧げれば良い水になるのか。
A. 信じれば変えられると思えばできると思う。水道水ではないと思って飲めばいいのではないだろうか。人々はこの世に存在する仕組みのもと生きているため、仕組みになれた結果自然に発生した思い込みが原因の事象もあると思われる。
Q. 水を凍らせたらその中の情報は保存されるか。
A. されると思う。
Q. 第4の水の相を使ったビジネスはあるのか。
A. ビジネスをしていた人がいたが先日亡くなってしまった。根本先生の研究所では水を持ち込むとその水の結晶を撮影するビジネスは行っている。

 



2015年8月6日
交詢社地球環境研究会例会 議事録
講演者:GNH研究所代表幹事・大東文化大学兼任研究員 平山修一先生
講演題目: 「国民総幸福度〜如何に日本に応用できるか〜」
記録者:小暮亮介

 

講演概要
 青年海外協力隊等に参加しブータンで活躍した平山氏による日本の一般人の基本的なイメージである「GNH=ブータン」というものから離れてGNHというものを理解し、またそれをどう日本に活かしていくべきかという講演だった。

 

1. ブータン王国概要
 人口が70万人で国境は大国である中国とインドの2カ国に挟まれている。平山氏はイメージとして東京都足立区がこの2カ国に挟まれているようなものとした。中国の脅威というものを常に感じており、政治的にインドに傾倒しているそうだ。主要産業としては発電、農業、観光である。観光は米ドルを手に入れる貴重な産業である。しかし、発電、農業はインドルピーで収入を得ていて、石油もインドからのパイプラインであることから経済的にもインドに依存しているといえる。

 

2. GNHとは
 そもそもGNH (Gross National Happiness)とは1972年に当時の第4代国王のジグミ・シンゲ・ワンチュクが提唱したもので、国民全体の豊かさ・幸福度を示す尺度である。平山氏はこれを「個人が幸せを感じることができる環境つくり」とし、この政策で国民の幸福感受力の育成を行っているのではないかとしている。
 平山氏はGNHが生まれた要因として、近隣のインド、中国による併合政策からの独立維持をあげた。第二次大戦後、中国はチベット、インドはシッキム、カシミールの併合を行った。インドとの国境に関しては、1914年にチベットと大英帝国領インド帝国の間でマクマホンラインがひかれたが、そこには中国が領有権を主張する土地が含まれている。中国は当時その取り決めに参加していないのでマクマホンラインは認められないとして領有権を主張している。ブータン国民は中国と接するリスクというものを感じていて、いつ「ブータン」という国家が地図からなくなるかわからないという危機感を持っている。GNHはブータンを国際社会において幸せの国ということでアピールしている。

 

3. 国の政策決定
 

      

 

      (ブータンの政策決定の仕組み:平山氏レジュメより引用)


 行政が住民に参加し、住民ニーズを参考に政策に反映することや、国王の地方訪問時に直訴ができるなど住民の政治参画が特徴である。国会と王の間に双方の監視システムが作られ権力の暴走を抑えている。国会で決まったことはGNH委員会(元王立計画委員会)に送られるのだがここでGNHの理念に則したものかどうかを精査し、予算を与える。GNHはブータンの基本方針であるのだ。理念として4つあり、以下のとおりである。
    ・ 持続可能かつ公正な社会経済発展
    ・ 環境の保全

    ・ 伝統文化の保全と促進
    ・ 良い統治(政治)

 

4. 日本への応用
 平山氏は、途上国は社会的に遅れているわけではなく、発展の仕方や方向性が違うだけだとした。例えば東南アジアでは亜熱帯性の病であるデング熱の対策は日本と比べて進んでいる。先進国である日本が一方的に支援するだけではなく、日本にはない必要なものは積極的に取り入れることが必要である。特に今後の気温上昇が予想される日本にとって亜熱帯性の病気の知識を集めることは重要だとした。
 現在、日本の一部の地方自治体では独自に幸福指数を策定していて、平山氏はGAHという荒川市の幸福指数に関わっている。日本の自治体のGNHの中では荒川区が最もすすんでいるといっても良い。しかし、多くの自治体では調査をするだけで調査結果を政策に活かすということは行われていない。ブータンのGNHは世界へのアピールだけでなく、政策評価も兼ねている。また「幸せの国」というイメージが観光客の訪れるきっかけになっているようだ。GNHという表面を取り入れた日本はこれからどう政治に生かしていくかを考える必要があるとのことだ。

 

5. 幸福とは
 幸福とは人によって個人差があり、何をもって幸せとするかは人それぞれであるように、指標化することは難しいものであることから、平山氏は所謂ニーズベースの充足のみの指標化に疑問を感じている。最後に平山氏は次の言葉をあげ、講演は終わった。

 

「誰かを変えようとすることもなく、自分が変わろうとすることもなく、互いに理解しあって共に認めあう」

 

     


(祭りでのブータンの子どもたち:平山氏レジュメより引用)

質疑応答

1. ブータンに軍隊はあるのか。
あり。但し人数不足で作戦を行うときは民兵を募集する。中国との国境にはインドの国境警備隊が配備され、首都にもインドの駐屯地が置かれている。

2. 立憲君主制なのか。
日本の体制とは違うものの、国会には国王の罷免権があり、暴走できないようにしている。本来ブータンでは宗教指導者が王を承認するものだったが、2008年憲法で王の立場が上とされた。

3. GNHが将来使えなくなるのでは。
わからない。国のシンプルな指針として(平山氏は)評価している。

4. 情報統制はあるのか。
規制なし。

5. 世界の情報を見て不幸を感じたりしないのか。
インドのCMやアメリカの中産階級の映像を見ると自分と違うことを知る。ブータンは国民がブータン国民として生きていくことに価値を見出すことができる国づくりをしていくことが必要である。ブータン国民として生きる価値がなくなってしまったらブータンという国が残る必要はない。

6. 日本の自治体の指数についてやることに意味はあるのか。
中途半端。アンケートをやったあとのフィードバックが大事であることに気づかなければならない。

7. ブータンの調査の課題
インタビュー方法の改善。役人が訪問して調査するため、国民はやりにくさを感じるかもしれない。ただし、世界一幸福な国として存在感を出すには必要なことかもしれない。

 

 

 

 

 

 


2014年12月8日
交詢社地球環境研究会例会 講演録
記録者:澁谷泰蔵
講演者:

千代田化工建設株式会社 技術開発ユニット兼水素チェーン事業推進ユニット技師長 岡田佳巳先生

講演題目:「水素エネルギーの大規模貯蔵輸送技術-SPERA水素システムと水素サプライチェーン構想-」

講演者略歴:
1984年 横浜国立大学工学部化学工学科卒業
1986年 同大大学院エネルギー材料専攻終了
同年 千代田化工建設入社 研究所に配属
1988年 技術士(化学部門)
同年 研究開発センター 触媒2グループ グループリーダー
2005年 学位 博士(工学)取得 (横浜国立大学 主査:太田健一郎教授)
2009年 技術開発ユニット 研究開発センター 技師長
2013年 技術開発ユニット兼水素チェーン事業推進ユニット 技師長

 

講演概要:

 1970年代の石油危機以降,水素は次世代エネルギーキャリアとして注目されてきた.水素社会の到来には製造・貯蔵輸送・利用の各面における技術確立の必要があるが,日本はこれをリードしてきた.特に利用面での研究開発の成果は目覚ましく,現時点でエネファーム(定置型燃料電池)が市販されているほか,燃料電池自動車の販売も決定している.これらはどちらも日本が世界を先行している.一方で貯蔵輸送面では課題が多く,水素社会への障害となっていた.この解決法として注目されているのが,講演者らが確立したトルエンによる水素の大規模貯蔵輸送技術である.これはトルエンに水素を化学結合させ,常温常圧の液体状態で水素を貯蔵輸送する技術であり,タンカー等の既存インフラの多くをそのまま転用できるのが大きな利点である.要素技術が揃い始め,日本が主導する本格的水素社会の到来が見えてきている.

 

■水素社会を取り巻く社会状況
日本政府は水素を重要な2次エネルギー(エネルギーを貯蔵するもの,エネルギーキャリア.化石,原子力,太陽などの1次エネルギーを水素に変換し,貯蔵するということ)と位置づけ,2014年6月23日に水素燃料電池戦略ロードマップを示した.
http://www.meti.go.jp/press/2014/06/20140624004/20140624004-2.pdf
この中には主に以下3つの目標が含まれている.

 

1.定置型燃料電池の世界最速普及
2020年までの定置型燃料電池(エネファーム等)140万台導入

 

2.FCVの世界最速普及
2015年の水素燃料電池自動車(FCV)販売開始,100ヶ所の水素ステーション設置.
講演者コメント:プリウスが売れるまでに15年かかった.順調に行くとすればFCVの本格普及は2030年頃であると予測される.
 
3. 火力発電での水素利用開始
2025年の水素の火力発電利用開始などの目標が含まれている.

この他,霞が関での公用車利用や,舛添都知事の「競技施設,選手村で一切ガソリン車を排除する」という発言(2014年10月のベルリンでの講演)など,国家を挙げた推進体制が整いつつある.

 

■新エネルギー基本計画における二次エネルギーとしての水素
水素エネルギーはその資質から2014年4月に策定された新エネルギー基本計画の基本方針である3E+S(Energy Security, Economic Efficiency, Environment + Safety)に適合する. 水素は製造原料の代替性が高く,化石燃料からの抽出や製鉄所などの副生水素のほか,再生可能エネルギーや原子炉などを含む多様な一次エネルギー源から様々な方法で製造することができる.こうした一次エネルギー源を地政学的リスクの低い地域等から安価に調達することも検討されている.また製造時に二酸化炭素貯留・回収技術(CCS)を組み合わせれば,化石エネルギー由来の水素であっても,環境負荷を小さくできる.さらに,安全性もガソリンと同程度にできると考えられている.

 

■水素サプライチェーン構想
水素社会の実現には水素の製造・貯蔵輸送・利用の全てが実現され,水素サプライチェーンが完成されねばならない.ここでは製造と利用に関して述べる.

 

●製造
・化石燃料からの抽出+CCS
天然ガスやシェールガスを水素と二酸化炭素に分離する.二酸化炭素は枯渇ガス田に注入し地下貯留する(CCS).このCO2は化石燃料の枯渇後,水素と組み合わせて合成ガスを作り石化製品の原料として利用できる.CCSはコスト的に見合わないため,当面国内での利用はない.
・再生可能エネルギーからの製造
オーストラリアやパタゴニアの風力やロシアの水力など,安価な再生可能エネルギーで水を電気分解することが考えられている.国内では太陽エネルギーから燃料への変換効率10%を目標にした光触媒の研究が進んでいる.これは太陽光で水素を直接分解する技術であり,人工光合成ということである.ごく最近,東芝の人工光合成が1.5%の効率を達成したことがニュースになった.つい最近まで効率0.2%程度だった事を考えれば1.5%というのは大きな進歩であり,10%も不可能ではない.

●利用
・大規模利用
火力発電所で水素を燃焼させ,タービンによる発電を行う.これにはインフラの変更が必要である.石炭と水素を50:50で混合燃焼させると,天然ガスよりCO2の排出が少なくなることが知られるほか,水素専焼用大型タービンを作れるというメーカーも出てきている.
・小規模利用
燃料電池自動車・バスやエネファームによる家庭での発電が基本にある.供給のための水素ステーションの能力・規模は拡大する.これを空港やコミュニティ用にすることも考えられている.別の話題として,ドイツのPower to gasという計画がある.これはドイツ北部にある風車の余剰電力で水素を製造し,そこから人工メタンを合成し(合成ガス),家庭用のガスにするという計画である.現行の都市ガスに水素を混ぜるという話題もあり,これは都市ガス業界の向かう先だと思われる.

 

■有機ケミカルハイドライド法による水素貯蔵・輸送
水素サプライチェーンの完成には効率の良い水素貯蔵・輸送手段が必要である.ここでは講演者らが実証段階まで進めた有機ケミカルハイドライド法について説明する.

・有機ケミカルハイドライド法
有機ケミカルハイドライド法は「トルエン+3H2→メチルシクロヘキサン」という反応を利用する.トルエンはシンナーの主成分であり,メチルシクロヘキサンは修正液の匂い成分であるといえば想像しやすいかも知れない.この手法の利点は,水素を常温常圧の液体にできる点にあり,現状のタンカー等のインフラの多くがそのまま転用できる.トルエンの水素化は既に方法が知られており,大規模プラントも存在するが,メチルシクロヘキサンの脱水素反応は優れた触媒が存在しなかった.脱水素反応の触媒自体は1990年代にEuro-Quebec Hydro-Hydrogen計画(カナダの水力発電で水素を製造しヨーロッパへ輸送するという計画)の中で発見されていた.しかし,当時は炭素析出(コーキング)による触媒の劣化が著しく(触媒寿命はわずか1日だった)実用化できず,液体水素法が主に研究されていた.ちなみに液体水素法は2014年から川崎重工で国家プロジェクトが始まっている.現状は液化のためのエネルギーロスが60%であるが,それを2040年までに40%に下げるのが目標である.

・トルエンを選んだ理由
有機ケミカルハイドライド法ではトルエン以外にもベンゼンやナフタレンなどが利用できる.しかし,地球上の様々な気温で液体でいられるのはトルエンだけであったため,トルエンを選んだ.

・有機ケミカルハイドライド法の課題と解決
メチルシクロヘキサンからの脱水素反応に必要な温度は理論値で300℃である.これに対し,従来の方法は400−500℃必要で,触媒寿命も極めて短かった.これを,脱水素反応の効率が悪いために,高温が必要になり,高温のせいで炭素析出反応が起きて触媒の劣化が起きているためだと考えた.そこで脱水素反応の効率改善をめざし,欧州12カ国が10年かけて解決できなかった問題に2002年から取り組み始めた.用いた触媒は白金担持アルミナ触媒である.最初の一年間は失敗続きであったが,白金粒子をナノサイズにすることで反応の効率を数100倍にすることに成功した.これにより寿命も飛躍的に伸び,一年の利用に絶えられるようになった.

・実証プラントによる試験
その後触媒の大型化にも成功し,2011年1月には自社予算でパイロットプラントを作ることが決定された.これが2013年に完成し,先週のべ一万時間の運転(50Nm3/hの水素貯蔵と水素発生)を達成した.プロセスのエネルギーロスは全て合わせても30%程度(プラントでのロス20%,タンカー輸送で10%(4000km,フィリピンを想定))であり,現状の液体水素に勝る.なお,1kgの触媒に必要な白金は10gである.2年に1度触媒交換の必要があるが,プラチナは98%回収できる.

 

■質疑応答
Q. メチルシクロヘキサンは冷却が必要か.
A. 不要である.

Q. 2年間(10000時間)テストをしたという事か.
A. テストは,部分的に改良を加えながら,1年間8000時間した.劣化は線形なので予測できる.

Q.さらなる改善の余地はあるか.
A.ある.ナノ粒子の性質は基礎研究段階である.例えば,現在利用している触媒上の白金粒子の大きさは9Å(オングストローム)程度である.これは白金原子5個分であるが,粒子の形状が分かっていない.形状が分かれば,改善の方向も見えてくる.基礎研究が実用に至るまでは40年程度かかる.私が学生の頃(1980年頃)携わっていた膜の研究は30年たった今,イトーヨーカドーの浄水器になっている.太田健一郎先生が1970年代から進めている水素エネルギーも,最近になってようやく形になってきた.

Q.日本は水素社会でリードしているのか.
A.している.米独は周回遅れである.燃料電池車の特許数で言えば,日本が5万件なのに対し,米国は1万件である.韓国ヒュンダイ自動車の燃料電池車はトヨタのミライの倍額であるし,定置型燃料電池が150万円という価格で販売されているのは日本だけである.

Q.岩谷産業が水素販売に乗り出すというニュースがあったが.
A.岩谷産業は1960年頃から水素製造を目指しており,工業用ガスやロケット燃料を供給してきた.今回のニュースはクロルアルカリ電解などの副生水素を赤字覚悟の100円/m3で売る,という赤羽社長の決断である.岩谷産業が供給するのは規模で言えば,年間に10万kwの発電所1つ分程度なので,大きくはない.

Q.エネルギー輸出ができるという事か.
A.水素は二次エネルギーであり,あくまでエネルギーの利用形態の一つである.将来的には日本で水素を生産し,輸出することも可能かも知れないが,現時点でそれは考えていない.

Q.日立の人から似たような話を聞いた気がするが.
A.日立研究所の石川さんでしょう.彼らはエネオスと共同でプレート型の反応器を開発している.日立はガスコジェネ(ガスから電気と熱を両方取り出す技術)を,エネオスは水素ステーションでの利用を考えている.大規模輸送を扱うのは千代田のみで,彼らとは協力できる関係にある.

Q.水素吸蔵合金に比べたメリットは?
A.吸蔵合金は重く,輸送に向かない.コストが高いという問題もある.アラネート,ボロン系は2020年までには実用化できるだろう.

Q.天然ガスから水素を作ると二酸化炭素が出てしまうのではないのか.
A.その通りである.出てきたものは二酸化炭素貯留・回収技術(CCS)で対応するということである.天然ガスの改質で水素を得るというのは,再生可能エネルギーからの水素生成など,別の手段が確立するまでの過渡的な手段である.

Q.水素を液体として運ぶにはトルエンが一番いいのか.
A.現状では最良の選択肢だと考えている.但し,1つの技術が100年続いたことはない,という事実は忘れてないけない.

Q.原子力とのコラボレーションは考えるか.
A.選択肢の1つだ.原子力研究所には既に水素チェーンユニットが発足している.

Q. 都市ガスに水素を混ぜる,というのは家庭利用において水素が漏れやすいなど危険があるか.
A. 水素だけ漏れることはない.同時に漏れても水素は先に拡散する.過去には都市ガスは石炭還流ガスを利用していた.この頃はガスに一酸化炭素が入っており,危険性はこちらのほうが高い.ただし水素利用にはインフラ変更は必要であり,家庭利用を考えるならメタンガスを生成するのが良い.

Q.省エネなのか増エネなのか.際限なくエネルギーを使う,増やす,という発想は間違っていないか.
A.省エネは必要であるが,持続的な成長には利用できるエネルギーを増やす必要がある,
という認識である.

 



 

2013年6月5日 交詢社地球環境研究会例会 議事録
記録者 山田基

講演者 早稲田大学教育・総合科学学術院 教授 園池公毅
講演題目 光合成と地球環境


講演者略歴
昭和63年 東京大学大学院理学研究科博士課程(理学博士)修了
  東京大学大学院理学系研究科大学院研究生
平成元年 理学研究科特別研究生
平成2年 東京大学理学部助手
平成11年 東京大学大学院新領域創成科学研究科助教授
平成21年 早稲田大学教育・総合科学学術院教授


 講演概要
 光合成は様々な形で人間に影響を与えている.人類が産業革命を成し遂げたのは石油・石炭や鉄鉱石による所が大きいが,いずれも光合成活動による産物である.また副産物である酸素の供給によって生物の呼吸は賄われている.現在の生物的環境を決定づけた光合成とそのエネルギー源たる太陽光は,地球環境をも左右してきた.動物との共生や環境に応じた光合成色素など,多様な光合成の形態・工夫は人為的な応用を経ることで現在人類の直面している環境・食糧問題の解決策となっていくだろう.


光合成と人類
 光合成とは植物が太陽光のエネルギーを用いて炭水化物と酸素を合成する反応であり,多様な現象を通して人間の今日の環境を形作ってきた.例えば,鉄鉱石や石油・石炭は産業革命に不可欠のものであったが,前者は光合成により生じた酸素が海洋中の鉄分を沈殿させた結果作られ,後者は光合成生物の遺骸であるため,その立役者といえるだろう.また,人間含む動物の呼吸によって地球上の酸素は秒間1万トン吸収されているが,酸素・二酸化炭素の循環によって大気中の濃度を一定にしているのも光合成によるものである.これら様々な形で人間は光合成に支えられているのである.
 熱力学第二法則と生物
 熱力学第二法則とは,物事の進む方向を定める法則であり,これによるとあらゆる現象は乱雑さ(エントロピー)を増す方向に進行するという.生命現象も例外ではなく,死もその結果の一つである.しかし,生命活動を行っている間は常に一定の機能を果たすように保たなければいけないため,細胞などの物質を入れ替える必要がある.その結果,食事に代表されるように,外部からエネルギーを摂取し続けることが求められる.このように生命活動を見ていくと辿り着くのが太陽光である.発電効率などの問題を無視すれば,その莫大なエネルギーは1時間の間に地球に降り注ぐ分だけで人類の年間のエネルギー消費を賄えるだろう.しかし,実は単位質量あたりでは太陽よりも人間の発熱量の方が圧倒的に大きい.

 

太陽光と秩序
太陽光のうち,ほぼ可視光線のみが地表面に達し,地球から宇宙へは遠赤外線で放射する.下部を熱せられている水が対流を起こすように,こうしたエネルギーの流出入・循環が秩序を作り,生命の在り方を決定している.光合成が地球生命の根幹であると言える.

 


                                           図1.エネルギーの流れ・循環

 

動物と光合成
 タコクラゲというクラゲは藻類と共生することでエネルギーを得る.昼間は太陽光を浴びるために海中を移動し続け,夜間は無機物を得るために海底に向かう,というサイクルを営むことで可能になる形態である.仮に人間が同じ形態を取ろうとしても,この手段では人間の消費するエネルギー量を賄うことは出来ないため,不可能である.

 

 

                                                   図2.タコクラゲ

 

二酸化炭素吸収としての森林
 一般に植物は二酸化炭素を吸収すると言われる.砂漠が森林になるならば新たな吸収源となるが,既に成熟した森林は新たな吸収源とはならない.また,森林はその成熟段階を減るにつれによっても吸収量は減少していく.最終的に腐ってしまうと二酸化炭素を排出することになるので,建材などに利用することでトータルの吸収率を上げることが出来る.

 葉の色
 植物の葉は一般に緑色であるが,これは内部に葉緑素を含む葉緑体があるためである.葉緑素は緑色光を吸収しにくいため,反射されて緑色に見える.しかし,完全に吸収しないという訳ではなく,葉の表側の柵状組織と裏側の海綿状組織との屈折率の差を利用して光ファイバーのような機能を持たせて乱反射させることで光路を増やし,吸収量を上げている.実際,葉に浸潤させると屈折率の差が小さくなり,葉の表裏の見分けが付かなくなる.このように,内部構造を工夫することで,実際は緑色光の大部分も吸収している.


 

                                                  図3.葉の断面

 緑以外の色をした葉も存在する.代表例としての紅葉では,赤い色素アントシアニンはまったく光合成を行っていない.しかしアカカタバミという多年草の葉は紫色だが,光合成をしている.他には,卵の産み付けに対する自衛手段として虫の食痕を擬態するために白くなる植物や,ウィルスに伝染した結果変色する植物も存在する.概して,葉緑素のない葉は光合成ができない.

 


                                                 図4.(左)食痕 (右)擬態

 

  藻は葉緑素を持たないが,これは水深が増すほど透過光のスペクトルが限定され届く光の色が変わるためであり,環境に対応した光合成色素を有している.水の清濁,プランクトン・浮遊物の有無などでも光環境が変化するため,それに応じた異なる色を持つ.

 

光合成と食糧・環境問題
 近年,イネやコムギなどは品種改良によってその収穫量を著しく向上させているが,これは光合成能力の改善によるものではない.本来の野生環境であれば光合成に有利な背の高さは,田んぼの中では風雨に対する脆弱性になってしまうため,却って小さくした方が多収量になる.こうした矮性の有利性のように,固有の環境に適することが重要となる.
 光合成全体のエネルギー収率は27%程度であり,単位面積あたりのエネルギー変換量でも光合成より太陽電池の方が高い.もっとも植物は生み出したエネルギーの内,部分的にしか光合成産物として蓄積できないためであり,公平を期するならば太陽電池も製造・維持・廃棄コストを勘案すべきである.また,光合成には出力飽和が存在するため,環境によっては細長い葉を立てることで総出力を上げることが可能であるという点や,植物には自己修復・自己増殖機能があるなどの利点もある.
 植物の生産性向上のため,人工光合成研究が続けられているが,その実用化はいまだ遠い.

 


 
図5..太陽電池と光合成の角度による効率の違い

 

質疑応答
Q.太陽電池と植物の光合成のコストを比較しているが,太陽電池には人件費を生み出すという点において人間に利点があるのではないか.
A.確かにあるかも知れないが,地球環境には影響がない.

Q.背の低い植物は背の高い植物に阻まれて光がほとんど届かず死んでしまうことはないのか.
A.木々の境目からも光は漏れ出ているため,完全に遮られることはなく,光合成できる.

Q.背の低い幼樹でも数が多ければ生み出すトータルのエネルギーは背の高いものと同じになるのではないか
A.光合成の量だけではなく,リン・窒素・カリウムなどの栄養も影響するため,一概には言えない.

Q.森林を伐採して太陽電池を敷き詰めた方がいいのではないか.
A.森林には光合成以外にも生態系維持の機能があるため,それらを破壊してしまうと完全な代替手段にはなり得ない.

Q.森林を伐採してメガソーラーにするのではなく,砂漠で敷設するのはどうか.
A.電気の輸送コストが大きくかかる.また太陽電池は光の吸収率が高いためそれだけで温暖化を導いてしまう.

Q.椿が葉を厚くするのは何故.
A.光環境によって葉の厚さは変わる.暗所では薄い葉,明るいところでは厚い葉が多い.暗所では厚くしても光の吸収量がほとんど変わらないため.

Q.人工光合成の研究はどの程度進んでいるのか.
A.ギ酸の合成までは成功しているが,これは燃料になり得ないのでブレークスルーが必要.トータルの効率としては,植物の光合成よりまだまだ低い.

Q.クロロフィル(葉緑素)だけでは光合成を起こさないのか.
A.クロロフィルで起こる反応が際限なく生じると却って危険であり,接するタンパク質による制御は不可欠.人間もクロレラクッキーを食べ過ぎた結果,分解しきれずに血中に流れ強烈なアレルギー反応を起こす.

Q.光合成の具体的なイメージが湧かない.
A.タンパク質を足場として,クロロフィルが太陽光を吸収,二酸化炭素と水を変換している.

Q.太陽と人間の単位質量あたりの発熱量の差は効率の差から生じるものか.
A.核融合反応と化学反応とで機構が大きく異なるので,効率といった点からの単純な比較は出来ない.前者は複雑な環境を要求する分,トータルのエネルギー量が大きくなる,など.

Q.植物の二酸化炭素吸収効率はどれくらいのものか.
A.光合成では二酸化炭素を別の物質に変換しているため,単純な貯蔵との比較は出来ない.

Q.(冒頭での「今の学生は応用性を重視しているが,研究それ自体が面白ければ良いじゃないか」という提起に対して)この学問はどういった所が面白いのか.
A.高校までの生物は只の暗記科目に過ぎなかったが,大学で一般的な論理の存在を知った.この論理を解明していくことが楽しい.また,光合成は生物の根本たる遺伝子複製の外にあるので,非常に幅の広い学問領域が求められる点も良い.

Q.遺伝子組み換え技術は光合成の効率改善法としてどうなのか.
A.品種改良として成功しているのは矮性などで,必ずしも収量増加に繋がっているわけではない.まだまだ基礎研究の段階.

Q.シアノバクテリアは植物か.
A.光合成をする生物であるのは間違いなく,ウィルスなどでもないが,植物であるとも言い難い.

Q.光合成は太陽光以外でも起こるのか.
A.起こりはするが,電光ではかなり小さい.植物は太陽光でないとかなり育ちづらい.

Q.植物工場のメリットとは.
A.閉鎖系環境のために虫が居ず,無農薬で済む.また,都市部で行えば新鮮かつ輸送コストが低くなる.

Q.観葉植物は昼間に光合成するが夜間は呼吸のみ.人間に有益なのか.
A.量的な問題としては,呼吸よりも光合成によって供給される量の方が多い.

 



 

2014年9月4日

交詢社地球環境研究会 例会講義録

講演者 伏見硯二先生

講演題目ネパール現地の博物館、ネパール氷河湖、ブータンのことについて」

 

①先生の背景

・(学生時代、1963年)北極海から流れでたテーブル型の氷山上に観測機器を置いて北極海の内部を調査。アラスカ大学との共同調査。

・大陸間弾道ミサイルのためには重力を知る必要があり、北極海の海水の密度も調べていた。

・北極海の海水は冷たく、南下する時に下に潜り込む。地球を一周してメキシコ暖流として再び北極圏に戻ってくるが、この暖流があることでイギリスやノルウェーは凍結しない。そのため、メキシコ暖流の流れはヨーロッパの人にとって敏感。北極海の海水が潜り込む量を先生は測定していた。

1965年にネパールに行った。友人のネパール調査に参加した。

・先生はかつて琵琶湖の環境研究所に勤務。当時は琵琶湖の環境問題が深刻。雪解け水が琵琶湖に入ってくると重くて沈む。また、雪解け水は冷たいので酸素を多く含む。そのような様子は北極海調査を通じた知見から分かった。

・ガーネットの断面の色の成分を調べると、周囲にはマンガンや鉄が多い。また、雪の中に酸性物質が多く含まれる。ザラメ雪も同じように周囲に酸性物質が多い。雪解けの後にどういう様子で酸性物質が出てくるのか、ガーネットの分析から得られた知見を活かして調べていた。

 

②ネパールの博物館について

・ネパールの博物館には国王の親類(クマール氏)の写真が飾ってある。山岳活動の振興などを行った。1974年に先生は山岳活動に関する構想を持って行った。使われていないホテルを山岳博物館にしてはどうか、など。2008-2010年にJICAの活動で山岳博物館に務めた。そこはクマール氏の邸宅だったところだった。

・博物館利用者の半分くらいは子供たち。環境問題の解決のためには子供たちにいかにして情報を伝えるかが大切。

・博物館内部には大森さん撮影の写真が。5m×9mの巨大なヒマラヤの写真。

 

③ネパールの氷河湖について

・先生はネパールの氷河湖を調査。氷河湖決壊洪水(GLOF)について。ミンボー、ディグツォ、サボイで起こったGLOFについて。いずれも数百mサイズだが、もっと大きな数kmサイズのものも。

・しかし、大きな氷河湖はそれほどGLOFを起こさない。小さな氷河湖の方が一度のGLOFの規模は小さいものの、頻度が高い。

GLOFは谷を浸食し、ガレ場が続く。したがって、ガレ場を辿っていくと発生場所が分かる。ミンボーでは発生場所は湖になっていた。水が流れ出すところは壁が幅10m程度のモレーンがあった。このモレーンは雪崩や落石による津波によって簡単に決壊する。

・洪水の際の水位は1m程度上昇。田畑や道路を埋める。

・ラグモチェ(ディグツォ)は急峻な崖が上にあり、決壊。これは小規模な氷河湖決壊に共通する特徴。

・サボイはGLOF後、谷が侵食されて広くなっている。上流には急峻な崖。過去と決壊後の写真を比較すると、水位が大幅に低下。

・アンナプルナの近くでは、標高7000mから2500mまで雪崩が一気に落ちてくる。デブリが溜まり、その先に湖があるが、デブリを越えて雪崩が落ちると、湖に津波を起こす。決壊すると鉄砲水に。

・ネパールでは衛星やGPSを使って氷河湖のリストが作られている。約3810個。しかし、実際に行ってみないと本当に氷河の末端に氷河湖があるかどうかなどは分からない。

・マナスル近く、ツラギ氷河の末端は197592年は年間47m、その後は2008年まで年間60m以上の速度で後退している。2008年以降は後退が停滞。氷河が底面に座礁し、後退しなくなった。

・氷河湖の湖岸をGPSを持ちながら歩き、その経路を2005年のグーグルアースに重ねると、水中を歩いていることになる。水位の低下を示している可能性2011年のグーグルアースではちゃんと湖岸を歩いている。

・ツラギ湖は1996年から2009年にかけて2.5mの水位低下。水位低下は氷河湖の決壊を防ぐ。

・氷河が成長するとき、植生を越えるように成長する。モレーンを掘ると木片が出てくることがある。その炭素14年代を測ることでいつそれが起きたかが分かる。

・イムジャ氷河湖では水路を作って水面を低下させるという政府のプロジェクトがあったが、GLOFの発生リスクは低そうだが、プロジェクトに参加する村人はそれを認めないことも…。

GLOFの調査を行なうだけでなく、いつ起こるのか、危険なのか、ということを村の人に伝えることも行なう。イムジャはGLOFのリスクが低いことを伝えようにも、現地の人ですら実際にイムジャへ行ったことがなく、噂で知っているケースがあり、実際に見せに連れて行くことも計画。

・地球温暖化の影響でジェット気流が弱くなり、サイクロンがヒマラヤまで入ってきて気候を悪化させることがある。

・表面のモレーンを破壊すること無く、モレーンの地下を水が移動し氷河湖が排水されることがあり、それはGLOFのリスクを低下させる。

・大きな氷河湖は直下型地震モレーンが破壊されない限りは決壊しないだろう。

・氷河台帳:1930年代に氷河の様子を記載、1970年代の写真と比較。氷はかなり減少。もうすぐ無くなるだろう。

・ネパールの氷河は低地にあるものは今世紀中頃に全て無くなるだろう。そうすると水資源が無くなるかもしれない。

・氷河の末端位置は1960年代に比べて100~200m、標高が高くなっている。地球温暖化に伴う衰退傾向。

・氷河が無くなると水源が無くなるため、民族移動の必要が出てくる。

2009年のコペンハーゲン会議の前にネパールでは大臣が山の上で会議。南の島国では水中会議。象徴的な会議を通じてアピールを行っていた。

・海水面が上昇すると塩水が河や地下水に進入する。大量の「環境難民」が発生する。

・ヒマラヤの雪は夏に降る。夏が雨期で、冬が乾期だから。夏の間に氷河が涵養されると同時に、標高5000m以下では雨の影響もあり、どんどん解ける。ヨーロッパは夏も冬も降水・降雪があるので、それとは異なる。

 

④ブータンについて

・ブータンでも氷河湖決壊が1995年に起こった。末端のモレーンではなく、横にあるモレーンが決壊。末端は丈夫なのでなかなか壊れないが、横は幅が狭いので弱く決壊しやすい。

・今ではそれとは異なる氷河湖の決壊が危ぶまれている。ブータンには3つの大きな氷河があり、それらが作用しあっている。

・決壊する場所の地温は高い。そういう場所ではモレーン内の氷が解け、モレーンが弱くなる。地温はモレーンの決壊する可能性をチェックする上で重要である。

・ブータンの崖は黒い。花崗岩質なので本来は白いはずだが、時間が経つと表面に地衣類が生えるため、黒くなる。日射を吸収し、氷が解ける。解けた氷が岩石の割れ目に入り、夜間に凍って膨張し、岩石を崩壊させる。氷が解けた特徴として氷柱が発達している。

・ルゲ氷河湖ではブータン第一王女(現在の国王の母)がお祈りを捧げていた。

・ブータンは森林が豊かだが、近年はわざと山火事を起こし、放牧地を拡大している。植林も行っている。

・モンゴル、ロシアの国境付近でも盛んに山火事を起こしている。放牧地の拡大だけでなく、ブルーベリーやコケモモは灰を使って育ちが良くなるので、収穫を増やすために行われている側面もある。

・森林の減少は地温に影響を与える。永久凍土が無くなることにも関係。水源の減少へ。

・地球温暖化は先進国だけでなくそれ以外の現地の活動も影響。Act local, think global.

・排気ガスや山火事の影響で、ヒマラヤ付近では3000m程度のスモッグの層ができている。

 

【質問】

Q. 氷河はずっと流れ下って行くイメージ。しかし、氷河湖があるということは、地形的に鞍部になっているということか?

A. ブルドーザーが下ってくることを想像すると良い。周囲と末端にかき集められた土砂がある(モレーン)。その状態で温暖化によって末端が後退していくと、モレーンの内側に水がたまって氷河湖になる。海面に向かって氷河が落ちていく現象は、実は氷河の先端が海面上に浮いており、その状態から末端が切り崩されて氷山となる。

 

Q. GLOFは現地では「山津波」とよばれている。インドは大陸境界にあたるので大地震が起こることがあり、低頻度ではあるが大規模な山津波が起こる可能性がある。日本と事情は似ているとも言える。どのようなリスク管理をすべきか、どのようにヒマラヤの人たちに伝えるべきか?

A. 確かに大地震の可能性がある。カトマンズは1940年頃に大地震が起こった。長期的(数十年規模)にはそのことを考えなくてはいけないが、短期的(数年規模)にはそのような可能性は切り離して考えなくてはいけない。新しい建物を作るときには小高い場所に作るなど工夫はすべきだ。津波を防ぐ壁を作るような対策は馴染まないだろう。自然の中で対策できるものを。しかし現状、正直どのようにして伝えるかは難しいところがある。

 

Q. GLOFが起きるような氷河湖の下流はどのようになっているのか?

A. 川になっている。氷河湖の下に伏流がある場合は決壊のリスクが減る。ロックフィルダムのようになっているので、きっかけがあると決壊する。

 

Q. GLOFによる被害状況の記録はどれだけ残されているのか?

A. そこまで残されていないが、残されているものもある。

 



 

地球環境研究会 議事録 2014年8月7日(木)

「江戸っ子1号成功への苦労と愉しみ」
江戸っ子1号プロジェクト推進委員会 委員長 杉野行雄 先生

 

【概要】
 江戸っ子1号は2013年に開発された深海用無人探査機で,日本海溝の7800m地点で3Dフルハイビジョンのビデオ撮影に成功した.下町の町工場が中心となって開発をはじめ,大学や研究所,企業やボランティアの協力を得て小型かつ安価な海底探査を実現した.本日は江戸っ子1号の開発のきっかけや完成までの苦労,今後の展望についてお話をいただいた.
 

写真

 

撮影された海底の生物(JAMSTECのwebサイトより)[1]

 

※江戸っ子1号とは
 水深8000mの水圧にも耐える耐圧ガラス球3つが組み合わさって構成されている小型の無人探査機.ガラス球の内部には撮影用のカメラや照明,コンピュータが入っており,海底での3D ビデオ撮影や海底サンプルの採集が可能である.撮影後はおもりを取り外すことで再度浮上させ,GPSを用いることで海上で回収することができる.ガラス球の内部に入れる装置の組み合わせを変えれば,海底資源探査など様々な用途に応用できるほか,軽量かつ安価であることを利用して大量に投入すれば広い範囲の

調査も可能である.
 
図面

 

江戸っ子1号の構成図(JAMSTECのwebサイトより)[1]

 

【江戸っ子1号開発のきっかけ】
 昔から海が好きで,海洋雑誌を読んでいたところ次のような記述を見つけた.地球は地上よりも海のほうがはるかに広く,そして重要な資源が沢山眠っている.日本は世界で6番目に広いEEZ(排他的経済水域)を持つ海洋大国であり,例えばメタンハイドレート(燃える氷と呼ばれる)は,日本が使用するエネルギーの100年分ほどが海底に眠っていることも分かっている.これを採取できれば,資源がないと言われていた日本も資源大国になれる可能性がある.また,海底には貴重なレアメタルが多く存在することも分かっている.

 しかし,こうした重要資源を調査し,回収する方法は確立されていない.調べてみたところ,海底調査を行う機関は,日本には海洋研究開発機構(JAMSTEC)しか存在しなかった.しかし隣国の中国は日本の数百倍の費用をかけて海底探査を行っており,これに対して日本は後れを取っている.そこで,それなら我々で可能なかぎりやってしまおうということで,海底探査機江戸っ子1号の開発に取り組むことにした.とはいえ,それまでに海底探索に関わったことがある者はおらず,実際には結構な苦労があった.それでも,町工場が力を結集すればこんなにすごいものが創れるんだということを示したかった.


図面

 

江戸っ子1号の動作概念図(JAMSTECのwebサイトより)[1]

 

【探査機開発の難しさ】
 そもそも自分たちには海底探査機開発のノウハウは無かったので,色々な方に相談して情報を集める必要があった.東京信用金庫の方や芝浦工業大学,東京海洋大学など,産学連携の強化にも繋がるこのアイデアについては非常に好感触を持ってもらい,色々な助言をしてもらうことができた.JAMSTECにも協力していただき,みんなで様々なアイデアを出し合うことになった.そんな中で,中空のガラス球にカメラを積み海底に沈下させ後に回収するという形式にすることが決まった.

 

 ガラス球の開発
 探査機の中で一番重要なのは,どのようにして海底8000mの水圧に耐えるかということだった.1cm3あたり800kgという非常に大きな力がかかることになるため,非常に高い強度が必要とされる.初めは金属が良いだろうと考え,中でも丈夫なチタンを想定して見積もりを行った.しかし,必要とされる直径40cmの球体を作るためには,球一つにつき3000万〜5000万の費用がかかるということがわかった.さらに,水圧に耐えるためチタンでは厚みが40‐50mmほど必要となり,重すぎて十分な浮力を得ることができなかった.このため浮力を得るための浮力体を付ける必要があり,耐圧容器と浮力体だけで1億5千万ほどの材料費がかかってしまう見積となった.他にも機能を色々と付け足すと,試験費用も考えた場合5〜8億円ほどかかるという試算となった.すると,初めは参加を希望していた他の町工場の皆さんも減ってしまった.
 これを何とか解決したくて,大学や海洋研究開発機構の人に相談したが,なかなか解決策が見つからなかった.諦めかけていた頃,海洋研究開発機構の方から,過去にガラス球を用いて4000mの海底探査を実施したことがあるという情報を得た.また,そのガラス球が海底油田の探査に使うために米国とドイツの2社が市販しているという情報を得た.本当にガラスが大きな水圧に耐えられるのだろうかと疑問に思いつつ海洋研究開発機構の水圧試験機を用いて実験してみたところ,ドイツ製のガラス級は無事に8000mまで十分に水圧に耐えることが確認できた.一球30万程度で,チタンを用いた装置に比べ圧倒的に安くすることができた.しかし,オールジャパンでの制作を目標としていたのに,一番重要な圧力容器がドイツ製というのはもどかしい.そこでいくつかの大手ガラスメーカーに聞いてみたが,開発費が高く発注数が少ないのでほとんど相手にされなかった.それでも粘り強くお願いしてみたところ,千葉の岡本硝子さんが熱意に答えてくれたのか,日本で初の国産耐圧ガラス級を作ってくれた.最終的に,厚み12mmのガラス球で金属に比べ軽く棲むために十分な浮力が確保でき,4kg程度の機材を入れても浮かんでくる.また透明であるため撮影にも適していた.

 

 なぜガラス球は丈夫なのか?
 ガラスは結晶構造ではなく,アモルファス構造をとっている.圧力が加わるとそれに追従して変形することができるため,圧力に耐えることができる.ガラス球は半球2つが組み合わさる形で作られていて,ゴムパッキンを使わなくても,磨いて合わせれば水圧によってぴたっとくっついて水を通さなくなる.8000mのところまで行くと,直径33cmだが,2mm小さくなる.金属なら圧潰するが,ガラスはうまく分子構造が変わることで耐えることができる.これによって,世界最小最軽量,ケタ違いの低価格で行くことができた.これまで,探査船を作ろうとすると数百億という費用がかかるために,日本の民間企業では海底探査はできなかった.しかし,江戸っ子1号を100個量産できるとすれば,1つ1000万程度で作成ができ,民間での海底探査に十分使える価格となる.


江戸っ子1号の基本技術(JAMSTECのwebサイトより)[1]

 

 海底調査用カメラ
 海底の探査用のカメラも重要である.過去に人気を博したNHKのダイオウイカ撮影のプロジェクトでは,3000万ほどするカメラを使用しているが,我々はより安価に開発を進めるために,市販のカメラを利用することで価格を抑えることにした.そこで,よりきれいな動画を取るために画像処理技術を持ったソニーに協力を頼みに行ったところ,初めは断られてしまった.それでも何度かお願いに行ったところ,興味を持ってくださった方が個人的に技術指導をしてくださり,カメラも貸してくれた.
 3Dでの撮影を行うことにしたが,3Dカメラにはレンズが2つついており,球体に内にカメラを2つ設置したところ画像が歪んでしまった.これを補正するのはかなりの技術が必要で大変だったが,試行錯誤の末,ソフトではなくハード的に,比較的簡単な方法(秘密)で解決することができた.

 

 バッテリー
 ビデオカメラのバッテリーは数時間しか持たなかったため,外部に追加のバッテリーを設置しようということになった.初めはリチウムイオン電池にしようとしたが,扱いが難しくて発火してしまった.そこでニッケル水素に変更したが,今度は重くなりすぎてしまった.結局リチウムイオン電池にすることにして電機メーカーに相談したところ,自分で開発するは大変なので,市販品をうまく使うべきとの助言を得た.そこで牧田さんの電動工具用のバッテリーを繋ぐことで容量を増すことにした.持ち運びが想定された工具の電池であったため軽く,6個つなげても1.2kgほどだった.
 この助言は江戸っ子1号の開発にとって良いヒントになった.できるだけ市販品を使うことで,費用と開発期間を短縮することができる.それ以降,中に入れるものは市販品を活用することにした.このように,極力新しい開発を少なくすることで,ガラス球を使うことに決定してから,わずか2年半ほどで開発に成功することができた.

 

 水中での通信手段
 水中では光の点灯やおもりの切り離しなど,コンピュータの入ったガラス球から他のガラス球にたいして指示を出す必要がある場合がある.しかし電波は水中では減衰してしまって,隣のガラス球にさえ通信を行うことができない.そこで,はじめは光や電波による通信を考えたが,ガラス球は水深8000 mになると約2mm収縮する.これが原因で通信装置の光軸がずれてしまっていて,うまくいかなかった.そんなとき,海洋大で水中ロボットの開発をしていた学生から,ゴムシートを使うと水中でも微弱な電波を検知したという情報を得た.そこで,ゴムを用いた通信について共同開発を行うことにした.調べてみたところ,電波を通す物質についてあまり研究が進んでいなかった.ゴム屋だったので,これはしめたなと.ゴムには数百の種類があるが,手元にあった20種類のポリマーを使って円柱状のゴムをガラス級の間に挟み,通信が可能かどうかを調べてみた.するとなんと電波を通すポリマーが存在することがわかり,ガラス球の間で無事に通信を行うことができるようになった.このポリマーについては大学と共同で特許を取得することもできた.大学の先生も大変喜んでくださった.

【江戸っ子1号による海底の探査】
 海底の撮影と堆積物の採取をすることができた.特にみんなが予想外に感じたのは,8000mという深海においても,25 cm程度の大きな魚が群れを作って泳いでいたことである.海底は,光も全く通らず,水温も上がらない.赤道直下でも北海道でも,8000mくらいのところではどこも0−2度くらいで一定である.植物もなく,このため餌となるものもない.プランクトンの死骸が8000m落ちてくるのを待つだけである.目は退化していて,振動で餌を探すだけ,餌を取るのも大変.大学の先生からは,体長数cm位のものが数匹いれば成功といえるだろうと言われ,そのつもりで採取器を準備した.しかし驚くべきことに,実際には25cmくらいの魚が群れを作っていた.餌の少ない海底で魚がどれくらいの速度で成長するのかは分からないが,年間数ミリ程度の成長速度だとすれば,非常に長い年月を海底で生きているということにもなる.まだまだ未知の生体で,調べるべきことはたくさんある.


写真

 

撮影された海底の生物(JAMSTECのwebサイトより)[1]

 

【さいごに】
 自分たちは製造業ではあったものの,海底探査機の開発は初めてだった.しかしできないと諦めてしまうのではなく,夢に向かって頑張ってみると非常に楽しい.途中病に倒れたこともあったが,早く治して開発に参加したいという思いで体調が治ったこともある.驚くべき回復速度だったと医者も言っていた.こうした思いが通じたのか,初めはいくつかの町工場で始めた試みだったものが,最終的には45名ほどの方が手伝ってくれた.町工場や企業,研究所や大学からも多くのボランティアがあった.学生さんも参加してくれて,ものができ始めてからはものづくりの面白さを感じでくれたようで,非常に熱心に手伝いをしてくれた.やはり夢を諦めずに推し進めることがいつであっても大事だと思う.今後は,これまで誰も行ったことがない11000 mほどあるマリアナ海溝を目指したい.(アメリカで行ったという報告はあるが,何も情報や証拠がない)

 

Q&A
Q. 球の中の圧力は上がらないのか
A. 水圧でガラス球が若干小さくなるので,ほんの少しは圧力が上がるかもしれないが,ほとんど影響はない.

 

Q. ガラス球はどうやって作るのか
A. 半球を2つくっつけて作る.半球を作るための金型があり,溶けたガラスを入れて,それを別の型で押し付けて作る.現在は12000 mに耐えられるガラス球を作っている.厚くすれば厚くするだけ耐圧性能が上がるように思えるが,実際には水圧によって球が縮むとき,厚くすれば厚くするほど歪みのばらつきが大きくなり,逆にもろくなる場合もある。

 

Q. おもりを外して回収するときは難しくなかったか.
A. 黒潮の流れによって流されるので,音波探知機と,浮かんできたらGPSで追跡する.衛星はずっと空にいて電波を発しているわけではないので,電波が来たら急いで改修に向かう.

 

Q. 非接触充電とあるがこれはどういうことか
A. 最近実用化されてきた技術で,載せておくだけで充電できる技術.ガラス球を開けたり閉じたりせずに,データは無線LANで送受信して,充電は非接触で行うようにしている.

 

Q. 泥の採取はどのようなメカニズムで行っているのか.
A. 蛇腹状にした袋をバンドで止めておいて,海底でバンドを切る.するとバネで袋が広がり,中に泥が入る.

 

Q. 泥の採取器のサイズはどれくらいなのか.昔はステンレスの容器で重たかったが今はどうなのか.
A. 直径180で高さが200.樹脂で出来ている.海底の泥と言っても採取できる泥は比重がそんなに大きいわけではなく,浮力に影響するほどではない.海底にささってしまうと浮いてこられないので,表面をすくう程度.また日本では勝手に海底資源をとってきてしまうことは禁止されていて,地中深くまで探査すること法律的にも難しい.これは日本の海底探査を難しくしている要因の一つである.

 

Q. たくさん制作して網羅的に調べることはできるか
A. 1000個程度作って一斉に調べることで,船上調査の効率を向上させることができる.そういう時はタイマーをセットして自動で浮上させればいい.ただ,広大な海で小さな探査装置を見つけ回収するのは実は大変ではある.

 

Q. 位置制御とかは考えているのか.どれくらいブレるものなのか
A. 今現在は位置制御していないが,将来的にはスラスタなどの移動装置を考えていく必要があると考えている.いま一番位置がブレるのは海流で,流れの早い箇所を何分間で通過できるかによって決まってくる.海底に着くまでには2時間位かかる.時速4kmくらい.もっと早くすることも可能だが渦ができて着底地点がずれてしまう.とはいっても数百メーターくらいのぶれ.おもりの切り離しは電流を流すと取れるようなやつでやる.上げたいときは海上から超音波で指令を出す.超音波は通るので.

 

Q. 下に岩があったら採泥器は使えないと思うが,そういう時はどうするのか
A. 事前にソナーで調べて投下する.海底は意外と広く平らな領域があるので,岩を避けるのは難しくない.

 

Q. 地震の探査にも使えるのではないか
A. 実際に,地震の探査のために,ガラス球を数百個沈めている.南海トラフや宮城県など.

 

Q. 現時点では着底した場所の確認というのは,トランスポンダーで確認しているのか.位置はちゃんと確認できるのか.
A.トランスポンダーから定期的に発信されているので,位置や水深はちゃんと分かる.

 

Q 撮影した魚は見られるか
A. Youtubeにも出ている.数千匹のエビの群れや,餌を食べているエビの音につられてだんだん大きな魚が寄ってくる.(議事録記録注:すごいのでぜひ見てください.江戸っ子1号で検索すれば出てきます)

 

Q 海底に降りていく途中も見られたら面白いですね.
A 次はそれをやってみようという話をしている.プランクトンなども観察できるのではないか

 

Q. 装置の生産についてどのくらいオファーがあるか
A. 国内のほうが評価は冷たい.量産化したとしても国内では100機売れるといいなってくらい.海外だと多くはいる.一番最初に来たのは韓国のKBC放送.海中撮影をしたい.しかし話を聞くとどうも筋が通らない.どうも
韓国やアメリカ,中国なんかから購入の要請が来ているが,軍事目的.

 

Q. こうしたプロジェクトを成功させるのに何が必要か
A. フットワークの軽さが重要.思いついたらすぐやること.このフットワークの軽さは海外の人たちが評価していくれている.


写真引用元
JAMSTEC webサイト ニュースページ https://www.jamstec.go.jp/j/jamstec_news/20131220/

 

 

 



【世界的な第二次ブームを迎えた海洋温度差発電の現状と今後の展望】 2014年3月6日  佐賀大学海洋エネルギー研究センター 教授 池上康之先生  記録者 澁谷泰蔵

■講演者略歴
昭和61年 佐賀大学理工学部生産機械工学科卒業
平成 3年 九州大学大学院総合理工学研究科博士後期課程修了
平成 3年 佐賀大学理工学部生産機械工学科講師       
平成 8年 米国Duke大学 訪問研究員
平成14年 佐賀大学海洋エネルギー研究センター 助教授  平成19年  准教授
平成25年 同上 副センター長   教授

 

■講演概要
 海洋温度差発電(OTEC)とは,海洋における深層水と表層水の温度差を利用した発電方法である.深層水をポンプで汲み上げ,アンモニアなどの低沸点液体を凝縮・蒸発させることでタービンを回し発電する.深層水の温度は年間を通して安定しているため,太陽光・風力などに比べて高い設備利用率を実現できる.従来は設備稼働に必要なエネルギーが大きすぎて採算が合わないとされてきたが,佐賀大グループによる熱交換器の改良や,取水管の進歩・オフショア油田の技術利用などによって効率改善が進められてきた.この結果,現在では10MW規模の施設であれば30円/kWh程度が実現できると考えられている.2000年代後半の石油価格上昇を背景に米・仏の企業が急ピッチでOTEC開発を進めており,韓国・中国もこれに続いている.日本では佐賀大が中心となって,久米島での実証試験が始まっているほか,企業コンソーシアムによるインドネシアへのOTEC導入も検討されているが,実証レベルでは米仏に10年は遅れていると言われている.世界に遅れを取らないため,今後もオールジャパン体制をより一層強化していきたい.

 

■海洋温度差発電とは
 海洋温度差発電(Ocean Thermal Energy Conversion,以下OTEC)とは, 海洋における低音の深層水と高温の表層水の温度差を利用してタービンを回す発電方法である.20℃程度の温度差を利用するため,熱媒体としてアンモニアや代替フロンなどの低沸点液体が用いられる.深層水の温度は安定しているため,安定した発電が可能である.特に,赤道付近は表層水の温度も安定して高いため,年間通して安定した高出力が期待できる.反対に,表層水の温度が低い地域での発電は困難である.また,小さい温度差を利用するため,経済性を良くするためには規模を大きくする必要がある.


■日本の海洋発電への取り組み・現状
 平成19年に海洋基本法が成立し,20年には海洋基本計画が策定された.25年の同計画の見直しで発電が項目として追加され,洋上風力発電をはじめ,波力・潮流・海流・海洋温度差を含めて海洋エネルギーの利用を促進するための施策を具体的に提示されている.このように,海洋エネルギーの利用に向けた国家としての取り組みが始まっている.
 実際のOTEC開発には実証試験が不可欠であるが,日本の漁業組合は声が大きく,実証試験がしづらい状況にある.EUの実証フィールドは予約で一杯であり,日本は自前の実証フィールドを広げる必要があるが,先日海洋発電の実証フィールドにに7県が名乗りを上げたことがニュースで取り上げられた.少しずつであるが,日本でもOTEC開発の環境が整いつつある.

 

■日本におけるOTECのポテンシャル
 日本は国土は少ないが,排他的経済水域は世界6位の海洋大国である.波力・海流・潮流・OTECなどの海洋発電のポテンシャルに関する平成22年のNEDOの調査によれば,OTECは南鳥島や沖ノ鳥島などで効率が高く,適地とされる表面海水温が20℃を超える海域は和歌山県以南であることが示されている.同報告によれば,OTECは原発8基分のポテンシャルを擁している.

 

■OTEC第一次ブームと第二次ブーム
 第一次ブームは40年前のオイルショックが契機となっている.この時,国内のエネルギー意識が高まり,様々な発電方法が検討された.その一つがOTECであった.
ちなみに,このときテレビで佐賀大の上原グループの取り組みを見たことが,講演者がOTECと関わるきっかけとなった.1980年には米ロッキード社がプロジェクトを立ち上げており,技術的に可能であることは確かめられていたが,石油価格が1バレル49ドルを越えないと採算が合わないと言う結論が出され,このプロジェクトは99年にストップした.
 石油価格の上昇と共に,2008年以降に米ロッキード社や仏DCNS社がプロジェクトを開始しており,2013年10月にはロッキード社と中国Reignwood社による海南島のOTECプラント計画が発表された.これが現在も続く第二次ブームである.40年前に2ドル/バレルだった石油はいまや100ドルを超えている.第一次ブームと第二次ブーム存在は,特許の数を見てもその時期に山があり,明らかである.

 

■第二次ブームを支える技術革新
 第一次ブームの時に比べ,熱交換器・取水管が大きく進歩している.また,これに加えてオフショア油田(水深2−3km)開発技術の進歩もOTEC開発を支えている.佐賀大の開発したプレート式熱交換器は,従来の大きい温度差を想定した円管型の熱交換器に比べてOTECで利用する小さい温度差に最適化されている.取水管は硬化ポリエチレンから繊維強化プラスチック(FRP)になった.

 

■日本と米国の技術的アプローチの違い
 日本は台風を想定し,それに強い完全没水型の浮体プラントをIHI社とジャパンマリンユナイテッド(JMU)社が中心となって開発している.これは,プラント全体が20m以上の水深に水没するもので,平成25年9月,海事協会よりJMU社が佐賀大と共同開発した浮体式没水型の概念承認を取得している.これは,完全没水型では世界初である.
それに対し,米国はオフショア油田型の半没水式を採用している.これはコストが安い反面,台風には弱い.
 また熱交換器の材料として,米国はアルミ合金を採用している.この背景にはカナダの水力発電による安価なアルミの供給がある.日本は神戸製鋼を中心としたチタンを採用している.チタンのほうが値段が高いが海水による腐食には強い.

 

■OTECプラントの複合利用
 OTECプラントは,発電以外にも海水の淡水化,汲み上げた深層水の直接利用,海中のリチウム回収などの複合利用が考えられている.海水淡水化は,フラッシュ蒸発という技術を用いた処理能力1000t/日の装置が佐賀大とインド政府との共同で運用中である.また,水深200m以深の海水は無菌で栄養分が多く,飲用としての利用のほか,漁場の活性化効果も知られている.
佐賀大では二酸化マンガン系材料による吸着を利用した海中のリチウム回収技術も研究中である.

 

■設備容量ごとの発電コスト・建設コスト
 NEDOの報告によると,設備容量1MWのプラントの発電コストは 40-60円/kWh,10MWで15-25円/kWh,100MWで10円/kWh程度となっている.プラントの建設費は目安で言えば,
10MW が 300億円,100Wが 1000億円程度である.なお,OTECプラントの設備利用率は太陽光発電の6-7倍はある(およそ80%程度)ことが知られている.

 

■OTECの効率
 OTECプラントの効率は,(出力エネルギー)/(入力エネルギー)で評価する.現在の技術ではこれは最大で80%に至っている.黎明期には,OTECは深層水汲み上げに必要なポンプの電力を賄えないのではないかとの疑念もあったが,それは杞憂である.

 

■現在進めているプロジェクト(企業コンソーシアムのターゲット:インドネシア・沖縄の取り組み)
 インドネシアは国民が若く,エネルギー消費は増加傾向にある.また,赤道に近いためOTECのポテンシャルも高い.現在佐賀大も含めた企業コンソーシアムを作り,インドネシアへのOTEC導入を進めている.台風の影響を考えると,完全没水型の日本方式は有利であると考えている.
 また,沖縄県は自らの予算でOTECプロジェクトを始動している.
沖縄の電気は全て化石燃料由来
であり,100MWのOTECプラント4基で10%程度の電力を賄うことが出来る.複合利用に関しても,
久米島が既に商業的に1.3万t/日 の深層水を利用しているため,展開は容易であり,これに関するプロジェクトも進んでいる.

 

■日頃考えていること,IQからEQへ
 エネルギーはIntensive Quantity(IQ,示強変数) x Extensive Quantity(示量変数)で表現できる.例えばIQは温度差,EQはエントロピー差と読み替えることが出来る.化石燃料は局所的な高い温度差を利用したIQ型のエネルギーであり,OTECは大域的な低い温度差を利用したエネルギーである.これからの時代はIQ型エネルギーを脱却し,EQ型エネルギーへ
向かうべきである.そして人間も,IQ(知力)だけではなくEQ(度量)で勝負する時代であろう.

 

■質疑応答
Q.送電ケーブルの敷設コストはどの程度になるのか
A.陸上式は送電コストは考えなくて良い.浮体式の場合は1億円/kmと言われている.これを賄うためにも,大規模化が必要である.
沖合20−30kmで発電する場合は,100MWクラスであれば送電ケーブルの敷設コストは初期コストの数%に収めることが出来る.

Q.環境アセスメントや漁民との摩擦でプロジェクトが遅れることはないのか
A.正直なところ,ようやくそれらを気にすることが出来るほどにOTECが実現性を帯びてきたという感はある.環境アセスに関しては,現在国際基準の策定中であり,漁民との摩擦に関しては漁協と合意が出来た所でのみOTEC開発をする.深層水による漁場の活性化ができるため,漁協とは協力関係を築けるはずである.

Q.初期コストは火力発電所に比べ高いか
A.初期コストは高い.10MW規模で100億円,100MWで1000億円程度と見積もられている.

Q.陸上式の場合は,既存の発電所の近くに置くことも出来るか
A.できる.韓国など表層水の温度が低い地域はこれを積極的に利用しようとしている.発電所の排熱と深層水との温度差によって効率的な発電が可能となる.

Q.九州電力・沖縄電力の関心はどの程度か
A.沖縄電力は離島用の発電法として興味を持っている.離島での発電コストは50-70円/kWhと高いことが理由である.但し,本島では石炭火力が8円/kWhの電気を作っており,これとは勝負にならない.

Q.OTEC施設の移動は簡単か
A.取水管を浮かべるなどすれば,海上を容易に移動できる.

Q.台風や海流の変化には対応できるのか
A.日本が採用している水没式(熱交換器が水面下20mにある)であれば,問題ない.

Q.アンモニアがリークするとどんな問題があるか
A.常圧ではガスとして揮発していくためになるため,海洋汚染などは限定的であると思われる.銅はアンモニアによって腐食されるため,その点は注意が必要である.


 



2014年2月6日
交詢社地球環境研究会 講演録    記録:野澤拓磨
講演者:東京大学・総合研究博物館 米田穣 先生
講演題目:「食生態からみた縄文人の適応戦略」

■概要
 講演者の米田氏は,放射性炭素を始めとする様々な同位体を組み合わせ,過去の人々や動物の生態系における位置を評価することで,食生活や移動履歴を復元する研究を行っている. 本講演では,同位体による生態系の研究に加え,人類学及び考古学の見地から縄文人の食生態に関する講演が行われた.

■先史時代の生活にせまる
 先史時代(人が文字を獲得する前の時代,日本では旧石器時代から弥生時代が該当する)においては,過去の文献資料をたよりに当該時期における人類の歴史を知る事は不可能である.このような時代を知る唯一の手がかりは,発見された遺跡や遺物などの分析を通して得られる情報のみである.しかし,発掘によって得られる考古学的資料は,遺跡形成とそれに続く体積中での埋蔵の過程でバイアスがかかっている.例えば,骨や貝殻などの動物質の食料は遺物として発見されやすいが,植物遺存物はよっぽど埋蔵条件に恵まれていない限り出土することはない.そのため,考古学遺物から当時の人々の暮らしぶりを予想することは必ずしも容易ではない.
 
■同位体分析により食生活を探る
 前述のように,遺跡などから発掘される遺物から該当時期に人々の生活を知ることは難しい.そこで,米田氏のグループでは,人骨中に残されたタンパク質,例えばコラーゲンなどを同位体分析することで,当時の彼らの生活を予想する試みを行っている.同位体とは,同じ元素だが質量数の異なる原子のことである.炭素や窒素などは植物や動物などの有機物に最も多く含まれる元素であり,動物や植物の種類によって,それらを構成する同位体の比率が異なることが知られている.人間や動物の体は,基本的には食べたもので構成されるため,骨や軟部組織は食料とした動植物の同位体比を反映していると考えられる.つまり,骨や軟部組織に残されたタンパク質の同位体比を分析すれば,彼らの食生活をある程度分析可能である.
 
図1 骨の化学分析の概念図.左下は人骨が出土した遺跡.右下はコラーゲンの図.

 

 図2 同位体の概念図.例えば炭素には12C,13C,14Cの3種類の同位体がある.
■同位体分析によって見えてきた縄文人の食生態
 縄文時代の人骨を調べてみると,非常に面白いことが明らかになった.図3は縄文時代後期の人骨中のコラーゲンを同位体分析によって地域ごとに調べた結果である.この図から,炭素と窒素の同位体比は,北海道,本州,沖縄で大きくことなっており,明らかに食生活に違いがあることがわかる.北海道の縄文人の骨は,15Nや13Cなどの質量数の大きな同位体を多く含んでいる.これはオットセイやアシカなどの海産哺乳類を多く食していたことを示している.一方で,本州の骨からは魚類やC3植物を多く食している傾向が,沖縄の骨からはラグーン作物中心に摂取している傾向が見られ,それぞれの違いは顕著である.ここでいうC3植物とは,C原子を3つ含むホスホグリセリン酸を光合成で合成する植物で,質量数の大きな炭素同位体13Cの比率が少ない.食用の植物としては米や麦,栗,団栗などが該当する.一方C4植物は,C原子を4つ含むオキサロ酢酸を合成する植物で13Cの比率が大きい.トウモロコシ,ヒエ,アワ,サトウキビなどが該当する.
 
図3 縄文時代後期における人骨中コラーゲンの同位体分析の結果

 このような結果から,これら3つ地域ではそれぞれ独自の食文化が縄文時代には築かれており,アイヌ,本州,琉球の元となる文化が縄文時代にはすでに根付いていたと考えられる.また,縄文後期に伝来したと考えられている稲作についても,実際に取り入れられたのは本州の人々の間のみであり,北海道や沖縄では広がらなかったのではないかということも伺える.

■同位体分析からみえる食生活の移り変わり
 縄文時代の骨の分析結果を他の時代と比較すると,さらに驚くべきことが明らかになった.図4は縄文時代後期,江戸時代,現代の同位体比分析の結果を比較したものである.サンプル数の違いはあるものの,現代人の骨から得られた結果は同位体比のばらつきが縄文時代や江戸時代の場合と比べて明らかに小さい.これは現代人が地域や環境の違いに寄らず,ほぼ同じ食物を摂取していることを示唆している.縄文後期が約3,300~4,500年前,江戸時代が約200~400年前であることを考えると,たった数百年もの間に人類の食生態は驚くほど変化したのである.
 
図4 同位体比分析結果の比較.

 


Q&A
Q. 人骨が発掘された遺跡の図があるが,これは発見された当時の画像?
A.発見されたそのままの画像.老人夫婦,若年夫婦+子供1人と二世帯の遺骨が発見された.死因は明らかでないが,一説では,河豚の毒にあたって集団食中毒で死んだと言われている.縄文人は亡くなった人を貝塚や使われなくなった家などに埋葬していた.

Q.縄文人はソース顔,弥生人は醤油顔と言われるが,今は両方いると思うのだが?
A.確かに両方いる.弥生時代に渡来した朝鮮系の人種が農耕を広めたと考えられている.最終的には混血し,今のような状態になっているのではないか.

Q.農耕は支配階級を生み出す要因になったか?
A.あり得る.農耕の到来は人々の生活を豊かにした一方で,貧富の差を生み出す要因となっただろう.また,稲作は大規模な投資であり人手も必要なため,人々は村での生活を余儀なくされたはずである.

Q.現代人のタンパク質の同位体比が偏っているのは都市化の影響であると言ってよいのだろうか?
A.そういう見方もできるだろう.都市化が進み流通が発達することで,全国どこでも同じようなものが同じ価格で手に入る.その結果,人々の口にするものもほぼ同じものになったのだろう.

Q.この研究から未来の人類について何か思うことは?
A.かつて,狩猟民族だったネアンデルタール人は滅び,雑食であったホモ・サピエンスである我々は今も生き続けている.その理由は,ホモ・サピエンスが幅広い食生活の文化を持っていたため,環境適応能力が高かったためであろう.しかしながら,同位体分析の結果からも明らかなように,現代人の食文化は偏っている.このように,多様であった食文化を喪失しつつある人類が,今も高い環境適応能力を持っているかは疑問である.

Q.縄文人と現代人,どちらが幸せだと思う?
A.それは分からないが,縄文後期には狩猟生活を辞めずに続けた人々がいたことも考えると,中々良い生活ぶりであったのではないかと思う.人口が増えてきたグループが,やむを得ず稲作に転じたこともきっとあっただろう



2014年2月6日
交詢社地球環境研究会 講演録    記録:野澤拓磨
講演者:東京大学・総合研究博物館 米田穣 先生
講演題目:「食生態からみた縄文人の適応戦略」

■概要
 講演者の米田氏は,放射性炭素を始めとする様々な同位体を組み合わせ,過去の人々や動物の生態系における位置を評価することで,食生活や移動履歴を復元する研究を行っている. 本講演では,同位体による生態系の研究に加え,人類学及び考古学の見地から縄文人の食生態に関する講演が行われた.

■先史時代の生活にせまる
 先史時代(人が文字を獲得する前の時代,日本では旧石器時代から弥生時代が該当する)においては,過去の文献資料をたよりに当該時期における人類の歴史を知る事は不可能である.このような時代を知る唯一の手がかりは,発見された遺跡や遺物などの分析を通して得られる情報のみである.しかし,発掘によって得られる考古学的資料は,遺跡形成とそれに続く体積中での埋蔵の過程でバイアスがかかっている.例えば,骨や貝殻などの動物質の食料は遺物として発見されやすいが,植物遺存物はよっぽど埋蔵条件に恵まれていない限り出土することはない.そのため,考古学遺物から当時の人々の暮らしぶりを予想することは必ずしも容易ではない.
 
■同位体分析により食生活を探る
 前述のように,遺跡などから発掘される遺物から該当時期に人々の生活を知ることは難しい.そこで,米田氏のグループでは,人骨中に残されたタンパク質,例えばコラーゲンなどを同位体分析することで,当時の彼らの生活を予想する試みを行っている.同位体とは,同じ元素だが質量数の異なる原子のことである.炭素や窒素などは植物や動物などの有機物に最も多く含まれる元素であり,動物や植物の種類によって,それらを構成する同位体の比率が異なることが知られている.人間や動物の体は,基本的には食べたもので構成されるため,骨や軟部組織は食料とした動植物の同位体比を反映していると考えられる.つまり,骨や軟部組織に残されたタンパク質の同位体比を分析すれば,彼らの食生活をある程度分析可能である.
 
図1 骨の化学分析の概念図.左下は人骨が出土した遺跡.右下はコラーゲンの図.

 

 図2 同位体の概念図.例えば炭素には12C,13C,14Cの3種類の同位体がある.
■同位体分析によって見えてきた縄文人の食生態
 縄文時代の人骨を調べてみると,非常に面白いことが明らかになった.図3は縄文時代後期の人骨中のコラーゲンを同位体分析によって地域ごとに調べた結果である.この図から,炭素と窒素の同位体比は,北海道,本州,沖縄で大きくことなっており,明らかに食生活に違いがあることがわかる.北海道の縄文人の骨は,15Nや13Cなどの質量数の大きな同位体を多く含んでいる.これはオットセイやアシカなどの海産哺乳類を多く食していたことを示している.一方で,本州の骨からは魚類やC3植物を多く食している傾向が,沖縄の骨からはラグーン作物中心に摂取している傾向が見られ,それぞれの違いは顕著である.ここでいうC3植物とは,C原子を3つ含むホスホグリセリン酸を光合成で合成する植物で,質量数の大きな炭素同位体13Cの比率が少ない.食用の植物としては米や麦,栗,団栗などが該当する.一方C4植物は,C原子を4つ含むオキサロ酢酸を合成する植物で13Cの比率が大きい.トウモロコシ,ヒエ,アワ,サトウキビなどが該当する.
 
図3 縄文時代後期における人骨中コラーゲンの同位体分析の結果

 このような結果から,これら3つ地域ではそれぞれ独自の食文化が縄文時代には築かれており,アイヌ,本州,琉球の元となる文化が縄文時代にはすでに根付いていたと考えられる.また,縄文後期に伝来したと考えられている稲作についても,実際に取り入れられたのは本州の人々の間のみであり,北海道や沖縄では広がらなかったのではないかということも伺える.

■同位体分析からみえる食生活の移り変わり
 縄文時代の骨の分析結果を他の時代と比較すると,さらに驚くべきことが明らかになった.図4は縄文時代後期,江戸時代,現代の同位体比分析の結果を比較したものである.サンプル数の違いはあるものの,現代人の骨から得られた結果は同位体比のばらつきが縄文時代や江戸時代の場合と比べて明らかに小さい.これは現代人が地域や環境の違いに寄らず,ほぼ同じ食物を摂取していることを示唆している.縄文後期が約3,300~4,500年前,江戸時代が約200~400年前であることを考えると,たった数百年もの間に人類の食生態は驚くほど変化したのである.
 
図4 同位体比分析結果の比較.

 


Q&A
Q. 人骨が発掘された遺跡の図があるが,これは発見された当時の画像?
A.発見されたそのままの画像.老人夫婦,若年夫婦+子供1人と二世帯の遺骨が発見された.死因は明らかでないが,一説では,河豚の毒にあたって集団食中毒で死んだと言われている.縄文人は亡くなった人を貝塚や使われなくなった家などに埋葬していた.

Q.縄文人はソース顔,弥生人は醤油顔と言われるが,今は両方いると思うのだが?
A.確かに両方いる.弥生時代に渡来した朝鮮系の人種が農耕を広めたと考えられている.最終的には混血し,今のような状態になっているのではないか.

Q.農耕は支配階級を生み出す要因になったか?
A.あり得る.農耕の到来は人々の生活を豊かにした一方で,貧富の差を生み出す要因となっただろう.また,稲作は大規模な投資であり人手も必要なため,人々は村での生活を余儀なくされたはずである.

Q.現代人のタンパク質の同位体比が偏っているのは都市化の影響であると言ってよいのだろうか?
A.そういう見方もできるだろう.都市化が進み流通が発達することで,全国どこでも同じようなものが同じ価格で手に入る.その結果,人々の口にするものもほぼ同じものになったのだろう.

Q.この研究から未来の人類について何か思うことは?
A.かつて,狩猟民族だったネアンデルタール人は滅び,雑食であったホモ・サピエンスである我々は今も生き続けている.その理由は,ホモ・サピエンスが幅広い食生活の文化を持っていたため,環境適応能力が高かったためであろう.しかしながら,同位体分析の結果からも明らかなように,現代人の食文化は偏っている.このように,多様であった食文化を喪失しつつある人類が,今も高い環境適応能力を持っているかは疑問である.

Q.縄文人と現代人,どちらが幸せだと思う?
A.それは分からないが,縄文後期には狩猟生活を辞めずに続けた人々がいたことも考えると,中々良い生活ぶりであったのではないかと思う.人口が増えてきたグループが,やむを得ず稲作に転じたこともきっとあっただろう.



2013年11月7日
【放射線を恐れて付き合う】

東洋公衆衛生学院 診療放射線技術学科 西澤徹先生

交詢社地球環境研究会例会 講演  記録 澁谷泰蔵

西澤先生にお話し頂く意味(大森弘一郎より)
  福島第一の事故を受けて,放射線の健康への影響に対する関心が高まっている.原発推進派に聞けば安全だといい,反対派に聞けば危険だという.これでは本当のことがわからない.中立の立場から解説できる人物が必要である.今回は,その適任者として,医療技術として放射線を日常的に利用し,人材の育成に携わる西澤先生をお招きしました,放射線に対する考え方を学びたいと思います.


本日のテーマ
  1 mSv/年という単位が除染目標として語られている. 診療放射線技師を育成する教員という立場からこの量について解説し,親しみを持ってもらうことが本日のテーマ.

放射線とは何か
  放射線とはエネルギーを伝える能力のある波.エネルギーとは何かをしでかす能力のこと.例えば,放射線は細胞内の染色体を切ることができる.ただし,染色体の切断は普段から起きており,自然回復している.回復力を超える量の放射線を受けることが問題である.

■放射能と放射線:よくある混同
  しばしば,放射線と放射能の混同を見かける.放射線を出す能力が放射能である.つまり,放射能を浴びるという表現は意味をなさない.放射線を浴びるというのが正しい表現である.


放射線の原因:放射性壊変
  原子核は陽子と中性子で構成されている.自然界に存在する元素の原子核の多くは安定である.しかし,一部に原子核が不安定なものが存在する.このような元素は,安定なものとは中性子の数が異なり,放射性同位体と呼ばれる.

  これらの同位体は,放射線を出しながら安定なものに変化する.これを放射線壊変という.たとえば,水素の同位体であるトリチウムは放射線を出しながらヘリウムに変化する.トリチウムなどの放射性同位体は自然界にも存在する.

  また,トリチウムは軽水炉の通常の運転でも発生し,法律で定められた基準値以下に希釈して海に捨てられている.医療用の放射性同位体も,

同様に希釈して下水に流している.

ベクレル(Bq)
  放射性壞変は確率的な現象であり,一秒間あたりに崩壊する原子の数をベクレルという単位で表す.例えば,一秒間に3個の原子が壊変すれば,3ベクレルと数える.


■半減期
  放射性壊変によってある原子核が別の原子核に変化するが,元の原子核の半分の量が変化するのにかかる時間を半減期という.例えば,20個のトリチウムのうち,10個がヘリウムになるまでの時間が半減期である.半減期は人工的に短くすることができない.


■3種の放射性壊変と3種の放射線
  放射線壊変にはアルファ,ベータ,ガンマの3種類がある.これらの壊変に対応して,アルファ線,ベータ線,ガンマ線と呼ばれる放射線が発生する.アルファ線はヘリウムの原子核,ベータ線は電子線,ガンマ線は短波長の電磁波のことである.透過力は線の種類とエネルギーによって異なり,人体への影響も異なる.一般にアルファ線は透過力が弱く,ガンマ線は透過力が強い.

■シーベルト(Sv)
  シーベルトは放射線防護に用いる単位で,将来のがん発症確率を数値化したものである.シーベルトは放射線のエネルギーの単位であるグレイ(Gy)から,人体への影響を考慮した重み付けによって決定される.例えば,1グレイのガンマ線を脳に浴びた場合は.0.01Svで,同量のアルファ線を骨髄に浴びた場合は2.4Sv とされている.数値が大きいほど,将来がんを発症する確率が高くなる.

■体外被曝と体内被曝
  放射線にさらされることを被曝という.被曝には2種類あり,体の外から被曝を受ける体外被曝と体内に取り込んだ放射性物質から被曝を受ける体内被曝がある.アルファ線,ベータ線は皮膚で止まるため,通常は体外被曝としての影響は考えない.ただし,エネルギーが高い場合は,ベータ線熱傷などの可能性がある.ガンマ線は透過力が強く,遮蔽し,距離を取るなどの対策が必要である.

  体内被曝は,組織が直接放射線にさらされるため,あらゆる線種で影響がある.人体の構成元素と化学的性質が似ているものは,それらに変わり体内に蓄積するものもある.放射性セシウムはカリウムの代わりに筋肉に,放射性ストロンチウムはカルシウムの代わりに骨に蓄積する.透過力の低いアルファ線やベータ線は測定が困難である.


■被曝の上限値
  被曝には上限値が定められている.放射線を取り扱う職業従事者には,100mSv/5年,50mSv/年という値(職業被曝)が法令で定められている.また,一般には1mSv/年という値(公衆被曝)がICRP(国際放射線防護委員会)の勧告によって定められている.これは法令ではない.また,がんの放射線治療など医療行為によって受ける医療被曝の量は,医療を制限しないために制限がない.


■被曝の上限値に対する誤解
  上限値を超えると危険で,上限値以下ならば安全という誤解がある.しかし,上限値は防護上の目標値であって,それを超えると突然危険になる,というものではない.特に,1mSv/年を超えると危険と考える人がいるが,1.1mSv になると突然健康被害が出るというものではない.


■1mSv/年は安全か:LNT仮説に対する放射線技師の考え方
  広島・長崎の被爆者の疫学的な調査は100mSv以下の被曝に関するデータがない.100mSv以降は被ばく線量とがんの発生率に線形の関係が認められるため,これを100mSv以下に延長もしてよい,と考えるのがLNT(直線しきい値なし)仮説である.これはICRPにも採用されているため,放射線技師は,患者が受ける放射線量はなるべく減らすほうが良いという教育を受ける.

  しかし,平均で0.8mSv/年の被曝がある放射線技師のがんの発生率には,一般の人とは違いが見られないため,LNT仮説には疑問があるというのが多くの放射線技師の見方である.また,シーベルトはがんに罹患する確率を数値化したものである.確率である以上個人によって捉え方に差がある.これは,降水確率30%の時に傘を持って出かけるか,という問題に似ている.


■確率的影響と確定的影響
  放射線障害には確率的影響と確定的影響の2種類がある.確率的影響の代表例はがんの発症であり,確定的影響の代表例はリンパ球の減少や脱毛である.確定的影響は100mSv/年から比べれば,相当量の放射線を浴びないと発生しない.


■福島事故のこれまでの影響
  体外被曝(主に137 セシウムからのもの)と体内被曝(食品基準である100Bq/Kg)のどちらも確定的影響を超えるものはない.確率的影響もおそらくではあるが,「影響があるかないかわからない」という程度であると思われる.


■除染目標に対する考え方
  現在の除染は,汚染された表土の除去という方法で行われている.イタイイタイ病のカドミウム除染では1630ヘクタールで8000億円の費用かかっている.この値を参考にすれば,全ての土地を1mSv/年以下にするには約689兆円かかるという計算になる.これは実現不可能な金額である.社会的・経済的要因を考慮して,影響を可能な限り抑えることを行為の最適化という.今後の除染基準の動向に注目したい.


■質疑応答


Q.福島の子どもに甲状腺がんが見つかっているが,これは事故の影響か.
A.そうではないと考えられている.被曝によって甲状腺に影響が出るのは3?4年後であることが知られている.また,日本人は日常的にヨウ素を摂取しているため,甲状腺への放射性ヨウ素の蓄積は少ない.こどもの甲状腺がんの発見は,単に検査が増えたからと考えられている.


Q.汚染水を浴びた作業員が,ベータ線熱傷したというニュースがあったが,その後亡くなったか.
A.亡くなったかについては分からない.当時の汚染水には現在は取り除かれているセシウムが含まれていたため,ベータ線に加えてガンマ線熱傷があったかもしれない.これは骨髄まで及びリンパ球の数を減らし,体の抵抗を下げてしまう.

Q.福島第一原発の吉田所長の死因は被曝によるがんか.
A.違うと思われる.彼の死因は食道がんであるが,放射線と食道がんの関連性は知られていない.広島・長崎のデータには食道がんはない.


Q.テレビ等で真っ白い防護服を見かけるが,あれは放射線を防げるものか.
A.体外からの放射線を防ぐ能力はない.あれは内部被曝対策である.着用することで放射性物質を体内に入れず,体表面にも付着させないという効果がある.


Q.通常,アルファ,ベータ,ガンマの線種は混ざっているのか.
A.混ざっている.


Q.染色体を切る能力はどの線種が高いのか.
A.アルファ線が高い.


Q.放射線自体が体内にとどまることはあるか.
A.ない.


Q.遺伝の影響はどう考えればいいのか.
A.これは確率的影響の範囲である.動物実験では奇形児などが見られているが,人間においては確認されているケースはない.


Q.がんの放射線治療はどの程度なのか.
A.一例を挙げれば,5週間で20グレイである.この量は確定的影響の範囲であるが,時間をかけて照射することによって確定的影響の発生は避けている.ただし,治療によってがんを罹患する2次がんという問題はある.


Q.放射線医療はこれから発展するか.
A.発展すると思う.25年前に1日の利用者は25名程度だったのが,現在は倍になっている.治療の存在が認知され,精度も向上し,利用できる施設も増えてきた.今後も伸びると思われる.

 



 

2013年10月3日  

交詢社地球環境研究会例会 講演録
講演者 横浜国立大学大学院工学研究院 グリーン水素研究センター長 特任教授 太田健一郎先生
講演題目「グリーン水素社会への展望」
記録 岡野智宏


0. はじめに
 タイトルに示されている「グリーン水素」とは再生可能エネルギーを利用する水素を指す。現状、議論にあがる「水素」とは化石燃料を用いて生産されたものであるため、将来的に考えた場合問題がある。将来的には水より水素を生成し、水素エネルギーを用いた持続可能型の成長社会へとつなげていくことが目的である。

 

1. エネルギーと環境


  21世紀における人類持続的成長の鍵として3Es(Energy:資源確保と紛争、Economy:人口増大と経済成長、Environment:地球温暖化と環境破壊)があげられる。過去、第二次世界大戦後の日本は中東の安価な石油を用いることで経済成長を加速させていった。化石燃料の枯渇が危ぶまれる今日において、中国・インド・アフリカ諸国は経済発展していく際に必要な資源の確保が重要な問題となる。Energyの問題は20世紀には中東の石油に端を発する中東戦争が起こったように、喫急に解決すべき問題である。現在では中国、アメリカを中心に石油の代替材料となるシェールガスが採掘可能になったことにより、資源確保による国際問題は収まっている。

 

  このEnergy問題と密接に関わるのが、Environment問題、特に地球温暖化問題である。この問題は化石エネルギー多消費への警告である。現在のような安価に利用できる石油のピークはすでに過ぎている。そして、現状の化石燃料を環境破壊なしで採掘できるのは西暦2500年程度までと考えられる。すなわち、我々人類は10億年かけて堆積してきた化石燃料を約700年で使い切ってしまうことになる。ゆえに現代人は1000 – 2000年スパンのエネルギーを今から考えていかなければならない。

  ここで、物質循環の観点から炭素と水を比較して見ていく。下図に示すように水の存在量は炭素の7万倍と多量である。


 

 また、それぞれの環境負荷係数(エネルギーで発生する炭素または水の放出量 / 自然に放出される炭素や水の量)を比較すると、水は炭素の1/100以下であり、水の方が持続可能であることがわかる。さらに東京都区部で比較すると、炭素の環境負荷係数が35000であるのに対し、水素の環境負荷係数は0.12と約1/300000となっている。このため、水から合成されるグリーン水素は環境保存において格段に優れていると考えられる。今後は、東京都区部の水素の環境負荷係数を地球全体の炭素における環境負荷係数0.036以下にすることが目標である。
 

 

 

2. 一次エネルギーの将来


2.1 化石燃料
化石燃料は近年シェールガスの開発が進んでいる。シェールガスとは地下数百~千メートルのシェール層(頁岩層)に閉じ込められた天然ガスである。以前は中小企業のみが採掘に動いていたが、北米においてオイルメジャー各社が参入したことにより採掘が本格化した。この結果、現在の化石燃料と比べ長期(100年以上)の可採年数と推測された。しかし、このシェールガスも有限であり、また、シェールガスはメタンガスを主成分とするため、温室効果がCO2より大きい。そのため、長期的に見ると環境的に悪影響を与える可能性が高い。加えて、排出されたCO2の貯蔵場所として地中が挙げられる。しかし、対流に約2000年かかるため、将来地上へ漏れ出す可能性がある。

 

  2.2 原子力
原子力エネルギーは東日本大震災により明らかになった地震対策・安全対策の必要性、放射性廃棄物にかかる10万年という時間の保証の2つの問題がある。現在、すべての原子力発電所が稼働停止している。即時の原子力撤廃には産業界との議論が必要であるが、将来的に撤廃する必要がある。

 

  2.3 再生可能エネルギー
現在、風力発電は日本での賦存量は小さいが、強風地域で発電し、送電することが可能になれば非常に安価(10-15円 / kW)な電力を得ることが可能になる。ドイツではすでに風力発電技術を推進している。日本で利用されている風力発電所には貯蔵用の電池(ex. 北海道苫前町苫前発電所のレドックス電池 、青森県六ケ所村二又発電所のNAS電池 )が存在しているが、これらの電池は数時間しか電力を貯蔵することができない。つまり、電力貯蔵と再生可能エネルギーの輸送を共に達成するためには、現状技術では化学物質を利用する手法しかない。本手法は、風力発電を始めとする再生可能エネルギーにより生み出された電気を用いて水分解を行う。水分解を行うことで水素を作り出し(2H2O → 2H2 + O2)、その水素を有機化合物と反応させることで、有機水素化物を作り、輸送する手法である。その有機水素化物の例としてトルエンに水素化を行うことにより、メチルシクロヘキサンを合成する方法がある。


この方法にあたり、千代田化工建設が300℃で安定して稼働する触媒を発見した 。今後、1年の長期な実証実験をする必要があるが、この発見により水素の長距離輸送が可能になると予測される。

 

3. グリーン水素社会に向けて


3.1  水素について
  現存する元素の中で最も軽い元素である。沸点が-250℃と低いため、室温では気体で存在している。問題点としては爆発限界が広い(爆発しやすい)ため、混合水素は爆発するリスクが高い。また、燃えている際に可視化できないという問題点もある。しかし、単位体積当たりの燃焼エネルギーは都市ガスより小さく、家庭用湯沸かし器より安全であると言える。

 

3.2  水素の製造法
  水から水素を工業的に合成するプロセスとして水電解法がある。これは自然エネルギー等を利用して水を電気分解する手法である。本手法はアルカリまたは固体高分子を含んだ水、あるいは高温水蒸気電解を行い水素を生成する方法である。水電解法における反応過程は


                           正極 : 2H2O + 2e- → H2 + 2OH-
                           負極 : 4OH- → 2H2O + O2 + 4e-
                                ⇒ 2H2O → 2H2 + O2


である。よって、正極側に水素が発生、負極側に酸素が発生する。我が国において特に用いられている手法の1つに水に食塩を混ぜた食塩水を電気分解する方法がある。この方法は


                         2NaCl + 2H2O → Cl2 + H2 + 2NaOH


で表される反応過程で反応が進む。この方法による我が国でのH2生産量は1.2×109 Nm3 / 年 ( = 10万t / 年)である 。

 

3.3  海外の取り組み


  アイスランドでは豊富な水力・地熱発電を利用した水素利用を進めている。この計画では2020年に脱化石燃料、水素社会の実現を目指している。生み出された水素は主にバス、乗用車、漁船への利用が計画されている。このために必要な水素量は8~9万t / 年 (= 4~5TWh)であり、アイスランドで経済的に発電可能な再生可能エネルギーの10%である。また、アイスランドは断層地帯にあり、地震の発生回数が多い。そのため、大規模地熱発電(40000m2 規模)が出来る可能性を秘めている。また、パイプラインを用いて間欠泉から電力と熱の同時輸送を行っている。

  カナリア諸島では地方政府所属の研究所(ITC : Instituto Technologico de Canarias)で風力発電の開発計画が進んでいる。ここでは風力により生み出された電力を用いて、海水の淡水化や水素合成を行っている。最終目標として、風力発電とそのエネルギーを用いて生成した水素のみで全土のエネルギーを賄おうとしている。

  パタゴニア地方(アルゼンチン南部)は強風で有名な土地である。現在はパタゴニアの平原に日本の風力発電所を建設する予定がある。この件に関しては日本とアルゼンチンの間に協定文書が調印されている。そのため、日本の資本を用いて風力発電所を作り、生まれた電力から水素を合成し、日本に輸送するという計画が進んでいる。しかし、現状では現地の風の強さに耐えうる風車が完成していないため、風車の改良を進めている最中である。パタゴニアの開発可能な風力エネルギーは日本の発電送料の10倍である9.7兆kWh / 年、そのエネルギーか可能な水素の生産量は1.9億t / 年 (燃料電池車15億台分)と試算されている。しかし、アルゼンチンは日本から見て地球の裏側に存在するため、電力を超長距離輸送するという課題がある。今後10年間で輸送技術開発を進め、計画では2025年を目途に水素を日本に輸出し始める予定である。

 

4. 燃料電池と応用

 

  燃料電池は燃料として水素、酸化剤として酸素を用いており、以下の反応過程によって電気を取り出すことが出来る。


                         正極 : O2 + 4H+ + 4e- → 2H2O
                         負極 : H2 → 2H+ + 2e-
                               ⇒ 2H2 + O2 → 2H2O + 電気


  特徴として、低温で高い理論効率を持ち、小型で効率低下がなく、低騒音・低振動である。さらに生成物として環境汚染物質をほとんど出さないため環境にやさしい。現在の理論的な発電効率は室温で83%であるが、実際の燃料電池の発電効率は50%以下であり、改良の余地がある。さらに、発熱反応(電気 = エネルギー を生み出す)であるので、原理によると高温においては不利な反応である。 

  燃料電池自動車に関しては主要自動車メーカーが2015年度より販売予定である。しかし、水素ステーションを含めたインフラの整備が課題となっている。政府戦略としては水素ステーションの設置及び水素の低コスト化を進め、2025年に燃料電池自動車と水素ステーションが自立拡大していくと計画している。現在は水素ステーションが東京圏、大阪圏、中京圏、福岡圏のみに設置されており、当面はそこから輸送していく手法をとる。2025年には各都道府県に配置予定である。また、現在は車体価格が1000万円弱と高価である。この主要因は白金が排ガス浄化のための触媒として使用されているためである。

  この代替物として現在開発されているのが、Zr (ジルコニア)酸化物である。これは電池出力あたりの材料費が白金と比較して20分の1程度である。自動車に搭載するためのZr酸化物の作製は今後の課題である。触媒開発を始めとする技術革新 を行い車体価格を500万円程度、将来的に200万円以下にすると計画されている。

 

[質疑応答]


Q. 揚水をあげるエネルギー(ex. やんばる海水揚水発電所 : 再生可能エネルギーの話にて登場)は?
A. 現在は化石燃料を用いた火力を利用している。今後は風力に転換できればよいと考えている。揚力発電はピークカットのために使っている。大規模にすればもっと貯蔵できる。しかし、やんばる海水揚水発電所はヤンバルクイナの生存地付近のため、大規模にするのは現実難しい。

 

Q. トルエンに水素をつけると何になる?
A. メチルシクロヘキサンになる。この状態で日本に持ってくる。これを脱水素して、トルエンに戻す。

 

Q. トルエンに水素はつきやすいのか?
A. 200℃で触媒を用いれば反応させることができる。この化学反応は発熱反応であるのでいちど反応が起こると自然に継続する。

 

Q. 水素がついたのを持っていくの?水素を分離して持っていくの?
A. 千代田化工建設ではプラントを作ってそこから水素をデリバリーするシステムを予定。液体水素になるか、高圧水素になるかは現在実験中。どちらにせよ、トルエンを回収する仕組みを構築する必要あり。

 

Q. ガソリンスタンドに持って行って、トルエンを吸い上げるのか?
A. そうなるかも。

 

Q. トルエンの質量で何%が水素になるのか?
A. 6%。水素貯蔵合金は3%の領域しかできていない。

Q. 体積1リットルあたりのエネルギー密度は?
A. ガソリンと比較すると桁は落ちる。そのため、大量に持ってくる必要はある。大型タンクを使えば体積的なコストは変わらない。

 

Q. 燃料電池車の現状について?
A. 現状、路上駐車は問題ない。しかし、地下駐車においては換気が常にできる状態でないと万が一のときに問題となる。

 

Q. トンネルでぶつかったら?
A. 爆発が起こった例はない。よほどの条件でないと爆発しない。仮にトンネルで燃料電池車同士が衝突しても30秒安全なら問題ない。5台での玉突き事故なら問題である。現在の規制では危険性を考慮して海底トンネルは走れない。

 

Q. 二次電池においてなぜリチウムにしなかったのか?
A. トヨタとかに自信がなかった。

 

Q. 液体水素で運んでくるのは難しいのか?
A. 長距離輸送では自然蒸発があり、減らすには急いで運ぶしかない。しかし、これにはリスクがある。

 

Q. 合金の水素貯蔵がもっとよくなる可能性は?
A. 室温ではよいが、価格が高い、比率が稼げない。アルカリ水素化物は密度が高いかも。アルカリはライドから酸化物ができるかも。Mgも温度条件がからむし、大規模では厳しい。

 

Q. 有機アルカリハライドの方が安いのか?
A. 液体はハンドリングがしやすい、安くするのも可能だが、固体は厳しい。

 

Q. 有機アルカリハライドの発展の余地は?
A. まだわからない。簡単にできるとは思わない。触媒の観点からみるかも。

 

Q. カナリア諸島で海水から作る淡水は飲料水用?水素用?
A. 飲料水にしているのは確か。

 

Q. 電気分解の効率は?
A. エネルギー密度ベースでは7~8割。電気エネルギーベースでは98%(NEDO)。計算方法によって変わるし、吸熱と発熱でも変わる。

 

Q. 水素をつくる場所はやはりパタゴニア?
A. パタゴニアが有力。今後はそこからもってくる技術を確立。もしかしたら、風力発電所も日本製で作るかも。2050年にCO2排出量(温室効果ガス)を半分、2100年に80%減にするとしたら役に立つ。現在の燃料電池車ではCO2をゼロにすることはできない。

 

Q. CO2を減らすために有力なのが風力発電?
A. 輸送までを含めて楽観的であるが、12~13円 / kWと考えている。太陽光では30円 / kWくらいかかる。(cf. 原子力は税金投入をして10円 / kWくらい。)

 

Q. 強アルカリ電解に耐えられるのは金属で本当に大丈夫なのか?
A. 反応を防ぐために炭素素材が候補に挙がっている。

 

Q. マグネシウムに電気を貯める手法が水素のライバルになる?
A. アルミも電気を貯める量では同レベルであるので、産業化されているアルミでもいいのではないか。

 



2013年9月21日
交詢社地球環境研究会例会 講演録 記録:野澤拓磨
講演者:信州大学 朝日克彦 氏
講演題目:「ネパールの氷河変動~フィールドでやること,わかること~」

 

■ 概要
 講演者の朝日氏は,1995年卒業研究のために西ネパールでの野外調査を開始して以来,ヒマラヤの氷河変動史を研究している.本講演においては,地球温暖化の影響で注目の集まっているヒマラヤの氷河変動を中心に,一般的な認識と現場での認識の違いについて触れながら,今現場で起きている氷河変動現象について述べた.

 

■ 氷河とは
 氷河の定義は大雑把に言えば陸上に存在する固体の水であり,傾斜した地形に複数年にわたって雪や氷が体積し圧縮されることでできる.氷河は斜面の上の方で降雪したゆきがズルズルと下の方へ滑ってゆくことで伸び成長してゆくが,先端の方では同時に一部融解してゆく.氷河は非常に敏感に気候変動に反応するため,地球温暖化のバロメータとして考えることができる.

 

■ ヒマラヤ山岳地帯
 ヒマラヤ山脈は標高8000mを越す世界最大の山脈地帯である.ブータン,中国,インド,ネパール,パキスタン,アフガニスタンの6つの国をまたがりこの水系には約7億5千万人が生活している.ヒマラヤ山脈は6月から9月にかけて北上する南西モンスーンを遮断するため,ヒマラヤ南面に大量の降雨を発生させる.ヒマラヤ周辺は気温が低いため,雨は雪となって降る.つまり,ヒマラヤでは夏に積雪するのである.

  しかしながら,近年の温暖化の影響によって夏の降雪が降雨に変わってしまっている.夏に体積するはずの雪がなくなっているため,ヒマラヤの氷河は後退する一方である.また,夏の降雨が氷河の融解を促すため,ヒマラヤの氷河は加速度的に融解している.ヒマラヤの氷河後退は他の地域よりも顕著に現れており,イタリア・ミラノ大などの研究グループによれば,エベレストの氷河の総面積は過去50年で約14%も減少したという.IPCCの第4次レポートでは,2035年までにはヒマラヤの氷河は消滅すると報告されている.多くの研究者達の間ではアジアの大河川はいずれもヒマラヤ・チベットを起源としていると考えられており,ヒマラヤの氷河が融けるとアジアの水資源が枯渇してしまうのではないかと憂慮されている.

 

■ 現場観測からわかること
 朝日氏はエベレスト山域9ヶ所の氷河を対象に,1970年代から氷河末端位置を10年ごとに繰り返し測量して観測している.調査の結果,過去40年間氷河は一貫して後退していることがわかった.

 

  現場の測量だけで氷河のすべてを把握するには限界がある.朝日氏はネパール東部の氷河の航空写真を組み合わせて立体的に把握することで地形図を作成している.朝日氏の地形図によれば,60%の氷河は後退している.一方で30%の氷河は停滞状態であり10%の氷河は逆に成長していることがわかった.温暖化で氷河は後退傾向にあると考えられている中で成長している氷河が存在するのは非常に意外な結果である.
 
■ ヒマラヤ氷河変動をめぐる言説の食い違い
 一般的には,ヒマラヤの氷河は非常に早い速度で後退しており,近い将来にはすべて融解しまうと考えられている.氷河が全て融解してしまったとき,アジアの水資源は枯渇してしまうと考えられているが,本当だろうか?
 アジアの河川の流域面積と比較すると氷河の面積はわずか5%ほどである.ネパールの氷河が融けるのは夏だけであるため,実際にはもっと少ない.つまり,河川に流れる水の中で氷河が起源のものは非常に少ないのである.氷河が全て融解しても水資源が枯渇するということは無さそうである.また,氷河から溶け出した水は粘度などの懸濁物質を大量に含んでいるため,氷河の融け水は農業用水としては利用できない.実際,ヒマラヤの高山地帯ではジャカイモなどを作っているが潅漑などは用いていない.氷河由来の水が無くなっても高山地帯での農作業に支障が出るとは考えにくい.

 

Q&A
Q. ネパールでの食事がどのようなものだったか.
A. 西ネパールは非常に貧しい地域であり,お金があっても食事にありつけないことがある.1週間ものが食べれないかとも.例を挙げれば,良い日は1日2食のじゃがいも,悪いときは麦焦がしのようなものを食べていた.

 

Q. 氷河の観測点は動いてしまわないのか.
A. 基盤岩石は動かないと仮定し,そこに固定した金属ボルトを観測点としている.

 

Q. 観測点はなぜ谷底なのか.上部から見下ろす方が視野が広く適切ではないか.
A. 指摘はもっともだが,観測点自体が到達困難であることがある.食料のない限界状況下での調査のため,最低限のことしかできない.これには問題を感じている.また,70年代にはむしろ氷河の拡大が予測されていたため,観測点は谷底でも問題ないと考えられていた.

 

Q. 氷河の先端はどのように決定しているのか.
A. 基本は谷底における氷河の位置を先端としている.

 

Q. 氷河の先端の後退距離ではなく,減少体積を議論すべきではないのか.
A. 指摘はもっともだが,現状の技術では難しい.

 

Q. 氷河の融け水は役に立たないという事か.
A. 基本的はそうである.ドイツではグレッチャーミルクと呼ばれ,農民には嫌われている.

 

Q. 氷河湖の決壊が洪水で起き,近隣の住民に多大な被害が出る危険があると聞くが実態はどうなのか.
A. ほとんどの氷河湖は安定しており,言われているような危険はない.例えば,イムジャン湖の深さは150mであるが,土手の高さは6m程度である.これが決壊してもせいぜい10m分の水しか流れ出さない.氷河湖の決壊というストーリーは援助を引き出すために作り出されたものという色合いが強い.

 

Q. 土手の決壊では被害はなくても,上部の氷河から大量の氷が落下して水が押し出され洪水になることはあり得ないのか.
A. それはあり得るだろう.

 



 

2013年8月1日
交詢社地球環境研究会例会 講演録 記録:野澤拓磨
講演者:(独)海洋研究開発機構 高橋佳子氏
講演題目:「これからが面白い『水』地球大循環」

 

■ 海洋研究開発機構(JAMSTEC)とは?
 独立行政法人海洋研究開発機構(Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology)は,海洋研究開発および関連する地球物理学研究のために設置された研究所である.深海潜水艇や無人探査機の開発,一時期世界一となった地球シミュレーターの運用など,海洋や地球に関する様々なプロジェクトを行っている.

 

■ 地球シミュレーターとは?
 地球シミュレーターは,神奈川県横浜市金沢区のJAMSTEC横浜研究所に設置されたスーパーコンピューターである.地球規模の環境変動の解明や予測,日本のハイパフォーマンスコンピューティングの維持を目的として,600億円を投じて開発された.2002年6月から2004年の11月にかけて,LINPACKベンチマークでは実行性能においてトップを獲得し続けていた.
 
               地球シミュレーター

 

■ 海洋から地球を望むと何が見えるか?
 現在では地球シミュレーターを始め,様々な大気変動のシミュレーションが行われており,気候変動の予測などに役立っている.近年では,計算科学技術の進歩により,大気・海洋・陸の水の循環を考慮した地球全体のシミュレーションが可能になってきている.
 高橋氏によれば,海は熱容量が非常に大きく,年単位で過去の気候の影響が残っているため,気候予測において海洋の影響を考慮することは非常に重要だという.陸,海,大気を貫く水の循環をシミュレートすることで,さらに精度の高い気候予測が期待できる.

 

■ 気候変動を予測する
 地球全体の平均気温は1890年から2010年まで右肩上がりである.IPCCレポートは,人類の活動がこれらの温度上昇に大きく影響を与えていることは間違いないと主張する.
 地球シミュレーターなどのスーパーコンピューターを用いることで,不確定性はあるものの今後の地球の気候変動を予測することができる.ただし,気候のシミュレーションの精度は,シミュレーションを行うにあたり用いる計算モデルとメッシュの解像度に依存する.気候変動をよく再現するモデルを採用することで,より正確に気候変動を予測できる.現在までに様々な計算モデルが開発されているが,地球シミュレーターが使用している高解像結合モデル(SINTEX-F)は,非常に気候変動の再現性が高い.ダイポールモード現象やエルニーニョ現象については,90%以上の確率で6ヶ月前から予測できる.また,メッシュサイズを細かく取ってやることで局所的な気候の変動を考慮した精度の高いシミュレーションをすることができる.ただし,メッシュの細かさと計算コストはトレードオフの関係にあるため,メッシュの取り方には限界がある.例えば,都市部のシミュレーションではメッシュサイズは500m2が限界である.

 

■ 気象現象を解明する
 気候変動を予測することは,気候シミュレーションの重要な役割であるが,最近では気候現象の予測だけでなく原理の解明が期待されている.例えば,海面水温が長期間に渡り上昇もしくは下降するエルニーニョ現象やラニーニャ現象は,未だにメカニズムが分かっていない.さらに近年では,エルニーニョ現象の様だがエルニーニョとは違った挙動が現れるエルニーニョもどき現象や,ラニーニャ現象の様であるが異なるラニーニャもどき現象などが頻発しており,これらのメカニズムの解明が一層重要になってきている.

 

■ Multi-Scaleな全球シミュレーション
 気候現象は様々な時間スケール・空間スケールで発生している.局所的に短時間で発生する都心のゲリラ豪雨や毎年のように訪れる大規模な台風など様々な現象が地球では見られる.地球シミュレーター誕生以前にはこれらの問題を同時に扱うことは困難であったため,局所的なモデルを計算し.パラメータを調整することで,シミュレーションを行ってきた.しかしながら,実際には地球の大気・水・エネルギーは循環しているため,これらを同時に統合的に捉えてシミュレーションを行うことが望ましい.地球シミュレーターでは,これらの現象の階層間の行き来を可能にする全球シミュレーションを行っている.気候現象をマルチスケールに捉えることで,気候シミュレーションはより正確な予測を示してくれるだろう.
 
          マルチスケールな全球シミュレーション

 

■ 放射性物質の拡散シミュレーション
 東日本大震災後の福島原発の事故の後,放射性物質の話題を良く聞くようになった.地球シミュレーターを用いることで,大気や海洋の流れによる放射性物質の拡散をシミュレーションすることができる. これにより事故後の放射性物質の拡散の様子を知る事が出来,非常時の避難経路の探索に重要な情報を与えてくれる.ただし,生態系に蓄積される放射性物質について考慮することは現状では難しく課題が残っている.

 

■ シミュレーション技術で都市計画を考える
 東京はこの100年間で3℃も気温が上昇し,地球全体の温暖化よりも速い速度で温暖化している.温暖になるにつれ,都市部の降雨状況は大きく変化している.一時間あたりの降水量が50mmを超えることも頻発するようになり,一部の地域では下水道のキャパシティを超えてしまっている.このような都市型集中豪雨のメカニズムの解明は今のところ難しいが,水循環のシミュレーションなどを行うことによって,都市部のインフラ構造が水の流れに与える影響を調べることができる.シミュレーション技術が都市計画の指針を支えるようになっている.

 

■ まとめ
 計算科学技術の進歩により,マルチスケールに気象現象を捉えた地球全体の気候シミュレーションが出来るようになってきている.従来の大気・陸面結合モデルから,大気・陸面・海洋結合モデルに発展させることによって,基本の気候予測,気象の現象解明は大きく前進することになるだろう.


Q&A
Q. 気候のシミュレーションでインプットする情報は何?
A. 初期値パラメータとして大気や水のあらゆる情報を入力する.

Q. 地球はどれくらいのメッシュ(計算領域)に切られるの?
A. 縦横100km2,高さは50kmのメッシュに切られる.このメッシュが集まって球状(地球)を形成するイメージである.また,詳細な情報が求められるエリアは細かくメッシュを切ることも出来る.

Q. ビル群を流れる大気の動きのシミュレーションで建物の裏の温度が高いのはなぜ?
A. 排熱の影響や熱の放射など様々な原因からである.

Q. 海の上の雲はどうやってできる?
A. 暖かい海の上に雲が熱を奪いながら発達していく.実は海面には温度差があ
  りデコボコしている.暖かい所は高く,冷たいところは低くなっている.

Q. 太陽活動の影響をシミュレーションに反映させる取り組みはしているか?
A. 反映させることは可能であるが,現在は反映させる予定はない.

Q. 潮の流れのシミュレーションはどれくらいできている?
A. 1km2のメッシュで切るほどの解像度である.関東沿岸部のシミュレーション
  などはすでにおこなっている.

 



 

2013 年7 月4 日 

交詢社地球環境研究会例会   講演録   記録:澁谷泰蔵
講演者:産業技術総合研究所    安川香澄先生
講演題目:「有望なエネルギー源である地熱発電の未来」

 

■地熱発電について
  地球の体積の93%以上は1000℃以上で,中心温度は6000℃に達する.この熱を蒸気の形で取り出し,タービンを回すことで発電を行うのが地熱発電である.
  下の図に示すように,地下のマグマ溜まりを熱源とし,岩石の割れ目である地熱貯留層に溜まった熱水を利用する.その特徴は,(1) 建設や耐用年数なども考慮した総合的なCO2 排出量が太陽光発電などよりも少なく,地球に優しい.(2)天候・昼夜・季節を問わず発電できる.(3) 燃料の輸入が不要な純国産エネルギーである. という3 点が挙げられる.

  中でも(2)については設備利用率で言えば実績値でも70%を超える.日本の太陽電池の設備利用率が10%台にとどまっていることを考えると,これはかなり有利である.利用する地熱流体の温度で分類すると,200℃以上の蒸気を直接利用する蒸気発電,ペンタンなどの水より低沸点の二次流体を利用することで150℃程度でも可能なバイナリー発電,温泉の高温泉源を発電に利用してから浴用に使う低温バイナリー発電などがある.

 

  地熱発電は地震に強く,3.11でも一時的に送電を止めていた発電所もあるが,施設自体は無事であった事実も特徴として挙げられる.地熱は発電だけでなく,温泉やハウス栽培の熱源として利用したり,道路融雪や住宅の冷暖房としての利用方法もある.

 

■日本と世界の地熱発電の現状
  日本の地熱発電は1966 年に始まり,第一次オイルショック後に開始されたNEDO サンシャイン・プロジェクトに後押しされる形で1990年代には設備容
量が約54万kW に達していた.

  しかし2000 年時点で政府の支援が打ち切られ,現在の合計設備容量は51.5万kW にとどまっている.地熱発電所は北海道・東北・九州を中心に日本全国に点在しており,九州の八丁原発電所が国内最大で設備容量は11.2万kW である.

  世界では米国,フィリピンなどの設備容量が多く,日本は世界8 位である.世界では1970年頃から年間300万kW を超えるペースでコンスタントに伸び続けており,近年はクリーン電源としての注目も集まっている.2008年の産総研の試算では日本の地熱資源量2347万kW であり,米国,インドネシアに続いて世界3 位の資源量を持っている.
  また,地熱タービンは日本企業が世界の70%のシェアをもっている.


■地熱発電開発が進まなかった理由
  発電・送電コストが火力・原子力より高く,生産井あたりの当たりハズレが大きいこと,資源の80%以上が国立公園内にあり,開発不可能であったこと,温泉事業者の理解が得られなかったこと,などが開発が進まない理由としてよく挙げられる.

  しかし,昼夜・季節による変動が殆ど無い,高い年間設備利用率,少ないCO2 排出量,高いエネルギー収支比などの地熱発電のメリットが原子力発電のそれに極めて近いことを考えると,原子力促進政策の中でスケールメリットの小さい地熱が政策的に軽視されてきた事も原因と考えられる.

 

  その結果,法制度も地熱に不利なものが多く,地熱ビジネスがハイリスク・ローリターンのままに放置されている.生産井を掘っても熱水にあたらないリスクもあり,kW あたりの地熱発電所建設費は火力の約3倍である.

  現状では電力会社が地下開発リスクをとらず,地熱デベロパーから蒸気を買い叩くという構造で,特に北海道・東北地域でこの傾向が強い.地熱資源の開発には政策支援が必要である.

 


■3.11 後の規制緩和など
  3.11後,国内での地熱発電は徐々に見直されてきており,2012年4月エネルギー分野における規制・制度改革に係る方針が閣議決定され,規制緩和や補助金の面から後押しが始まった.日本の有望な地熱資源の82%は国立公園などの自然公園特別保護地区・特別地域内にあり,これまで地熱開発が禁じられてきたが,今回の規制緩和で,小型・環境配慮などへの条件を満たせば約30%の資源へのアクセスが可能となった.

 

  日本の国立公園内の特別地域などの区分は,景観や行政的意向が重視された結果であるので,諸外国の基準と比べても,この規制緩和はおおむね妥当と考えられる.一方で生態系保護の観点から自然公園内の区分を見直す動きもある. もちろん,地熱開発業者は環境への影響を最低限に抑えた開発を行うよう努力する必要がある.


  また,事業者をNEDO からJEGMO に移して地熱の調査・開発等に大規模な補助金が交付される.予算規模は年間150億円程度である.ただし,調査のための掘削補助率は50%である. 電力固定買取価格制度については設備容量1.5万kW 未満は42円/kWh, それ以上は27.3 円/kWh で買取期間は15年間というものが提示された.これは評価できる.


■温泉事業者との関係
  地熱発電の開発による温泉への影響への危惧や,都市電力供給目的の

地方での発電への反対を主因として,地元関係者と地熱開発事業者の対立がしばしば指摘される.しかし,この対立は充分な話し合いにより回避可能である.

  まず,適切な調査をすれば地熱発電で利用する地熱貯留層と温泉が利用する温泉帯水層の関係は見極めることができる.2 つの層の間に水の流れを遮断する層があれば,温泉への影響はないし, 双方での利用量が天然の供給量とバランスしていれば問題は生じない.

 

  これに合わせて,地熱発電所を積極的に観光資源として利用できること,発電規模的に地元での利用が合理的であることなどを説明し,誤解を解いていかねばならない.また,温泉事業者は温泉が永続的に利用できるかの科学調査ができていないことが多い.地熱開発事業者が,温泉系などの科学調査を提供することで両者の良好な関係が築けるはずである.


■技術課題
  地熱貯留層は水平な地層ではなく亀裂のネットワークであるため,石油井やガス井のように掘削成功率を挙げるのが難しい.これに対しては地下の電気比抵抗分布を求めることである程度の成功率を上げることができる.

  地熱地帯は水平方向の地下応力が高く, また高温なため, 高度な掘削技術を要する.日本は高度な掘削技術があるが,現在は技術者が不足気味という別の問題を抱えている.貯留層の管理も課題である.過去の例では,坑井の再生可能生産量に対して過剰な設備を建設してしまい,井戸からの生産能力が不足して設備利用率が下がったまま運転している発電所もある.

 

  現在では貯留層に共通した性質はわかってきており,適切な設備,必要に応じた注水により,坑井の持続的な利用が可能になってきている.開発規模や注水に利用する補充井の位置の決定には貯留層の数値シミュレーションが有効である.

  パイプラインへの化学成分の沈着も課題である.これは地熱流体に高濃度で溶解している岩石中の鉱物が原因で,特にシリカの沈着には有効な解決手段がなく,世界的な課題となっている.

 

■将来技術としてのEGS
  EGS(Enhanced Geothermal System)とは人工地熱システムのことであり,場合によっては地下を4~5kmまで掘削し,地層を水圧破砕することで人工的に地熱貯留層を作り発電に利用する.現在は十分な容量を持つ人工貯留層を発生させる汎用的技術が不十分で,採算性が低いが,世界各国でプロジェクトは進行中である.

  技術が確立されれば,将来的にはどこでも地熱発電ができるようになる可能性があり,従来型地熱資源の約20倍のポテンシャルを持つとの試算もある.

  日本では国内実証試験を行なっていないが,微小地震の地下探査,モニタリング,発電技術など個々の技術はトップランナーである.EGS の技術確立が世界に与える影響は大きいため,日本が主導してこの技術を確立する価値は十分にある.

 

■直接利用
  地熱資源は,発電以外にも冷暖房や農業・漁業への利用法もある.日本は浴用・プールへの利用が90%と偏っているが,世界で見れば暖房・温室・養殖漁業などにも多く利用されている.また地下と熱交換を行って地表にヒートポンプを設置し,夏は冷房,冬は暖房に利用する地中熱ヒートポンプシステムが世界的に普及しており,日本でも2000件程度導入されている. 東京スカイツリーの建物部分にも地中熱ヒートポンプシステムが導入されている.熱は熱として使うのが一番得である(エネルギー変換による損失がない)のは言うまでもない.


■地熱エネルギー開発の今後のシナリオ
  2008年の日本地熱学会誌上で江原幸雄らが3つのシナリオを提案している.
  (1) 2008年現在の法制度でも達成可能なベースシナリオと(2)地熱利用に対し社会的な支援を仮定したベストシナリオと(3)地熱開発を促進する明確な社会制度及び技術的なブレークスルーができた場合のドリームシナリオの3 つである.

  2050年時点の発電容量予測値はベースシナリオで160億kWh,ベストシナリオで250億kWh, ドリームシナリオで830億kWh である.現在の日本の状況はベストシナリオでの仮定に近づいており,これが一時の流行に終わらなければ,ドリームシナリオに近づく可能性もある.ドリームシナリオが達成出来れば,日本の電力の10%を純国産エネルギーである地熱で賄うことが出来る.地熱開発には5~10年スパンの時間がかかるため,一時のブームに終わらせずに,人材育成も含め,長期的な視点で調査・開発を行なっていくことが肝要である.

 

■質疑応答
Q.地震の時にパイプがずれたり熱源に変化があったりしないのか
A.変化はない.地下構造物は揺れと同様に動くため,変化を受けにくい

 

Q.経産省と環境省の連携はうまく行っているのか
A.省間での問題は少ないが,環境省の国立公園課・温泉課と地球温暖化対策室の温度差はある.


Q.地熱流体の最高温度はどの程度か
A.500℃程度である.

Q.ここで言う温度に対する圧力はどの程度か
A.200 気圧程度である.蒸気層は深さに対して圧力があまり変わらない


Q.地熱の積極的な利用によって火山の噴火制御は可能か
A.そういう主張も聞くが,現実的な段階にはないと思う
Q.富士山は熱源として利用できるか
A.富士山は火山として若すぎるため,熱源深度が10km 以上ある.利用は難しい.利用できるのは4-5万年前に噴火した中年の火山である.


Q.生産の継続でも,温度・圧力は維持できるのか.
A.圧力は下がるが安定させることができる.
Q.熱水の枯渇は地下水不足か
A.そうだと思われる.熱自体は減らないと考えられている.


Q.スケール(パイプライン沈着物)の中に貴金属やレアアースはあるか
A.そういうケースもある


Q.EGS に関して,東京でも5km 掘削すれば実現可能なのか
A.不明である.わかっている範囲では地下2km までは地下水で冷やされて数

10℃にとどまっている.
Q.詳細なデータがないのはなぜか.
A.注水により微小地震が発生する可能性がある、これを懸念して調査が進められていないからである.

 



2013年6月6日
交詢社地球環境研究会 議事録    記録:野澤拓磨

講演者:東北大学 未来化学技術共同研究センター 教授 小濱泰昭先生
講演題目:「マグネシウム人工燃料発電器の最新開発動向」

 

■ 概要
 講演者の小濱教授は東北大学未来技術共同センター(Niche)で,「21世紀にあるべき持続可能で明るいクリーンなライフスタイルの実現」をテーマに活動を行っている.その研究内容は,エアロトレイン・マグネシウム燃料発電器・基礎流体力学全般・ダイヤモンドコーティング・ナノバブルなど多岐にわたる.特に,エアロトレイン・マグネシウム燃料の研究は,国内外の多数のメディアに取り上げられ注目を集めている.本講演では,マグネシウム燃料発電器の開発状況と今後の展望を中心に,その技術の紹介が行われた.

 

■ マグネシウム燃料電池
 マグネシウム燃料電池は空気電池,燃料電池の一種である.負極に金属マグネシウム,正極に酸素を使用する.電解液としては食塩水が利用される.小濱教授らは金属マグネシウムの代わりに,エアロトレインに用いた難燃性マグネシウム合金を負極に用いることで,従来よりもはるかに長い時間放電させることに成功した.

 

■ 難燃性マグネシウム
 マグネシウムは,実在構造材料の中で最も軽く材料特性に優れた物質であることから輸送機器や産業機器の構造材料として期待されている.しかしながら,マグネシウムは空気中で酸素と反応する活性物質であり,その高い反応性から加工に当たっての取り扱いが難しい物質と言われている.ところが近年,従来のマグネシウム合金にカルシウムを2%添加することによって,発火温度を300~400 K上昇させた合金が開発された.この合金は難燃性マグネシウム合金と呼ばれ,小濱教授のエアロトレインやマグネシウム燃料発電器に利用されている.

 

 

■ 難燃性マグネシウム燃料発電器の性能
小濱教授によれば,難燃性マグネシウム合金を用いた燃料電池はリチウムイオン電池の10倍の性能があるという.本講演では,扇風機・2.9インチテレビ・LED照明を難燃性マグネシウム燃料発電器に接続した実演が行われた.小型のマグネシウム燃料発電器を5つで,これらの機器が約28時間使えるという.また,小濱教授はマグネシウム燃料を動力としたトライクの走行実験を行い,いわき市から仙台市までの110kmを完走している.
 
■ 再利用可能なマグネシウム
発電に使用したマグネシウム燃料は,エネルギーを加えて還元することによって再利用することができる.小濱教授によれば,砂漠に降り注ぐ大量の太陽熱を集光すれば,およそ1200℃ほどでマグネシウム燃料の熱還元が可能であるという.また,砂漠地帯でなくても1200℃程度の熱源さえあれば,マグネシウム燃料の還元は可能である.有効利用されていないバイオマスや排熱を利用すれば,国内でもマグネシウム燃料の還元が可能である.

 

■ 砂漠とマグネシウム燃料の持つ可能性.
 上述のように,砂漠に降り注ぐ太陽熱を利用することで,使用済マグネシウム燃料を還元することができる.還元されたマグネシウムは日本に輸送してくることで,エネルギー源として再利用できる.マグネシウム合金として備蓄することで,蓄電や送電時に発生するようなロスがなく,エネルギーを蓄えることができる.
 小濱教授は,サンベルト帯(太陽が南中する地域)に50km2の土地を確保できれば,原発が無くても日本の電力供給を満たせると主張している.二次電池と組み合わせることで,安定かつ十分な電力を供給することができるだろう.持続可能社会の次世代基盤エネルギー源として,日本のエネルギー供給のシステムを大幅に変えるかもしれない.

 

 

■ 今後の展望
 マグネシウム燃料は熱を加えて還元することで,繰り返し発電器として利用できる.安全性やハンドリング性能の優れたマグネシウム燃料電池は,従来のエネルギー源に代わり,あらゆる場面に登場していくだろう.小濱教授がイメージするマグネシウム循環社会が実現すれば,日本は極めてクリーンで安価なエネルギー供給のシステムを手に出来るはずである.持続可能な社会を実現してゆくために,少しでも早い実用化と普及が望まれる.

 


■ Q&A
Q. この電池はリチウムイオン電池のようなものなのか?
A. ちがう.リチウムイオン電池は充放電の両方が可能ないわゆる二次電池である.この難燃性マグネシウム燃料電池は一度放電すると,再充電はできない.燃料の還元が必要である.

 

Q. このマグネシウム循環社会の構想は先生のオリジナルなのか?
A. そうである.強いて挙げれば,東工大の矢部先生は同種の提案をしてはいる.

Q. 世界の競争相手はいるか?
A. いない.

 

Q.政府は関心を持っているか?
A. 持っていない.政治家は科学技術に疎く,官僚は保守的である.協力企業が増えれば (100社程度) 対応が変わってくるかも知れない.

 

Q. 政府の問題は何か?
A. 日本の中枢には昔から目利きがいない.後に評価される二宮忠八のカラス型飛行機が,日本陸軍で相手にされなかった頃と構造が変わっていない.

 

Q. 現在の課題は何か?
A. 技術的には大きな問題はない.無いのはヒト・モノ・カネである.現在のところニコン,古河電池など10社の協力をうけている他,40社が興味を持っている.ニコンの試算ではMgが一日50万トンあれば,日本の原発を代替できる.三井物産からオーストラリアの塩田で産業廃棄物として排出される400万トン/年のにがりに関してアプローチがある.

 

Q. 今後の世界では砂漠争奪戦が起きるか?
A. 起きるかも知れない.EUはデザーテック構想という北アフリカと中東の砂漠における太陽光発電網のプロジェクトを立ち上げている.

 

Q. メルケル首相の脱原発はマグネシウム循環まで考えてのことか?
A. それはない.砂漠から直接送電する構想である.

 

Q. 使用済みのマグネシウム燃料を還元する際のロスはどの程度か?
A. 10%程度である.

 

Q. 燃料価格はいくらになるのか?
A. マグネシウムは250-300円/Kg 現在は難燃化で20倍の価格になるが,量産化で500円/kg程度になると言う見積りがある.

 

Q. いいことづくめに見えるが,そうなのか?
A. そう考えているが,皆様にも考えて欲しい.

Q. 製品にしたら価格はいくらになるか?
A. 65V, 9Aの非常用電源を一万円で提供できそうである.

 

Q. 家庭での利用イメージは,家庭ごとに発電を行うということか?
A. そうである.送電ロスを考えると,使用地に近い場所で発電するのがベストである.マグネシウム電池はコンスタントに弱い電流しか作れないので,実際にはLi-ion電池のような二次電池と組み合わせての利用を想定している.

 

Q. 難燃性マグネシウムは錆びやすいか?
A. 酸化皮膜はできる.

Q. 難燃性マグネシウムの構造材料としての性質は?
A. 産総研の坂本さんによると,利点はアルミより40%軽いこと,欠点はアルミよりヤング率が低いことである.現在,北海道新幹線の軽量化材料として検討されている.

 

Q. マスコミの関心はどうか?
A. 高い.これまでも,NHKやTBSの番組で取り上げられた他,このプロジェクトをモデルにしたドラマも放映予定である.

Q. この難燃性マグネシウムの電池は小濱先生のところにしか無いのか?
A. 古河電池と共同で製作しているため,古河電池にもある.

 

Q. 特許はとっているか?
A. 7カ国で主張している.

Q. 燃料リサイクル (還元) 後の性能は?
A. 研究室の環境では,ほぼ100%戻ることを確認している.

 

Q. 還元にかかる時間は?
A. すぐである.課題を挙げるなら,還元には真水が必要なので砂漠での真水確保が課題である.

 



2013年5月18日

地球環境研究会例会 議事録      記録:平塚将起
講演者 公益社団法人 日本ナショナル・トラスト協会 事務局長 関健志氏

講演題目:「大切な自然を購入して守るナショナルトラスト」

 

【概要】
 ナショナル・トラスト協会では,自然環境を保全することを目的として自然の残る土地の買い取りや管理を行なっている.本研究会では,ナショナル・トラスト運動の海外や日本における歴史や,具体的な活動の内容について紹介する.またナショナル・トラストの活動において考えなければならない,生物多様性や土壌,上位捕食者を守ることの重要性や,人類が持続可能な開発を行うために直面する課題について解説を行う.

 

【ナショナル・トラスト運動とは】


 ナショナル・トラストとは,1800年代の終わりにイギリスで始まった自然や歴史的建造物の保全のための運動である.自然や歴史的建造物の残された土地を取得し管理し続けることを目的としており,ピーターラビットの生みの親であるビアトリクス・ポターが,絵本の舞台である湖水地方の自然を守ろうとしたのが最初である.

 自然保全のためには膨大な土地を取得する必要があったが,個人で多くの土地を所有するのは税や管理の問題で負担が大きく,また子孫もその土地の所有を希望し続けるかどうかわからない.そこでポターは絵本の印税を元にして湖水地方の土地を購入し,はじめはわずか市民3名で構成されていたナショナル・トラストへと寄付した.

 今ではピーターラビットの舞台であるダーウェント湖の約1/3がナショナル・トラストの所有地であり,自然の保全を目的とした活動が続けられている.イギリスではこうした運動を受け,自然や歴史的建造物の保存を目的としたナショナル・トラスト法が作られ,税制上の優遇が得られるようになった.

 

 

【イギリスのナショナル・トラスト】


 自然の土地を現状のまま維持するには,実は大変な努力が必要である.放っておけば草原は森になってしまうため,長期に渡る人工的な管理が求められる.イギリスのナショナル・トラストには約5000人の職員と370万人の会員がおり,職員だけでなく会員もボランティアで自然の保全活動を行なっている.このように一般の人が自然の保全を行うことがイギリスでは普通のこととなっている.

 また自然だけでなく,多くの歴史ある庭園や,チャーチル首相の家のような建築物もナショナル・トラストで保全を行う.建築物は老朽化が進むため補修を継続的に続けて行かなければならず,多くのお金もかかる.お金は会員の会費等の収入によって賄われ,会員は庭園や建築物の入場料が安くなるといったメリットがある.またイギリスの沿岸を買い取ることで,自然を破壊する開発を未然に防ぐというよう活動も行われている.

 

Q. 保全地域に建物を立てる際は,ナショナル・トラストが許可を出すのか?
A. ナショナル・トラストは許可を出さない.ナショナル・トラスト法によってナショナル・トラスト側も保全地域の自然に手を加えることはできず,また,土地を手放せないことになっている.このためナショナル・トラスト側も,土地の寄付を受ける際には慎重に審査を行う.ただしお城などは,居住者は住んだままでもいいことになっている.

 

Q. 居住者が城等をナショナル・トラストに寄贈した場合,居住者の権利がある程度制限されると考えられるが,どういうメリットがあるのか
A. イギリスでは所得税や贈与所得税がかからない等の優遇措置が有る.日本にはそういったシステムはない.

 

Q. 会員はどれくらい会費を払っているのか.またその量は十分か?
A. 正確なところは分からないが,1万円くらいではないか.足りているかどうかは分からない.イギリスでもナショナル・トラストの規模は縮小している.建物は時間がたつほどお金がかかるため,管理上の問題となる.このため建物の寄付を受ける時は管理のしやすさなども考慮して吟味し,受け取らない場合も多い.イギリスのナショナル・トラストの本部はもともとロンドンだったが,今では田舎に移っている.自然も遷移を止めるのは大変だが,建物ほどではない.

 

【日本のナショナル・トラストの活動例 - 自然環境の保全 - 】


・日本で最初のナショナル・トラスト 鎌倉
 日本で最初のナショナル・トラストの運動は50年ほど前に鎌倉で起こった.鎌倉の鶴岡八幡宮の後ろの土地は私有地だったが,その地にマンションが建設される計画が持ち上がった.マンションが建設された場合には大きく景観を損ねるため,市民がお金を出しあいその土地を購入した.今では日本で最初のナショナル・トラスト運動と言われている.

 

Q. 誰がその土地を管理しているのか?
A. 財団法人で,いまでは鎌倉のナショナル・トラストとなっている.

 

・知床
 70年台には日本中でリゾート開発が進められていた.知床もその対象となり,多くの自然が失われる危機に瀕していた.知床の町長は土地を守りたかったが,町は大きくはなく十分な予算は無かった.それを聞いた朝日新聞の記者が天声人語にイギリスのナショナル・トラスト運動を書き,知床についても紹介したところ,たくさんの寄付が集まって無事に土地を買い戻すことができた.

 寄付の額に応じてパネルに名前が記載されるようになっていた.

 

・和歌山の天神崎
 これも自然を守るために,約40年前に学校の先生が個人で始めた.段々に広がり土地の購入が始まったが,まだ目標の半分程度しか購入は進んでいない.

・柿田川湧水群 富士の伏流水が流れている
 富士山からの伏流水が湧き出る幻想的な光景が見られる土地だが,すぐ近くを道路が通っている.湧水群を開発から守るために市民が個人で買い取っていた.その後市も協力することになり,財団法人が購入を進めている.結果,今では観光地の一つとなっている.


日本における自然環境保全のためのナショナル・トラスト

Q. 湧き水の出口だけ守っても,湧き水が通っている上流を守らないとダメではないか.ナショナル・トラスト協会ではなにか案を考えているか.
A. すでに地元に団体(地域のナショナル・トラストなど)が存在する場合はそちらに任せているため,日本ナショナル・トラスト協会では対策を講じてはいない.行政としては規制によって開発に網をかけていきたいが,そうすると規制によって不利益を被った土地を所有者から買い取らなければならない場合があるため,先に財源を用意する必要がある.このため政府が土地に規制をかけるのは難しい.

 

Q. 保全地域の近くで,ボーリングのような特殊な作業をさせない手段はナショナル・トラストにはあるのか.伏流水は地下を流れているので,近くでボーリングをされると流れが変化し水が止まってしまうことも考えられる.例えば三島では,企業のボーリングによって地下水の流れが変わり,鯉が住んでいた池や湧き水が止まってしまった例がある.
A. ナショナル・トラストではそういう事はできない.国もあまり対策をとっていない.

 

・釧路湿原


   湿原自体は国が保有している.湿原は河川区域であるため,国が法律によって買い取ることが可能なためである.(実は,河川区域であっても,荒川の用な河川区域は殆ど私有地であり,国は買い取ってない.お金が必要となるからである.)このため,ナショナル・トラストは湿原そのものを保有する必要はないが,湿原の周辺の買い取りを行なっている.

   湿原は遷移中の土地であり,最終的には森になってしまう.しかしそれには本来何千年から何万年かの時間がかかるはずである.ところが釧路湿原は,1947年は今よりももっと大きい湿原だったのが,2004年にはそのうちの大きな部分が森に変わってしまった.これは湿原の周りで開発が進み,そこにあった土壌が流入してきたためである.

   このため,本来は湿原のみでなく,周りの土地でも開発を防がなければ湿原を守ることはできない.しかし国は河川地域ではない湿原の周りには手を付けられない.このためナショナル・トラストが所有して保全を行なっている.

 

【日本のナショナル・トラストの活動例 - 絶滅しそうな野生生物を保護 - 】


・ツシマヤマネコ

 

   世界に180匹くらいしか居ない貴重な猫で,対馬にしか住んでいない.対馬は90%が私有地で,今,土地はどんどん外資に買われている.はじめは日本名で購入されていても,転売されることもあって実際には誰が持っているのかは分からない.韓国にすごく近く,観光客の9割が韓国人である.トレッキングと釣りをし,民宿に泊まってくつろいでいくらしい.ツシマヤマネコは交通事故でこの10年で40匹死んでいる.生息地を守らないとならないが,国は全く手を付けていない.そこでナショナル・トラスト協会が,ツシマヤマネコの生息地の中で一番密度の高いところを購入した.


Q. 土地はいくらだったか
A. 安い.数百万の単位.なぜ国はこれを買えないのか疑問に思う.すぐ近くに調査を目的として何億かの建物を立てているのに,より効果的な方法である土地の購入はしていない.

 

Q. なぜ安く変えたのか?
A. 測量がちゃんと入っておらず,実際よりずいぶん安く見積もられている.測量がきちんと入っていないのは,測量にかかるお金が工面できないためである.

 

Q. 韓国からの入国に審査はあるのか?
A. 昔はラフだっただろうが今はある.

 

・アマミノクロウサギ 鹿児島


   原始的な兎で生体が完全には解明されていない.夜行性で,土を掘って子供を育てる.このクロウサギの生息地は数年後に世界自然遺産として申請をすることが決まっており,観光客の増加を見越して開発が始まっている.開発が進められてからでは遅いので,その前に自然保全の手段を取らないといけない.そのため,今年の2月にここをナショナル・トラストが購入した.購入した土地を幾つかの部分にわけ,それぞれの森に名前をつける権利を売っている.(寄付を受け付けている.)
   この土地に関しては,地元と相談をする前に購入したため,はじめは非難もあった.地元と調整せずに急いで購入したのは,公に公開した後に土地を買おうとすると,開発業者がそれを防ぐためにどんどんお金を出すことで土地が高額になり,経済的な利益を優先した議会からナショナル・トラストの購入にストップを掛けられる可能性があるからである.

                          野生動物保全のためのナショナル・トラスト


・黒松内町 ブナの森


   温暖化でブナの森の分布は北に移っている.ブナは原生林の研究者らが集まるような貴重なものだが,近年,製紙会社が森をすべて購入した.伐採が計画されているとのことで,それを知った町が買いなおそうとしているが,町単独では難しい.そのためナショナル・トラストが手をかしている.

 

【ナショナル・トラストへの自然地の寄贈について】


   自らの持っている土地をナショナル・トラストに寄贈しようという例は少なくない.どこにあるかも,どんな土地かも知らない土地を持っているという人は意外と多い.所有者は実際には土地を管理したこともないし見たこともない.昔から持っていた土地をいつの間にか相続した場合もあるし,バブル期に税金対策で購入した場合もある.しかし山林などの土地を所有していて,産業廃棄物等が違法に捨てられた場合,捨てた業者を特定できなければ,現状復帰の責任は所有者に向くことになる.

   このような事情から,子孫にその土地を相続させ続けることを望まず,自治体に寄付しようとする場合が少なくない.しかし自治体は基本的に土地の寄贈を受けることはなく,仕方なく地元の不動産屋にただでもいいから貰ってもらうことになる.しかし不動産屋も上述の理由から長く保有を続けたくないため,インターネット等で安い価格で販売することになる.

   その結果,購入者が誰かもわからない状態となってしまう.実際にニセコの土地などは,中国の富裕層が購入を進めていたりする.かといって地元で管理団体を作るのも簡単ではない.そこで,管理が難しく自然的な価値が大きいところはナショナル・トラストが寄贈を受け付けている.

 

【遺贈と税について】


   遺言で家や土地をナショナル・トラストに残し,それを持ち続けるのではなく,売って資金にして自然保全に役立ててもらおうというケースもある.この場合,現在の法律上は固定資産税,不動産所得税,譲渡所得税などがかかってくるのだが,ナショナル・トラストでは非課税申請を行なっており,今のところ多くが受理されている.今後団体が自然を守りやすくなるように,きちんと税に関する制度を作ってもらえるよう,ナショナル・トラスト法を整備してもらうためのはたらきをしている.

 

Q. 遺贈における相続税についてはどう対応しているのか
A. 亡くなった後に10ヶ月以内に寄付した場合は相続税がかからないという法律があったはずで,それを適用している.

 

Q. 寄付したいという場合,無条件で受け取るのか
A. そうではない.土地を調査させてもらってからにしたい.道沿いで廃棄物を不法投棄されやすい場所だったりすると困るためである.しかし調べさせてくれない場合も多い.信託銀行に守秘義務があり確認が難しい.

 

Q. 小さい,いらないからあげちゃえといった土地が多いのか.
A. 多い.別荘地など,所有しているだけで管理費がかかる土地が多い.そういうのは貰わない.

 

Q. 放棄することは出来るのか?
A. できないのではないか.

 

Q. 放棄は可能だったはずで,放棄すると国のものになる.
A. そういうことであれば放棄すればいいのに,なぜそうしないのか,不思議です.

 

【環境問題 生物多様性】


  なぜナショナル・トラストが自然を守ろうとするのかといえば,やはり生物多様性を守ることが重要であるからである.例えば,抗生物質の多くは土壌細菌から作っているが,自然環境が失われるとともに土壌細菌の数も減り,今では昔と比べて半分くらいの種類しか残っていない.

   日本でもめだかがいなくなってきているが,あまり重要視されていない.食物も同様で,稲は品種改良が進められているが,品種改良の大本になっている稲は今の日本にはもう無い.

   日本で卵が安いのは,鶏の食べる飼料が安定的に供給されているからで,その飼料はアメリカで品種改良によって作られたハイブリットコーンである.ハイブリットコーンは繁殖できないようになっているため,毎回アメリカから苗を購入しなければならない.アメリカは植物の遺伝子を押さえている.

 アメリカは昔日本から植物のサンプルを採取しており,すでに日本では絶滅した多くの種類の植物をニューヨークに保存している.今ではバイオテクノロジー産業が遺伝子バンクとして遺伝子を保存しようとしているが,やはり本質的にはその遺伝子を生んだ自然を守ることが大切である.

 

【土壌の重要性】


   自然を守れというと普通はみんな緑を意識する.しかし実際には土壌も大切で,土壌は1cm作るのに100年以上かかる.太陽と大気と水と生き物と土壌,自然破壊が起きる場合にはこれのどれかが壊れている.
   例えば,四大文明地の一つであるナイルは,もともと砂漠だったのではなく,昔は大森林地帯だった.しかし森を切り過ぎで,土壌が無くなったために滅んでしまった.これは安田先生の花粉分析で分かっている.黄河も,もともとああいう色ではなかった.昔は森林が合ったが,今では上流部の土壌は流されてしまって,人も移動し始めている.また今では工場による取水で多くの水がとられてしまうため,川なのに下流では水がない.
   日本でも,例えばゴルフ場を作る時,土壌は全部剥いで谷に捨ててしまう.2重の自然破壊である.ドイツでは土壌保全が意識されている.日本は昔から土壌が豊かだったので,あまり土壌の重要性に対する意識がなかった.

 

【自然の状態と上位捕食者】


   自然の状態はトッププレデター(上位捕食者)を見ると判断することができる.例えばカラスが東京で増えるようになったのは,東京からオオタカがいなくなったからである.現在は皇居のみに住んでいる.またシカが増えたのは狼がいなくなったからで,

   今ではシカ対策に何百億も毎年かけている.このように生体系が破壊されて上位捕食者がいなくなると,天敵がいなくなった動物が増えて対策が必要となる.このためアメリカやヨーロッパでは,一度いなくなってしまった狼を,持続可能な土地利用のために他から連れてきて増やしてすらいる.こうした土地の利用にナショナル・トラストが使われたりしている.

 

Q. 一次産業に用いられている土地には動物は住まないのか
A. 昔は住んでいた.昔は田んぼにはメダカがいた.しかし最近は田んぼも仕組みが違っていて住めなくなっている.

 

Q. たまに隣の家では農薬を撒いている.うちにも多少の影響があるかと思われるが,それでもうちの庭には昆虫は住んでいる.

A. 小さな虫は小さな土地があれば住んでいける.大きな鳥にはその分より広い土地が必要.日本は木を植えて緑は増やした.しかし実際にはあまり生き物が住んでない.森は増えても杉やなんかでは生き物が住めず,自然破壊をしたのとかわらない.海外はちゃんと猛禽類を飛ばしている.また河を埋めて鯉(外来種)をはなしたり,街路樹として外来種うえたりで,生き物が増えたとしても本来のものではない場合も多い.

 

Q. そういう土地を買って昔の森や生き物を再生したり出来るのか.
A. そういう法律は作ったが,民間では難しい.

 

【持続可能な土地の整備】


   農作地の補助・整備をすることで,作物の生産効率(面積/作業量),つまり生産性は上がった.しかし石油を使っていることで,昔は1で10のエネルギーが得られたものが,今では1で0.36程度しか作れていない.エネルギー生産性が悪く,持続可能ではない.
   ドイツでは,コンクリートで固められた河を,公共事業で昔のような河に戻している.高速道路(アウトバーン)も,森を横切る時は道路の下や上で分断した部分をくっつけ,自然を接続するようにしている.また私有地にも木を植えている.農業の生産効率は落ちるが,その分は国がお金を出している.近年では日本でも,生産量は減っても品質を上げて収益を増やすという産業は生まれつつある.
   また海外では,コンクリートを減らして土壌に戻そうという働きもある.なぜ市民が協力するかといえば,広報が努力したからである.市町村の役場には,どこにどの生物がいるか,どこで繁殖しているかが書いてあり,業者もその部分を避けて開発を行う.遺伝子がまちの資源であると認識している.EUレベルで自然再生の計画もある.
   アメリカはダムを壊し始めている.経済的に持続可能でないからである.例えばミシシッピ川は,長く氾濫が続いており,川沿いの人々が被害を受けていた.しかし,最近では川が溢れてもいいように,川の氾濫を考慮して人が住むようになった.ここ150年くらいの間に川が移動した範囲を調査し,その外に堤防を作った.中は川が自由に動けるようになっている.もともと住んでいた人で立ち退かない人は強制収容してでもそのようにした.

   またゴア大統領の時,フロリダでは,過去に一度真っすぐにした(その結果,水鳥が9割減った)河川をあえて溢れさせ,元の蛇行した状態に戻した.これによって水鳥が戻ることを期待している.増やし続けていた農地をあえて森にして,河への土壌流出を抑える動きもある.土壌がなくなると生き物がいなくなり,生産に化学薬品を使わないとならなくなったりする.
   日本では,治水によって河川の氾濫頻度は10分の1になっても,周りにより人が住むようになった結果,毎年被害額は増えている.これまで日本は色々と開発を進めてきた.しかし人口の減少もあって今後,財政の予算は減少が見込まれる.

   一方で維持管理費は増え続ける.2020年くらいには維持管理費が予算を上回り,何も作れないし維持もできなくなる可能性がある.

   アメリカ・ヨーロッパはすでにこのシミュレーションをしており,問題として議論されている.水道が出なくなる日もちかい.実際に,すでに北海道では人が住む土地が減少してきている.人が住めなくなったら,その土地はどう管理するか.技術は存在してもお金や人が減ってくる.こういう場合の人の住み方をどうするかという点で,ナショナル・トラストの役割が問われている.ナショナル・トラストは,自然環境を何処どう残していくか,また人の住む場所をどう管理していくかという問題を対象としている.

社会資本に使うことができるお金

 

【質疑応答】


Q. ~トラストというのが今では沢山あるが,なぜこんなに増えたのか.関さんが音頭をとったからか
A. そうでもない.もともと自分の街のことについてはみんな頑張ってやっていた.それを監督していたのが環境省だったが,全国にたくさんあって管理しきれず,今ではトラストという団体が管理するようになった.

 

Q. どういうところを選んで購入を進めているのか.効率的なところを選んでいるのか.
A. それもある.他には不法投棄がされづらく管理がしやすいところなど.

 

Q. 何箇所あるのか.管理責任があるのですよね.
A.  あります.20箇所くらい.ホームページに記載されている.

 

Q. 寄付金のみで運営しているのですか.
A. 会員と寄付だけです.事業はない.

 

Q. ナショナル・トラストとしては,人が広範囲に広がりすぎるよりは,一箇所に集まっていた方が効率が良いという考え方をどう思われるか.限界集落を守るといった活動はしているのか.最近インターネットで都市に人を集約し効率化すべきという意見を目にするので.

A. 限界集落への対応などはあまり考えていない.持続性が重要だと思う.無いところに無理に持ってきて住むというのは持続的ではなさそうである.日本で問題なのは,河付近で危ないところに人がたくさん住んでいるという点.氾濫区域に人口の50%が住んでいる.資産の75%がそこある.かといって,簡単にその区域から立ち退くという訳にはいかない.しかし利根川だって必ずあふれる.利根川はスーパー堤防を立てるとのことだが,大量の時間とお金がかかる 持続可能とは思いがたい.

 

Q. 前回の研究会の集まりで,遺伝子組み換え食品の話があった.米国では遺伝子組み換え食品の方が生産性が高いので,世界の人口を養うには遺伝子組み換え食品の普及が必要であると言われている.遺伝子組み換え食品ついて,ナショナル・トラストとしてはどういうご意見か

A. ナショナル・トラストはあまり意見を言いはしないが,今のところ技術や安定性が確立されていないので,ノーの立場をとっている.

 

Q. これまで人類は,治山治水を掲げて生活圏を増やしてきた.アメリカの例は,これを続けた上で上手くバランスをとろうとしているのか,それともこれからは自然に任せようと考えたのか.このバランスが難しいところだと思います.
A. 人類は今になってその選択を求められるようになってきた.自然への撤退政策も出はじめている.日本にはダムを作る技術はあるが,壊す技術はない.これまで選択肢に無かった.アメリカだって大雑把に壊してきた.ひょっとしたらそこもビジネスチャンスになるかもしれない.

 

Q. 一度作ったものを壊すというのは,それを作った人達にとっては残念なことだと思うが,それはどうか
A. 作った時はGDPが上がり続けると考えており,それを前提とした維持を考えていた.しかし今はそういう状況ではない.これは人類が初めて直面する問題である.

 

Q. 橋の老朽化について,危険はないか.普段,橋の下で焼き鳥を食べているが.
A. 国は橋の老朽化についてチェックを行なっているが,県や市レベルでは手が行き届いていない.



 

2013年5月9日
地球環境研究会例会 議事録  記録:野澤拓磨
講演者 国際食料農業貿易政策協議会(IPC)元理事
 東京農大客員教授 白岩 宏氏
講演題目:「最近の世界食料事情『メガトレンド 過去,現在,未来』〜日本の農業政策へのインプリケーション」

 

■ IPC (International Food & Agricultural Trade Policy Council)
 IPCは,「生産性と持続可能性(Productivity & Sustainability)」,「食の安全性(Food Security)」,「経済成長と発展(Economic Growth & Development)」を考えることを目的とした非営利団体(NPO法人)である.

 

■ 国際的に農業問題を取り上げる必要性
 食料は,安全で栄養価のあるものを,妥当な価格で国民に供給されなければならない.しかしながら,経済発展の過程でその供給の仕方は,大きく構造を変える.各国の経済発展や政策などにより,その構造は常に変わり続けるため,農業部門の構造は簡単に決めることはできない.農業部門の構造は国際戦略的に非常に重要であるため,農業のあり方というものは,国際的に取り組まれるべきである.

 

■ 20世紀の農業政策の変遷
 1960年代,第二次世界大戦が終わり,食料不足から余剰に転換した.米国は膨大な穀物保有コストを減らすため,減反政策を行った.しかし1972年,ソ連が歴史的な大干ばつ見舞われ,米国の余剰小麦を大量に買い付けた事を機に,穀物価格は4倍以上に上昇.インフレを加速し,世界市場は大パニックとなった.加えて,1973年の大豆産品輸出規制と石油ショックに見舞われ,世界食料危機が訪れた.石油ショックで大きく儲けたサウジアラビアは,国内での小麦生産を開始.米国は減反から増産へと舵を切った.1980年になると,カーター大統領が対ソ連穀物禁輸指令を発令.これにより,行き場のないデッド倉庫が生まれ,マーケットは大暴落した.国際穀物価格は歴史的な低水準に落ち込み,途上国農民が困窮した.このような緊急時にガット(General Agreement on Tariffs and Trade)は機能しなかった.レーガン大統領はラウンドの立ち上げを要請し,当時米国通商代表(USTR)のクレイトン・ヤイターは,「関税ゼロ・補助金ゼロ」を提唱した.これが,ウルグアイ・ラウンドである.1993年にはウルグアイ・ラウンドが合意され,WTO(世界貿易機関)が設立された.

 

■ 21世紀の現状
 9・11のテロ事件契機に,2001年11月にドーハ・ラウンドが立ち上げられた.ドーハ・ラウンドのテーマは,「発展途上国の開発・発展に貢献する」というものであるが,新興国との対立により,未だ合意には至っていない.2008年は,世界穀物価格が劇的に上昇した.原因として考えられるのは,エネルギーコストの急増・バイオ燃料減量需要の急増・米ドル安・世界穀物在庫の歴史的な低水準・輸出規制・投機的取引などである.
 IPCとしては,現在は世界の農政の転換期であると考えている.2008年から飢餓人口は大幅に増加しており,市場は供給主導から需要主導に転換している.しかしながら,穀物価格の急騰は,バイオ燃料の巨大な需要や気候変動,途上国需要増加のなどの影響が,さらに頻繁に起こる可能性がある.
 また,バイオ燃料政策への転換は容易ではない.バイオ燃料の増産は農産物価格に直結するからである.備蓄在庫を確保しつつ,供給を安定させるために,アフリカなどへの農業投資を増やす必要がある.

 

■ RTA(地域FTA)の戦略目標
 国際貿易政策専門家のロバート・スカレイ教授は,FTA(特恵貿易協定)をヌードルボウル(スパゲッティボウル)と呼び,全体の複雑さを表現した.
20世紀型FTAと呼ばれる既存のFTAは,多くの分野の例外や長期的な調整を含んでおり,非常に複雑なものであった.21世紀型のFTAであるTPP(環太平洋貿易投資協定)やTTIP(環大西洋貿易投資協定)が目指しているものは,高品質の包括的な協定である.既存の二国間のFTAを破壊して,もっと大きな協定に統合するのである.これによりFTAの複雑さを解消しようとしている. こうした次世代のFTAは,世界貿易の自由化に貢献すると,元USTRのカーラ・ヒルズ氏は主張している.


■ 2050年問題
 途上国と新興国では食料需要が急速に拡大している.2050年には90億人以上を養うために農業生産を70%拡大する必要がある.2050年の穀物需要は30~32億トンと予想されているが,現在の最高生産量は23億トンである.したがって,農作物を増産する必要があるが,世界的に水の競争が激しくなっている.水問題を抱える一方で,バイオテクノロジーの進歩によりGMO(遺伝子組み換え作物)が生み出されている.GMOは病気や気候への適応を強化し,増産に貢献するが,消費者の抵抗がその採用を遅らせている.しかし,途上国ではGMO栽培を積極的に進めている.
 FAO(国連食料農業機関)は,2050年問題について定量的なデータを提示している.FAOは2050年には人口は92億人に達し,途上国向けの穀物は3倍以上必要になると主張している.

 

■2050年問題を解決するために
 WWF(世界自然保護基金)のJason Clay副社長によれば,2050年には食料供給を3倍にする必要があるという.Clay氏は2050年においての貧富のグループ分けを行い,貧困層と中間層の食料供給が重要だと主張し,それを実現するためには,バイオテクノロジーやその他の技術革新が必須だと言っている.
 ロンドン大学のトニー・アラン教授はバーチャル・ウォーターという思想を展開している.食料輸入をしている国が,その食料を自国で生産するとしたら,どれほどの水が必要だろうかを明らかにしようというのだ.アラン教授によれば,その場合,水の運搬コストが食料輸入のコストを大きく上回るという.実は人類が活用できている水は,地球上に存在する水のわずか1.5%である.ただし,その多くは必要とされている場所に降らないのだ.こうした観点から食料貿易の重要性を訴えている.
 ゲイツ財団は,アフリカ開発のため,2006~2011年の間に,農業開発支援,営農技術支援,種子開発などに1700億円分の投資をしたという.サバンナ地域が将来の穀倉地帯になり得るかもしれない.

 

■ 日本の農業政策の問題点
 日本は時刻で生産できるものは関税で保護,できないものは輸入に依存している.しかし,TPPのような次世代型FTAを前に,日本の農業政策のあり方が問われている.自由貿易制度への最大の障害は関税であり,日本は各国から関税の引き下げを求められている.日本が関税を引き下げるなど,自由貿易にコミットしていかないと,交渉が進まないのが現状である.資源の乏しい日本が基本的国益を追求するためには,世界の自由貿易体制が必要,という立場が戦後一般して貫かれてきた.日本の農政の基軸をどのように国際化していくのか,長期的展望を踏まえ,抜本的な改革案を議論していく必要がある.

 

■ Q&A
Q1, 日本の豆腐は遺伝子組み換え大豆を使用していないと聞くが,実際はどうなっているのか?
A1, 日本国内では遺伝子組み替え大豆を栽培することは禁止されているが,遺伝子組み換え大豆を輸入するのは可能である.近年では,遺伝子組み換えでない大豆を手に入れるのが難しい.農家は,純正大豆を作るよりも遺伝子組み換え大豆を作る方が,大きな利益を見込めるようである.

Q2, トウモロコシの生産量が増えているのは,遺伝子組み替えによって強くなっているからであろうか?
A2, その通りである.

Q3, 巨額な投資を行っているゲイツ財団だが,遺伝子組み換え種を売って儲けようとしているからでは?
A3, そうではないようである.以前ロックフェラー財団が遺伝子組み換え種で儲けようとしていたようであるが,失敗している.

Q4, サウジアラビアが農業開発にあたって,化石水を使おうとしているらしいが,実際はどうなっているのか?
A4, 詳しい情報は公開されていないので,わからない.

Q5, 遺伝子組み替え分野で,日本の化学業界はどれほど進出の可能性が残されているのか?
A5, 現状はあまり取り組んでいない.

Q6, GM種を作る事に積極的なのは,ネスレなどのグローバル食品企業であるか?
A6, はい.植民地開発に携わってきた企業が多い.

Q7, GMOがアクセプトされない理由はなにか?
A7, 宗教的な考え方から.「種」を加工することに抵抗がある人が多い.

Q8, ここまでの話を聞いていると,食料危機は起こりそうも無いように思えるが・・・?
A8, 少なくとも日本では起こりえない.問題はアフリカなどのように貧しい国である.

Q9, 種を栽培者自身が増やせないような品種改良は良くないのでは?
A9, 良くないと思われるが,資本的な理由からそうしないのであろう.例えば,日本のコシヒカリなどは,海外に持ち出され



 

    2013年3月16日
地球環境研究会・議事録    記録:関洋
講演者:アジア航測株式会社総合研究所理事フェロー技師長・千葉達朗氏
「富士山の地形から噴火の記録を読み取る-赤色立体地図で見る裸の富士火山-」

■概要
  等高線表記や陰影図など古くから平面の地図から立体的な情報を得ようという試みはなされていたが、各表現法において実際に地図を立体的に見せることに関して様々な欠陥があった。講演者の千葉氏は赤色立体地図という新しい画期的な表現法を開発し地図を立体的に見せることに成功した。このことにより、今までにはわからなかった地形、地質状況がわかるようになる、これを富士山に適用することで富士山の成り立ちや火山活動が研究できる。

 

■赤色立体地図
  いままで等高線表記や陰影図など平面の地図から立体的な情報を得ようという試みがなされてきた。特に平面地図を視覚的に立体的に見せるために陰影図や斜度図、高度段彩図など様々な手法が考案されてきた、しかしながらこれらの手法には様々な問題が存在する。

  陰影図は地形にある方向から光を当てたと想定して光が当たっているところは明るく、影になっているところは暗くするように描くことで立体的に見せる地図であるが、光があたる方向が変わると印象が変わってしまう、逆さまにすると凹凸が反転してしまうといった欠点がある。

  また,斜度図は斜面になっているところを濃く表現する地図であるが、微地形はよくわかる一方凹凸の区別がつかないといった欠点がある。また、高度によって彩度を変化させる高度段彩図は大地形の把握はできるが微地形は判然としないといった欠点がある、しかしながら千葉氏は開発した赤色立体地図では地形を立体的に見ることができる。
  赤色立体地図とは赤色の明度と彩度の2つを用いて視覚的に地図を立体的に見せる。まず、地形が尾根となるところを明るく、谷となるところを暗くする。
  次に、地形の傾斜が大きいところの彩度を大きく(より赤色に)して表現する、この2つを合成すると図1のように地形が立体的に見えるようになる。

 

                図1.赤色立体地図の原理


  赤色立体地図に必要な地形データは航空機によるレーザー計測によって得ることができる。レーザー計測とは航空機からレーザーを照射し、地面によって反射したレーザーを測定することで正確な距離を測るというものである。航空機はGPS によって位置を測定され、最大で20cm 四方程度の地形の高度を測定出来る。また、赤色立体地図のために新しくデータを撮り直さなくても、以前測定したデータがデータベースの中に存在すればそれを利用することができる。
  このようにして得られたデータはデータ処理によって森林などによる高度変化を排除し、裸の地形のデータとして用いられる。
  赤色立体地図は他の表記法の地図と併用することでより威力を発揮できる、たとえば等高線と合わせることで凹凸だけでなく、具体的な高さまでひとつの地図で表すことができるようになる。また、赤色立体地図の手法は他の色でもできるが、赤が最も立体的に見やすいことが分かっている。

             

■赤色立体地図からわかること
  赤色立体地図を用いることでたくさんのことが新たにわかってきた。ここで
はいくつか例を挙げて説明する。図2に示すのは同じ地形で等高線表記されたものと赤色立体地図で描かれたものを並べたものである。右が等高線によるもので、左が赤色立体地図である.等高線ではぼんやりとしていた凹凸がはっきり明瞭になることで火口列などがはっきり見えるようになった。

 

                                 図2.等高線と赤色立体地図の比較

 

  また、等高線の揺らぎのように見えていたものが道路や溶岩じわであったりすることまでわかる。また、図3では図の右から左に向かって溶岩流が流れていきどこまで到達しているかなどが直感的にわかる。このような地形は航空写真では森林などにより地面が隠されてしまうため見ることができない。

  また、現地に調査にいっても視界が限られてしまうことで俯瞰的に理解することはできない。地面の凹凸がはっきり見える赤色立体地図だからこそこのような地形が見えるようになる。このように地形を見ることによって地質などを判断する材料ができる。

 

                図3.溶岩による地形の形成

 

  図4は赤色立体地図から青木ヶ原溶岩流がどのように分布しているか調査した図である。このようにどこからどこまでがいつのどの噴火でできた岩石かといった情報が現地で細かく調査しなくても判断できるようになる。ほかにも赤色立体地図によって断層がどこにあるのか、地震によって倒壊した建物はどこかなど様々な情報を得ることができる。富士火山の理解にも非常に役に立っている。                 

                                

                                   図4.青木ヶ原溶岩流の分布

 

■富士山
  富士山は日本の110 箇所の活火山のうちのひとつである。富士山は平均して200 年に1 度噴火していると言われており、このように噴火が多発したことで傾斜が緩やかでありながら日本一の高さを誇る山となった。最後の噴火は1707年の宝永の大噴火であり、このときの火口が富士山の側面に大きな穴をあけている。注意しなければならないのは200 年に1 度起きていると言われている噴火が現在300 年以上も起きていないということである。近年の調査で富士山の下にあるマグマの増加量が昔と変わっていないということが報告されており、その分次に起こる噴火は非常に大きなものになる可能性がある。

  富士山が噴火すると周辺への溶岩流などの心配もさることながら、火山灰の影響も大きい。


  図5は富士山が噴火したときに降灰する可能性がある地域を示した図である。このように首都一体に降灰する可能性がある.首都一体に降灰すると首都機能が停止してしまうことまで考えられる。富士山は今後100 年、1000 年の間にはほぼ確実に噴火すると考えられるから、これに備えて準備することが非常に重要である。

 

                  図5.富士山降灰可能性図(出典:富士山防災協議会)

 

Q & A


Q. 富士山の噴火の予測はできないのか。
A. 宝永の大噴火程噴火が大きければ予兆を観測できるかもしれないが、それより小規模だと予兆がわからないと考えられている。


Q. 噴火と地震は関係があるのか。
A. 噴火と地震は非常に密接な関係がある、東日本大震災が起きた時も富士山周辺で地震があり,噴火するのではないかと冷や冷やした、このとき噴火しなかったことからかなり硬い地盤にマグマ溜まりが囲まれているのではないかと考えられる。その分、噴火したときは大規模になる可能性がある。また、南海トラフなどで地震があると近年言われているが、ここで地震が起きることで富士山の噴火が誘発されるということも考えられる。


Q. 富士山が噴火し、降灰するとどのような影響が考えられるか。
A. 現在、電力のほとんどを火力発電に頼っているが、灰が火力発電に使われているタービンに入ると動かなくなる事が考えられる。これにより関東一体に電力を供給できなくなる可能性がある。また、高速道路は水が流れるだけの勾配はあるが、灰を流せるだけの勾配はないため、除灰がうまくいかず、交通が麻痺してしまうかもしれない。また、磁気のカードが使えなくなってしまう、飛
行機がしばらく飛べなくなってしまうなど様々な影響が考えられる。