【交詢社・地球環境研究会/Global Environment Club of Kojunsha】 

 

  この会は交詢社内の研究会ですが、社外のどなたも準会員としてご入会いただけます(見学参加は無料です)、月例会参加費は3000円です。会員には、講演会参加、講演資料、会員交流、巡検の参加、図書の貸し出し。   (連絡先:zero@qb3.so-net.ne.jp 大森)

  

   6月6日のリーパーさんのお話の内容を講義記録にしています。ご希望の方にはお送りしますのでお知らせください。zero@qb3.so-net.ne.jp へ)。「核恐怖の代償」という駄文を書きました、核恐怖 代償 を文字検索すると出ますのでお読みください。  

 

【最近の講義記録】



 

交詢社 地球環境研究会 2019年4月4日(木) 概要 小野有五 行動する市民科学者の会・北海道 「胆振東部地震が教えてくれたこと   泊原発敷地内の「活断層」問題  全国の原発の避けがたい問題点」
 
[参考文献] 小野有五 「ヒマラヤで考えたこと」 岩波ジュニア新書 1999年 小野有五 「たたかう地理学」    古今書院     2013年
 
1.ヒマラヤで考えたこと 1982年ネパール、ヒマラヤのランタン谷で40日間の氷河調査隊に参加した。  氷河調査の成果は、世界初の大発見だった。 ①  標高5400mのヒマラヤの氷河でボーリングにより氷河のでき方を発見 (雪が一度融けて水になり、それが下にある冷たい氷河の氷に触れ氷となる上積氷) ②  植物(藍藻)や昆虫(ユスリカ)を発見 氷河調査の際、氷河上では暖をとるため、氷河の上にたまった雪を掘りこんでつくっ たキャンプの中で、キャンプファイヤーのようにタキギを燃やすが、タキギはすぐに燃 え尽きてしまい、次々に足さないと暖かくならない。 氷河調査隊の存在が、ランタン村のなにかを大きく変えた、確実になにかを壊してい たことに気がついた。すなわち、氷河隊がタキギを買い続けることによって、ランタン 村の森、ランタン村の人たちが自分たちだけで生活していたなら決して伐らずにすんだ 木々を減らしてしまったのだ。 フィールドワークそのものによって、自分たちがヒマラヤの環境を壊してしまったこ とを知って、自然や人間を純粋に研究の対象にしてきたことへの懐疑が生まれた。 自然や人々を研究の対象にするより、人々の側にたって自然を考えることが必要なの ではないか、という発想が生まれた。
 
2.シマフクロウとの出会い 1990年北海道、根室の森でゴルフ場開発による影響調査の際、ハルニレの大木の 上に身じろぎもせず止まっているシマグクロウの金色に輝く大きな眼で見つめられ 「あなたは、・・・ずっと自然を研究して、この森が伐られたら僕たちが生きていけなく なることはよくわかるでしょう。・・・あなたに力がないのなら、それは仕方がない。で もあなたには、僕たちを守る力がじゅうぶんあるはずだ。力があるのに、なぜそれをつ かってくれないのです? あなたがこれまでやってきた自然についての学問は、いった いなんのためだったのです?」 そのとき、私の人生そのものが変わったのである。
 
3.たたかう地理学 何のための研究なのか?  医学には基礎医学と臨床医学があるが、地球の臨床医学が環境科学である。 地理学は自然と人間の関係、その相互作用を研究する学問といわれるが、いま必要な のは、たんに研究する学問ではなく、人間と自然の関係をよりよくするための研究では ないか、それが、環境の科学としての地理学ではないか、と考えるようになった。
行動する地理学のキーワードとして7つがあり、実践してきた。 ①  歩く(現場に立つ、歩いてみる)、 ②  むすぶ(出会い)、 ③  教える(大学と社会をつなぐ、地理学と環境問題をつなぐ)、 ④  演じる(自分のすべてを投入して、そのとき、その場面で、果たすべき役割を演じ る)、 ⑤  変える(自然と人間の双方に等しく関われる地理学こそが「環境問題」の分析、解 決に最も貢献できる)、 ⑥  訴える(環境正義にもとづく地理学的研究を行えば、裁判の原告になることも当然 の帰結)、 ⑦  イマジン(どうしたいか?どういう社会にしたいか(子供たちの未来)を考える)
 
4.胆振東部地震が教えてくれたこと 2018年9月6日 北海道胆振地方中東部を震源として発生した地震の規模はM 6.7、震源の深さは37km、最大震度7は北海道では初めて観測された。 北海道は北米プレートとユーラシアプレートの2つのプレートがぶつかり合い、東西 に強く圧縮されているが、とくに東側から押す力が強く、東側から西側にのし上がる典 型的な逆断層構造。 震源のすぐ西側には「石狩低地帯東縁断層帯」という大きな活断層、東にゆるく傾く 逆断層(深さ15km)があるが、震源のような深い場所で断層が動くとは思っていな かった。
 
5.泊原発敷地内の「活断層」問題 泊原発から15km西の「積丹半島西方断層」は日本海の海底にあると推定されてい る活断層で、断層面が泊原発の真下に向かって入っているため、泊原発の直下でこの断 層が動くことを心配してきた。 胆振東部地震ではこれまで予測されてきた活断層のもっと下で、想定されていなかっ た断層が動くかもしれない危険があることを教えてくれた。
 
6.全国の原発の避けがたい問題 「事故、さえ起こさなければ、原発だっていいでしょ。」 そうではありません、原発はたとえ事故を起こさなくても、そのあとで危険な核のゴ ミを生み出し、その処理には、なんと10万年もかかる。 人間は危険なゴミを10万年も管理できるのか? フィンランドのオルキルオトに建設中の高レベル放射性廃棄物処分場は、10億年前の 岩盤の地下500mだが、日本には適地があるだろうか?
 
7.人間の時間・神の時間 人間の時間はクロノス、神(自然)の時間はカイロス、カイロスは人間の力では予知で きない、災害の発生は防げない、したがって減災が重要となる。


 



 
交詢社 地球環境研究会 2019年7月4日(木) 概要 清水敦史 チャレナジー株式会社 代表取締役 CE0 「台風を資源化する! ベンチャーが挑むエネルギー革命   ~世界初の垂直軸型マグナス式風力発電機~」
 
1.起業のきっかけ  大阪のキーエンスで工場自動化(FA)の研究開発(センサー)をする技術者だった。 2011年東日本大震災で、大阪は震度4だったが、福島原発事故をテレビで見て、脱 原発のために再生可能エネルギーを普及させたいと思うようになった。 もともとは原発容認派(しかたがない、CO2削減対策として)、何重もの安全対策で事 故はないと思っていたが、福島原発事故で原発は人類が使いこなせる技術ではない(使用 済み核燃料、核廃棄物の処分)と。世界中で再生可能エネルギー利用が加速すると思った。 当時32歳、独身だが、次の世代に何を残せるのかを考えるようになる。原発事故の後 始末は百年かかる、次の世代への負の遺産になる。廃炉作業も遅れている。 原発のない世界をどうつくるのか、その礎だけでもつくるのが自分たちの役割と考えた。
 
2.なぜ風力発電なのか  「再生可能エネルギー入門」のような本を読んで勉強したところ、世界の主流は風力発 電で2040年には再生可能エネルギーの3割を占めという予測もあり、太陽光発電より も多い。  世界の中で、風力発電第1位は今や中国、次いでアメリカ、昔から風車利用が盛んなヨ ーロッパが続く。日本(昔から水車利用)は圏外。  日本の再生可能エネルギーのポテンシャル(環境省)、風力発電はすごく可能性があるが [1900GW(1GWは原発1基分100万KW 洋上1600GW+陸上300GW)
 日本の風況マップ、海岸線が長いので洋上のポテンシャルが多い]、現実にはわずか3GW (世界では600GW)とギャップが大きい。なんでギャップが生まれるか?  世界の風力発電機メーカーのシェアは、従来は欧米が上位だったが今や中国メーカーが 世界1位。日本はランク外、しかも国内メーカーの撤退が相次いでいる。日本国内市場で も海外勢が優勢で、国産は3割。これはちょうど50年前の自動車産業に似ていると思う。 海外製の風車の場合ベアリング取替えで数千万円かかるため修理できず、そのまま放置さ れることも多い。昨年の淡路島の風車の事故も、数年前に故障したため主電源が切らてお り安全機能が働かなかったことが原因だった。  

 

 3.プロペラ風車の弱点 世界最古1890年の風力発電機と最新2018年の風力発電機は基本的な形があまり 変わっていない。数十~数百KWから10MWへと「大型化」という進化をしており、メ ーカーの淘汰も大型化できたかどうか。  一般のプロペラ式風車は「水平軸型×プロペラ式」、水平軸では風向変化に対応しづらく、 またプロペラ式では強風による暴走リスクがある。水平軸型プロペラ式の風車は、風向・ 風速がともに安定しているときに高い効率で発電ができるが、風速・風向の急激な変化に
は対応しづらい構造。プロペラ風車の根本的問題、弱点は暴走のリスクで、暴走しないよ うにプロペラの角度を変える仕組みがあるが、その仕組みが故障して暴走する場合もある。
 
4.マグナス風車  沖縄県南城市に設置した垂直軸型マグナス風車試作機(1KW) プロペラのかわりに円筒がついており、風の中で円筒を回した時に発生するマグナス効 果を利用する。 マグナス効果とは、回転する円柱または球が一様流中(風や水の流れの中)に置かれた ときに、その流れの方向に対して垂直の方向に力が働くこと、こうして生み出される力(揚 力)が「マグナス力」。この自然現象は1852年にドイツの科学者マグヌス氏によって認 識されたもので、野球のカーブボールやゴルフのスライスといった現象も同じ原理による。
 円筒の自転数によりパワー制御が可能、プロペラよりも丈夫、プロペラよりも低コスト。 マグナス風車を採用した帆船、マグナス船が1924年に実用化されたこともある。最 近になってエコシップ(棒をまわす方がスクリューを回すよりも省エネ、低燃費)として 復活してきた。 マグナス飛行機も1930年に制作されたが、この飛行機は風車が円筒が止まると揚力 がゼロになるため、滑空ができず墜落してしまうことから実用にはならなかった。 風力発電機にとっては、円筒が止まると揚力がゼロになることはメリットになる。ディ スク(機械)ブレーキをかけなくても円筒の回転を止めれば風車を止めることができる。
 
5.垂直軸にする  垂直軸のメリットは風向変化の影響を受けないことと、低重心化が可能、メンテナンス しやすいこと。欧州は風向が比較的一定だが、日本は風向が変わりやすく、山があるため 乱流になりやすい。  「垂直軸×マグナス式」の方式は、垂直軸のため全方向の風に対応でき、またマグナス 式にすることで円筒翼の回転制御により風速に応じて風車の回転数を一定に保つことがで きる。風車の回転数を制御することで、突然の強風でも暴走せずに安定的な発電を可能と する。 日本の風環境は風向・風速の変化が激しく、また台風の様な強風に毎年晒される風車に とっては非常に過酷な環境であり、その中で、垂直軸型マグナス風車は安定的に発電がで き、風車の稼働率を飛躍的に向上させることが期待できる。また、プロペラの代わりに円 筒形状の翼を用いることで製造コストを大幅に低減することが期待できる。再生可能エネ ルギーによる安価な電力を供給することを目指している。  水平軸型の場合はプロペラ式もマグナス式もあるが、垂直軸型の場合はプロペラ式はあ るがマグナス式は実用化されていなかった(風上側と風下側で相殺される問題あり)。  調べてみると、垂直軸型マグナス式の特許は2件だけ(関西電力2007年、三菱重工 2008年)あったが、どちらも出願しているが特許化には至っていなかった。  そこで、回転翼を2本1組とし、互いに逆回転(時計回りに回転と反時計回りに回転) させる設計を考え、2011年に特許を出願、2012年に試作1号機を製作(自宅マン ションで扇風機で実験)、2013年に特許を取得。
2014年3月に第 1 回テックプラングランプリ最優秀賞を受賞。そこで浜野製作所浜 野社長から「うちの倉庫で工場を」と声をかけてもらい2014年10月に(株)チャレ ナジーを設立。
 
6.コンピュータシミュレーション  2014年12月にコンピュータシミュレーションをしたところ、効率0.1%(プロ ペラ風車の場合は30~40%)。  原因は、円筒の後ろにおおきなカルマン渦ができてしまうから。  そこでやめずに、「半年だけがんばろう」と2015年1~5月に試行錯誤、ゴルフボー ルのディンプルのように円筒の表面を工夫することで効率を向上させた。  2015年6月にブレークスルーがあり、効率30%超を達成できる可能性が開けた。 。
 実験中にたまたま円筒に手を近づけると効率が上がることを発見し、そこから円筒の後ろ に整流版を付けるアイデアに至り特許出願した(12か国に国際特許出願中)。これは、ま さに「発見」だった。  整流版の大きさ、かたちをコンピュータシミュレーションで最適化し、2015年12 月には風洞実験で効率30%程度の性能を確認した。
 
7.フィールドテスト 垂直軸型マグナス風力発電機の試作機を開発し、屋内での実験を繰り返してきたが、製 品化するためには、屋外でフィールドテストを行い、本物の台風で実験する必要がある。 台風のような強風下でも壊れず、発電し続けることができれば、「夢の台風発電の実現」 に一歩近づくことができるので、2016年の夏、沖縄県南城市にフィールドテスト機を 建設し、世界初の「台風発電実証実験」 (台風時に風力発電機を暴走することなく安全に稼 働させたのち、安全に停止させる実験)にチャレンジした。 この実証実験では、およそ直径3m×高さ3mの大きさで、発電量1KWのフィールド テスト機を設置し、台風を迎え撃ち、発電量などの様々なデータをとり、さらに大型の量 産機を開発することを目指した。 テストフィールドは実験についての新聞記事を読んだ方から「土地を使っていいよ」と 提供を受けた。設置するテスト機の設計・製造・組立、現地の基礎工事などの準備費用を 含め、多額の費用が必要なため、クラウドファンディングで資金を募り、目標金額200 万円に対して、2016年1月に402.5万円(支援者395人)をいただくことがで きた。 2016年8月、沖縄県南城市の1KW機を設置し、実験を開始した。 マグナス風車の円筒の材料は、昔は金属しかなかったが、今はFRPを使える、軽くて (鉄の8分の1)強い。円筒はプロペラに比べてコストが安いのもメリット。 2016年は沖縄に台風が来なかったが、2017年10月に台風発電(2017年1 0月28日の台風22号、瞬間風速33m/秒での発電)に成功。 2018年8月、沖縄県石垣市で、10KW試験機で実証実験を開始し、2018年1 0月の台風25号での発電に成功。
 
定格風速11m/秒より風速が上がっても一定発電できるのは、「マグナス力」は「風速」 と「円筒回転数」に比例するので、円筒回転数をモーターで制御し、風速が強くなると円 筒回転数を低下させることにより、「マグナス力」を一定にできるから。  風のエネルギーは風速の3乗であり、風速5m/秒と風速50m/秒ではエネルギーが 千倍ちがう。 逆に風速1m/秒でも発電したとしても発電力は小さく、円筒の消費電力の方が大きく なってしまう。 垂直軸型マグナス風車は円筒翼を電動モーターで駆動させるので、電力の自己消費が発 生し、発電電力からモーター消費電力を差し引いたものが正味発電量となるので、既存の 風力発電機と比べると発電効率は劣る。一方で、マグナス風車は風速4m/秒から発電を 開始し、最大風速40m/秒まで発電を継続することができるため、既存の風力発電が風 速25m/秒程度までしか発電できないのと比べると、発電可能な風速域が大幅に広がる。。 既存風車に発電効率で劣る分を発電時間でカバーすることで総発電量で上回ることを目指 している。
 
8.実用化、大型化  「マグナス力」は円筒翼の表面速度が大事で、大型化すれば円筒の回転数は少なくなり、 消費電力の割合が小さくなっていく。 大型化が生きる道、まずは10KWを量産化し、100KW、1MWの展開を考えてい る。 100KW以上は洋上も視野に入る。現在の洋上浮体式はプロペラ風車だけだが、風車 0 が傾かないようにしなければならず、浮体だけで数億円のコストがかかってしまう。マ グナス風車の場合、傾いても起き上り小法師のように戻り転覆しないため、浮体は棒1本、 いわば「釣りの浮き」のような構造にできる。
 
マグナス風車を水中に沈めると水力発電も可能。水の密度は空気の千倍もありマグナス 力が大きくなるので小型化できる。 火星の大気は密度が低いが風速は強いので、火星でも使えるかもしれない。
 
ハワイでの評価は、「地面に近いところでもできる」こと。 大型プロペラ風車は景観(タワーが高い)、騒音( 風速の5倍で回転するプロペラの風切 り音)、バードストライク(飛翔中の鳥がプロペラにぶつかる)などの問題があるが、マグ ナス風車は、風車の高さもプロペラ風車ほど高くないこと、ゆっくり回転するので騒音が 出にくいこと、鳥から視認しやすくバードストライクのリスクを下げること、などから設 置可能な場所が多いと考えている。 設置スペースについて、プロペラ風車は乱流の影響を受けないように風車間の距離を離 す必要があるが、マグナス風車は乱流に強いので密着させて設置できる。
 
9.離島電力問題の解決 離島は電源の調達や高い発電コストなど電気の問題で困っている。ハワイでは2045
年に再生可能エネルギーで100%の発電をまかなう計画。
 
2019年、フィリピンに輸出。 フィリピンの風況ポテンシャルは約80GW。2019年1月1日に台風1号が上陸する など、1年中が台風シーズン。離島ではディーゼル発電機を設置しているところが多く、 発電コストが50円/Kwh 程度と高いため、昼は不稼働、夕方から夜にのみ発電している 場所もある。 フィリピンでは電力が自由化されており、民間事業者が手を付けない採算がとれないと ころは国営のNPCが電力供給している。風力発電については、可倒式の風力発電機を設 置し、風車を倒していたにもかかわらず台風で羽根が倒れてしまった。太陽光発電につい ても、島では十分な土地を確保しにくく、また島そのものが雲を作るため日照率が低く、 さらに気温が高いと発電効率が下がるため発電量が小さくなってしまう等の問題がある。 そこで、垂直軸型マグナス風車と蓄電池でディーゼル発電機を代替することを構想してい る。
 
10.2020年世界輸出と水素立国  世界地図で台風の経路を見ると、プロペラ風力発電は台風が来ない欧州や米国、中国に 多い。世界中の島嶼国からの問い合わせが多い。電力で困っている、ハリケーンで困って いる島が、マグナス風車の防災対応力と電力供給に期待している。  将来的には島で水素をつくりたい。風力発電で海水を電気分解し水素をつくる。島のエ ネルギーを100%水素でまかない、余った水素を輸出する。  日本の原油埋蔵量は世界第79位だが、海洋面積は世界第6位。  水素は合成できるものではなく、つくるしかない元素。 最終的には、世界中の島で風力発電による海水の電気分解による水素をつくり、世界を 水素社会にする構想。 台風で水素! 台風水素社会を実現し、日本を水素輸出国に! 




水害列島 出版記念勉強会 2019年7月25日(木)・31日(水) 概要  土屋信行 (公財)リバーフロント研究所 技術参与   「水害列島」
 
[参考文献] 土屋信行 「水害列島」 文春新書 2019年 土屋信行 「首都水没」 文春新書 2014年
 
[平成になってから主な水害だけでも数多く日本全土で起きており、まさに「水害列島」 今まさに「大水害」の時代を迎えている] 〇 洪水は自然現象! 水害は社会現象!  2019年7月、梅雨前線の停滞により九州南部を中心に記録的な大雨。 ・気象観測が整っている(情報がある)なかで、2018年6月28日から7月8日の台風 7号と梅雨前線による西日本豪雨で200人以上が亡くなっている。 ・1959年の伊勢湾台風の時は気象観測装置も十分ではなく情報も少ないなかで、避難 遅れで2000人以上が亡くなっている。 ・日本は温帯というよりは明らかに亜熱帯化してきている。 ・西日本豪雨の教訓から、ヘリコプター管制システムができて防災機関が協調できた。 大雨の原因は、九州付近に停滞している梅雨前線に南からの暖かい湿った空気が流れ込み、 さらに朝鮮半島上空の寒気を伴う気圧の谷が南東に移動し、梅雨前線付近の大気が不安定 になり、積乱雲を次々と発生する「線状降水帯」を生み出し、局地的な豪雨につながった。 
 
「洪水は自然現象! 水害は社会現象!」 ・2017年7月の九州北部豪雨による水害(37名が亡くなる)は、2012年の九州北 部豪雨と同じ。 ・山体崩壊で木が土砂と一緒に流されて被害が拡大している。 水害? それとも災害?
 
・「森は健康か?」 空から見ると緑うっそうとしている森だが、中に入ると光一筋入らない林で、低木も草 一枚も生えていない。 雨が降るたびに表土を流し、雨水が木の根元の土30㎝程度抉り取ると木が倒れ、森が 崩壊していく。 間伐補助金は、木を切るだけの「打ち捨て間伐」にしか使えず、「木を育てる植林」には 使えない。 ・「山が崩壊している!」 森の砂防ダム効果も、杉林が竹の浸食を受けて竹林へと遷移してしまっている。 森の健全性は林業で支えられるもの。
 
・「知って備えることが大切」 2016年10月、介護老人保健施設ふれんどり岩泉の被害は、 「共生の範囲を超え水の領域を犯して」施設が河川敷に建設されていた。  川が流れるところに建物をつくらないのは、先人の諫め。  ・川の中には薪炭林があり、地域の人が所有権をもち、燃料として使っていた。   入会地の手入れ、先人の戒めを忘れて被害を招いた。
 ・先達が残した「海嘯記念碑」もここまで津波が来た証拠、 昔からの地名もその土地の特性を表しているので、 むやみに今流の名前に変えずに大事にすることがよい。
 
〇 避難準備情報? >>> 「水防災意識社会再構築ビジョン」    「避難指示」は「避難命令」にすべきである。 ・2014年8月豪雨、広島の土砂災害(死者77名) 言いたくはないが「そこは人が住んでいい場所ですか!?」 自然の恵みを受取る作法を忘れた結果ではないですか!? ・2015年9月常総市の洪水災害    防災無線は「逃げてください!」としか言わない。    防災無線で「〇〇さん、○○川の水位が高くなってきましたので、逃げてください!」 と住民 1 人ひとりに声をかけていたら、 全員に声をかけるうちに堤防が決壊して被害が発生してしまう。間に合わない。
 
〇 国民の命は誰が守るのか? 国? 都道府県? 市区町村?   >>> 昭和34年伊勢湾台風のあと「災害対策基本法」で「市区町村」に権限。       当時は気象庁も台風の場所がリアルタイムでわからなかったので、       暴風雨の状況がわかる現場に権限を付与することにしたもの。   しかし、市町村長は専門性がない指揮官であり、 また指揮官をサポートする専門家がいない現状。 (土木技術者がいない市町村が3割もある)   専門性のない指揮官の意思決定を誰がサポートするのか? 組織はできているか?
 
 ・実際にあった常総市の例では、  高杉徹市長は被害後の記者会見で、現場付近に避難指示を出さなかった理由を 「鬼怒川全域の水位が上がっていますからどこが決壊するかまではわからない」、 「避難指示を出せなかった」と発言。 だが、「越流破堤」後に避難指示を出すのでは・・・避難が間に合わない!!
 
〇 「公助」=誰が? : 「自助」=正常バイアスの問題
 
 「公助? 最後の砦として頼ってよいのか?」 ・自治体によっては、避難情報発令時期を危険度が上昇してから出すことに「改悪」し ているところもある。  これは「人の命と引き換えに、避難率の向上を目指した行為」。   「避難してくれないから、もっと切迫してから避難警報を出したほうが避難してくれ る人が増えるのではないか」との考え。    ・荒川下流の避難準備情報、タイムラインの設定はよいが、「雨が降る前に」が重要。 ・洪水は川の流域で起こるので、 流域自治体は「技術職員の共有」「情報の共有」「予算の共有」が大切で、 これらの情報の要となる「流域治水組合」が必要。
   ・アメリカではまさにこのような体制になっていて、 「国家が国民の命を守る!」としている。   アメリカFEMAは「避難命令」を発する。 (Federal Emergency Management Agency of United States of America  アメリカ合衆国連邦緊急事態管理庁)  権限と責任を持ち「避難命令」を出すことで、 例えば高速道路の全車線を避難方向に向け一方通行にし、効率的な避難行動を実施。   ・「海抜ゼロメーター世界都市サミット」 (2008年12月15日~17日、江戸川区で開催) ・世界中で人は正常性バイアスを持っている。 ・アメリカ工兵隊隊長「ハリケーンカトリーナの際には早期に避難命令出したが・・・」。 (米国内の災害復興工事・土木工事、軍事施設建設、放射能汚染・除染監理が主要任務) ・Gone with the Water.「洪水ですべて失った」 (首まで水につかった男性が掲げた紙に書かれた言葉) 雑誌の見開き写真。 
 
・正常バイアスとは、 ・そんなことは起こらない。 ・もし、起こるとしても、私には起こらない。 ・もし、起こるとしても、それほど深刻な事態にはならない。 ・もし、私に深刻な事態が起きたとしても、私にはそれを防ぐすべがない。
 
〇 ハードとソフト? 避難を間違えると助からない! 釜石の奇跡:釜石の悲劇  >>> 「正しい」訓練が大事。
 
 ・「釜石の奇跡」は、 子供たちが「日ごろの避難訓練で、避難場所に指定された所まで避難を行い、 常に命山(いのちやま:命を守る高い場所)を目指して避難しろと教えられていた」の で、近づく津波から逃げるために、最初は避難指定場所へ逃げたが、さらに津波が近 づいて来るのを感じて、自主的に高台を目指して避難を続けて、助かった。
 
 ・「釜石の悲劇」は、 避難訓練を常に親水区域内の「防災センター」に集まることで実施していて、 実際の避難場所になっている高台の「常願寺」へは行かずに解散していた。 3.11地震発生後「防災センター」を目指して地域住民は避難したが、 そこから避難場所の「常願寺」に行くことはなく、そこで全員が津波に襲われて、 命を失った。 「常願寺」という命山を生かせなかったのはソフト(訓練)のミス。   〇 「ソフトを支えるハード」 「ハードを生かすソフト」  ・ハードを整備した上で、最適な避難行動はどうあるべきかを考える。   ハードとソフトのバランスのとれた整備が不可欠。
 ・江戸川区ハザードマップ 2019年5月 水害時のシミュレーションを詳細に解説    江東区大島・東砂・墨田区立花・江戸川区平井は約7m浸水し、江東区亀戸で最大 約10mが浸水する、 水が引かないため水道・電気・ガスが使えない生活が2週間以上も続く、 ことが予想されるという衝撃的な内容。     「洪水は自然現象、水害は社会現象」。    〇 首都直下地震  ・日本で起こる地震(マグニチュード6以上)は世界の23%。  ・ プレートテクトニクス理論。  ・首都直下地震後の20年間の損失累計が855兆円との試算。 (経済被害731兆円、資産被害47兆円、財政的被害77兆円)
 
〇 昭和22年カスリーン台風 <<< 土屋氏の原点   大正6年10月1日の高潮=大海嘯(だいかいしょう)  >>> 命山をつくる=高台化(高潮+1m) >>> 葛西臨海公園380haで実現。 >>> 宮城県女川町で東日本大震災の復興工事として防潮台地をつくる。
 
〇 東京は世界で一番危険な都市で、損害保険料も世界一高いところ ・東京・横浜は世界で最も災害リスクが高い都市(710リスクポイント) (ミュンヘン再保険会社)(「首都水没」参照) ・東京ゼロメートル地帯「命山」計画、ここにいれば大丈夫!  (地域内の住民がとりあえず逃げられる命山) >>> 避難高台地 >>> 広域防災グリーンベルト ・防災機関のBCP >>> 病院の防災化が重要。
 
〇 事前復興   「稲村の火」(津波から村人を救った物語)のモデル >>> ヤマサ醤油七代目当主濱口儀兵衛(浜口梧陵 はまぐちごりょう)。 ・濱口儀兵衛が残した言葉 「万が一の時になってから思いをめぐらせるのではなく、 常日頃から非常の事態に備え、一生懸命わが身を生かす心構えを養うべきである。 住民百世の安堵をはかれ。」 ・被害はゼロにできる。 「水害列島」は、「首都水没」の後編。 前編の「首都水没」と合わせて読んでいただけると、より理解が深まると思う。
 
以上     (聴講・記録)佐竹誠+伊藤友悌



【終了】

2019年1月からの実施

 1月10日:海野和男 日本科学写真協会会長 「世界の昆虫を追って考えたこと」

 2月7日:奥野淳一 国立極地研究所 助教 「地球の歴史、誕生から今日までの時間を追って解説」

 3月7日:瀧澤信 サステナブルインベスター社長「地球を変える?お金の動き」

 4月4日:小野有五 北大名誉教授 「北海道地震で学んだはずの電力問題」

 5月9日:木村学 東京海洋大学特任教授 「南海トラフ海洋掘削が切り開いた地平」

 6月6日:スチーブン・リーパー氏 「アメリカ人が見た日本の核廃絶運動」

 7月4日:清水敦史氏:「新しい風力発電への挑戦」

 8月1日:瀧澤信氏:「世界の環境を変えるお金の動き」

 

【予告】  2019年

 

9月5日:氏家弘先生:「生物の多様性の重要性」

10月3日:荻原直道教授:「人間の進化を見ると機械が変わる」

10月3日~11日:第7回 地球環境展

10月5日:公開ミニ講座:奥野淳一・他「地球の時間」「未来は過去の鏡で見えるか」

11月7日:川島博之教授:「世界の食料供給と国際問題」

12月5日:山口光恒氏:「COP2が始まった」

    2020年

1月9日:木村学「地球とは何者か・マントルとプレート、陸と海と海底と」

2月6日:奥野淳一:「地球の46億年の歴史から考える未来」

3月5日:杉野行雄:「南鳥島レアアースの探索へ零細企業の挑戦」

4月2日:未定

 

 参加ご希望の方は会員にご連絡ください。継続参加の初回は参加費ご不要です、試みにおいでください。銀座6丁目の交詢社で15時からです。毎月第1木曜日です。服装は背広でお願いします。2回目からのご参加は、月会費3000円です。

 

 

この会はーーー人間の持続的発展を考える

 

  地球環境研究会(交詢社)は、地球環境問題を広く理解し、人の世界の千年未来に役立ちたいと考えている集まりです。毎月第1木曜日、会員発表(14時~)と各分野の専門家をお招きした講演会(15時~)をやります。ご参考までに、ここにある講義録をご覧ください。

  毎月第1木曜が例会日です。社員の方はご自由においで下さい。またこの問題に関心をお持ちの方を、会員の紹介でゲストとしてお招きします。参加費は初回は無料で2回目からは参加費3000円です。社員外で会の趣旨が気に入って続けて参加する方のために準会員というルールがあります。準会員は講演以外の行事に参加いただけます、図書の借りだしが出来ます、資料をお送りします。

  交詢社は銀座6丁目にある背広にネクタイという決まりの倶楽部ですが、お役に立と思います。 紹介者を思いつかない方は zero@qb3.so-net.ne.jp 大森 にご連絡くだされば手配いたします。これまでの記録は講義記録をご覧ください。

  

 

【図書について】

 

地球環境に関係する図書を順次集めています、例会日の14時前に会員にお貸し出ししますので早めにおいで下さい。一部を紹介します、詳しくは図書リストをご覧ください。

 

 17-06:骨が語る日本人の歴史:片山一道:日本人とは何者か

 17-07:生命の逆襲:福岡伸一:心は人間だけのものではない

  17-08:最古の文字なのか?:J.V.べツィンガー:氷河期の洞窟の32の記号の謎を解く

 17-09:日本人起源論:篠田謙一::たちは何者か、DNA分析による人類研究

 17-11:大地の5億年:藤井一至:せめぎ合う土と生き物たち

 17-12:〈こころ〉はどこから来て、どこへ行くのか:河合俊雄・下條信輔・山極寿一:京都こころ会議

 17-14:昭和史の現場:太田尚樹:東京をめぐる新たな謎の発見

 17-03:地球を「売り物」にする人たち(返却)

 17-17:プルトニウム消滅:森中定治

 17-18:ヒトと文明:尾本恵市

 17-20:よくわかる火山の仕組み:高橋正樹 

 17-21:日米戦争を起こしたのは誰か:加藤英明

 17-22:日本はなぜ「基地」と「原発」を止められないのか:矢部宏治

  17-23:サピエンス全史: 上 ユヴァル・ノア・ハラリ

 17-24:サビエンス全史: 下 ユヴァル・ノア・ハラリ

 17-25::フリーメイソン:橋爪大三郎

 

 

【最近の講義録リンク】

 

以下の講義録はリンクしてあります。

 

【会計学はこの惑星を救えるか?】 三代川正秀

 

【CSRは地球人責任】 湊信明会員の企業の社会的責任の講義録はこのURLをクリックして下さい→

http://www.minatolaw.com/img/%E4%BC%81%E6%A5%AD%E3%81%AE%E7%A4%BE%E4%BC%9A%E7%9A%84%E8%B2%AC%E4%BB%BB2016.pdf
 
【地熱発電の現状と将来】 浅沼宏先生 産総研福島 再生エネルギー研究センター地熱チーム長
 

【水素エネルギーの大規貯蔵と輸送】 岡田佳巳先生 千代田化工建設(株)水素推進ユニット技師長

 

【たたかう地理学/泊原発から考える】 小野有五先生 北海道大学名誉教

 

【海洋温度差発電の現状と今後】 池上康之先生 佐賀大学海洋エネルギー研究センター教授

 

【食生態からみた縄文人の適応戦略】   米田穣先生・東京大学総合研究博物館

 

【放射線を恐れて付き合う】   西澤徹先生・東洋公衆衛生学院 診療放射線技術学科

 

【世界の食糧問題を考える・まず食品ロスを減らす】  石谷孝祐氏   日本食品包装協会理事長

 

【グリーン水素社会への展望】  太田健一郎先生 横浜国立大学大学院工学研究院 グリーン水素研究センター長 特任教授

 

 

 この講義は130回になりました、その記録こちら をご覧ください。

 



 

静岡から世界のウイスキーに挑戦

 

2018年8月2日
講演者:ガイアフローグループ 中村大航氏
記録者:森田一軌

 

■ 概要

 講演者の中村大航氏は、「静岡を世界ブランドに」という目標の下、ウィスキーの蒸留所を設立した。本講演では同氏のウィスキーへの対する拘りと、前職を合わせて合計十年以上に及ぶ会社経営者として事業をどう展開するか詳しく述べた。

 

■ ウィスキーとは


 酒とは、エチルアルコールが含まれた飲み物の総称である。最も古い物は紀元前9000年に存在したミード(蜂蜜酒)にまで遡る。中でも醸造酒は原料を発酵させたもの、蒸留酒は蒸留という過程を経て度数をあげた物である。歴史的には酒類は宗教的な場面でも使用されており、5世紀以前には既にグノーシス派の洗礼に蒸留酒が使われていた記録が残っている。医薬品としての使用も度々記録されている。日本の酒類の歴史を調べると、最も古いものとしては紀元前1000年ほど前、宗教儀式において寺で使用されていた記録がある。時代としては後のものになるが、現存する寺としては奈良県の正暦寺が有名である。また、日本酒の製造においては火入れという手順が西洋より早くから導入しており、当時から高い技術力があった。
 ウィスキーが日本に導入されたのは今から100年前の1918年と言われている。ウィスキーとは、穀物を原材料にしており、それを2〜5日間発酵させ、3回程蒸留させた物をいう。日本酒などに比較すると発酵日数が短いことがわかる。蒸留後のウィスキーは透明であるが、樽に入れ、数年熟成させると、樽の色が移り、馴染みの琥珀色になる。今回中村氏は無色のものと、異なる熟成期間のものをいくつか持参され、試飲することができた。
 1世紀から飲まれているワインを蒸留したアクアヴィーテと呼ばれるものがある。蒸留という観点からは、ウィスキーは麦のアクアヴィーテとも言える。ウィスキーの語源はゲール語で「命の水」という意味の「ウシュク・ベーハー」に由来する。英字表記のウィスキーを見るとeを含む「whiskey」とeを含まない「whisky」があることがわかる。両者の違いとしては、「whiskey」はアメリカでよく使用され、従ってアメリカ系統の蒸留所を使用することが多く、一方「whisky」はアイルランド系統が多い。
 ウィスキーの特徴は色々な飲み方ができることにある。オン・ザ・ロックスやハイボールの様に一般的に飲まれているもの以外にも、水割り、ストレート、トワイスアップ、ホットウィスキー、ミストなどがある。プロはウィスキーの味をみるために、トワイスアップを好んで選ぶ。また、ウィスキーは蒸留酒であるため、アルコール度数が高く、常温保存でき、賞味期限がないことが特徴である。ウィスキーは開けた直後と暫く経った後では味が変化するため、時間をかけて飲むと味わいが変わる。特に玄人向けのものは味が変化するものが多い。その他の特徴として、日本ではビールより酒税が安いことが挙げられる。昔イギリスの政治家マーガレット・サッチャーが提言したことにより、日本のウィスキーの酒税は本場のスコットランドより安くなっている。
 
■ ガイアーフロー株式会社について

 ガイアーフローは2つの会社によって構成されている。一つ目はウィスキーの輸入である。スコッチウィスキーはもちろんのこと、オランダ産やインド産のニューワールドウィスキーを積極的に輸入している。インドのウィスキーは馴染みがないかもしれないが、実はインドは世界最大のウィスキーの生産消費国である。また、ボトラーが発売するボトルの輸入も行なっている。ボトラーとは、ウィスキーを樽ごと買い付け、自分のブランドで発売する業者のことである。こちらはスコットランドやベルギー、スウェーデンから輸入している。二つ目は今回の講演の主題である蒸留である。
 ガイアーフローの歴史を辿ると、元は再生可能エネルギーの会社であった。ガイアーフローという名前は、地球と生物が相互に関係すると考えるガイア理論と、生々流転という意味でのフローに由来する。ウィスキー事業に取り組もうと考えたのは2012年にスコットランドを訪れた時である。アイラ島を訪問し、Kilchomanの蒸留所を見学した。Kilchomanはアイラ島の中では新しく、2005年にできたウィスキーのベンチャーである。その工場を見てみると、非常に古い機器を使用しており、技術的には「ローテク」であった。一方、Kilchomanのウィスキーは世界中で大人気であり、質が認められている。そこで、中村氏は技術的にはウィスキーの製造は可能であると確信した。その思いを胸に帰国し、秩父のウィスキー製造を行なっているベンチャーを訪問した。そこで、オーナーと相談し、アドバイスをもらい、蒸留所の立ち上げを決心した。しかし、いきなり素人が蒸留所を始めても売れないことを懸念し、まずは酒類の販売免許を取り、輸入から始めることにした。運が良いことに、始めて間も無く、Blackadderというボトラーの代理店になることができた。初年度は全く売れなく、在庫を大量に抱えてしまったが、2年目からは売れ行きが好調になり、事業も軌道に乗った。

 

■ ウィスキー事業について


 現在日本には20箇所しか蒸留所がなく、他の酒類に比べて圧倒的に少ない。その中、中村氏の蒸留所は2016年10月27日に日本で10番目の蒸留所として始業した。蒸留所は静岡から車で40分くらいの山間部に位置している。蒸留所の条件としては、良質で豊富な水はもちろん、ウィスキーは樽の中で空気を吸うため、綺麗な空気、樽を長年置くための広い土地が必要である。その条件を満たしたのが現在の蒸留所である。また、首都圏から近いという点でも良い立地である。
 蒸留所はモットーに「静岡を世界ブランドに」を挙げている。静岡はクラフトビールが非常に盛んであり、ウィスキーを広める文化基盤は既にできていると考えている。

 蒸留所の設計および建設は、シアトル出身静岡在住のアメリカ人に依頼した。実際にスコットランドの蒸留所を2人で訪問し、非常に細かいすり合わせを繰り返すことによって設計をした。また、建屋内に入れる蒸留機と麦芽粉砕機はメルシャンの軽井沢ウィスキー蒸留所の設備をオークションで落札した。また、「静岡を世界ブランドに」に準ずるモットーとして「ローカルを極め、グローバルで輝け」を挙げており、地元を生かすことに注力している。蒸留所には8機発酵槽が設置されているが、その内4機は静岡の杉を使用している。実はウィスキーの蒸留に日本の杉を使うのは世界初である。日本酒では発酵槽として吉野杉を用いるが、その杉は専用に育てている。それに対し、中村氏が使用した杉は専用の杉でなかったが、日本で唯一の木桶職人の腕により発酵槽にすることができた。発酵過程では酵母が呼吸をするため、あらゆる周囲の環境の影響を受ける。よって静岡の杉の発酵槽で発酵させることにより、これまでにない風味がつくと予想される。酵母も新種の開発が常に行われており、最近でも静岡で酵母の新種が開発された。今後その酵母を使用することも視野に入れている。

 蒸留機も特殊なものを使用している。通常蒸留機は蒸気で熱するが、ガイアーフローの蒸留機は薪ストーブで熱している。薪にも地元のものを使用している。1時間に2回くらい足し続けることによって蒸留が進む設計になっている。薪を加える作業は火に接近するため、防火装備をつけて行う大掛かりな作業になっている。蒸留機開発当初、試運転のために水を炊いてみたら少しずつしか出てこなかった。この量ではウィスキーの製造はできない。しかし、もろみを入れもう一度試運転をしたら、設計通りの量が出てきた。この蒸留機を使いこれまでの2年間で600樽のウィスキーを製造した。一般に、蒸留機は銅でできており、蒸留時に発生する硫黄は銅と反応することによって、取り除かれる。これによってウィスキーの中の硫黄が取り除かれ、味が良くなる。同時に、この過程で銅は消費されるため、徐々に蒸留機の壁の厚さが薄くなる。展示してある蒸留機のものには厚みが1 mm程度しかないものもあった。当然これらは実用に耐えられないため、展示品として飾ることにした。また、この蒸留機を開けてみると1951年製と製造年が刻んで在り、軽井沢の蒸留所は非常に古いものを大切に使用していたことがわかった。

 「ローカルを極め、グローバルで輝け」のモットーの元、蒸留所の至る所で静岡県産を使用しているが、樽のみ静岡県産ではない。実は中村氏は静岡県にミズナラがあるという情報を耳にしている。ミズナラは樽に使用できる。また、日本固有種であるため、海外のオークなどに比べ独特の味を期待できる。しかし、木材を樽に使用するには、20年ほど熟成させる必要があり、実際に使用できるのは今から20年後になる。
 スコットランドの法律ではウィスキーは最短で3年熟成する必要があると定められている。よって現段階では売るウィスキーがまだ出来上がってない。しかし、事業として成立するためには、収入が必要である。そこで、蒸留所の資金調達方法としてプライベートカスクというものがある。プライベートカスクとは、ウィスキーが出来上がる前に、樽を丸ごと予約するシステムである。予約したオーナーはいつでも試飲することができ、ボトリングのタイミングも選べる。現在この商品は非常に好評であり、前年度は完売した。
 ウィスキーは非常に時間がかかるので、中村氏は長期的な視野で事業を進めているそうだ。また、ウィスキーの蒸留所は集客施設としても有望であり、将来的には観光施設としての側面も生かしていきたいと話していた。

 

■ 質疑応答


Q: ボトラーは、自分の会社の味にブレンドするのか。
A: そうです。社長が味利きで、好みの樽を購入し、それをボトルに詰める。
Q: オンザロックを頼むと氷が1つ入っている。氷が一つというのは標準的なのか。
A: 表面積を小さくし、溶けにくくするために氷は1つにしている。本当はいくつでも大丈夫。
Q: メルシャンがウィスキーを作っていたのか。
A: 工場はすでに閉鎖しているが、シェリー樽で熟成したウィスキーを製造していた。現在はプレミアがついており、非常に高値で取引されている。
Q: (熟成過程について)ウィスキーは置いておくと美味しくなるのか。
A: 樽に入れないと味は良くならない。しかし、長く入れれば良いというわけではなく、長く樽に入れるとアルコールなどが出て行き、味が無くなる。
Q: 一部のウィスキーが高額に取引されているのは希少価値が理由か。
A: はい。
Q: 静岡は大麦の栽培に向いているのか。
A: 向いてない。稲作は水を塞きとめるが、大麦は水捌けが良くなくてははいけない。本来稲作用に開発された土地だから工夫が必要。
Q: 麦芽とは、大麦を発芽させたものなのか。
A: 厳密には少し発芽させ、根が少し外に出た状態で止めている。発芽は水を加えることで促し、乾燥させることで止めている。
Q: (発酵槽について)杉の樽にすると味が変わるのか。
A: まだ慣らし中であるが、おそらく変わる。慣らしが必要なのは、木の中に含まれるタンニンやフェノーリンが発酵には良くなく、それらを取り除く必要があるから。
Q: 木であるということは菌類が住み着く。それを期待しているのか。
A: はい。昔日本の衛生局は木桶の使用をやめさせた時期があった。しかし、木桶に菌類が住み着くと勝手に発酵が進むという話もある。木桶の方が安全に発酵できるという考え方もある。
Q: (蒸留機で)火を燃すのは蒸留のためか
A: 理科室のビーカと同じ原理。普通は蒸気で熱する。昔は石炭、その前は薪を使用していた。ブランデーの蒸留には今でも薪が使われることがあるが、ウィスキーはない。静岡県の森林資源を生かしたいと思い敢えて薪ボイラーを採用した。しかし、丁度良い薪ボイラーがなく、薪かまどに拘っている知り合いのパン屋に相談した。「絶対まきでやった方がいい」と言われた。熱の伝わり方が違う。また、うなぎ屋も同じことを言った。新たに薪ボイラーを設計し作成するまで、合計で2年掛かった。
Q: 釜を巻きの上に乗せているのか。
A: はい。直火で熱している。
Q: 蒸留後のカスは液体なのか。お粥みたいなものが沸騰せずに残るのか。
A: 蒸留が終わったら火を消し、掃除する。一回の蒸留で体積は1/3、アルコール濃度は3倍になる。2回するから1/9の体積になる。
Q: 一回の蒸留に必要な時間は。
A: 6時間。一日8時間のシフトで終わるようにしている。設計思想を変えるとこの時間は変えられる。
Q: (蒸留機について)50年使用すると厚さが1 mmになるのか。
A: 年数より、使用頻度の影響が大きい。
Q: 蒸留機のメーカはどこか。
A: 日本蒸留工業という会社。今は蒸留酒用のものは作っておらず、プラント用のみを製造している。
Q: 樽は横向きに置くのか。
A: どちらでも良い。横の方が転がせるから扱いやすい。縦に置いた場合重ねることができるから収納性が良い。
Q: 部屋がカビ臭いとウィスキーもカビ臭くなるのか。
A: カビを食べるカビが繁殖すると黒くなる。逆にはその様なものしか生えない。アルコールの殺菌力は高い。70%くらいのものがもっとも殺菌力が高い。
Q: 蒸留所で味見をする人はいるのか。
A: 私や現場の人が味見をし、確認している。
Q: いつ製品化するのか。
A: 2020年7月です。
Q: 空中には酵母菌が舞っているのか
A: いる。しかし、酵母菌にも沢山種類があり、アルコールを発酵してくれるかわからない。
Q: 売れている樽は預かっているのか。
A: はい。まだ3年立っていないため、全て預かっている。
Q: 途中でも試飲はできるのか。
A: できます。
Q: 若い人でウィスキーのファンは増えているのか。
A: ハイボール好きな人は多い。しかし、ハイボールがウィスキーと知らない人は多い。ハイボールからウィスキーに入れば良い。
Q: 行程によりかかる時間が違うが、動いていない製造装置はあるのか。
A: 製造装置は毎日新しい原酒を作り、次々に樽が製造されている。
Q: 生産能力は製造機で決定されるのか。
A: ボトルネックは発酵タンク。3〜5日かかるから。
Q: ウィスキーは7、8年寝かしておいても色がつかないのでは。
A: 樽の状態による。バーボン樽はバーボンの熟成に使用した樽を使う。着色は一切していない。温度変化が多いほど呼吸が活性化されるから熟成は速くなる。その分速く蒸発する。
Q: スコットランドなどではウィスキーも代々引き継いで行く。事業継承はどうするか。
A: これからの課題。

 



 

環境ベンチャーの育成 〜大学発ベンチャーの挑戦 −ウッドチップブロックから自動運転まで

201875

群馬大学 理工学部・大学院理工学府 環境創生理工学科 板橋英之

記録者:森田一軌

 

概要

 講演者の板橋氏は、分析化学を専門としているが、大学発のベンチャーを立ち上げた。今回の講演では、ベンチャーの創立と自身が思い描く未来像について述べた。

 

研究について

 板橋氏が現在所属している理工学府の環境創生理工学科は、エネルギーから土木まで幅広い範囲の学問を扱っている。中でも板橋氏の研究室は化学を中心とし、学生ごとに異なるテーマを自由に進める方針を取っている。研究室ではコンパを沢山したり、お茶の時間を設けたり、学生とのコミュニュケーションを欠かせていない。研究内容は、化学の中でも水と土に関する研究を進めている。この研究を進めることによって環境保全に貢献できると期待される。同研究室では環境中に存在する重金属を研究している。重金属は環境中にあると、公害を引き起こすことが知られている。広く知られている例として、水俣病やイタイイタイ病、渡良瀬川での公害などが挙げられる。重金属の濃度が公害に直結するかといえば、そこまで単純ではない。分かりやすい実験として、天然水で満たされた水槽と蒸留水で満たされた水槽の両者に重金属を入れ、その中にメダカを入れると、蒸留水の水槽のメダカは死に、天然水の水槽のメダカは生き続ける。このことから天然水には重金属を無毒化する役割があると考えられる。この視点から渡良瀬川における足尾銅山の影響を調査した。渡良瀬川の異なる21箇所から水を採取し、それを分析した。銅山付近の川で採取された水の中には通常の川に比べ10倍ほどの銅が検出された。その発生源を調べると、廃鉱石場から滲み出ていることがわかった。しかし、それを無毒化する物質の濃度の方が多かったため、川の中にある銅は無毒化されていると言える。無毒化の成分を調べると、フミン酸であることがわかった。フミン酸は動植物が腐敗し、分解されることによって生成される。このフミン酸が重金属と結合し、重金属を無毒化していることがわかった。そこでフミン酸を有効活用する研究を始めた。

 

ウッドチップブロック

 フミン酸は前述の通り動植物が分解されることによって発生する。丁度このフミン酸に関して研究している時、木を加工した時に出るゴミを研究に使えないかという問い合わせがあった。このようなゴミは大量に発生するため、その扱いについて業者は悩んでいた。そこでこの木材をチップ化し、鉛の吸収剤にする試みが行われた。しかし、1 Lの水を処理するのに400 g必要であった。ウッドチップは密度が小さいため、400 gはゴミ袋一つほどの大きさになる。よって、実用的なものにするには、改良する必要があった。そこで木材をアルカリ性にする実験を行なったところ重金属が水酸化物になり沈殿することが確認された。また、それを安く実現する方法として、木材にセメントを混ぜ、セメントチップにする方法を考案した。セメントとチップを8:2で混ぜたものは、ブロック状になり取り扱いが容易な上、水をよく通すため、フィルタとしても利用できる。そこで、度々公害の原因となっているカドニウムの吸収率を測定した。その結果100 %近い吸着率を確認することができ、非常に高性能な吸収剤であることがわかった。特許を出願した後、建設業の人に作成を依頼し、フィルタを作成した。しかし、試作したフィルタの性能は良くなかった。そこで諦めず、発想を転換し、タイルとして敷き詰めることにした。タイルとして使用した場合、通常のタイルとは異なり、木材を含むため、保湿性能が優れていた。実際に通常のタイルとこのタイルを比較する実験を行なった。両タイルを水で濡らし、かまど状の構造物を作成し、中の温度を比較した。結果として、ウッドチップブロックの方は通常のものより、9度ほど温度が低くなっていた。このタイルの応用として炭で作成したものがある。炭で作成したものは有機物を吸い付ける作用がある。暫く使用していると、性能が落ちてくるが、水で洗うと吸収した有機物が流れ落ち、再び機能を回復させることができる。

 

ウッドチップのその他の応用

 板橋氏は、これからは食べ物の中の重金属が問題になると考えている。現在日本では、米には重金属濃度の基準があるが、それ以外の農作物については基準がない。世界的に見ると、この基準は非常に緩いと言える。今後日本の農作物を海外に売るとしたら輸出の際、海外の厳しい基準が問題になると懸念される。よって、農作物に重金属が入らないようにする必要がある。農作物に入る重金属の多くは、畑の土が汚染されていることに由来する。そこで、ウッドチップブロックと同じ原理に基づき、畑に重金属を吸収するようなものを蒔けばよいと考えた。試験として、小松菜畑に発酵させた樹皮を蒔いて影響を調べた。銅の濃度は下がらなかったが、亜鉛とカドニウムの濃度が飛躍的に下がった。次に米でも同様の実験を行なった。今度は亜鉛と銅の濃度が下がらなかったが、カドニウムの濃度が下がった。この結果は高く評価され、新聞にも記載された。また、中国がその効果に興味を示し、2万平米くらいの広大な稲田で実験をすることができた。結果として実験は成功し、カドニウムの量を減らすことができた。

 

自動運転

 文部科学省が設置したプロジェクトに採用20大学のうちの一つに群馬大学が採択され、研究・産学連携戦略本部を設置することになった。群馬大学が提案したプロジェクトのテーマは完全自動運転であった。完全自動運転とは、人間が一切手を触れずに車が移動する形式の自動運転のことである。自動運転は段階ごとにレベル分けされており、この完全自動運転はレベル4に相当する。通常は段階を踏んで進化させるが、群馬大学はレベル4をいきなり実現することを目指している。このような技術が実現すれば、車の車内はより自由な空間として利用できるようになる。例えば、車内をリビングルームの様にすれば、退社してすぐに迎えに来た車に乗って、ビールを飲むなどといったことも可能になる。もしくは、家自身を自動運転の車に搭載することができれば、朝起きると同時に会社の前にいることも可能になる。車内の利用以外にも、パトロールなども自動運転で実現できるようになる。

 現在このレベル4の実現の最大の障害は、あらゆる状況に対応したソフトウェアの開発が難しいという点にある。言い換えると、都心の道と山道の両者を統一的に扱えるアルゴリズムを開発するのは難しい。そこで、発想を変え、行く場所を限定するというアプローチを採用した。地域を限定し、そこの中で詳細なデータを作成することによって自動運転を実現した。将来的により遠い場所に行く必要が出た場合、対象地域を拡張する予定である。

 プロジェクトの特徴としては、部分的に技術を生み出すのではなく、社会実装まですることを目標にしている。従って、外部の人も入れる協議会を作り、保険会社や通信会社と共にソフトウェア開発を行なっている。

 

ベンチャー設立の経緯

 板橋氏が創立したベンチャーは、大学発のベンチャーであるため、群馬大学のさらなる活性化を目標にしている。方針としては、外から学生を連れてくる、中の教員がその木となる、資金を集めて来る、の3点である。実際海外の大学と群馬大学の決定的な違いは資金であると言える。スタンフォード大学などを例に挙げると大学の資金が2兆円にも昇る。板橋氏の方針としてはクラウドファンディングで資金を集める予定だ。実績として、上毛新聞社と組んで資金900万円集めたこともある。

 ベンチャーの戦略としては、地球、自然、人間、生活の4つのキーワードを挙げている。上述のウッドチップや除草剤などは「地球」の項目に分類されている。将来的な顧客は、国内外の個人、地方自治体を想定している。個人向けには例えば、家庭栽培などに使用できる形で商品を提供する。カドニウムに汚染されている地域は、日本のみならず東南アジアに多数あり、それらの自治体に重金属吸収剤を販売することも考えている。上記で紹介した商品以外にも、認知症を予防するサプリの開発に着手しており、現在臨床実験を行なっているところである。

 

質疑応答

Q: 中国ではカドニウム汚染地域がなぜそこまで多いのか。

A: 土地柄と昔カドニウムが入った肥料を使用していたから。

Q: (自動運転のバスについて)全部の車輪にモータがついているか。

A: はい。

Q: 車輪が多いことと自動運転であるという点は関係しているのか。

A: 一つだとパワーが足りないから複数用いている。

Q: 自動運転なのになぜ運転手が乗っているのか。

A: 公道で走らせる場合、法律上運転手は必要。キャンパス内なら無人でも大丈夫。

Q: 土壌改良剤は1kg 1000円、この値段は紙より高い。廃棄するものを使用しているのに、なぜ紙より高いのか。

A: 原価は安い。作成を障害者施設で行なっており、そこにお金を入れる必要があるから。大学にもお金を入れないといけない。

Q: 福島の後の除染に莫大な金がかかっている。セシウム等の放射性物質の金属にも使えるのか。石炭灰の処理にも使えないか。

A: セシウムの分析の研究も進めている。水から取るのは可能だが、土から取り出すのは難しい。ただ、土に入っている場合は、流出し、汚染が拡大する心配はそこまでない。赤城山は通常の場所より放射線濃度が2マイクロシーベルトくらい高いが流出していないから問題となっていない。石炭灰には鉛が沢山含まれているが、最終処理場で処理するのが一番安く、現実的である。

Q: ウッドチップにCO2やカドニウムが吸着すると飽和する。飽和したものはどうするか。飽和するとCO2吸収としての役割は意義をなさないのではないだろうか。

A: 木が腐らないからCO2が定着していると考えている。CO2の循環から隔離しているからその意味でCO2吸着に貢献しているという考え方である。

Q: 木材がCO2自身であるという考え方か。

A: はい。木が生きてるうちはCO2を吸い、死ぬと腐ってそれを大気に放出する。木材を腐らなくすることによってその循環から隔離することができる。そう云った意味でのCO2吸収。重金属は洗ったら機能が復活するが、廃液は出るためそれを捨てるか、フィルタ自身を捨てるかする必要がある。土壌改良剤はしばらくすると分解され、Cdを放出する。継続的に効果を得るためには蒔き続ける必要がある。

Q: Cuを取り込むものは海まで流れるのか。

A: フミン酸にCuが結合すると粘土微粒子に吸着し沈殿する。渡良瀬川ではダムに溜まっている。フミン酸と強く結合しているから、Cu単独で流出することはない。

Q: それからCuを取り出して使用することは可能か。

A: 渡良瀬川のダムには50万トン堆積しているが、全て集めても1億円にしかならない。取り出すコストの方が大きくなる。

Q: ウッドチップブロックの耐候性はどうなのか。

A: 開発してからの年月、十数年のデータであるが、耐候性は高い。通常のコンクリと同様と言える。

Q: 道路の路面材には使えないのか。

A: 製造法が難しい。今は手作り。アスファルトの様に流し込むことはできない。

Q: ウッドチップブロックの大きさに制約はあるのか。

A: 現在は30×30×6 cm30×30×3cmしかない。枠の大きさに依存しており、より大きい枠を使用すればより大きいものも作成可能。

Q: 自動運転の20 kmとはどの様な制限から来ているのか。

A: モーターの出力から来ている。

Q: 公道だとより速く走らせる必要があるのではだいだろうか。

A: 乗用車を改造したものもあり、そちらはいくらでも速く走らせることができる。

Q: 地域を限定するという話があるが、タクシーは地域の外に出るがどうするか。

A: 通常のタクシーではなく、地域内のみで移動する。それを実現する上で桐生市は非常に協力的。

Q: 自動運転は人間の運転の楽しみを奪う。理想的には、人間よりも優れているが、人間が間違えた時のみ人間を助けてくれる様なものがあれば良い。

A: 実はレベル3がそれに相当する。だが、如何に自動運転が進んでも、人が運転する車はなくならない。

Q: 既に通ったことのある道のみ走れるそうだが、将来的に通ってない道を通れる様になるのか。

A: 遠い将来、通ったことのない道も走行可能になる。Googleはそれを目指している。我々はそれを目指していない。

Q: 悪意のあるドライバーの対策はどうするのか。

A: カメラを取り付けて証拠を残して、判別できるようにする。

Q: 自動運転は、過疎地や地方の自治体で費用を払えない場合はどうするか。

A: 運用コストは人の運転手より安いが、初期導入は高い。コストが高い理由は、センサーなどが全て海外製であるから。将来的に国産を目指す。しかし、それでも適さない地域は出て来てしまう。

Q: 自動運転のスタンダードをどこが取るかという競争がある。大企業と協力しないと基準を取れないのでは。

A: スタンダードを取るのは難しい。方針としては周りを抑える。インターネットはシステムではなく、facebookgoogleなど使っている側が儲けている。稼げる場所を抑える。

Q: 車を売る訳ではないのか。

A: はい。最終的にはgoogleなどのシステムを使う。

Q: AIや自動運転などはいずれ兵器に使われる。そこに悪用されないか。

A: 悪用される人がいれば防ぎようがない。ただ、群馬大学は軍事研究は受けないという立場にある。

Q: ウッドチップブロックの作り方はどうなっているのか。自動運転に関して大手メーカーはなんて言っているか。

A: 作り方は秘密。製造特許は弱いから作成方法を公開しない戦略を採っている。ただ、そう簡単に真似できるものでもない。何社か当たってみたが、作れる会社は1社しかなかった。自動運転に関して、自動車会社とは手を組まない。我々のシステムを導入すると、車が売れなくなる。自動車会社はレベル2を目指している。

Q: 産業界で活かすには大手自動車会社と組まないと難しい。

A: 自動車会社とは目的が違うから組むのが難しい。

Q: 認知症予防サプリに興味がある。どこまで開発の段階がきているのか。

A: データの評価をしている段階。認知症サプリをとっている集団ととってない集団を比べる必要がある。

Q: MRIでサプリの効き目を調べることはできないのか。

A: サプリが効いているか、効いてないかは解らない。認知症になっているか、なっていないかしか解らない。

 



 

「海面の変化を左右する柔らかい地球」

2018/06/07 
国立極地研究所 奥野淳一 先生 記録者:岡田清志郎


▪背景と概要
 私達が暮らすこの地球上の環境は気候変動に伴い,多くの変化を遂げてきた.それは,地球の形成に伴う変化や,太陽と地球の周期的な位置の変化などに起因するなど,自然現象として捉えられてきた.しかし,人類の発達に伴い,人為的な影響に起因する環境の変化が,年々無視できないほど大きくなってきている.近年の海水準変動もその一つであり,1900年台から増加傾向にある.海水準の増加は陸地の浸水,水没に関わるため,海水準変動の研究の重大性は広く認識されている.
 本講義では,現在に至るまでの海水準変動の推移とその要因に焦点を当てる.従来から議論されている海水量の増減に加え,地殻変動というもう一つの視点から解説する.
▪海水準変動
 海水準とは標高が0mの位置をいう(注:100年や1000年のスケールで考える場合,この表現で十分であるが,ごく精密な観測においてこの表現は正確ではない).海面は絶えず揺れ動くので,長期観測により得られる平均値から定められる.その水準が変わることを海水準変動と呼び,現在でも一年に1~3mm程度増加しており,変動していることが確認されている.この変動の原因を明らかにすることは,未来の変動予測に際して重要であるため,様々な研究者によってその実態の観測と検証が行われている.
▪海水準変動の3つの原因
 現在,海水準変動の原因として有力だと考えられているものは主に3つある.1つ目は氷河,氷床などの氷が融けることによる海水量の増加である.温暖化により,氷の融解は大きく進んでいることが確認されている.2つ目に海水の温度上昇に伴う水の体積膨張である.特に表面温度の上昇は著しく,膨張による体積の増加は無視できなくなってきている.3つ目は地球表面形状の変化によるものである.この考え方はアイソスタシー(地殻が流動性のある上部マントルに浮かんでおり,地殻の荷重とそれに働く浮力の均衡により,成り立っているとする説)に基づくものである.
▪各原因の実態
 海水準はここ100年間で約20cm上昇しているが,その主な原因としてグリーンランド,南極の氷床,また,世界各地の氷河の縮小が実際に観測されている.更に,海面上昇の約3割が温暖化に伴う海水の熱膨張に起因すると言われている.しかし,より長い時間スケールで考えた時,この2 つの原因だけでは説明がつかない場合がある.
 約2万年前の海水面を基準にすると,現在の海水準は100m以上の上昇に匹敵する氷が融解し,海水量が増加したことがわかっている.しかし,世界各地で同様の方法で海面上昇量を計測すると,100mの海面上昇が観測できない箇所が多くある.もし,地球の形状が不変であれば,どのような場所で計測したとしても,100mの海面上昇が観測されるはずである.これはつまり,10000 年という非常に長い時間スケールで考える場合は,地殻変動という要因を考慮しなければならないということである.
▪アイソスタシー
 地殻変動のメカニズムを知ることは,海水準変動の予測に重要である.アイソスタシーとは,柔らかいマントルの上に我々が生活している環境,地殻があると考える説であり,その説に従えば,地殻の質量に従って地殻がマントルに沈み,標高が下がる.実際,1000年以上のスケールでみた場合,地球の表面は柔らかいゴムまりの表面のように変化していると考えられている.
 氷河期に形成された巨大な氷床は,地殻をマントルの深くまで押し沈めていた.地球がより温暖になり,氷床が溶けるに連れて生じる水の大規模な質量移動が,アイソスタシーによる地殻変動を引き起こし,世界各地で多様な海面変動として現在観測されている.
▪日本で見られる地殻変動の例
日本においても,地殻変動が大きな影響を与えたと考えられる事例がある.現在の海岸線よりも陸側に貝塚が発見されており,縄文時代の人々が貝殻を日常的にその場所に捨てていたことがわかっている.これは,6000年昔が今より2度cほど気温が高かったことから,現在より海水量が多かったという訳ではなく,海水量の増減による地殻変動の影響を十分考慮することで説明ができる.
▪将来の海水準変動予測 過去数万年単位で地球上の二酸化炭素濃度は既に計測されており,190~270ppmの間を周期的に変動していることがわかっている.しかし,産業が発達した1900年台以降より,その濃度は増加し続け,現在では約400ppmにまで到達している.今後の二酸化炭素濃度の増加率から,その温暖効果を考慮し,上述した3つの要因による予測を行うと,今後100年で海面が約40cm上昇すると考えられている.ツバル,モルジブのような島国は水没し,日本でも.東京の8割の砂浜が水没すると予想されている.
 また,将来の海面上昇を予測する上で,南極氷床の挙動を理解することは重要だが,未解明な部分が多い.そして,現在多数の研究者がこの課題に取り組んでいる.
▪総括
 見かけ上の海面変化は氷や水の量だけを反映したものではなく,陸の高さと海面の高さは相対的なもので、氷床減と海水増が引き起こすアイソスタシーによる地球の地殻変動が海面変化に大きく影響している.
▪質疑応答(一部を記載する)
Q:二酸化炭素による影響を除くと地球はどの方向に向いているのか.氷河期に向かっていると言う話もあるが.それは大きな影響でないのではないか.
A:二酸化炭素の濃度変化は無視できない。長期の周期で考えると今は氷河期に向かっているはずだが、二酸化炭素濃度が寒冷化の方向性に影響を与えたという説が有力
Q:氷河期に向かうか向かわないかは太陽と地球と距離か.
A:太陽との距離の変化は正確にわかり,これまでの氷期-間氷期サイクルは,地球の公転軌道の変化による太陽と地球の距離の周期的な変化で決まっていると考えられている.
Q:太陽が膨張しているがその影響はないのか.
A:太陽の膨張は数10億年先の話で、今はない.
Q:人間がいない時代になぜ二酸化炭素濃度が周期的になっているのか.
A:詳しい原因は未だに分かっていない.(補足:過去に温室効果ガスの濃度が変化したメカニズムは,未だに「定説」があるとはいい難い.ごく大まかには、氷期-間氷期サイクルにおける二酸化炭素濃度の変動には、南極周辺の海洋が重要な役割を担っていたと考えられている.一方,メタンは陸上の湿地が主たる放出源であることから,熱帯から北半球にかけての気温や降水量の変動が影響する.このようなそれぞれの温室効果ガスの発生・吸収メカニズムの違いもあり,大変複雑であることから,未解明な部分が多い.)
Q:過去の気温を推定できるのか.
A:できる.氷床から掘削された氷のサンプル,氷河の痕跡や、植物の種子の化石や天文学的に求められる.

Q:植物等の影響は大きいか.

A:大きい.実際に温暖化の予想に際して,生物学的知識は重要となる

 



 

2018年1月11日:「プラネタリューム ディフェンスについて」

吉川真先生:国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)
宇宙科学研究所ISAS)准教授
記録:大森弘一郎

 

 2013年2月にロシアのチェリャビンスクに落ちた隕石は大気圏突入前の大きさが20m程度で、100km以上の範囲に被害をもたらした。
 この時は目撃や写真記録が多かった。監視カメラが状況をとらえていた。閃光が通過した後2分半後に衝撃波によりガラスや人が吹き飛ばされ、約1500人の負傷があった。幸い死亡者はいなかった。

 1908年の6月30日のシベリアのツングースカに落ちた隕石は、東京都の面積に匹敵する2000km2の面積の山林をなぎ倒した。無人地帯で幸い人的被害はほとんどなかったという。落ちてきた隕石の大きさは60m程度と推定されている。

 

 隕石がシベリアに落ちやすいということはなく、地球上のいろいろなところに落ちているが、海に落ちると気がつかれないことが多い。アメリカでもニューヨークに1992年10月に隕石が落ちて車のボンネットをつぶした。ペルーに2007年9月に落ちた隕石では、10m程度の大きさのクレーターができた。また、スーダンに2008年10月に落ちた隕石は、地球に衝突する前に発見された天体の初めてのケースになった。

 このように隕石は始終地球に落ちてきている。小さいものは上空で燃え尽きる。これは流れ星として見える。より大きな天体の衝突としては、直径数mぐらいのものから、直径10kmぐらいのものまでさまざまある。1kmのものは数10万年に一度ぐらいの頻度で、また100mぐらいのものは数100年に一度ぐらいの頻度で地球に衝突すると推定されている。
 地球は秒速30kmで太陽の周りを公転している。太陽系の中を方向が違っている者同士の衝突はこのくらいの速度で起こる。こういう速度で衝突すると小さい天体でも運動エネルギーが大きく、大きな被害が生じる。

 

 6550万年昔に、ユカタン半島に落ちた直径10kmの隕石は、地球の環境を激変させ恐竜の絶滅を招いた。恐竜が絶滅したことで哺乳類の世界になったのだが、もし同様のことが今度有ったら、人類は多分生き残れないだろう。

 現時点(2018年初頭)で発見されている小惑星は約75万個ある。この中で地球軌道に接近するものは17500個ほどになる。これらはその軌道が推定されており、近い将来には地球に衝突する可能性はないことが確認されている。
 大きさが1km程度以上で地球に接近するような天体は、ほぼ発見し尽くされつつある。しかし大きさが数百m以下のものは見えにくいため、未確認のものが多く有る。また太陽系の外から来る小天体は未知である。それらは太陽の引力によって運動しているが、その軌道が地球と交差する時に衝突が起きる可能性がある。

 ユカタン半島に落ちたようなクラスの小惑星で地球衝突の可能性のあるものは、現在確認されていない。だから数万年の間にあのようなことが起きることはまずない。
 しかしロシアの2例のようなことは100年ぐらいに1度、世界のどこかで起きる可能性はある。

 軌道の追跡の出来ている小惑星が、衝突軌道にあることは数10年ぐらい前にわかる。その軌道を変更させる方法が色々考えられるが、数百mよりも大きな天体については効果的な方法はまだ出来ていない。壊しても小さくなって数が増えるだけで軌道は変わらない。今人間の持つ技術では大きさが数百メートル以上の小惑星を動かすほどの力は出せない。落下地点の予測が出来たとき住民が逃げることが出来るかも問題だ。

 

 このような天体の地球衝突問題について、アメリカと欧州では多くの天文台で観測が行われたり国として対応がなされたりしているが、日本では一部の研究者が対応しているだけで国としては積極的には動いていない。アジア地域は、地球接近天体の観測において空白地であるとも言ってよいので、日本はもっとこの問題に熱心に取り組みアジア地域で主導的に進めて行くべきである。
 2017年5月に東京で行われたラネタリー・ディフェンス・コンフェレンスという国際会議では、もし東京に落ちる可能性のある小惑星を発見した時、それをどのように追跡して、軌道をそらせ、また被害を最小にするのかのシュミレーションや議論が行われた。

 

 そのほか、宇宙に関する様々なお話,はやぶさ(いとかわに着陸)や、はやぶさ2号(りゅうぐうを目指している)のお話や、興味深いお話を伺いました。参加者26人、質問も多く、有益で楽しい盛会でした。

 

 以下は私の思うことですが。

 ユカタン半島級の小惑星が落ちてくることはまずないのですが、100m直径ぐらいの小惑星を発見できないでいることはあり得るのです、これが落ちると数10kmに及ぶ範囲に大きな被害を及ぼしますが、そういうものを人間の力で直前に回避することはまず出来ないようです。

 発見したあと、小惑星の軌道を正確に推定できれば、その後の軌道運動は計算で事前に良く解り、数10年ぐらい後、いつどこに衝突するかがはっきりわかるのだそうです。そこが人の密集地の場合、対策を取る時間は十分あります。①軌道を少しでも変える、②避難する、の2つの方法です。完全に軌道を地球に落ちないように逸らすことは条件次第で可能のようですが、どこかに落ちる場合に、その結果を人々はどう受け入れるでしょうか。

 避難するにしても大量の人が動いてくれるか。JAXAや国連の発表に対して経験のない人々がどこまで従ってくれるかです。台風予報や地震予報も大変ですが、天体衝突は予測が正確なので、さらに難しいものがある気がします。 予測されてからの約10年間、人々はどうするでしょうか、これは大変な試練だなと考えたのでした。

 



 

2016年11月2日 人類学者の社会的責任
東京大学名誉教授 尾本惠市
記録者:森田一軌

 

■ 概要
 講演者の尾本氏は、多角的に人類学の研究に取り組んでいる。今回の講演では、人類学の一般論から人類学者の社会的責任まで幅広く取り扱った。

 

■ 人類学とは
 人のメンタリティには、線形型思考と離散的思考の二つの類型がある。線形型思考は数理的であり、論理的であり法則性を追求するスペシャリストである。この考え方を持つ人間は単純なものほど美しいと感じ、狭く深く研究する傾向がある。代表的な例として多くの物理学者がこれに当てはまる。一方、離散的思考は形象的であり、直感を用い多様性を追求するジェネラリストである。線形型思考とは逆に、複雑なものほど美しいと感じ、浅く広く研究する。人類学者は離散的思考に当てはまり、講演者は広い視野を持って研究を進めてきた。
 人類学とは、ヒト及び過去に存在した類人猿の特異性、多様性、歴史性に関する学問である。この中には、一般に霊長類学も含む。しかし、近年の学問を理系・文系に分ける際、人類学は自然人類学と文化・社会人類学に乖離してしまった。

 

■ ヒトの特徴
 まず、人類の特徴は、直立二足歩行であり、他の動物に比べ顎が縮小している。中でもヒトは大脳新皮質と前頭葉が発展しており、概念的思考、言語、価値判断、芸術を持っていることが特徴である。文化はヒト特有のものであり、他の動物には見ることができない。また、ヒトは独特の成長パターンを持っている。ヒトの3-7歳に相当する時期に対応する期間は他の動物にはない。この期間ヒトは歯が変化するため、食べ物が著しく制限され、単純に生存という意味では不利になる。この3-7歳からの期間が人間の知能の秘訣であるとする仮説があり、それはネオテニー仮説と呼ばれている。この仮説では、ヒトの大人は子供の延長として捉えられているが、未だに議論がなされている。

 

■ 日本の人類学
 日本の人類学の歴史は実は古く、パリ、ロンドンに次いで古いと言える。発端となったのは坪井正五郎である。坪井は理学系出身であり、博物学の素養をもっていた。人類学に対するアプローチとしては、文理両面から研究に取り組んだ。講演者が以前所属していた、東京大学の人類学教室を立ち上げたのは長谷部言人であった。長谷部は医学部の解剖学を出身としていた、自然人類学者であった。当時東北大学で教鞭を執っていたが、東大へ移り人類学教室を立ち上げた。霊長類学という観点では、今西錦司も大きな役割を果たした。今西は京都大学でゴリラの研究をしており、そこから人間に注目した。世界に先駆けて霊長類学を発足したのである。

 

■ ヒトの進化
 人類学における進化とはすなわち遺伝子の変化を表す。1960年代にJulian Huxleyは進化を、宇宙の進化(物質や星の変化)、生物の進化(DNAの変化)、人類の進化(文明依存の変化)、自己規制する進化(現代文明)の4つに分類した。ダーウィンの進化論によって人間は自己を客観的に見ることができるようになった。現代人は未来に向けて自己の進化を制御する能力を持っている。Huxleyのヒューマニズムは、特に人口増大に注目するが、優生学の危険性も孕んでいた。
 人類の進化を辿ると、700万年前は人類はチンパンジーと同じだった。400万年前になり直立二足歩行の「猿人」が出て来た。200万年前になり石器や火を使用し始める「原人」が登場する。10万年前になり死者の葬儀などを行う「旧人」が現れた。埋葬を始めたとする根拠は、洞窟から整った状態の旧人の化石が発見されたからである。花粉が同時に発見されたことから花を供えたという意見もあるが、十分な裏付けはなく議論がある。7万年前になり装飾を始める。アフリカのブロンボス洞窟から綺麗に穴が空いた貝が見つかり、首飾りとして利用していた証拠が出ている。また同時期に記号の使用が始まっている。海産物の利用もこの時期になり始まった。不思議なことに海産物の化石はこの時代より前には見つかっていない。それまでの人類がどのような環境に暮らしていたか、はっきりとした証拠はないが、湖の近くから化石が出土することより湖を中心に暮らしていたと考えられている。12,000年前になり、文明が世界各地で始まる。
 ヒトとチンパンジーは共通の祖先を持つが差異も沢山ある。ゲノムを比較すると両者の遺伝子DNAの塩基配列は98 %一致している。遺伝子DNAとはDNAの中でタンパク質に関係ある部分であり全ゲノムの1 %程度にとどまる。よってヒトとチンパンジーはタンパク質が殆ど同じであると言える。しかし、両者の形態や行動は大いに相違している。この起源はまだわかっておらず、諸説ある。例えば、遺伝子DNAの2 %の違いにあるとするものや、非コード部分に違いがあるとするものや、染色体の数の違い(ヒトは23対、チンパンジーは24対)に由来するとする説など多数提唱されている。

 

■ 文化と文明
 文化と文明という言葉は度々混同される。この発端となったのは、文化人類学の父エドワード・タイラーが同一の意味として使用していたことだと考えられる。講演者は両者を区別している。ヒトはサルの一種だた「文化」に依存し、「文明」を創る唯一の動物である。現代の生物学の大勢は、人類学の主張を排し、ヒトを単なる動物の一種と捉えている。しかし、この考え方では現代文明の様々な課題に対処できない。よって、人類学は、過去の「人間中心主義」とは異なる、新たなるヒューマニズムを模索している。
 文化とは、遺伝に寄らず、学習を通じて世代を超えて伝えられる。世界中のありとあらゆるヒトは文化を持っている。また、文化は集団を作ることが知られている。英語で宗教「religion」という言葉があるが、この語源はラテン語の集まるという言葉より来ており、文化と集まるということの関連性を示している。文化は自然環境への適応能とみなせるが、非適応的な文化もあり、単純ではない。
 文明は、約1万年前に誕生した。この時期世界各地で農耕や牧畜が開始された。これらが何らかの因果関係があるとする説もあるが、講演者は独立に始まったと考えている。以後、正のフィードバック、すなわち原因が結果に対し促進的に働く、ことにより自動的に発達した文化システムが作られていった。このような正のフィードバックが招く人口増加は、地球環境には非適応的である。農耕が始まったことによって、土地が私物化され争いの原因にもなった。また、農耕が最初から正のフィードバックを生んでいたわけではなく、初期の頃は密集して済むことから伝性病が蔓延したり、同じものばかり食べることにより栄養バランスが崩壊したり、様々な困難に直面した。また、文明はヒトに普遍的ではない。実際、現代でも文明を受け入れてないヒトもいる。

 

■ ヒトに未来はあるか
 1970年代から現代文明に対する指摘は度々されてきた。代表的な書物を挙げると、『沈黙の春』、『成長の限界』、『文明化した人間の八つの大罪』などがある。このような指摘があったにもかかわらず何も変わらなかった。
 現代文明の問題点は挙げれば限りが無いが、例えば、人口増大、格差と分断、極限なき経済発展、戦争、難民問題、人権問題などが挙げられる。文化相対主義では、全ての文化に良い悪いはないとして文化の比較を避けてきたが、これからの問題に取り組むには全ての文化を比べ、共通なものを考えていかなくてはならない。その他の問題として、自然災害、過密からのストレス、情報爆発、パンデミックなどある。近年猟奇的な犯罪が多発している。これは人類学の立場からすると、過密によるストレスである。ネズミを密集した状態でケージに入れたものと、空間的に余裕を持って入れたものを比較すると、密集したケージではネズミがストレスを感じ異常な行動をとった、実験が報告されている。また、過度なグローバル化により、人類学的に世界中が一つの集団の様になってきた。これにより今後、パンデミックによる脅威は一層深刻になるだろう。

 

■ 狩猟採集民
 現代でも狩猟採集民は残っている。世界で40民族、総人口にして70万人いると考えられている。自然環境の適用により様々な生業を持っているが、農耕や牧畜をしていないのが特徴である。例えば、熱帯地方の遊動生活者のサン、ピブミー、ネグリトなどが挙げられる。アイヌの様に、定住していて、多少の植物栽培や交易をしている場合も狩猟採集民に含まれる。度々、狩猟採集民が先住民族と混同されて使用されているが、先住民には狩猟採集民と農耕民があり、両者は区別されるべきである。
 狩猟採集民の生活様式には学ぶべきものがある。彼らは小さいことは良いことだと考えている、これは不要な消費や生産などをしないということだ。また、土地は私有せず、共同利用し、食べ物や他の品物は平等配分し、極めて平等な社会と言える。また、食事は家族で共食しコミュニケーションの手段としている。リーダーはいるが、身分や階級は存在しない。男女の権利は平等ではあるが、役割分担はある。もっとも重要な点として、アニミズムを信仰している。アニミズムは宗教の原点であり、自然へ対する畏れでもある。過度な自然破壊などは、この畏れがあれば起きないだろう。
 しかし、近年の資源開発により狩猟採集民の生活地域が奪われている。例えば、フィリピンのルソン島北部パラナンのアグタ族は近年の多国籍企業の開発により、住処を奪われている。動物において「絶滅危惧種」を保護する法律や協定がありながら、「絶滅危惧」の民族を救う動きがないのは不自然である。現代の「絶滅危惧」の民族は積極的に救う必要がある。

 

■ 人類学者の社会的責任
 人類学とは「我々自身」を研究する唯一の学問である。狩猟採集民を研究し、現在の文明と比較することにより、現在の文明を「相対化」する。また起源への強い関心を持っており、その追求を常に行なっている。人類学は文化人類学と自然人類学に二分されているが、総合化できれば役に立つ学問になる。これまでは物理学の時代だったが、これからは人類学の時代になるだろう。
 講演の前半で、文明が発達することの弊害を述べたが、文明の自己規制は可能だろうか。経済発展の原理としては、新しく、便利で、金が儲かる、がある。人間はこれらが招いた結果について反省する必要がある。反省とは人間だけができる行為であり、非常に重要である。文明の自己規制を行うには、「反省」のように新たな理性の概念を導入する必要がある。それは合理的思考と共感である。

 

■ 総括
 本講演では、社会を人類学者の立場から解釈しその問題点や課題などを取り上げた。講演者は、現代社会の抱える問題は、狩猟採集民を参考にすることにより、解決できることを提案した。また、人類学は社会の役に立つことができる学問であり、今後重要性を増すことが期待できそうだ。

■ 質疑応答
Q: 様々な生物がアフリカを起源としているという話があったが、なぜアフリカで発生するのか。
A: 理由はわからないが、アフリカは生物学的に多様性が非常に高い。

Q: 人類を不幸にしてきたのは科学技術ではないだろうか。科学技術についてはどう思うか。
A: 現在の科学技術は物理帝国主義。代表的なのは原爆である。
Q: 物理の利用方法を決定しているのは科学者ではなく政治家では。
A: 一応そうです。ただ、科学技術自身にも問題のある可能性はある。

Q: 日本人の人種はどういう分類になっているか。
A: 遺伝子を見ると、縄文由来が30%、弥生人が70%となっている。日本人は基本的には雑種である。細かく見るとより多様な遺伝子が存在する。人は色々なところから来たが、日本独自の文化ができた。例えば縄文土器などは世界的にも優れている。日本の文化は美の文化と言える。これは大国の力の文と反対のものである。

 



 

「ロボットの未来」

2017年6月1日
慶應義塾大学理工学部 今井倫太教授
記録者:森田一軌

 

■ 講演者略歴
平成 3年 - 平成 6年 慶應義塾大学理工学部修士課程
平成 6年 - 平成 9年 NTT ヒューマンインターフェース研究所
平成 14年 - 慶應義塾大学 理工学部 ATR 知能ロボティックス研究所
現在   人工知能学会理事、慶應義塾大学理工学部情報工学科 教授

■ 概要
 講演者の今井氏は、慶應義塾大学理工学部情報工学科で人工知能の研究に取り組んでおり、今回の講演では人と人工知能の対話という観点から実例を挙げながら研究の紹介をした。

■ 人工知能の現在
 近年人工知能は爆発的なブームを迎えている分野であるが、突如として現れた訳ではなく研究自身は随分前から行われている。講演者が理事を勤めている人工知能学会は1986年より存在しているが、第二次ブームである1990年以降、会員数も右肩下がりだった。しかし第三次ブームはニューラルネットワークの登場により到来し、会員数が現在爆発的に増加している。このことから、人工知能は現在非常に注目されている分野であることがわかる。
 最近頻繁に話題に上がる深層学習もこのニューラルネットワークの一種である。深層学習の実現により、機械が勝手に学習できるようになった。例えば動物の写真を沢山学習させると、他の動物と犬の判別が可能になる。従来は『犬』がどのようなものか機械に教えなくてはならなかったが、深層学習では犬が映った写真を与えれば機械が勝手に学習できるようになった。
 最近の人工知能の飛躍的進化に伴い、人工知能が人間の仕事を奪うということが話題に挙がる様になった。有名なものはオックスフォード大学のMichael A. Osborneが発表した、人工知能に奪われる・奪われない職種 700位である。奪われる職種には、銀行融資の担当者、スポーツの審判、不動産ブローカー、レストランの案内係、動物のブリーダーなどが挙げられている。これらの職種には3つの特徴がある。それは、データ分析及び結果を利用する仕事、基準が明確で厳密性を問われる判定をする仕事、定型的な作業や定型的なやりとりをする仕事、のいずれか複数に分類されることである。このような作業は機械が得意であり、人間より正確かつ効率良くこなすことができる。逆に、奪われない仕事として、レクレーションセラピスト、メンタルヘルスと薬物利用者サポート、ヘルスケアソーシャルワーカーなどが挙げられる。これらの仕事はインタラクションスキルが必要とさせる。現状このような作業は人工知能が苦手としているが、今後人工知能が社会で活躍するには人とのインタラクションをできるようにする必要がある。


図1:ロボットとの関係性の実験

■ 人とロボットの会話
 科学の興味は自然法則の理解から始まり、それを利用する道具の時代現在いたっている。これからは、心や感情の問題を扱う人工知能の時代が訪れると予想される。インタラクションの有用性を発揮した例として、MITのロボットの例がある。このロボットは極めてシンプルで、何かを見せるとそれを見る。例えば、腕時計を見せると腕時計の方を見る。また、このロボットは相手と目を合わせるようになっている。これらの動作を見ると、人はこのロボットに心があるように感じる。
 インタラクションに似て非なるものの例として、駅にある切符の自動販売機が挙げられる。販売機に人間が近くと、販売機は行き先や日付に関する質問をしてくる。質問に答えているうちに求めている切符を買うことができる。一見これはインタラクションに見えるが、自動販売機はあらかじめ決められた質問をしているだけであるから、これはバッチ処理に分類される。真のインタラクションとは齟齬が生じることが前提に、生じた齟齬を瞬時に修正しながら行う。
 人間はこの齟齬の修正を日常的に行っている。例えば高速道路の分岐で助手席の人が「そっち」と言い、運転手は「え?」と聞き直すとしよう。聞き返された助手席の人はより分かりやすく説明するだろう。この会話は誤解を含んだ上で成立しており、現在の人工知能で再現するのは難しい。
 会話を円滑に行うための条件はいくつかあるが、講演者は実験により会話する者同士の関係性が重要であることを示した。実験では自律走行するロボットがゴミ箱の前まで走り、「ゴミ箱をどけてください」と言う。これを何人かの試験者に試験した。いきなりロボットが現れると、実際にゴミ箱を移動させた人は少なかった(図1)。しかし、ロボットが現れる前に、試験者に手元のコンピュータでキャラクターと遊んでもらい、それがロボットの画面に映るようにすると、ゴミ箱を移動させた人が格段に増えた。これは人間がロボットとの関係性を実感したためだと思われる。さらに興味深いのは、ゴミ箱を退けなかった人の殆どはロボットが発した言葉を理解できていなかった。このことから、関係性を感じていないと発言を理解しようとすらしていないことがわかった。


■ 情報共有の難しさ
 人間の優れている能力として共同注意というものがある。人は同じものを注目し、互いがそれを注目していることを認識できる。例えば、AさんとBさんがいたとし、AさんがXを見ていたとしよう。BさんはAさんがXを見ていることを認識することができる。さらには、Aさんは、BさんがAさんがXを見ていることを認識していると認識することができる。これは非常に高度な知性を要求し人間にしかできない。
 情報共有の難しさの例として、分散環境における情報共有が挙げられる。戦国時代、軍が離れた山AとBに別れて待機していたとする。敵を攻める際は、片方の戦力では不十分で同時に攻める必要がある。山Aで待機している軍が攻める時刻を決定した場合、その情報を山Bで待機している軍に伝えるためには早馬を送る。しかし、確実な情報伝達にはこれだけでは不十分である。なぜなら山Aの軍は山Bの軍に情報が伝わったか、または早馬が途中で殺されたか知る術がないからである。そこで山Bの軍が早馬を受け取ったということを伝えるために返事の早馬を送る。これでも、完全な情報共有ができたことにはならない。なぜなら、山Bの軍は返事の早馬が山Aに無事届いているか知らないからである。数学的にはこの問題は完全な情報共有を達成するためには無限回の早馬が必要だと証明されている。実際はある程度情報共有ができたら、見切りをつけるが、このような判断を人工知能にさせるには難しい。1回で情報の同期を達成方法はないわけではない。例えば、狼煙を上げる方法がある。狼煙を上げると確実に反対側の山に情報が伝わり、確認を取る必要はない。人間の動作でこれに相当するのは、目を見る行為や、相手のジェスチャーを真似る行為である。人間は無意識的のうちに高度な情報共有を行なっている。

■ 人工知能の擬人化
 人間の興味深い心理の一つとして擬人化が挙げられる。人間が物を擬人化する条件として3つ挙げられる。それは、人である事を想像させる情報の出現、背後に意図の存在を感じさせる行動の出現、人間側の社会的繋がりの要求、である。人が人工知能に対し恐怖を感じるのは擬人化の結果だと考えられる。もっともわかりやすい例として、「人工知能に奪われる職種」とあるが、物であるなら適切な表現は「便利になる」などであり、「奪われる」という表現を使う時点で無意識に人工知能の擬人化が行われている。

■ 総括
 本講演では、人間とのインタラクションという観点から人工知能について紹介された。講演者曰く、近年人工知能は短所が議論されることが多いが、賢く利用すれば社会をより良くすることに大きく貢献できるという。これを講演者は「社会の潤滑剤」と言う言葉で表していた。また、現在のコンピュータが得意とする単純作業やデータ処理以外にも、人工知能が今後発展すれば、心のケアや日常会話などの心理的な分野でも活躍が期待できる。

■ 質疑応答
Q: (試験者に対し)事前にロボットが出てくることは予告していないのか。
A: していない。

Q: (試験者に対し)これはなにか言い含めて連れてきているのか。
A: ロボットと実験するとは言っている。

Q: 台風には人の名前をつける、B-29にも名前をつけている。タクシーもあったではなく「いた」という。無生物に対して生物のように対応している場合は多くある。
A: 人類は機械を理解するより、動物の延長として理解した。

Q: かなり未来のものだと思って描いてきたSFなどが、今は現実に近づいてきているのでは。実際、ディープラーニングも進化してきている。深層学習はコンピュータではあるけど、人の心をシミュレートできる能力を持てるようになるのでは。AIを用いることにより、ロボットが人の心を読むことができるようになるのは可能だろうか。
A: 心を再現することは心の定義がないからわからない。人がどのように考えているかの予想は近いうちに可能になるのでは。人のジェスチャーとそれに対する心の対応付けがディープラーニングを用いることによって可能になるのでは。現在のAIは確率的に物事を対応させられるよう進化してきた。今後もその方向に技術が進むだろう。

Q:人間は善でも悪でもある。善人も悪をすることもある。AIも悪になる可能性もあるのでは。AIの進化になんらかの上限を儲けるべきなのか?
A: ロボットが悪を働く場合、最悪外部からロボットに働きかける必要がある。しかし、悪を決めているのは社会。つまり、ロボット内のロジックとして導き出された答えが社会にとって悪になるかもしれない。それを最後に止めるシステムをつける必要がある。

Q: ロボットに判断を与える場合はどのような判断基準を与えるか。例えば、私が誰かを殴りたいと思った場合、ロボットが先読みして嫌いな人を殴ったりしたらどうするか。
A: 未来にならないとわからない。最後は約束。意図は約束の元で考えた選択肢。ロボットは殴ると判断する場合は主人との約束次第で決定する。主人の意図を100%守る約束だと殴ることになる。この場合は行動前に確認するようにすればよい。

Q: 将来的にロボットはその中で完結したものになるのか。もしネットに繋がっていたら、いきなり世界中のロボットが暴れ出すのでは。
A: おそらくネットに繋がる。繋がることによるメリットの方が多い。

Q: 4万年くらい前にhomo sapienceが生まれ、それから実際には存在しない抽象的なものを認識できるようになった。これは、ある段階で起きた突然変異の結果である。いずれAIは自己学習ができるようになるのでは。AIは進化が早いから2,30年で到達できるのでは。
A: コンピュータは人間とは全く違う仕組みで物事を判断するものになると考えられる。人間が簡単だと思う問題もコンピュータには難しかったりする。例えば、パイ生地をこねる動作がある。パイをこねる動作はもっとも近い点がもっとも遠くなるから、カオスであり、コンピュータはそれのシミュレーションができない。なぜなら、コンピュータは扱える桁数が決まっているからである。今のコンピュータでは人間みたいなものができない可能性もある。コンピュータはある特定な分野で賢くなると予想される。人間は進化により、相手の心が読めるようになった。「お前これ知っているか」が言えるようになった。それができるようになったから文化的に進化した。DNAによる進化はハードウェアだから細いが、文化はソフトウェアだから多様性がある。心を読むのは人間にしかできないと言ったが、実は、猿もトレーニングすると心が読めるようになったとの例もある。

Q: コンピュータも自主学習ができるようになるのか。
A: データをどのように定義するかによるが、見方によっては、自主学習できる。広い意味では既にできるようになっている。

Q: AIは人間が進化させている。軍事利用なども想定される。これから、AIになにがおきるのか。
A: インターネットにAIを置いておいて、誰でも教育できるようにしたら、AIはナチスを擁護するような発言をした。これは、人間がAIを社会の一部として認識していないから発生した。社会のメンバーであれば間違った教育をすると社会にデメリットがあるから、正しい教育をする。つまり、現在AIは社会のメンバーではない。機械をどのように人間の一部にするか、社会の仕組みを考える必要がある。

Q: AIによる作曲などは可能か。
A: 音符はルールなどが決まっているからコンピュータにとってはやりやすい。

Q: ロボットをツールとして考えるべきという意見ですよね。ロボットは個性を持つことはできるか。
A: ロボットの一つの応用として、自分の代用があると思う。いずれは、「今日は寝ていたい」と考えた場合、自分の代わりとして振舞ってくれるようになる。その場合、そのロボットに自分らしさが必要。

Q: 人間は死を意識する。ロボットはできないのでは。
A: ロボットをそのように作ることは可能。しかし、基本的にロボットは均質的に動く。需要がないからやらない。

Q: 年を取ることに対応させて、自分好みのロボットにする。
A: それはできる。自分の代わりになるロボットを作ろうという話もあった。

Q: ロボットに心を持たせることはないのでは。人間は言われたことだけやるロボットが欲しいのでは。
A: そうだと思う。

Q: 人間は異なる文化で育ったら違う反応をする。その場合、誤解が積み重なることがあるのでは。
A: あると思う。実際に囲碁では、コンピュータが人間がやらないことをやるケースが見られている。将棋の例では、人間は将棋で王を守るが、AIは違う。プログラム同士で打ったら、人間にはわからないレベルだった。囲碁はプロが囲碁を深めるということをやってきた。100年後の人間がやる囲碁をコンピュータがやっていたのでは。

Q: 人間が良かれと思うのは、感覚で行なっている。コンピュータはもう少し狭い視野で考えているのでは。
A: ある意味でコンピュータはよく見えている。サッカーで例えるなら真上から見ることができる。

Q: ロボットが改良型のロボットを作れるようになったら危険では。
A: 現在AIは何を学習するかは自ら決められない。

Q: AIは目的を入れて、過程を探すのはできるのか。
A: できる。目的は人間が与えている。

Q: 人工知能ができたら、人間が努力する楽しみを失うのでは。
A: 車ができても100m走はなくなってない。実際にチェスでは、Advanced Chessという進んだ試みが行われており、そこではAIの意見を聞きながらチェスを打つ。コンピュータがいかに強くなっても将棋とかはなくならない。

Q: AIで占いとか手相とかは可能か。
A: 人間は同じものが同時に発生すると、因果を感じる。それを上手く用いれば可能。

 



 

【国連での体験から】 2016年5月11日
慶應義塾大学理工学研究科博士課程 野澤拓磨
記録者:森田一軌

 

■ 講演者略歴
平成 26年 慶應義塾大学 理工学部 機械工学科 卒業
平成 28年 慶應義塾大学 理工学研究科 開放環境科学専攻 前期博士課程修了

 

■ 概要
 講演者の野澤氏は,博士課程教育リーディングプログラムの一環として6ヶ月間国連の国連環境計画(UN Environment)でインターンシップを行った.インターンシップ中は,主に環境問題の文献調査に取り組み,本講演では,その一例として鉱滓に関する問題を紹介した.


図1:国連環境計画(UN Environment)のジュネーブオフィスの外観

■ 国連の紹介
 国際連合(国連)は多数の国際機関によって構成されている.各組織は別々のテーマを目標にしており,それぞれ異なる機能を有している.国連環境計画(UN Environment)は国連総会内の諸計画・基金に属している機関である.UN Environmentは世界中に拠点があり, 地球の環境問題の解決を手助けすることを目標にしている.講演者が滞在したジュネーブオフィス(図1)のChemicals and Waste Branchでは,人体や環境に有害になりえる化学物質および廃棄物の各国・各地域の管理を取り扱っている.

 

■ インターンシップについて
 UN Environmentでのインターンシップは平日9時から17時までを勤務時間とするフルタイムであるが,給料が支払われることはない.インターン1人に対し1人の上司がつき,その上司が仕事内容を決定する.仕事はコンピューターを用いる作業が殆どで,各インターンに1台ずつコンピューターが与えられる.上司によってはインターンにルーチンワークを与える人もいるが,幸いにも発表者の上司は難易度の高い仕事や発想力を要求される仕事も任せてくれる人だった.ちなみに,この上司は非常に多忙な人であり,常に100件以上のプロジェクトに関わっており,年間で80日は国外で過ごしている.国連職員への応募は通常の日本企業などとは異なり,公募が出ているタイミングで応募しなくてはならない.仮に採用されたとしても,契約は有期であるため,契約終了までに次のポストを常に探し続けなくてはならない.しかし,全員が数年で国連を出て行くわけではなく,中には10年くらいの職歴を持っている人もいる.職員は事務職と専門職に分かれており,基本的に専門職が主体的に活動し,それを事務職がサポートする形を採っている.

 

 

■ プロジェクトの事例
 インターンシップでは,複数のプロジェクトに携わったそうだが,今回の講演では,鉱滓に関する調査の内容が紹介された.鉱滓とは,金属の採掘および製造過程で出現する副産物であり,毒性が強い重金属を含んでいるため適切に扱う必要がある.近年,鉱滓の誤った方法による廃棄が問題になっており,鉱滓を安全かつ環境に負荷が少ないように処理する方法を採用するように求めてられている.特に,水銀,鉛,カドニウム,ヒ素は人体に深刻な健康障害をもたらすことから,正しい方法で管理される必要がある.例えば,水銀は水俣病に代表されるように,深刻な中枢神経系障害をもたらす.(UN Environmentは,水銀の扱いを国際的に規定する「水銀に関する水俣条約」を提案しており,現在までに世界43カ国がこの条約に批准している.この条約は名前の通り,水俣病のような水銀由来による病気を再発させないことを理念としていることから水俣病から名前を取っている.) その他の問題として,硫黄化合物が挙げられる.硫黄化合物は鉱山に多く存在するが,水と酸素の存在する環境において,硫黄酸化物が化学反応を起こし,硫酸が生成される.硫酸は土壌を酸化し,深刻な水質汚染や生態系破壊を引き起こす.すなわち,鉱滓中の硫黄化合物が化学反応を起こすことができる環境にある場合,生成物によって環境が汚染されるリスクがあるため,鉱滓は安定な環境に安置される必要がある.
 
図2:鉱滓の処理過程

 

 

 

■ 鉱滓の前処理
 鉱滓の廃棄の方法として,地上に保管する方法,埋め戻す方法,投棄する方法などある(図2).鉱滓は生成された状態では

大量の水分を含んでおり,有害物質が周囲の環境への流出するリスクが高い.そこで,鉱滓を廃棄する前に脱水する処理が行われるようになった.脱水方法には,処理の強さに応じて段階があり,一部の水分を取り除き泥状にする方法から水分を殆ど含んでいない土状にする方法まで様々な方法が考案されている.当然のことながら,水分を多く取り出す方法はコストが高いが,鉱滓の流出によって周囲へ汚染が広がるリスクは大きく低減できる.


■ 鉱滓の廃棄
 鉱滓の最終的な廃棄は,鉱滓ダムに安置する方法,地中に埋め戻す方法,河川や海洋に投棄する方法などが提案されている(図2).日本は古くから鉱滓ダムを運用してきた実績があり,ノウハウも蓄積されているため,他国への技術提供も行っている.鉱滓ダムはシンプルな反面,広大な敷地面積が必要や十分な降水量が必要などの制約があり,建設できる地域が限定される欠点を持っている.地中に鉱滓を埋め戻す方法は,脱水処理した鉱滓とセメントの混合物をパイプラインで地中に戻す方法である.この方法では,鉱滓は地中深くに安置されるため,地上への影響を最小化することができる.しかしながら,脱水処理や漏水を防ぐためのバリケード建設などが必要でありコストは高い.地理的および経済的要因から河川や海洋への廃棄を行っている国も存在する.河川への廃棄が最も安価であるが,水質汚染や鉱滓が空気と触れるリスクがあることから,環境へ対する悪影響も大きく,現在は減少傾向にある.海洋への廃棄も同様に行われており,生態系への影響が懸念されている.現在,インドネシア,パプア・ニューギニア,ノルウェー,トルコなどの国は河川・海洋への鉱滓の投棄を行っている. IMOやUN Environmentを中心に, 環境への影響の調査が進められていており, 将来期には河川や海洋への投棄を減らすような動きが出てきている. 特に,発展途上国においては技術的・経済的理由から鉱滓ダムが建設出来ないケースが存在し,UN Environmentは対策法を模索している. 現在は,鉱滓廃棄による人体や環境への汚染を最小限にするため,鉱滓に含まれる毒が深海の生物に与える影響,海洋生物の増減,毒物の生体内蓄積,汚染から回復までの時間の調査を行われているが,まだまだ研究は不足しているのが現状である.

まとめ
本講演では,UN Environmentでの活動の一環として,鉱滓に関する文献調査を紹介した.講演者曰く,UN Environmentには環境問題に対処するための条約を制定する機能と,その条約の実行をサポートする機能があるという.いずれの場合も国連は国家間の中立のサポーターとしての役割を担っており,プレイヤーである国家に情報や技術を交換する場の提供や経済的支援を行うことが国連の重要な役割である.

 

■ Q&A(重要なものを抽出,重複するものは省略)
Q: 残留性有機汚染物質(POPS)の具体例.
A: ダイオキシン,プラスチック.これらは分解がなかなかされず残る.

 

Q: フロンは廃棄物の分類ではどれに分類されるか.
A: オゾン層破壊物質(ODS).複数の廃棄物の分類に含まれるものも存在する.これらは世界的に取り組まないといけない.

 

Q: 農薬は廃棄物の分類ではどれに分類されるか.
A: 残留性有機汚染物質(POPS),もしくは,難分解性,生物蓄積性および有毒性を有する物質(PBTs),重金属などが入っている.

 

Q: 出張は遠いから大変なのか.
A: 出張は基本的に自腹だから大変.UN Environmentはインターンに支払う予算を持っていない.

 

Q: インターンシップは国からの支援が前提か.
A: 殆どが自腹.インターンは基本的に学生を対象にしているが,修士を終えてから来ている人も多い.ジュネーブは物価が高く,経済的支援なしでは生活が厳しい.国連内のインターンの待遇改善を要求するストライキが3ヶ月に1回程度の頻度で起きる.国連総会に属していないILOやWIPOなどは給料が出ることもある.

 

Q: インターン募集はあるのか.
A: 職員と同じで,就職試験のようなものがある.基本的に今回も自分で応募しており,学校からの推薦などは受けていない.公募期間は短く,2週間で閉まる.自分は行く前に中の人と合う機会に恵まれ,そこからアンテナを張るようにしていた.面接は40分ほどで,チームマネジメントや男女平等についての考えなどを聞かれた.面接の内容は,コアコンピテンシーに関する5つのトピックから選ばれる.

 

Q: (環境問題の調査について)書類などを調べるだけではなく,現地調査に行く必要があるのでは.
A: インターンの仕事は文献の調査がメイン.その文献の中には,職員が現地に行ってまとめたものが含まれるため,現地の情報も調査に含まれていることになる.

 

Q: 露天掘りを埋め戻す作業は発展途上国でも行われているのか.
A: 雑に処理しているケースが多い.

 

Q: 昔は水銀を破棄するために埋めていた.あれは,大丈夫か.
A: 水銀単独では基本的に無害だが,他の物質と反応することを考えると潜在的な脅威ではある.

Q: 最近でも使われているものがあるのか.水銀はスイッチに使用されていたこともある.
A: 一部の製

品に使われているが,日本では管理されている.発展途上国だと金の生成に水銀が使われる例もある. 国連は水銀を使用しない方法を採用するようにガイドラインを作成している.

Q: このような水銀の使用に対し国連は規制しているのか.
A: 規制はしない. 国連の条約には基本的に法的拘束力はないが,各国が動き出せるようにきっかけを作っている.

 

Q: 水俣病のとき,国連はどのような役割を担ったか.
A: 当時は,水銀がもたらす被害について十分に知られていなかった.

 

Q: (鉱滓の処理について)採掘時に作った穴をセメントで固めてそこに鉱滓を埋めるという方法は可能か.
A: 埋め戻しのコストが高い.よって現在は鉱滓ダムが使われている.

Q: 埋め戻しはコストがかかることから実行するとは考えられない.国連としてはどのように対処するか.
A: 国連は情報提供することにより,各国に鉱滓のリスクを伝えることが役目.

Q: もし水俣病みたい

なものがあったら国連はなにするか.
A: 国連は関係国と協力し,問題解決の手助けを行う.

Q: 問題解決の方法を研究する費用は国連が払うのか.
A: それぞれの国のシンクタンクなどによって研究されることが望ましい.その国が技術を持っていない場合,国連が技術を持っている人材を紹介できる.

Q: 鉱滓の破棄はOECD各国では禁止されているのか.
A: 国際条約がないため,各国の善意によって行われていると思われる.日本では鉱滓ダムが使用されるケースが多い.

Q: 問題がある場合,国連はどのように働いて解決できるのか.
A: 国連の役割は,ガイドライン作成とそれを達成するためのサポートの2つある.現地でのプロジェクトに関しては,国連は政府の依頼がないと動けないと思われる.

Q: 国家を越えて,国が相手にしないことを国連に言うことはできるのか.
A:啓蒙活動は行っている.国家に不利益を与えることは基本的にできないと思われる.

Q: 核廃棄物が近年問題になっているが,核廃棄物を扱う組織はあるか.
A: IAEAが行っているはず.核廃棄物のガイドラインはあるかどうかわからない.IAEAは国連の総会には所属していない

が,国際機関ではあり,国連の各組織との連携はできる.

Q: 原子炉の核廃棄物として毒性が非常に高いプルトニウムが出るが,このような危険物質の対策はどうするか.
A: 対策には2つアプローチが考えられる.1つ目は核廃棄物が増えるのを抑えること.2つ目は既存のものを減らすこと.

Q: 国連はリーダーシップを取って地球規模の問題を解決することはできるのか.
A: 歴史的に気候変動がそうだったように,今後国連が先んじて問題解決に取り組む可能性はある.

 

Q: 農薬問題.十年間で生産が倍になっている.地球に残るのか
A: 残る.農薬に関する条約はいくつかある.

 

Q: エボラ出血熱のとき,国連はどのように動いたか.
A: 国連は災害時の動きは速く,人と物資を派遣し



2015年9月3日
交詢社地球環境研究会例会 講演録
記録者:小暮亮介
講演者:オフィス・マサル・エモト代表、IHM総合研究所所長 根本泰行先生
講演題目:「水からの伝言」と「新しい水の科学」

 

講演概要:構成は2部に分けられた。前半は、故江本勝博士についてと彼の功績である波動カウンセリングや、水の結晶写真撮影法についてだ。後半は最新の水の科学についてのお話を2人の科学者を中心とした解説だった。

 

江本勝博士とは
科学というより直感を大事にする人である。2011年にはワトキンス・レビューのスピリチュアルな面で影響力の最も大きな100名の存命の人々というものに18位でランクインした。著書である『水は答えを知っている』はニューヨーク・タイムズのベストセラー25週以上のランクインという快挙。ランクインは日本人2人目だが、江本氏は同時に2冊のランクインということでこれは日本人初の快挙である。

 

江本博士の業績
彼は水が情報を記憶・伝達することを示唆した。水の記憶という見えないものを見るために、波動水を用いた波動カウンセリングや水の結晶写真撮影法といった方法を探した。

波動水を用いた波動カウンセリング
江本博士はMRA(共鳴磁場分析器)をアメリカから輸入した。この機械を使い、水に情報を刻印した。医学的には証明されていないものの深刻な病が良くなった例は多数報告されている。

 

水の結晶撮影法
江本博士が水の結晶を撮影しようとしたきっかけは北海道大学の中谷教授の「雪は天から送られた手紙である」という言葉である。
水を1滴たらし、−30℃の冷凍庫で凍らせてできた結晶を顕微鏡で観察するというものだ。江本博士は雪の結晶がその雪のできた時の環境を示しているのと同じように水の情報を結晶から読み取れると考えたためだ。

 

(写真:P4東京の水道水)(写真:P5 山梨県三分一湧水)(写真P5 隅田川)

 

上の写真は根本先生のレジュメの中から3つの例である。塩素が入っていたり、汚れている水だと結晶ができにくいと推測し、体にいい水は結晶を作りやすいという仮説をたてた。

 

様々な効果
下にイルカの写真を置いた水から作った結晶にはイルカが集まっているような模様ができた例がある。他にもゾウの写真だと象の鼻、出雲大社の写真ではしめ縄の形の模様が出た。
※ 全部が全部というわけではなく、複数の結晶を用意しても1つ出るか出ないか。
紙にばかやろうと書くよりもありがとうと書いて水に見せたほうがきれいな結晶ができるといったこともある。


「水からの伝言」の概要として以下の3点があげられた。
① 良い水は美しい結晶を作り、悪い水は全く結晶を作らないことが示唆された。
② 水は、音楽やイメージや言葉や、祈りなどによって変化する可能性がある。
③ 水は「愛」「感謝」の波動を最も好むようである。

 

ここまでが前半部である。

ジェラルド・ポラック博士の研究
ワシントン大学生物工学科の教授であり、水の研究者である。
アインシュタインの3大功績とは「特殊相対性理論」「光量子仮説」「ブラウン運動」の3つの理論の発表である。そのうちの1つである、「ブラウン運動」についてポラック博士は否定し、液体・固体・気体に次ぐ「第4の水の相」を考えなければならないとした。第4の水の相とは固体と水の液体の間の存在である。アインシュタインを否定した理由として水滴が水の表面に浮く理由が表面張力だけでは足りないことを主張した。


物質の表面は2種類に分けることができる。親水性(ペットボトルなど水にぬれるもの)と疎水性(レインコートなど水をはじくもの)である。
親水性の固体を小さな黒い粒の入った水の中にいれると、黒い粒が固体の反対に向かって移動し、水と固体の間に黒い粒のない層ができる。これを「排除層」という。


(写真:P11 右下第4の水の相はどこにでも存在する)

 

その排除層だけを回収すれば綺麗な水を入手することができる。この第4の相は一般的に水を示す「H2O」ではなく「H3O2」で構成されていることが特徴である。
Hは1の電荷を持ち、Oは−2の電荷を持つことからH2Oは中性であり電荷を持たない。しかしH3O2は−1の電荷を持っていることになる。この電荷を利用して電池として使用することは可能である。また、光エネルギーを排除層にあてると排除層は厚くなるので充電池ともいえる。研究の結果第4の水の相を形成するために最も有効だったのは赤外線であった。

また、ポラック博士には親水性のチューブを用いた実験もある。これは心臓のポンプ作用でのみ血液が循環するのはパワーが足りないのではとした博士が、光エネルギーが循環を助けていると仮設をたてて行ったものだ。チューブの中心にたまったヒドロニウム・イオンがお互い反発することで水の流れが生じる結果になった。

 

これらの実験からの結論として
① ポラック博士の「第4の水の相」により、人間の感情や意識、祈りなどによって、水の構造が変化する可能性がある。
② このことから、「水からの伝言」が本物である可能性が示唆される。

 

リュック・モンタニエ博士の研究
HIVを発見した功績で2008年にノーベル医学・生理学賞を受賞した人物である。彼が水の記憶について調べようとしたきっかけとしてエイズを見つける作業があげられる。彼はマイコプラズマが入ってこないようにろ過した水を使用したにも関わらず、再びマイコプラズマが発生した。水にDNAが存在しないにも関わらず発生したのは水がマイコプラズマを記憶していたのではないかと推測した。そこで彼は次の水の記憶についての実験を行った。

DNA(長さ104文字)の希釈溶液を用意した。この溶液からはEMS(電磁波信号)を発するようになった。DNA溶液のそばに純水を置いて放置した18時間後に水からDNA希釈溶液と同じEMSを発するようになった。これはEMSを通じての情報伝達だといえる。尚、7ヘルツ前後の電磁波がないと信号は発されないことも分かった。これはシューマン周波数の有無に差をつけることでわかったことである。

※ シューマン周波数…自然界に存在する電磁波で7ヘルツ前後。1ヘルツ4万キロ(地球1周と同じ為)定常的に進む。

その後DNAを増幅させる効果のあるPCR反応液を純水に投入すると純粋から長さ104文字のDNAを回収することに成功した。


このDNAを配列解析すると104文字のうち102文字が同一であった。

モンタニエ博士はこの次にDNAのテレポーション実験を行った。DNAをEMSとして録音し、別の研究所におくり、別の研究所で水に送られてきたEMSの録音を聴かせた。その後純水にPCR反応液を投入すると同じ配列のDNAを回収することに成功した。

 

実験の結果より、以下のことが示唆される。
① DNAの情報は、電磁波信号として、水に転写することができる。
② このようにして水に転写されたDNAの情報は再物質化することができる。

またこれらから波動水を用いた波動カウンセリングが本物であることが示唆される。


まとめ

両氏の実験より、江本博士が直感的に得た2つの結論(水からの伝言、波動カウンセリングは本物である)が正しいことが強く示唆されている。
宇宙で最も複雑な物質とされるDNAすらも水は記憶することができた。地球型生命の情報は彗星の氷を通して宇宙の水からもたらされた可能性がある。

 

質疑応答
Q. 実験で使用したDNAは特殊なものか。
A. 特殊なものではない。実在するなかで短いDNAを使用した。
Q. 第4の水の相は凍るのか。
A. 氷に変化する。第4の水の相とは固体と液体の間の存在である。
Q. 水の結晶が雪の結晶と比較して芯が大きいことに理由はあるのか。
A. 最初の核の構造がその後の形成を決めていると推測している。
Q. ありがとうの文字を使ったものは水が文字を読んだのではなく、実験者の波動を感じたのではないか。
A. 水が文字を読んだだけではなく、文字と人両方の影響を受けていると思われる。江本博士は写真を見るだけで3人の撮影者のうち誰が撮影したかわかっていたこともある。これは水が撮影者の波動を感じた影響だと思われる。
Q. (結晶観察で) 顕微鏡で見るときには結晶の羽がでてしまっているのではないだろうか。
A.  スピード勝負。いかにスムーズに作業を行うかが大事である。
Q. 何かをしたほうが良い結晶ができるというのは実験者の思い込みではないか。
A. 実験時にそれがなにかわからないように「ブラインド」という手法を二重にかけた。その上で統計学的に優位な結果がでた。ブラインドは多ければ多いほど結果がより正確なデータになる。
Q. 水道水に祈りを捧げれば良い水になるのか。
A. 信じれば変えられると思えばできると思う。水道水ではないと思って飲めばいいのではないだろうか。人々はこの世に存在する仕組みのもと生きているため、仕組みになれた結果自然に発生した思い込みが原因の事象もあると思われる。
Q. 水を凍らせたらその中の情報は保存されるか。
A. されると思う。
Q. 第4の水の相を使ったビジネスはあるのか。
A. ビジネスをしていた人がいたが先日亡くなってしまった。根本先生の研究所では水を持ち込むとその水の結晶を撮影するビジネスは行っている。

 



2015年8月6日
交詢社地球環境研究会例会 議事録
講演者:GNH研究所代表幹事・大東文化大学兼任研究員 平山修一先生
講演題目: 「国民総幸福度〜如何に日本に応用できるか〜」
記録者:小暮亮介

 

講演概要
 青年海外協力隊等に参加しブータンで活躍した平山氏による日本の一般人の基本的なイメージである「GNH=ブータン」というものから離れてGNHというものを理解し、またそれをどう日本に活かしていくべきかという講演だった。

 

1. ブータン王国概要
 人口が70万人で国境は大国である中国とインドの2カ国に挟まれている。平山氏はイメージとして東京都足立区がこの2カ国に挟まれているようなものとした。中国の脅威というものを常に感じており、政治的にインドに傾倒しているそうだ。主要産業としては発電、農業、観光である。観光は米ドルを手に入れる貴重な産業である。しかし、発電、農業はインドルピーで収入を得ていて、石油もインドからのパイプラインであることから経済的にもインドに依存しているといえる。

 

2. GNHとは
 そもそもGNH (Gross National Happiness)とは1972年に当時の第4代国王のジグミ・シンゲ・ワンチュクが提唱したもので、国民全体の豊かさ・幸福度を示す尺度である。平山氏はこれを「個人が幸せを感じることができる環境つくり」とし、この政策で国民の幸福感受力の育成を行っているのではないかとしている。
 平山氏はGNHが生まれた要因として、近隣のインド、中国による併合政策からの独立維持をあげた。第二次大戦後、中国はチベット、インドはシッキム、カシミールの併合を行った。インドとの国境に関しては、1914年にチベットと大英帝国領インド帝国の間でマクマホンラインがひかれたが、そこには中国が領有権を主張する土地が含まれている。中国は当時その取り決めに参加していないのでマクマホンラインは認められないとして領有権を主張している。ブータン国民は中国と接するリスクというものを感じていて、いつ「ブータン」という国家が地図からなくなるかわからないという危機感を持っている。GNHはブータンを国際社会において幸せの国ということでアピールしている。

 

3. 国の政策決定
 

      

 

      (ブータンの政策決定の仕組み:平山氏レジュメより引用)


 行政が住民に参加し、住民ニーズを参考に政策に反映することや、国王の地方訪問時に直訴ができるなど住民の政治参画が特徴である。国会と王の間に双方の監視システムが作られ権力の暴走を抑えている。国会で決まったことはGNH委員会(元王立計画委員会)に送られるのだがここでGNHの理念に則したものかどうかを精査し、予算を与える。GNHはブータンの基本方針であるのだ。理念として4つあり、以下のとおりである。
    ・ 持続可能かつ公正な社会経済発展
    ・ 環境の保全

    ・ 伝統文化の保全と促進
    ・ 良い統治(政治)

 

4. 日本への応用
 平山氏は、途上国は社会的に遅れているわけではなく、発展の仕方や方向性が違うだけだとした。例えば東南アジアでは亜熱帯性の病であるデング熱の対策は日本と比べて進んでいる。先進国である日本が一方的に支援するだけではなく、日本にはない必要なものは積極的に取り入れることが必要である。特に今後の気温上昇が予想される日本にとって亜熱帯性の病気の知識を集めることは重要だとした。
 現在、日本の一部の地方自治体では独自に幸福指数を策定していて、平山氏はGAHという荒川市の幸福指数に関わっている。日本の自治体のGNHの中では荒川区が最もすすんでいるといっても良い。しかし、多くの自治体では調査をするだけで調査結果を政策に活かすということは行われていない。ブータンのGNHは世界へのアピールだけでなく、政策評価も兼ねている。また「幸せの国」というイメージが観光客の訪れるきっかけになっているようだ。GNHという表面を取り入れた日本はこれからどう政治に生かしていくかを考える必要があるとのことだ。

 

5. 幸福とは
 幸福とは人によって個人差があり、何をもって幸せとするかは人それぞれであるように、指標化することは難しいものであることから、平山氏は所謂ニーズベースの充足のみの指標化に疑問を感じている。最後に平山氏は次の言葉をあげ、講演は終わった。

 

「誰かを変えようとすることもなく、自分が変わろうとすることもなく、互いに理解しあって共に認めあう」

 

     


(祭りでのブータンの子どもたち:平山氏レジュメより引用)

質疑応答

1. ブータンに軍隊はあるのか。
あり。但し人数不足で作戦を行うときは民兵を募集する。中国との国境にはインドの国境警備隊が配備され、首都にもインドの駐屯地が置かれている。

2. 立憲君主制なのか。
日本の体制とは違うものの、国会には国王の罷免権があり、暴走できないようにしている。本来ブータンでは宗教指導者が王を承認するものだったが、2008年憲法で王の立場が上とされた。

3. GNHが将来使えなくなるのでは。
わからない。国のシンプルな指針として(平山氏は)評価している。

4. 情報統制はあるのか。
規制なし。

5. 世界の情報を見て不幸を感じたりしないのか。
インドのCMやアメリカの中産階級の映像を見ると自分と違うことを知る。ブータンは国民がブータン国民として生きていくことに価値を見出すことができる国づくりをしていくことが必要である。ブータン国民として生きる価値がなくなってしまったらブータンという国が残る必要はない。

6. 日本の自治体の指数についてやることに意味はあるのか。
中途半端。アンケートをやったあとのフィードバックが大事であることに気づかなければならない。

7. ブータンの調査の課題
インタビュー方法の改善。役人が訪問して調査するため、国民はやりにくさを感じるかもしれない。ただし、世界一幸福な国として存在感を出すには必要なことかもしれない。

 



 

2014年12月8日
交詢社地球環境研究会例会 講演録
記録者:澁谷泰蔵
講演者:

千代田化工建設株式会社 技術開発ユニット兼水素チェーン事業推進ユニット技師長 岡田佳巳先生

講演題目:「水素エネルギーの大規模貯蔵輸送技術-SPERA水素システムと水素サプライチェーン構想-」

講演者略歴:
1984年 横浜国立大学工学部化学工学科卒業
1986年 同大大学院エネルギー材料専攻終了
同年 千代田化工建設入社 研究所に配属
1988年 技術士(化学部門)
同年 研究開発センター 触媒2グループ グループリーダー
2005年 学位 博士(工学)取得 (横浜国立大学 主査:太田健一郎教授)
2009年 技術開発ユニット 研究開発センター 技師長
2013年 技術開発ユニット兼水素チェーン事業推進ユニット 技師長

 

講演概要:

 1970年代の石油危機以降,水素は次世代エネルギーキャリアとして注目されてきた.水素社会の到来には製造・貯蔵輸送・利用の各面における技術確立の必要があるが,日本はこれをリードしてきた.特に利用面での研究開発の成果は目覚ましく,現時点でエネファーム(定置型燃料電池)が市販されているほか,燃料電池自動車の販売も決定している.これらはどちらも日本が世界を先行している.一方で貯蔵輸送面では課題が多く,水素社会への障害となっていた.この解決法として注目されているのが,講演者らが確立したトルエンによる水素の大規模貯蔵輸送技術である.これはトルエンに水素を化学結合させ,常温常圧の液体状態で水素を貯蔵輸送する技術であり,タンカー等の既存インフラの多くをそのまま転用できるのが大きな利点である.要素技術が揃い始め,日本が主導する本格的水素社会の到来が見えてきている.

 

■水素社会を取り巻く社会状況
日本政府は水素を重要な2次エネルギー(エネルギーを貯蔵するもの,エネルギーキャリア.化石,原子力,太陽などの1次エネルギーを水素に変換し,貯蔵するということ)と位置づけ,2014年6月23日に水素燃料電池戦略ロードマップを示した.
http://www.meti.go.jp/press/2014/06/20140624004/20140624004-2.pdf
この中には主に以下3つの目標が含まれている.

 

1.定置型燃料電池の世界最速普及
2020年までの定置型燃料電池(エネファーム等)140万台導入

 

2.FCVの世界最速普及
2015年の水素燃料電池自動車(FCV)販売開始,100ヶ所の水素ステーション設置.
講演者コメント:プリウスが売れるまでに15年かかった.順調に行くとすればFCVの本格普及は2030年頃であると予測される.
 
3. 火力発電での水素利用開始
2025年の水素の火力発電利用開始などの目標が含まれている.

この他,霞が関での公用車利用や,舛添都知事の「競技施設,選手村で一切ガソリン車を排除する」という発言(2014年10月のベルリンでの講演)など,国家を挙げた推進体制が整いつつある.

 

■新エネルギー基本計画における二次エネルギーとしての水素
水素エネルギーはその資質から2014年4月に策定された新エネルギー基本計画の基本方針である3E+S(Energy Security, Economic Efficiency, Environment + Safety)に適合する. 水素は製造原料の代替性が高く,化石燃料からの抽出や製鉄所などの副生水素のほか,再生可能エネルギーや原子炉などを含む多様な一次エネルギー源から様々な方法で製造することができる.こうした一次エネルギー源を地政学的リスクの低い地域等から安価に調達することも検討されている.また製造時に二酸化炭素貯留・回収技術(CCS)を組み合わせれば,化石エネルギー由来の水素であっても,環境負荷を小さくできる.さらに,安全性もガソリンと同程度にできると考えられている.

 

■水素サプライチェーン構想
水素社会の実現には水素の製造・貯蔵輸送・利用の全てが実現され,水素サプライチェーンが完成されねばならない.ここでは製造と利用に関して述べる.

 

●製造
・化石燃料からの抽出+CCS
天然ガスやシェールガスを水素と二酸化炭素に分離する.二酸化炭素は枯渇ガス田に注入し地下貯留する(CCS).このCO2は化石燃料の枯渇後,水素と組み合わせて合成ガスを作り石化製品の原料として利用できる.CCSはコスト的に見合わないため,当面国内での利用はない.
・再生可能エネルギーからの製造
オーストラリアやパタゴニアの風力やロシアの水力など,安価な再生可能エネルギーで水を電気分解することが考えられている.国内では太陽エネルギーから燃料への変換効率10%を目標にした光触媒の研究が進んでいる.これは太陽光で水素を直接分解する技術であり,人工光合成ということである.ごく最近,東芝の人工光合成が1.5%の効率を達成したことがニュースになった.つい最近まで効率0.2%程度だった事を考えれば1.5%というのは大きな進歩であり,10%も不可能ではない.

●利用
・大規模利用
火力発電所で水素を燃焼させ,タービンによる発電を行う.これにはインフラの変更が必要である.石炭と水素を50:50で混合燃焼させると,天然ガスよりCO2の排出が少なくなることが知られるほか,水素専焼用大型タービンを作れるというメーカーも出てきている.
・小規模利用
燃料電池自動車・バスやエネファームによる家庭での発電が基本にある.供給のための水素ステーションの能力・規模は拡大する.これを空港やコミュニティ用にすることも考えられている.別の話題として,ドイツのPower to gasという計画がある.これはドイツ北部にある風車の余剰電力で水素を製造し,そこから人工メタンを合成し(合成ガス),家庭用のガスにするという計画である.現行の都市ガスに水素を混ぜるという話題もあり,これは都市ガス業界の向かう先だと思われる.

 

■有機ケミカルハイドライド法による水素貯蔵・輸送
水素サプライチェーンの完成には効率の良い水素貯蔵・輸送手段が必要である.ここでは講演者らが実証段階まで進めた有機ケミカルハイドライド法について説明する.

・有機ケミカルハイドライド法
有機ケミカルハイドライド法は「トルエン+3H2→メチルシクロヘキサン」という反応を利用する.トルエンはシンナーの主成分であり,メチルシクロヘキサンは修正液の匂い成分であるといえば想像しやすいかも知れない.この手法の利点は,水素を常温常圧の液体にできる点にあり,現状のタンカー等のインフラの多くがそのまま転用できる.トルエンの水素化は既に方法が知られており,大規模プラントも存在するが,メチルシクロヘキサンの脱水素反応は優れた触媒が存在しなかった.脱水素反応の触媒自体は1990年代にEuro-Quebec Hydro-Hydrogen計画(カナダの水力発電で水素を製造しヨーロッパへ輸送するという計画)の中で発見されていた.しかし,当時は炭素析出(コーキング)による触媒の劣化が著しく(触媒寿命はわずか1日だった)実用化できず,液体水素法が主に研究されていた.ちなみに液体水素法は2014年から川崎重工で国家プロジェクトが始まっている.現状は液化のためのエネルギーロスが60%であるが,それを2040年までに40%に下げるのが目標である.

・トルエンを選んだ理由
有機ケミカルハイドライド法ではトルエン以外にもベンゼンやナフタレンなどが利用できる.しかし,地球上の様々な気温で液体でいられるのはトルエンだけであったため,トルエンを選んだ.

・有機ケミカルハイドライド法の課題と解決
メチルシクロヘキサンからの脱水素反応に必要な温度は理論値で300℃である.これに対し,従来の方法は400−500℃必要で,触媒寿命も極めて短かった.これを,脱水素反応の効率が悪いために,高温が必要になり,高温のせいで炭素析出反応が起きて触媒の劣化が起きているためだと考えた.そこで脱水素反応の効率改善をめざし,欧州12カ国が10年かけて解決できなかった問題に2002年から取り組み始めた.用いた触媒は白金担持アルミナ触媒である.最初の一年間は失敗続きであったが,白金粒子をナノサイズにすることで反応の効率を数100倍にすることに成功した.これにより寿命も飛躍的に伸び,一年の利用に絶えられるようになった.

・実証プラントによる試験
その後触媒の大型化にも成功し,2011年1月には自社予算でパイロットプラントを作ることが決定された.これが2013年に完成し,先週のべ一万時間の運転(50Nm3/hの水素貯蔵と水素発生)を達成した.プロセスのエネルギーロスは全て合わせても30%程度(プラントでのロス20%,タンカー輸送で10%(4000km,フィリピンを想定))であり,現状の液体水素に勝る.なお,1kgの触媒に必要な白金は10gである.2年に1度触媒交換の必要があるが,プラチナは98%回収できる.

 

■質疑応答
Q. メチルシクロヘキサンは冷却が必要か.
A. 不要である.

Q. 2年間(10000時間)テストをしたという事か.
A. テストは,部分的に改良を加えながら,1年間8000時間した.劣化は線形なので予測できる.

Q.さらなる改善の余地はあるか.
A.ある.ナノ粒子の性質は基礎研究段階である.例えば,現在利用している触媒上の白金粒子の大きさは9Å(オングストローム)程度である.これは白金原子5個分であるが,粒子の形状が分かっていない.形状が分かれば,改善の方向も見えてくる.基礎研究が実用に至るまでは40年程度かかる.私が学生の頃(1980年頃)携わっていた膜の研究は30年たった今,イトーヨーカドーの浄水器になっている.太田健一郎先生が1970年代から進めている水素エネルギーも,最近になってようやく形になってきた.

Q.日本は水素社会でリードしているのか.
A.している.米独は周回遅れである.燃料電池車の特許数で言えば,日本が5万件なのに対し,米国は1万件である.韓国ヒュンダイ自動車の燃料電池車はトヨタのミライの倍額であるし,定置型燃料電池が150万円という価格で販売されているのは日本だけである.

Q.岩谷産業が水素販売に乗り出すというニュースがあったが.
A.岩谷産業は1960年頃から水素製造を目指しており,工業用ガスやロケット燃料を供給してきた.今回のニュースはクロルアルカリ電解などの副生水素を赤字覚悟の100円/m3で売る,という赤羽社長の決断である.岩谷産業が供給するのは規模で言えば,年間に10万kwの発電所1つ分程度なので,大きくはない.

Q.エネルギー輸出ができるという事か.
A.水素は二次エネルギーであり,あくまでエネルギーの利用形態の一つである.将来的には日本で水素を生産し,輸出することも可能かも知れないが,現時点でそれは考えていない.

Q.日立の人から似たような話を聞いた気がするが.
A.日立研究所の石川さんでしょう.彼らはエネオスと共同でプレート型の反応器を開発している.日立はガスコジェネ(ガスから電気と熱を両方取り出す技術)を,エネオスは水素ステーションでの利用を考えている.大規模輸送を扱うのは千代田のみで,彼らとは協力できる関係にある.

Q.水素吸蔵合金に比べたメリットは?
A.吸蔵合金は重く,輸送に向かない.コストが高いという問題もある.アラネート,ボロン系は2020年までには実用化できるだろう.

Q.天然ガスから水素を作ると二酸化炭素が出てしまうのではないのか.
A.その通りである.出てきたものは二酸化炭素貯留・回収技術(CCS)で対応するということである.天然ガスの改質で水素を得るというのは,再生可能エネルギーからの水素生成など,別の手段が確立するまでの過渡的な手段である.

Q.水素を液体として運ぶにはトルエンが一番いいのか.
A.現状では最良の選択肢だと考えている.但し,1つの技術が100年続いたことはない,という事実は忘れてないけない.

Q.原子力とのコラボレーションは考えるか.
A.選択肢の1つだ.原子力研究所には既に水素チェーンユニットが発足している.

Q. 都市ガスに水素を混ぜる,というのは家庭利用において水素が漏れやすいなど危険があるか.
A. 水素だけ漏れることはない.同時に漏れても水素は先に拡散する.過去には都市ガスは石炭還流ガスを利用していた.この頃はガスに一酸化炭素が入っており,危険性はこちらのほうが高い.ただし水素利用にはインフラ変更は必要であり,家庭利用を考えるならメタンガスを生成するのが良い.

Q.省エネなのか増エネなのか.際限なくエネルギーを使う,増やす,という発想は間違っていないか.
A.省エネは必要であるが,持続的な成長には利用できるエネルギーを増やす必要がある,
という認識である.

 



 

2013年6月5日 交詢社地球環境研究会例会 議事録
記録者 山田基

講演者 早稲田大学教育・総合科学学術院 教授 園池公毅
講演題目 光合成と地球環境


講演者略歴
昭和63年 東京大学大学院理学研究科博士課程(理学博士)修了
  東京大学大学院理学系研究科大学院研究生
平成元年 理学研究科特別研究生
平成2年 東京大学理学部助手
平成11年 東京大学大学院新領域創成科学研究科助教授
平成21年 早稲田大学教育・総合科学学術院教授


 講演概要
 光合成は様々な形で人間に影響を与えている.人類が産業革命を成し遂げたのは石油・石炭や鉄鉱石による所が大きいが,いずれも光合成活動による産物である.また副産物である酸素の供給によって生物の呼吸は賄われている.現在の生物的環境を決定づけた光合成とそのエネルギー源たる太陽光は,地球環境をも左右してきた.動物との共生や環境に応じた光合成色素など,多様な光合成の形態・工夫は人為的な応用を経ることで現在人類の直面している環境・食糧問題の解決策となっていくだろう.


光合成と人類
 光合成とは植物が太陽光のエネルギーを用いて炭水化物と酸素を合成する反応であり,多様な現象を通して人間の今日の環境を形作ってきた.例えば,鉄鉱石や石油・石炭は産業革命に不可欠のものであったが,前者は光合成により生じた酸素が海洋中の鉄分を沈殿させた結果作られ,後者は光合成生物の遺骸であるため,その立役者といえるだろう.また,人間含む動物の呼吸によって地球上の酸素は秒間1万トン吸収されているが,酸素・二酸化炭素の循環によって大気中の濃度を一定にしているのも光合成によるものである.これら様々な形で人間は光合成に支えられているのである.
 熱力学第二法則と生物
 熱力学第二法則とは,物事の進む方向を定める法則であり,これによるとあらゆる現象は乱雑さ(エントロピー)を増す方向に進行するという.生命現象も例外ではなく,死もその結果の一つである.しかし,生命活動を行っている間は常に一定の機能を果たすように保たなければいけないため,細胞などの物質を入れ替える必要がある.その結果,食事に代表されるように,外部からエネルギーを摂取し続けることが求められる.このように生命活動を見ていくと辿り着くのが太陽光である.発電効率などの問題を無視すれば,その莫大なエネルギーは1時間の間に地球に降り注ぐ分だけで人類の年間のエネルギー消費を賄えるだろう.しかし,実は単位質量あたりでは太陽よりも人間の発熱量の方が圧倒的に大きい.

 

太陽光と秩序
太陽光のうち,ほぼ可視光線のみが地表面に達し,地球から宇宙へは遠赤外線で放射する.下部を熱せられている水が対流を起こすように,こうしたエネルギーの流出入・循環が秩序を作り,生命の在り方を決定している.光合成が地球生命の根幹であると言える.

 


                                           図1.エネルギーの流れ・循環

 

動物と光合成
 タコクラゲというクラゲは藻類と共生することでエネルギーを得る.昼間は太陽光を浴びるために海中を移動し続け,夜間は無機物を得るために海底に向かう,というサイクルを営むことで可能になる形態である.仮に人間が同じ形態を取ろうとしても,この手段では人間の消費するエネルギー量を賄うことは出来ないため,不可能である.

 

 

                                                   図2.タコクラゲ

 

二酸化炭素吸収としての森林
 一般に植物は二酸化炭素を吸収すると言われる.砂漠が森林になるならば新たな吸収源となるが,既に成熟した森林は新たな吸収源とはならない.また,森林はその成熟段階を減るにつれによっても吸収量は減少していく.最終的に腐ってしまうと二酸化炭素を排出することになるので,建材などに利用することでトータルの吸収率を上げることが出来る.

 葉の色
 植物の葉は一般に緑色であるが,これは内部に葉緑素を含む葉緑体があるためである.葉緑素は緑色光を吸収しにくいため,反射されて緑色に見える.しかし,完全に吸収しないという訳ではなく,葉の表側の柵状組織と裏側の海綿状組織との屈折率の差を利用して光ファイバーのような機能を持たせて乱反射させることで光路を増やし,吸収量を上げている.実際,葉に浸潤させると屈折率の差が小さくなり,葉の表裏の見分けが付かなくなる.このように,内部構造を工夫することで,実際は緑色光の大部分も吸収している.


 

                                                  図3.葉の断面

 緑以外の色をした葉も存在する.代表例としての紅葉では,赤い色素アントシアニンはまったく光合成を行っていない.しかしアカカタバミという多年草の葉は紫色だが,光合成をしている.他には,卵の産み付けに対する自衛手段として虫の食痕を擬態するために白くなる植物や,ウィルスに伝染した結果変色する植物も存在する.概して,葉緑素のない葉は光合成ができない.

 


                                                 図4.(左)食痕 (右)擬態

 

  藻は葉緑素を持たないが,これは水深が増すほど透過光のスペクトルが限定され届く光の色が変わるためであり,環境に対応した光合成色素を有している.水の清濁,プランクトン・浮遊物の有無などでも光環境が変化するため,それに応じた異なる色を持つ.

 

光合成と食糧・環境問題
 近年,イネやコムギなどは品種改良によってその収穫量を著しく向上させているが,これは光合成能力の改善によるものではない.本来の野生環境であれば光合成に有利な背の高さは,田んぼの中では風雨に対する脆弱性になってしまうため,却って小さくした方が多収量になる.こうした矮性の有利性のように,固有の環境に適することが重要となる.
 光合成全体のエネルギー収率は27%程度であり,単位面積あたりのエネルギー変換量でも光合成より太陽電池の方が高い.もっとも植物は生み出したエネルギーの内,部分的にしか光合成産物として蓄積できないためであり,公平を期するならば太陽電池も製造・維持・廃棄コストを勘案すべきである.また,光合成には出力飽和が存在するため,環境によっては細長い葉を立てることで総出力を上げることが可能であるという点や,植物には自己修復・自己増殖機能があるなどの利点もある.
 植物の生産性向上のため,人工光合成研究が続けられているが,その実用化はいまだ遠い.

 


 
図5..太陽電池と光合成の角度による効率の違い

 

質疑応答
Q.太陽電池と植物の光合成のコストを比較しているが,太陽電池には人件費を生み出すという点において人間に利点があるのではないか.
A.確かにあるかも知れないが,地球環境には影響がない.

Q.背の低い植物は背の高い植物に阻まれて光がほとんど届かず死んでしまうことはないのか.
A.木々の境目からも光は漏れ出ているため,完全に遮られることはなく,光合成できる.

Q.背の低い幼樹でも数が多ければ生み出すトータルのエネルギーは背の高いものと同じになるのではないか
A.光合成の量だけではなく,リン・窒素・カリウムなどの栄養も影響するため,一概には言えない.

Q.森林を伐採して太陽電池を敷き詰めた方がいいのではないか.
A.森林には光合成以外にも生態系維持の機能があるため,それらを破壊してしまうと完全な代替手段にはなり得ない.

Q.森林を伐採してメガソーラーにするのではなく,砂漠で敷設するのはどうか.
A.電気の輸送コストが大きくかかる.また太陽電池は光の吸収率が高いためそれだけで温暖化を導いてしまう.

Q.椿が葉を厚くするのは何故.
A.光環境によって葉の厚さは変わる.暗所では薄い葉,明るいところでは厚い葉が多い.暗所では厚くしても光の吸収量がほとんど変わらないため.

Q.人工光合成の研究はどの程度進んでいるのか.
A.ギ酸の合成までは成功しているが,これは燃料になり得ないのでブレークスルーが必要.トータルの効率としては,植物の光合成よりまだまだ低い.

Q.クロロフィル(葉緑素)だけでは光合成を起こさないのか.
A.クロロフィルで起こる反応が際限なく生じると却って危険であり,接するタンパク質による制御は不可欠.人間もクロレラクッキーを食べ過ぎた結果,分解しきれずに血中に流れ強烈なアレルギー反応を起こす.

Q.光合成の具体的なイメージが湧かない.
A.タンパク質を足場として,クロロフィルが太陽光を吸収,二酸化炭素と水を変換している.

Q.太陽と人間の単位質量あたりの発熱量の差は効率の差から生じるものか.
A.核融合反応と化学反応とで機構が大きく異なるので,効率といった点からの単純な比較は出来ない.前者は複雑な環境を要求する分,トータルのエネルギー量が大きくなる,など.

Q.植物の二酸化炭素吸収効率はどれくらいのものか.
A.光合成では二酸化炭素を別の物質に変換しているため,単純な貯蔵との比較は出来ない.

Q.(冒頭での「今の学生は応用性を重視しているが,研究それ自体が面白ければ良いじゃないか」という提起に対して)この学問はどういった所が面白いのか.
A.高校までの生物は只の暗記科目に過ぎなかったが,大学で一般的な論理の存在を知った.この論理を解明していくことが楽しい.また,光合成は生物の根本たる遺伝子複製の外にあるので,非常に幅の広い学問領域が求められる点も良い.

Q.遺伝子組み換え技術は光合成の効率改善法としてどうなのか.
A.品種改良として成功しているのは矮性などで,必ずしも収量増加に繋がっているわけではない.まだまだ基礎研究の段階.

Q.シアノバクテリアは植物か.
A.光合成をする生物であるのは間違いなく,ウィルスなどでもないが,植物であるとも言い難い.

Q.光合成は太陽光以外でも起こるのか.
A.起こりはするが,電光ではかなり小さい.植物は太陽光でないとかなり育ちづらい.

Q.植物工場のメリットとは.
A.閉鎖系環境のために虫が居ず,無農薬で済む.また,都市部で行えば新鮮かつ輸送コストが低くなる.

Q.観葉植物は昼間に光合成するが夜間は呼吸のみ.人間に有益なのか.
A.量的な問題としては,呼吸よりも光合成によって供給される量の方が多い.

 



 

2014年9月4日

交詢社地球環境研究会 例会講義録

講演者 伏見硯二先生

講演題目ネパール現地の博物館、ネパール氷河湖、ブータンのことについて」

 

①先生の背景

・(学生時代、1963年)北極海から流れでたテーブル型の氷山上に観測機器を置いて北極海の内部を調査。アラスカ大学との共同調査。

・大陸間弾道ミサイルのためには重力を知る必要があり、北極海の海水の密度も調べていた。

・北極海の海水は冷たく、南下する時に下に潜り込む。地球を一周してメキシコ暖流として再び北極圏に戻ってくるが、この暖流があることでイギリスやノルウェーは凍結しない。そのため、メキシコ暖流の流れはヨーロッパの人にとって敏感。北極海の海水が潜り込む量を先生は測定していた。

1965年にネパールに行った。友人のネパール調査に参加した。

・先生はかつて琵琶湖の環境研究所に勤務。当時は琵琶湖の環境問題が深刻。雪解け水が琵琶湖に入ってくると重くて沈む。また、雪解け水は冷たいので酸素を多く含む。そのような様子は北極海調査を通じた知見から分かった。

・ガーネットの断面の色の成分を調べると、周囲にはマンガンや鉄が多い。また、雪の中に酸性物質が多く含まれる。ザラメ雪も同じように周囲に酸性物質が多い。雪解けの後にどういう様子で酸性物質が出てくるのか、ガーネットの分析から得られた知見を活かして調べていた。

 

②ネパールの博物館について

・ネパールの博物館には国王の親類(クマール氏)の写真が飾ってある。山岳活動の振興などを行った。1974年に先生は山岳活動に関する構想を持って行った。使われていないホテルを山岳博物館にしてはどうか、など。2008-2010年にJICAの活動で山岳博物館に務めた。そこはクマール氏の邸宅だったところだった。

・博物館利用者の半分くらいは子供たち。環境問題の解決のためには子供たちにいかにして情報を伝えるかが大切。

・博物館内部には大森さん撮影の写真が。5m×9mの巨大なヒマラヤの写真。

 

③ネパールの氷河湖について

・先生はネパールの氷河湖を調査。氷河湖決壊洪水(GLOF)について。ミンボー、ディグツォ、サボイで起こったGLOFについて。いずれも数百mサイズだが、もっと大きな数kmサイズのものも。

・しかし、大きな氷河湖はそれほどGLOFを起こさない。小さな氷河湖の方が一度のGLOFの規模は小さいものの、頻度が高い。

GLOFは谷を浸食し、ガレ場が続く。したがって、ガレ場を辿っていくと発生場所が分かる。ミンボーでは発生場所は湖になっていた。水が流れ出すところは壁が幅10m程度のモレーンがあった。このモレーンは雪崩や落石による津波によって簡単に決壊する。

・洪水の際の水位は1m程度上昇。田畑や道路を埋める。

・ラグモチェ(ディグツォ)は急峻な崖が上にあり、決壊。これは小規模な氷河湖決壊に共通する特徴。

・サボイはGLOF後、谷が侵食されて広くなっている。上流には急峻な崖。過去と決壊後の写真を比較すると、水位が大幅に低下。

・アンナプルナの近くでは、標高7000mから2500mまで雪崩が一気に落ちてくる。デブリが溜まり、その先に湖があるが、デブリを越えて雪崩が落ちると、湖に津波を起こす。決壊すると鉄砲水に。

・ネパールでは衛星やGPSを使って氷河湖のリストが作られている。約3810個。しかし、実際に行ってみないと本当に氷河の末端に氷河湖があるかどうかなどは分からない。

・マナスル近く、ツラギ氷河の末端は197592年は年間47m、その後は2008年まで年間60m以上の速度で後退している。2008年以降は後退が停滞。氷河が底面に座礁し、後退しなくなった。

・氷河湖の湖岸をGPSを持ちながら歩き、その経路を2005年のグーグルアースに重ねると、水中を歩いていることになる。水位の低下を示している可能性2011年のグーグルアースではちゃんと湖岸を歩いている。

・ツラギ湖は1996年から2009年にかけて2.5mの水位低下。水位低下は氷河湖の決壊を防ぐ。

・氷河が成長するとき、植生を越えるように成長する。モレーンを掘ると木片が出てくることがある。その炭素14年代を測ることでいつそれが起きたかが分かる。

・イムジャ氷河湖では水路を作って水面を低下させるという政府のプロジェクトがあったが、GLOFの発生リスクは低そうだが、プロジェクトに参加する村人はそれを認めないことも…。

GLOFの調査を行なうだけでなく、いつ起こるのか、危険なのか、ということを村の人に伝えることも行なう。イムジャはGLOFのリスクが低いことを伝えようにも、現地の人ですら実際にイムジャへ行ったことがなく、噂で知っているケースがあり、実際に見せに連れて行くことも計画。

・地球温暖化の影響でジェット気流が弱くなり、サイクロンがヒマラヤまで入ってきて気候を悪化させることがある。

・表面のモレーンを破壊すること無く、モレーンの地下を水が移動し氷河湖が排水されることがあり、それはGLOFのリスクを低下させる。

・大きな氷河湖は直下型地震モレーンが破壊されない限りは決壊しないだろう。

・氷河台帳:1930年代に氷河の様子を記載、1970年代の写真と比較。氷はかなり減少。もうすぐ無くなるだろう。

・ネパールの氷河は低地にあるものは今世紀中頃に全て無くなるだろう。そうすると水資源が無くなるかもしれない。

・氷河の末端位置は1960年代に比べて100~200m、標高が高くなっている。地球温暖化に伴う衰退傾向。

・氷河が無くなると水源が無くなるため、民族移動の必要が出てくる。

2009年のコペンハーゲン会議の前にネパールでは大臣が山の上で会議。南の島国では水中会議。象徴的な会議を通じてアピールを行っていた。

・海水面が上昇すると塩水が河や地下水に進入する。大量の「環境難民」が発生する。

・ヒマラヤの雪は夏に降る。夏が雨期で、冬が乾期だから。夏の間に氷河が涵養されると同時に、標高5000m以下では雨の影響もあり、どんどん解ける。ヨーロッパは夏も冬も降水・降雪があるので、それとは異なる。

 

④ブータンについて

・ブータンでも氷河湖決壊が1995年に起こった。末端のモレーンではなく、横にあるモレーンが決壊。末端は丈夫なのでなかなか壊れないが、横は幅が狭いので弱く決壊しやすい。

・今ではそれとは異なる氷河湖の決壊が危ぶまれている。ブータンには3つの大きな氷河があり、それらが作用しあっている。

・決壊する場所の地温は高い。そういう場所ではモレーン内の氷が解け、モレーンが弱くなる。地温はモレーンの決壊する可能性をチェックする上で重要である。

・ブータンの崖は黒い。花崗岩質なので本来は白いはずだが、時間が経つと表面に地衣類が生えるため、黒くなる。日射を吸収し、氷が解ける。解けた氷が岩石の割れ目に入り、夜間に凍って膨張し、岩石を崩壊させる。氷が解けた特徴として氷柱が発達している。

・ルゲ氷河湖ではブータン第一王女(現在の国王の母)がお祈りを捧げていた。

・ブータンは森林が豊かだが、近年はわざと山火事を起こし、放牧地を拡大している。植林も行っている。

・モンゴル、ロシアの国境付近でも盛んに山火事を起こしている。放牧地の拡大だけでなく、ブルーベリーやコケモモは灰を使って育ちが良くなるので、収穫を増やすために行われている側面もある。

・森林の減少は地温に影響を与える。永久凍土が無くなることにも関係。水源の減少へ。

・地球温暖化は先進国だけでなくそれ以外の現地の活動も影響。Act local, think global.

・排気ガスや山火事の影響で、ヒマラヤ付近では3000m程度のスモッグの層ができている。

 

【質問】

Q. 氷河はずっと流れ下って行くイメージ。しかし、氷河湖があるということは、地形的に鞍部になっているということか?

A. ブルドーザーが下ってくることを想像すると良い。周囲と末端にかき集められた土砂がある(モレーン)。その状態で温暖化によって末端が後退していくと、モレーンの内側に水がたまって氷河湖になる。海面に向かって氷河が落ちていく現象は、実は氷河の先端が海面上に浮いており、その状態から末端が切り崩されて氷山となる。

 

Q. GLOFは現地では「山津波」とよばれている。インドは大陸境界にあたるので大地震が起こることがあり、低頻度ではあるが大規模な山津波が起こる可能性がある。日本と事情は似ているとも言える。どのようなリスク管理をすべきか、どのようにヒマラヤの人たちに伝えるべきか?

A. 確かに大地震の可能性がある。カトマンズは1940年頃に大地震が起こった。長期的(数十年規模)にはそのことを考えなくてはいけないが、短期的(数年規模)にはそのような可能性は切り離して考えなくてはいけない。新しい建物を作るときには小高い場所に作るなど工夫はすべきだ。津波を防ぐ壁を作るような対策は馴染まないだろう。自然の中で対策できるものを。しかし現状、正直どのようにして伝えるかは難しいところがある。

 

Q. GLOFが起きるような氷河湖の下流はどのようになっているのか?

A. 川になっている。氷河湖の下に伏流がある場合は決壊のリスクが減る。ロックフィルダムのようになっているので、きっかけがあると決壊する。

 

Q. GLOFによる被害状況の記録はどれだけ残されているのか?

A. そこまで残されていないが、残されているものもある。

 



 

地球環境研究会 議事録 2014年8月7日(木)

「江戸っ子1号成功への苦労と愉しみ」
江戸っ子1号プロジェクト推進委員会 委員長 杉野行雄 先生

 

【概要】
 江戸っ子1号は2013年に開発された深海用無人探査機で,日本海溝の7800m地点で3Dフルハイビジョンのビデオ撮影に成功した.下町の町工場が中心となって開発をはじめ,大学や研究所,企業やボランティアの協力を得て小型かつ安価な海底探査を実現した.本日は江戸っ子1号の開発のきっかけや完成までの苦労,今後の展望についてお話をいただいた.
 

写真

 

撮影された海底の生物(JAMSTECのwebサイトより)[1]

 

※江戸っ子1号とは
 水深8000mの水圧にも耐える耐圧ガラス球3つが組み合わさって構成されている小型の無人探査機.ガラス球の内部には撮影用のカメラや照明,コンピュータが入っており,海底での3D ビデオ撮影や海底サンプルの採集が可能である.撮影後はおもりを取り外すことで再度浮上させ,GPSを用いることで海上で回収することができる.ガラス球の内部に入れる装置の組み合わせを変えれば,海底資源探査など様々な用途に応用できるほか,軽量かつ安価であることを利用して大量に投入すれば広い範囲の

調査も可能である.
 
図面

 

江戸っ子1号の構成図(JAMSTECのwebサイトより)[1]

 

【江戸っ子1号開発のきっかけ】
 昔から海が好きで,海洋雑誌を読んでいたところ次のような記述を見つけた.地球は地上よりも海のほうがはるかに広く,そして重要な資源が沢山眠っている.日本は世界で6番目に広いEEZ(排他的経済水域)を持つ海洋大国であり,例えばメタンハイドレート(燃える氷と呼ばれる)は,日本が使用するエネルギーの100年分ほどが海底に眠っていることも分かっている.これを採取できれば,資源がないと言われていた日本も資源大国になれる可能性がある.また,海底には貴重なレアメタルが多く存在することも分かっている.

 しかし,こうした重要資源を調査し,回収する方法は確立されていない.調べてみたところ,海底調査を行う機関は,日本には海洋研究開発機構(JAMSTEC)しか存在しなかった.しかし隣国の中国は日本の数百倍の費用をかけて海底探査を行っており,これに対して日本は後れを取っている.そこで,それなら我々で可能なかぎりやってしまおうということで,海底探査機江戸っ子1号の開発に取り組むことにした.とはいえ,それまでに海底探索に関わったことがある者はおらず,実際には結構な苦労があった.それでも,町工場が力を結集すればこんなにすごいものが創れるんだということを示したかった.


図面

 

江戸っ子1号の動作概念図(JAMSTECのwebサイトより)[1]

 

【探査機開発の難しさ】
 そもそも自分たちには海底探査機開発のノウハウは無かったので,色々な方に相談して情報を集める必要があった.東京信用金庫の方や芝浦工業大学,東京海洋大学など,産学連携の強化にも繋がるこのアイデアについては非常に好感触を持ってもらい,色々な助言をしてもらうことができた.JAMSTECにも協力していただき,みんなで様々なアイデアを出し合うことになった.そんな中で,中空のガラス球にカメラを積み海底に沈下させ後に回収するという形式にすることが決まった.

 

 ガラス球の開発
 探査機の中で一番重要なのは,どのようにして海底8000mの水圧に耐えるかということだった.1cm3あたり800kgという非常に大きな力がかかることになるため,非常に高い強度が必要とされる.初めは金属が良いだろうと考え,中でも丈夫なチタンを想定して見積もりを行った.しかし,必要とされる直径40cmの球体を作るためには,球一つにつき3000万〜5000万の費用がかかるということがわかった.さらに,水圧に耐えるためチタンでは厚みが40‐50mmほど必要となり,重すぎて十分な浮力を得ることができなかった.このため浮力を得るための浮力体を付ける必要があり,耐圧容器と浮力体だけで1億5千万ほどの材料費がかかってしまう見積となった.他にも機能を色々と付け足すと,試験費用も考えた場合5〜8億円ほどかかるという試算となった.すると,初めは参加を希望していた他の町工場の皆さんも減ってしまった.
 これを何とか解決したくて,大学や海洋研究開発機構の人に相談したが,なかなか解決策が見つからなかった.諦めかけていた頃,海洋研究開発機構の方から,過去にガラス球を用いて4000mの海底探査を実施したことがあるという情報を得た.また,そのガラス球が海底油田の探査に使うために米国とドイツの2社が市販しているという情報を得た.本当にガラスが大きな水圧に耐えられるのだろうかと疑問に思いつつ海洋研究開発機構の水圧試験機を用いて実験してみたところ,ドイツ製のガラス級は無事に8000mまで十分に水圧に耐えることが確認できた.一球30万程度で,チタンを用いた装置に比べ圧倒的に安くすることができた.しかし,オールジャパンでの制作を目標としていたのに,一番重要な圧力容器がドイツ製というのはもどかしい.そこでいくつかの大手ガラスメーカーに聞いてみたが,開発費が高く発注数が少ないのでほとんど相手にされなかった.それでも粘り強くお願いしてみたところ,千葉の岡本硝子さんが熱意に答えてくれたのか,日本で初の国産耐圧ガラス級を作ってくれた.最終的に,厚み12mmのガラス球で金属に比べ軽く棲むために十分な浮力が確保でき,4kg程度の機材を入れても浮かんでくる.また透明であるため撮影にも適していた.

 

 なぜガラス球は丈夫なのか?
 ガラスは結晶構造ではなく,アモルファス構造をとっている.圧力が加わるとそれに追従して変形することができるため,圧力に耐えることができる.ガラス球は半球2つが組み合わさる形で作られていて,ゴムパッキンを使わなくても,磨いて合わせれば水圧によってぴたっとくっついて水を通さなくなる.8000mのところまで行くと,直径33cmだが,2mm小さくなる.金属なら圧潰するが,ガラスはうまく分子構造が変わることで耐えることができる.これによって,世界最小最軽量,ケタ違いの低価格で行くことができた.これまで,探査船を作ろうとすると数百億という費用がかかるために,日本の民間企業では海底探査はできなかった.しかし,江戸っ子1号を100個量産できるとすれば,1つ1000万程度で作成ができ,民間での海底探査に十分使える価格となる.


江戸っ子1号の基本技術(JAMSTECのwebサイトより)[1]

 

 海底調査用カメラ
 海底の探査用のカメラも重要である.過去に人気を博したNHKのダイオウイカ撮影のプロジェクトでは,3000万ほどするカメラを使用しているが,我々はより安価に開発を進めるために,市販のカメラを利用することで価格を抑えることにした.そこで,よりきれいな動画を取るために画像処理技術を持ったソニーに協力を頼みに行ったところ,初めは断られてしまった.それでも何度かお願いに行ったところ,興味を持ってくださった方が個人的に技術指導をしてくださり,カメラも貸してくれた.
 3Dでの撮影を行うことにしたが,3Dカメラにはレンズが2つついており,球体に内にカメラを2つ設置したところ画像が歪んでしまった.これを補正するのはかなりの技術が必要で大変だったが,試行錯誤の末,ソフトではなくハード的に,比較的簡単な方法(秘密)で解決することができた.

 

 バッテリー
 ビデオカメラのバッテリーは数時間しか持たなかったため,外部に追加のバッテリーを設置しようということになった.初めはリチウムイオン電池にしようとしたが,扱いが難しくて発火してしまった.そこでニッケル水素に変更したが,今度は重くなりすぎてしまった.結局リチウムイオン電池にすることにして電機メーカーに相談したところ,自分で開発するは大変なので,市販品をうまく使うべきとの助言を得た.そこで牧田さんの電動工具用のバッテリーを繋ぐことで容量を増すことにした.持ち運びが想定された工具の電池であったため軽く,6個つなげても1.2kgほどだった.
 この助言は江戸っ子1号の開発にとって良いヒントになった.できるだけ市販品を使うことで,費用と開発期間を短縮することができる.それ以降,中に入れるものは市販品を活用することにした.このように,極力新しい開発を少なくすることで,ガラス球を使うことに決定してから,わずか2年半ほどで開発に成功することができた.

 

 水中での通信手段
 水中では光の点灯やおもりの切り離しなど,コンピュータの入ったガラス球から他のガラス球にたいして指示を出す必要がある場合がある.しかし電波は水中では減衰してしまって,隣のガラス球にさえ通信を行うことができない.そこで,はじめは光や電波による通信を考えたが,ガラス球は水深8000 mになると約2mm収縮する.これが原因で通信装置の光軸がずれてしまっていて,うまくいかなかった.そんなとき,海洋大で水中ロボットの開発をしていた学生から,ゴムシートを使うと水中でも微弱な電波を検知したという情報を得た.そこで,ゴムを用いた通信について共同開発を行うことにした.調べてみたところ,電波を通す物質についてあまり研究が進んでいなかった.ゴム屋だったので,これはしめたなと.ゴムには数百の種類があるが,手元にあった20種類のポリマーを使って円柱状のゴムをガラス級の間に挟み,通信が可能かどうかを調べてみた.するとなんと電波を通すポリマーが存在することがわかり,ガラス球の間で無事に通信を行うことができるようになった.このポリマーについては大学と共同で特許を取得することもできた.大学の先生も大変喜んでくださった.

【江戸っ子1号による海底の探査】
 海底の撮影と堆積物の採取をすることができた.特にみんなが予想外に感じたのは,8000mという深海においても,25 cm程度の大きな魚が群れを作って泳いでいたことである.海底は,光も全く通らず,水温も上がらない.赤道直下でも北海道でも,8000mくらいのところではどこも0−2度くらいで一定である.植物もなく,このため餌となるものもない.プランクトンの死骸が8000m落ちてくるのを待つだけである.目は退化していて,振動で餌を探すだけ,餌を取るのも大変.大学の先生からは,体長数cm位のものが数匹いれば成功といえるだろうと言われ,そのつもりで採取器を準備した.しかし驚くべきことに,実際には25cmくらいの魚が群れを作っていた.餌の少ない海底で魚がどれくらいの速度で成長するのかは分からないが,年間数ミリ程度の成長速度だとすれば,非常に長い年月を海底で生きているということにもなる.まだまだ未知の生体で,調べるべきことはたくさんある.


写真

 

撮影された海底の生物(JAMSTECのwebサイトより)[1]

 

【さいごに】
 自分たちは製造業ではあったものの,海底探査機の開発は初めてだった.しかしできないと諦めてしまうのではなく,夢に向かって頑張ってみると非常に楽しい.途中病に倒れたこともあったが,早く治して開発に参加したいという思いで体調が治ったこともある.驚くべき回復速度だったと医者も言っていた.こうした思いが通じたのか,初めはいくつかの町工場で始めた試みだったものが,最終的には45名ほどの方が手伝ってくれた.町工場や企業,研究所や大学からも多くのボランティアがあった.学生さんも参加してくれて,ものができ始めてからはものづくりの面白さを感じでくれたようで,非常に熱心に手伝いをしてくれた.やはり夢を諦めずに推し進めることがいつであっても大事だと思う.今後は,これまで誰も行ったことがない11000 mほどあるマリアナ海溝を目指したい.(アメリカで行ったという報告はあるが,何も情報や証拠がない)

 

Q&A
Q. 球の中の圧力は上がらないのか
A. 水圧でガラス球が若干小さくなるので,ほんの少しは圧力が上がるかもしれないが,ほとんど影響はない.

 

Q. ガラス球はどうやって作るのか
A. 半球を2つくっつけて作る.半球を作るための金型があり,溶けたガラスを入れて,それを別の型で押し付けて作る.現在は12000 mに耐えられるガラス球を作っている.厚くすれば厚くするだけ耐圧性能が上がるように思えるが,実際には水圧によって球が縮むとき,厚くすれば厚くするほど歪みのばらつきが大きくなり,逆にもろくなる場合もある。

 

Q. おもりを外して回収するときは難しくなかったか.
A. 黒潮の流れによって流されるので,音波探知機と,浮かんできたらGPSで追跡する.衛星はずっと空にいて電波を発しているわけではないので,電波が来たら急いで改修に向かう.

 

Q. 非接触充電とあるがこれはどういうことか
A. 最近実用化されてきた技術で,載せておくだけで充電できる技術.ガラス球を開けたり閉じたりせずに,データは無線LANで送受信して,充電は非接触で行うようにしている.

 

Q. 泥の採取はどのようなメカニズムで行っているのか.
A. 蛇腹状にした袋をバンドで止めておいて,海底でバンドを切る.するとバネで袋が広がり,中に泥が入る.

 

Q. 泥の採取器のサイズはどれくらいなのか.昔はステンレスの容器で重たかったが今はどうなのか.
A. 直径180で高さが200.樹脂で出来ている.海底の泥と言っても採取できる泥は比重がそんなに大きいわけではなく,浮力に影響するほどではない.海底にささってしまうと浮いてこられないので,表面をすくう程度.また日本では勝手に海底資源をとってきてしまうことは禁止されていて,地中深くまで探査すること法律的にも難しい.これは日本の海底探査を難しくしている要因の一つである.

 

Q. たくさん制作して網羅的に調べることはできるか
A. 1000個程度作って一斉に調べることで,船上調査の効率を向上させることができる.そういう時はタイマーをセットして自動で浮上させればいい.ただ,広大な海で小さな探査装置を見つけ回収するのは実は大変ではある.

 

Q. 位置制御とかは考えているのか.どれくらいブレるものなのか
A. 今現在は位置制御していないが,将来的にはスラスタなどの移動装置を考えていく必要があると考えている.いま一番位置がブレるのは海流で,流れの早い箇所を何分間で通過できるかによって決まってくる.海底に着くまでには2時間位かかる.時速4kmくらい.もっと早くすることも可能だが渦ができて着底地点がずれてしまう.とはいっても数百メーターくらいのぶれ.おもりの切り離しは電流を流すと取れるようなやつでやる.上げたいときは海上から超音波で指令を出す.超音波は通るので.

 

Q. 下に岩があったら採泥器は使えないと思うが,そういう時はどうするのか
A. 事前にソナーで調べて投下する.海底は意外と広く平らな領域があるので,岩を避けるのは難しくない.

 

Q. 地震の探査にも使えるのではないか
A. 実際に,地震の探査のために,ガラス球を数百個沈めている.南海トラフや宮城県など.

 

Q. 現時点では着底した場所の確認というのは,トランスポンダーで確認しているのか.位置はちゃんと確認できるのか.
A.トランスポンダーから定期的に発信されているので,位置や水深はちゃんと分かる.

 

Q 撮影した魚は見られるか
A. Youtubeにも出ている.数千匹のエビの群れや,餌を食べているエビの音につられてだんだん大きな魚が寄ってくる.(議事録記録注:すごいのでぜひ見てください.江戸っ子1号で検索すれば出てきます)

 

Q 海底に降りていく途中も見られたら面白いですね.
A 次はそれをやってみようという話をしている.プランクトンなども観察できるのではないか

 

Q. 装置の生産についてどのくらいオファーがあるか
A. 国内のほうが評価は冷たい.量産化したとしても国内では100機売れるといいなってくらい.海外だと多くはいる.一番最初に来たのは韓国のKBC放送.海中撮影をしたい.しかし話を聞くとどうも筋が通らない.どうも
韓国やアメリカ,中国なんかから購入の要請が来ているが,軍事目的.

 

Q. こうしたプロジェクトを成功させるのに何が必要か
A. フットワークの軽さが重要.思いついたらすぐやること.このフットワークの軽さは海外の人たちが評価していくれている.


写真引用元
JAMSTEC webサイト ニュースページ https://www.jamstec.go.jp/j/jamstec_news/20131220/

 

 

 



【世界的な第二次ブームを迎えた海洋温度差発電の現状と今後の展望】 2014年3月6日  佐賀大学海洋エネルギー研究センター 教授 池上康之先生  記録者 澁谷泰蔵

■講演者略歴
昭和61年 佐賀大学理工学部生産機械工学科卒業
平成 3年 九州大学大学院総合理工学研究科博士後期課程修了
平成 3年 佐賀大学理工学部生産機械工学科講師       
平成 8年 米国Duke大学 訪問研究員
平成14年 佐賀大学海洋エネルギー研究センター 助教授  平成19年  准教授
平成25年 同上 副センター長   教授

 

■講演概要
 海洋温度差発電(OTEC)とは,海洋における深層水と表層水の温度差を利用した発電方法である.深層水をポンプで汲み上げ,アンモニアなどの低沸点液体を凝縮・蒸発させることでタービンを回し発電する.深層水の温度は年間を通して安定しているため,太陽光・風力などに比べて高い設備利用率を実現できる.従来は設備稼働に必要なエネルギーが大きすぎて採算が合わないとされてきたが,佐賀大グループによる熱交換器の改良や,取水管の進歩・オフショア油田の技術利用などによって効率改善が進められてきた.この結果,現在では10MW規模の施設であれば30円/kWh程度が実現できると考えられている.2000年代後半の石油価格上昇を背景に米・仏の企業が急ピッチでOTEC開発を進めており,韓国・中国もこれに続いている.日本では佐賀大が中心となって,久米島での実証試験が始まっているほか,企業コンソーシアムによるインドネシアへのOTEC導入も検討されているが,実証レベルでは米仏に10年は遅れていると言われている.世界に遅れを取らないため,今後もオールジャパン体制をより一層強化していきたい.

 

■海洋温度差発電とは
 海洋温度差発電(Ocean Thermal Energy Conversion,以下OTEC)とは, 海洋における低音の深層水と高温の表層水の温度差を利用してタービンを回す発電方法である.20℃程度の温度差を利用するため,熱媒体としてアンモニアや代替フロンなどの低沸点液体が用いられる.深層水の温度は安定しているため,安定した発電が可能である.特に,赤道付近は表層水の温度も安定して高いため,年間通して安定した高出力が期待できる.反対に,表層水の温度が低い地域での発電は困難である.また,小さい温度差を利用するため,経済性を良くするためには規模を大きくする必要がある.


■日本の海洋発電への取り組み・現状
 平成19年に海洋基本法が成立し,20年には海洋基本計画が策定された.25年の同計画の見直しで発電が項目として追加され,洋上風力発電をはじめ,波力・潮流・海流・海洋温度差を含めて海洋エネルギーの利用を促進するための施策を具体的に提示されている.このように,海洋エネルギーの利用に向けた国家としての取り組みが始まっている.
 実際のOTEC開発には実証試験が不可欠であるが,日本の漁業組合は声が大きく,実証試験がしづらい状況にある.EUの実証フィールドは予約で一杯であり,日本は自前の実証フィールドを広げる必要があるが,先日海洋発電の実証フィールドにに7県が名乗りを上げたことがニュースで取り上げられた.少しずつであるが,日本でもOTEC開発の環境が整いつつある.

 

■日本におけるOTECのポテンシャル
 日本は国土は少ないが,排他的経済水域は世界6位の海洋大国である.波力・海流・潮流・OTECなどの海洋発電のポテンシャルに関する平成22年のNEDOの調査によれば,OTECは南鳥島や沖ノ鳥島などで効率が高く,適地とされる表面海水温が20℃を超える海域は和歌山県以南であることが示されている.同報告によれば,OTECは原発8基分のポテンシャルを擁している.

 

■OTEC第一次ブームと第二次ブーム
 第一次ブームは40年前のオイルショックが契機となっている.この時,国内のエネルギー意識が高まり,様々な発電方法が検討された.その一つがOTECであった.
ちなみに,このときテレビで佐賀大の上原グループの取り組みを見たことが,講演者がOTECと関わるきっかけとなった.1980年には米ロッキード社がプロジェクトを立ち上げており,技術的に可能であることは確かめられていたが,石油価格が1バレル49ドルを越えないと採算が合わないと言う結論が出され,このプロジェクトは99年にストップした.
 石油価格の上昇と共に,2008年以降に米ロッキード社や仏DCNS社がプロジェクトを開始しており,2013年10月にはロッキード社と中国Reignwood社による海南島のOTECプラント計画が発表された.これが現在も続く第二次ブームである.40年前に2ドル/バレルだった石油はいまや100ドルを超えている.第一次ブームと第二次ブーム存在は,特許の数を見てもその時期に山があり,明らかである.

 

■第二次ブームを支える技術革新
 第一次ブームの時に比べ,熱交換器・取水管が大きく進歩している.また,これに加えてオフショア油田(水深2−3km)開発技術の進歩もOTEC開発を支えている.佐賀大の開発したプレート式熱交換器は,従来の大きい温度差を想定した円管型の熱交換器に比べてOTECで利用する小さい温度差に最適化されている.取水管は硬化ポリエチレンから繊維強化プラスチック(FRP)になった.

 

■日本と米国の技術的アプローチの違い
 日本は台風を想定し,それに強い完全没水型の浮体プラントをIHI社とジャパンマリンユナイテッド(JMU)社が中心となって開発している.これは,プラント全体が20m以上の水深に水没するもので,平成25年9月,海事協会よりJMU社が佐賀大と共同開発した浮体式没水型の概念承認を取得している.これは,完全没水型では世界初である.
それに対し,米国はオフショア油田型の半没水式を採用している.これはコストが安い反面,台風には弱い.
 また熱交換器の材料として,米国はアルミ合金を採用している.この背景にはカナダの水力発電による安価なアルミの供給がある.日本は神戸製鋼を中心としたチタンを採用している.チタンのほうが値段が高いが海水による腐食には強い.

 

■OTECプラントの複合利用
 OTECプラントは,発電以外にも海水の淡水化,汲み上げた深層水の直接利用,海中のリチウム回収などの複合利用が考えられている.海水淡水化は,フラッシュ蒸発という技術を用いた処理能力1000t/日の装置が佐賀大とインド政府との共同で運用中である.また,水深200m以深の海水は無菌で栄養分が多く,飲用としての利用のほか,漁場の活性化効果も知られている.
佐賀大では二酸化マンガン系材料による吸着を利用した海中のリチウム回収技術も研究中である.

 

■設備容量ごとの発電コスト・建設コスト
 NEDOの報告によると,設備容量1MWのプラントの発電コストは 40-60円/kWh,10MWで15-25円/kWh,100MWで10円/kWh程度となっている.プラントの建設費は目安で言えば,
10MW が 300億円,100Wが 1000億円程度である.なお,OTECプラントの設備利用率は太陽光発電の6-7倍はある(およそ80%程度)ことが知られている.

 

■OTECの効率
 OTECプラントの効率は,(出力エネルギー)/(入力エネルギー)で評価する.現在の技術ではこれは最大で80%に至っている.黎明期には,OTECは深層水汲み上げに必要なポンプの電力を賄えないのではないかとの疑念もあったが,それは杞憂である.

 

■現在進めているプロジェクト(企業コンソーシアムのターゲット:インドネシア・沖縄の取り組み)
 インドネシアは国民が若く,エネルギー消費は増加傾向にある.また,赤道に近いためOTECのポテンシャルも高い.現在佐賀大も含めた企業コンソーシアムを作り,インドネシアへのOTEC導入を進めている.台風の影響を考えると,完全没水型の日本方式は有利であると考えている.
 また,沖縄県は自らの予算でOTECプロジェクトを始動している.
沖縄の電気は全て化石燃料由来
であり,100MWのOTECプラント4基で10%程度の電力を賄うことが出来る.複合利用に関しても,
久米島が既に商業的に1.3万t/日 の深層水を利用しているため,展開は容易であり,これに関するプロジェクトも進んでいる.

 

■日頃考えていること,IQからEQへ
 エネルギーはIntensive Quantity(IQ,示強変数) x Extensive Quantity(示量変数)で表現できる.例えばIQは温度差,EQはエントロピー差と読み替えることが出来る.化石燃料は局所的な高い温度差を利用したIQ型のエネルギーであり,OTECは大域的な低い温度差を利用したエネルギーである.これからの時代はIQ型エネルギーを脱却し,EQ型エネルギーへ
向かうべきである.そして人間も,IQ(知力)だけではなくEQ(度量)で勝負する時代であろう.

 

■質疑応答
Q.送電ケーブルの敷設コストはどの程度になるのか
A.陸上式は送電コストは考えなくて良い.浮体式の場合は1億円/kmと言われている.これを賄うためにも,大規模化が必要である.
沖合20−30kmで発電する場合は,100MWクラスであれば送電ケーブルの敷設コストは初期コストの数%に収めることが出来る.

Q.環境アセスメントや漁民との摩擦でプロジェクトが遅れることはないのか
A.正直なところ,ようやくそれらを気にすることが出来るほどにOTECが実現性を帯びてきたという感はある.環境アセスに関しては,現在国際基準の策定中であり,漁民との摩擦に関しては漁協と合意が出来た所でのみOTEC開発をする.深層水による漁場の活性化ができるため,漁協とは協力関係を築けるはずである.

Q.初期コストは火力発電所に比べ高いか
A.初期コストは高い.10MW規模で100億円,100MWで1000億円程度と見積もられている.

Q.陸上式の場合は,既存の発電所の近くに置くことも出来るか
A.できる.韓国など表層水の温度が低い地域はこれを積極的に利用しようとしている.発電所の排熱と深層水との温度差によって効率的な発電が可能となる.

Q.九州電力・沖縄電力の関心はどの程度か
A.沖縄電力は離島用の発電法として興味を持っている.離島での発電コストは50-70円/kWhと高いことが理由である.但し,本島では石炭火力が8円/kWhの電気を作っており,これとは勝負にならない.

Q.OTEC施設の移動は簡単か
A.取水管を浮かべるなどすれば,海上を容易に移動できる.

Q.台風や海流の変化には対応できるのか
A.日本が採用している水没式(熱交換器が水面下20mにある)であれば,問題ない.

Q.アンモニアがリークするとどんな問題があるか
A.常圧ではガスとして揮発していくためになるため,海洋汚染などは限定的であると思われる.銅はアンモニアによって腐食されるため,その点は注意が必要である.


 



2014年2月6日
交詢社地球環境研究会 講演録    記録:野澤拓磨
講演者:東京大学・総合研究博物館 米田穣 先生
講演題目:「食生態からみた縄文人の適応戦略」

■概要
 講演者の米田氏は,放射性炭素を始めとする様々な同位体を組み合わせ,過去の人々や動物の生態系における位置を評価することで,食生活や移動履歴を復元する研究を行っている. 本講演では,同位体による生態系の研究に加え,人類学及び考古学の見地から縄文人の食生態に関する講演が行われた.

■先史時代の生活にせまる
 先史時代(人が文字を獲得する前の時代,日本では旧石器時代から弥生時代が該当する)においては,過去の文献資料をたよりに当該時期における人類の歴史を知る事は不可能である.このような時代を知る唯一の手がかりは,発見された遺跡や遺物などの分析を通して得られる情報のみである.しかし,発掘によって得られる考古学的資料は,遺跡形成とそれに続く体積中での埋蔵の過程でバイアスがかかっている.例えば,骨や貝殻などの動物質の食料は遺物として発見されやすいが,植物遺存物はよっぽど埋蔵条件に恵まれていない限り出土することはない.そのため,考古学遺物から当時の人々の暮らしぶりを予想することは必ずしも容易ではない.
 
■同位体分析により食生活を探る
 前述のように,遺跡などから発掘される遺物から該当時期に人々の生活を知ることは難しい.そこで,米田氏のグループでは,人骨中に残されたタンパク質,例えばコラーゲンなどを同位体分析することで,当時の彼らの生活を予想する試みを行っている.同位体とは,同じ元素だが質量数の異なる原子のことである.炭素や窒素などは植物や動物などの有機物に最も多く含まれる元素であり,動物や植物の種類によって,それらを構成する同位体の比率が異なることが知られている.人間や動物の体は,基本的には食べたもので構成されるため,骨や軟部組織は食料とした動植物の同位体比を反映していると考えられる.つまり,骨や軟部組織に残されたタンパク質の同位体比を分析すれば,彼らの食生活をある程度分析可能である.
 
図1 骨の化学分析の概念図.左下は人骨が出土した遺跡.右下はコラーゲンの図.

 

 図2 同位体の概念図.例えば炭素には12C,13C,14Cの3種類の同位体がある.
■同位体分析によって見えてきた縄文人の食生態
 縄文時代の人骨を調べてみると,非常に面白いことが明らかになった.図3は縄文時代後期の人骨中のコラーゲンを同位体分析によって地域ごとに調べた結果である.この図から,炭素と窒素の同位体比は,北海道,本州,沖縄で大きくことなっており,明らかに食生活に違いがあることがわかる.北海道の縄文人の骨は,15Nや13Cなどの質量数の大きな同位体を多く含んでいる.これはオットセイやアシカなどの海産哺乳類を多く食していたことを示している.一方で,本州の骨からは魚類やC3植物を多く食している傾向が,沖縄の骨からはラグーン作物中心に摂取している傾向が見られ,それぞれの違いは顕著である.ここでいうC3植物とは,C原子を3つ含むホスホグリセリン酸を光合成で合成する植物で,質量数の大きな炭素同位体13Cの比率が少ない.食用の植物としては米や麦,栗,団栗などが該当する.一方C4植物は,C原子を4つ含むオキサロ酢酸を合成する植物で13Cの比率が大きい.トウモロコシ,ヒエ,アワ,サトウキビなどが該当する.
 
図3 縄文時代後期における人骨中コラーゲンの同位体分析の結果

 このような結果から,これら3つ地域ではそれぞれ独自の食文化が縄文時代には築かれており,アイヌ,本州,琉球の元となる文化が縄文時代にはすでに根付いていたと考えられる.また,縄文後期に伝来したと考えられている稲作についても,実際に取り入れられたのは本州の人々の間のみであり,北海道や沖縄では広がらなかったのではないかということも伺える.

■同位体分析からみえる食生活の移り変わり
 縄文時代の骨の分析結果を他の時代と比較すると,さらに驚くべきことが明らかになった.図4は縄文時代後期,江戸時代,現代の同位体比分析の結果を比較したものである.サンプル数の違いはあるものの,現代人の骨から得られた結果は同位体比のばらつきが縄文時代や江戸時代の場合と比べて明らかに小さい.これは現代人が地域や環境の違いに寄らず,ほぼ同じ食物を摂取していることを示唆している.縄文後期が約3,300~4,500年前,江戸時代が約200~400年前であることを考えると,たった数百年もの間に人類の食生態は驚くほど変化したのである.
 
図4 同位体比分析結果の比較.

 


Q&A
Q. 人骨が発掘された遺跡の図があるが,これは発見された当時の画像?
A.発見されたそのままの画像.老人夫婦,若年夫婦+子供1人と二世帯の遺骨が発見された.死因は明らかでないが,一説では,河豚の毒にあたって集団食中毒で死んだと言われている.縄文人は亡くなった人を貝塚や使われなくなった家などに埋葬していた.

Q.縄文人はソース顔,弥生人は醤油顔と言われるが,今は両方いると思うのだが?
A.確かに両方いる.弥生時代に渡来した朝鮮系の人種が農耕を広めたと考えられている.最終的には混血し,今のような状態になっているのではないか.

Q.農耕は支配階級を生み出す要因になったか?
A.あり得る.農耕の到来は人々の生活を豊かにした一方で,貧富の差を生み出す要因となっただろう.また,稲作は大規模な投資であり人手も必要なため,人々は村での生活を余儀なくされたはずである.

Q.現代人のタンパク質の同位体比が偏っているのは都市化の影響であると言ってよいのだろうか?
A.そういう見方もできるだろう.都市化が進み流通が発達することで,全国どこでも同じようなものが同じ価格で手に入る.その結果,人々の口にするものもほぼ同じものになったのだろう.

Q.この研究から未来の人類について何か思うことは?
A.かつて,狩猟民族だったネアンデルタール人は滅び,雑食であったホモ・サピエンスである我々は今も生き続けている.その理由は,ホモ・サピエンスが幅広い食生活の文化を持っていたため,環境適応能力が高かったためであろう.しかしながら,同位体分析の結果からも明らかなように,現代人の食文化は偏っている.このように,多様であった食文化を喪失しつつある人類が,今も高い環境適応能力を持っているかは疑問である.

Q.縄文人と現代人,どちらが幸せだと思う?
A.それは分からないが,縄文後期には狩猟生活を辞めずに続けた人々がいたことも考えると,中々良い生活ぶりであったのではないかと思う.人口が増えてきたグループが,やむを得ず稲作に転じたこともきっとあっただろう



2014年2月6日
交詢社地球環境研究会 講演録    記録:野澤拓磨
講演者:東京大学・総合研究博物館 米田穣 先生
講演題目:「食生態からみた縄文人の適応戦略」

■概要
 講演者の米田氏は,放射性炭素を始めとする様々な同位体を組み合わせ,過去の人々や動物の生態系における位置を評価することで,食生活や移動履歴を復元する研究を行っている. 本講演では,同位体による生態系の研究に加え,人類学及び考古学の見地から縄文人の食生態に関する講演が行われた.

■先史時代の生活にせまる
 先史時代(人が文字を獲得する前の時代,日本では旧石器時代から弥生時代が該当する)においては,過去の文献資料をたよりに当該時期における人類の歴史を知る事は不可能である.このような時代を知る唯一の手がかりは,発見された遺跡や遺物などの分析を通して得られる情報のみである.しかし,発掘によって得られる考古学的資料は,遺跡形成とそれに続く体積中での埋蔵の過程でバイアスがかかっている.例えば,骨や貝殻などの動物質の食料は遺物として発見されやすいが,植物遺存物はよっぽど埋蔵条件に恵まれていない限り出土することはない.そのため,考古学遺物から当時の人々の暮らしぶりを予想することは必ずしも容易ではない.
 
■同位体分析により食生活を探る
 前述のように,遺跡などから発掘される遺物から該当時期に人々の生活を知ることは難しい.そこで,米田氏のグループでは,人骨中に残されたタンパク質,例えばコラーゲンなどを同位体分析することで,当時の彼らの生活を予想する試みを行っている.同位体とは,同じ元素だが質量数の異なる原子のことである.炭素や窒素などは植物や動物などの有機物に最も多く含まれる元素であり,動物や植物の種類によって,それらを構成する同位体の比率が異なることが知られている.人間や動物の体は,基本的には食べたもので構成されるため,骨や軟部組織は食料とした動植物の同位体比を反映していると考えられる.つまり,骨や軟部組織に残されたタンパク質の同位体比を分析すれば,彼らの食生活をある程度分析可能である.
 
図1 骨の化学分析の概念図.左下は人骨が出土した遺跡.右下はコラーゲンの図.

 

 図2 同位体の概念図.例えば炭素には12C,13C,14Cの3種類の同位体がある.
■同位体分析によって見えてきた縄文人の食生態
 縄文時代の人骨を調べてみると,非常に面白いことが明らかになった.図3は縄文時代後期の人骨中のコラーゲンを同位体分析によって地域ごとに調べた結果である.この図から,炭素と窒素の同位体比は,北海道,本州,沖縄で大きくことなっており,明らかに食生活に違いがあることがわかる.北海道の縄文人の骨は,15Nや13Cなどの質量数の大きな同位体を多く含んでいる.これはオットセイやアシカなどの海産哺乳類を多く食していたことを示している.一方で,本州の骨からは魚類やC3植物を多く食している傾向が,沖縄の骨からはラグーン作物中心に摂取している傾向が見られ,それぞれの違いは顕著である.ここでいうC3植物とは,C原子を3つ含むホスホグリセリン酸を光合成で合成する植物で,質量数の大きな炭素同位体13Cの比率が少ない.食用の植物としては米や麦,栗,団栗などが該当する.一方C4植物は,C原子を4つ含むオキサロ酢酸を合成する植物で13Cの比率が大きい.トウモロコシ,ヒエ,アワ,サトウキビなどが該当する.
 
図3 縄文時代後期における人骨中コラーゲンの同位体分析の結果

 このような結果から,これら3つ地域ではそれぞれ独自の食文化が縄文時代には築かれており,アイヌ,本州,琉球の元となる文化が縄文時代にはすでに根付いていたと考えられる.また,縄文後期に伝来したと考えられている稲作についても,実際に取り入れられたのは本州の人々の間のみであり,北海道や沖縄では広がらなかったのではないかということも伺える.

■同位体分析からみえる食生活の移り変わり
 縄文時代の骨の分析結果を他の時代と比較すると,さらに驚くべきことが明らかになった.図4は縄文時代後期,江戸時代,現代の同位体比分析の結果を比較したものである.サンプル数の違いはあるものの,現代人の骨から得られた結果は同位体比のばらつきが縄文時代や江戸時代の場合と比べて明らかに小さい.これは現代人が地域や環境の違いに寄らず,ほぼ同じ食物を摂取していることを示唆している.縄文後期が約3,300~4,500年前,江戸時代が約200~400年前であることを考えると,たった数百年もの間に人類の食生態は驚くほど変化したのである.
 
図4 同位体比分析結果の比較.

 


Q&A
Q. 人骨が発掘された遺跡の図があるが,これは発見された当時の画像?
A.発見されたそのままの画像.老人夫婦,若年夫婦+子供1人と二世帯の遺骨が発見された.死因は明らかでないが,一説では,河豚の毒にあたって集団食中毒で死んだと言われている.縄文人は亡くなった人を貝塚や使われなくなった家などに埋葬していた.

Q.縄文人はソース顔,弥生人は醤油顔と言われるが,今は両方いると思うのだが?
A.確かに両方いる.弥生時代に渡来した朝鮮系の人種が農耕を広めたと考えられている.最終的には混血し,今のような状態になっているのではないか.

Q.農耕は支配階級を生み出す要因になったか?
A.あり得る.農耕の到来は人々の生活を豊かにした一方で,貧富の差を生み出す要因となっただろう.また,稲作は大規模な投資であり人手も必要なため,人々は村での生活を余儀なくされたはずである.

Q.現代人のタンパク質の同位体比が偏っているのは都市化の影響であると言ってよいのだろうか?
A.そういう見方もできるだろう.都市化が進み流通が発達することで,全国どこでも同じようなものが同じ価格で手に入る.その結果,人々の口にするものもほぼ同じものになったのだろう.

Q.この研究から未来の人類について何か思うことは?
A.かつて,狩猟民族だったネアンデルタール人は滅び,雑食であったホモ・サピエンスである我々は今も生き続けている.その理由は,ホモ・サピエンスが幅広い食生活の文化を持っていたため,環境適応能力が高かったためであろう.しかしながら,同位体分析の結果からも明らかなように,現代人の食文化は偏っている.このように,多様であった食文化を喪失しつつある人類が,今も高い環境適応能力を持っているかは疑問である.

Q.縄文人と現代人,どちらが幸せだと思う?
A.それは分からないが,縄文後期には狩猟生活を辞めずに続けた人々がいたことも考えると,中々良い生活ぶりであったのではないかと思う.人口が増えてきたグループが,やむを得ず稲作に転じたこともきっとあっただろう.



2013年11月7日
【放射線を恐れて付き合う】

東洋公衆衛生学院 診療放射線技術学科 西澤徹先生

交詢社地球環境研究会例会 講演  記録 澁谷泰蔵

西澤先生にお話し頂く意味(大森弘一郎より)
  福島第一の事故を受けて,放射線の健康への影響に対する関心が高まっている.原発推進派に聞けば安全だといい,反対派に聞けば危険だという.これでは本当のことがわからない.中立の立場から解説できる人物が必要である.今回は,その適任者として,医療技術として放射線を日常的に利用し,人材の育成に携わる西澤先生をお招きしました,放射線に対する考え方を学びたいと思います.


本日のテーマ
  1 mSv/年という単位が除染目標として語られている. 診療放射線技師を育成する教員という立場からこの量について解説し,親しみを持ってもらうことが本日のテーマ.

放射線とは何か
  放射線とはエネルギーを伝える能力のある波.エネルギーとは何かをしでかす能力のこと.例えば,放射線は細胞内の染色体を切ることができる.ただし,染色体の切断は普段から起きており,自然回復している.回復力を超える量の放射線を受けることが問題である.

■放射能と放射線:よくある混同
  しばしば,放射線と放射能の混同を見かける.放射線を出す能力が放射能である.つまり,放射能を浴びるという表現は意味をなさない.放射線を浴びるというのが正しい表現である.


放射線の原因:放射性壊変
  原子核は陽子と中性子で構成されている.自然界に存在する元素の原子核の多くは安定である.しかし,一部に原子核が不安定なものが存在する.このような元素は,安定なものとは中性子の数が異なり,放射性同位体と呼ばれる.

  これらの同位体は,放射線を出しながら安定なものに変化する.これを放射線壊変という.たとえば,水素の同位体であるトリチウムは放射線を出しながらヘリウムに変化する.トリチウムなどの放射性同位体は自然界にも存在する.

  また,トリチウムは軽水炉の通常の運転でも発生し,法律で定められた基準値以下に希釈して海に捨てられている.医療用の放射性同位体も,

同様に希釈して下水に流している.

ベクレル(Bq)
  放射性壞変は確率的な現象であり,一秒間あたりに崩壊する原子の数をベクレルという単位で表す.例えば,一秒間に3個の原子が壊変すれば,3ベクレルと数える.


■半減期
  放射性壊変によってある原子核が別の原子核に変化するが,元の原子核の半分の量が変化するのにかかる時間を半減期という.例えば,20個のトリチウムのうち,10個がヘリウムになるまでの時間が半減期である.半減期は人工的に短くすることができない.


■3種の放射性壊変と3種の放射線
  放射線壊変にはアルファ,ベータ,ガンマの3種類がある.これらの壊変に対応して,アルファ線,ベータ線,ガンマ線と呼ばれる放射線が発生する.アルファ線はヘリウムの原子核,ベータ線は電子線,ガンマ線は短波長の電磁波のことである.透過力は線の種類とエネルギーによって異なり,人体への影響も異なる.一般にアルファ線は透過力が弱く,ガンマ線は透過力が強い.

■シーベルト(Sv)
  シーベルトは放射線防護に用いる単位で,将来のがん発症確率を数値化したものである.シーベルトは放射線のエネルギーの単位であるグレイ(Gy)から,人体への影響を考慮した重み付けによって決定される.例えば,1グレイのガンマ線を脳に浴びた場合は.0.01Svで,同量のアルファ線を骨髄に浴びた場合は2.4Sv とされている.数値が大きいほど,将来がんを発症する確率が高くなる.

■体外被曝と体内被曝
  放射線にさらされることを被曝という.被曝には2種類あり,体の外から被曝を受ける体外被曝と体内に取り込んだ放射性物質から被曝を受ける体内被曝がある.アルファ線,ベータ線は皮膚で止まるため,通常は体外被曝としての影響は考えない.ただし,エネルギーが高い場合は,ベータ線熱傷などの可能性がある.ガンマ線は透過力が強く,遮蔽し,距離を取るなどの対策が必要である.

  体内被曝は,組織が直接放射線にさらされるため,あらゆる線種で影響がある.人体の構成元素と化学的性質が似ているものは,それらに変わり体内に蓄積するものもある.放射性セシウムはカリウムの代わりに筋肉に,放射性ストロンチウムはカルシウムの代わりに骨に蓄積する.透過力の低いアルファ線やベータ線は測定が困難である.


■被曝の上限値
  被曝には上限値が定められている.放射線を取り扱う職業従事者には,100mSv/5年,50mSv/年という値(職業被曝)が法令で定められている.また,一般には1mSv/年という値(公衆被曝)がICRP(国際放射線防護委員会)の勧告によって定められている.これは法令ではない.また,がんの放射線治療など医療行為によって受ける医療被曝の量は,医療を制限しないために制限がない.


■被曝の上限値に対する誤解
  上限値を超えると危険で,上限値以下ならば安全という誤解がある.しかし,上限値は防護上の目標値であって,それを超えると突然危険になる,というものではない.特に,1mSv/年を超えると危険と考える人がいるが,1.1mSv になると突然健康被害が出るというものではない.


■1mSv/年は安全か:LNT仮説に対する放射線技師の考え方
  広島・長崎の被爆者の疫学的な調査は100mSv以下の被曝に関するデータがない.100mSv以降は被ばく線量とがんの発生率に線形の関係が認められるため,これを100mSv以下に延長もしてよい,と考えるのがLNT(直線しきい値なし)仮説である.これはICRPにも採用されているため,放射線技師は,患者が受ける放射線量はなるべく減らすほうが良いという教育を受ける.

  しかし,平均で0.8mSv/年の被曝がある放射線技師のがんの発生率には,一般の人とは違いが見られないため,LNT仮説には疑問があるというのが多くの放射線技師の見方である.また,シーベルトはがんに罹患する確率を数値化したものである.確率である以上個人によって捉え方に差がある.これは,降水確率30%の時に傘を持って出かけるか,という問題に似ている.


■確率的影響と確定的影響
  放射線障害には確率的影響と確定的影響の2種類がある.確率的影響の代表例はがんの発症であり,確定的影響の代表例はリンパ球の減少や脱毛である.確定的影響は100mSv/年から比べれば,相当量の放射線を浴びないと発生しない.


■福島事故のこれまでの影響
  体外被曝(主に137 セシウムからのもの)と体内被曝(食品基準である100Bq/Kg)のどちらも確定的影響を超えるものはない.確率的影響もおそらくではあるが,「影響があるかないかわからない」という程度であると思われる.


■除染目標に対する考え方
  現在の除染は,汚染された表土の除去という方法で行われている.イタイイタイ病のカドミウム除染では1630ヘクタールで8000億円の費用かかっている.この値を参考にすれば,全ての土地を1mSv/年以下にするには約689兆円かかるという計算になる.これは実現不可能な金額である.社会的・経済的要因を考慮して,影響を可能な限り抑えることを行為の最適化という.今後の除染基準の動向に注目したい.


■質疑応答


Q.福島の子どもに甲状腺がんが見つかっているが,これは事故の影響か.
A.そうではないと考えられている.被曝によって甲状腺に影響が出るのは3?4年後であることが知られている.また,日本人は日常的にヨウ素を摂取しているため,甲状腺への放射性ヨウ素の蓄積は少ない.こどもの甲状腺がんの発見は,単に検査が増えたからと考えられている.


Q.汚染水を浴びた作業員が,ベータ線熱傷したというニュースがあったが,その後亡くなったか.
A.亡くなったかについては分からない.当時の汚染水には現在は取り除かれているセシウムが含まれていたため,ベータ線に加えてガンマ線熱傷があったかもしれない.これは骨髄まで及びリンパ球の数を減らし,体の抵抗を下げてしまう.

Q.福島第一原発の吉田所長の死因は被曝によるがんか.
A.違うと思われる.彼の死因は食道がんであるが,放射線と食道がんの関連性は知られていない.広島・長崎のデータには食道がんはない.


Q.テレビ等で真っ白い防護服を見かけるが,あれは放射線を防げるものか.
A.体外からの放射線を防ぐ能力はない.あれは内部被曝対策である.着用することで放射性物質を体内に入れず,体表面にも付着させないという効果がある.


Q.通常,アルファ,ベータ,ガンマの線種は混ざっているのか.
A.混ざっている.


Q.染色体を切る能力はどの線種が高いのか.
A.アルファ線が高い.


Q.放射線自体が体内にとどまることはあるか.
A.ない.


Q.遺伝の影響はどう考えればいいのか.
A.これは確率的影響の範囲である.動物実験では奇形児などが見られているが,人間においては確認されているケースはない.


Q.がんの放射線治療はどの程度なのか.
A.一例を挙げれば,5週間で20グレイである.この量は確定的影響の範囲であるが,時間をかけて照射することによって確定的影響の発生は避けている.ただし,治療によってがんを罹患する2次がんという問題はある.


Q.放射線医療はこれから発展するか.
A.発展すると思う.25年前に1日の利用者は25名程度だったのが,現在は倍になっている.治療の存在が認知され,精度も向上し,利用できる施設も増えてきた.今後も伸びると思われる.

 



 

2013年10月3日  

交詢社地球環境研究会例会 講演録
講演者 横浜国立大学大学院工学研究院 グリーン水素研究センター長 特任教授 太田健一郎先生
講演題目「グリーン水素社会への展望」
記録 岡野智宏


0. はじめに
 タイトルに示されている「グリーン水素」とは再生可能エネルギーを利用する水素を指す。現状、議論にあがる「水素」とは化石燃料を用いて生産されたものであるため、将来的に考えた場合問題がある。将来的には水より水素を生成し、水素エネルギーを用いた持続可能型の成長社会へとつなげていくことが目的である。

 

1. エネルギーと環境


  21世紀における人類持続的成長の鍵として3Es(Energy:資源確保と紛争、Economy:人口増大と経済成長、Environment:地球温暖化と環境破壊)があげられる。過去、第二次世界大戦後の日本は中東の安価な石油を用いることで経済成長を加速させていった。化石燃料の枯渇が危ぶまれる今日において、中国・インド・アフリカ諸国は経済発展していく際に必要な資源の確保が重要な問題となる。Energyの問題は20世紀には中東の石油に端を発する中東戦争が起こったように、喫急に解決すべき問題である。現在では中国、アメリカを中心に石油の代替材料となるシェールガスが採掘可能になったことにより、資源確保による国際問題は収まっている。

 

  このEnergy問題と密接に関わるのが、Environment問題、特に地球温暖化問題である。この問題は化石エネルギー多消費への警告である。現在のような安価に利用できる石油のピークはすでに過ぎている。そして、現状の化石燃料を環境破壊なしで採掘できるのは西暦2500年程度までと考えられる。すなわち、我々人類は10億年かけて堆積してきた化石燃料を約700年で使い切ってしまうことになる。ゆえに現代人は1000 – 2000年スパンのエネルギーを今から考えていかなければならない。

  ここで、物質循環の観点から炭素と水を比較して見ていく。下図に示すように水の存在量は炭素の7万倍と多量である。


 

 また、それぞれの環境負荷係数(エネルギーで発生する炭素または水の放出量 / 自然に放出される炭素や水の量)を比較すると、水は炭素の1/100以下であり、水の方が持続可能であることがわかる。さらに東京都区部で比較すると、炭素の環境負荷係数が35000であるのに対し、水素の環境負荷係数は0.12と約1/300000となっている。このため、水から合成されるグリーン水素は環境保存において格段に優れていると考えられる。今後は、東京都区部の水素の環境負荷係数を地球全体の炭素における環境負荷係数0.036以下にすることが目標である。
 

 

 

2. 一次エネルギーの将来


2.1 化石燃料
化石燃料は近年シェールガスの開発が進んでいる。シェールガスとは地下数百~千メートルのシェール層(頁岩層)に閉じ込められた天然ガスである。以前は中小企業のみが採掘に動いていたが、北米においてオイルメジャー各社が参入したことにより採掘が本格化した。この結果、現在の化石燃料と比べ長期(100年以上)の可採年数と推測された。しかし、このシェールガスも有限であり、また、シェールガスはメタンガスを主成分とするため、温室効果がCO2より大きい。そのため、長期的に見ると環境的に悪影響を与える可能性が高い。加えて、排出されたCO2の貯蔵場所として地中が挙げられる。しかし、対流に約2000年かかるため、将来地上へ漏れ出す可能性がある。

 

  2.2 原子力
原子力エネルギーは東日本大震災により明らかになった地震対策・安全対策の必要性、放射性廃棄物にかかる10万年という時間の保証の2つの問題がある。現在、すべての原子力発電所が稼働停止している。即時の原子力撤廃には産業界との議論が必要であるが、将来的に撤廃する必要がある。

 

  2.3 再生可能エネルギー
現在、風力発電は日本での賦存量は小さいが、強風地域で発電し、送電することが可能になれば非常に安価(10-15円 / kW)な電力を得ることが可能になる。ドイツではすでに風力発電技術を推進している。日本で利用されている風力発電所には貯蔵用の電池(ex. 北海道苫前町苫前発電所のレドックス電池 、青森県六ケ所村二又発電所のNAS電池 )が存在しているが、これらの電池は数時間しか電力を貯蔵することができない。つまり、電力貯蔵と再生可能エネルギーの輸送を共に達成するためには、現状技術では化学物質を利用する手法しかない。本手法は、風力発電を始めとする再生可能エネルギーにより生み出された電気を用いて水分解を行う。水分解を行うことで水素を作り出し(2H2O → 2H2 + O2)、その水素を有機化合物と反応させることで、有機水素化物を作り、輸送する手法である。その有機水素化物の例としてトルエンに水素化を行うことにより、メチルシクロヘキサンを合成する方法がある。


この方法にあたり、千代田化工建設が300℃で安定して稼働する触媒を発見した 。今後、1年の長期な実証実験をする必要があるが、この発見により水素の長距離輸送が可能になると予測される。

 

3. グリーン水素社会に向けて


3.1  水素について
  現存する元素の中で最も軽い元素である。沸点が-250℃と低いため、室温では気体で存在している。問題点としては爆発限界が広い(爆発しやすい)ため、混合水素は爆発するリスクが高い。また、燃えている際に可視化できないという問題点もある。しかし、単位体積当たりの燃焼エネルギーは都市ガスより小さく、家庭用湯沸かし器より安全であると言える。

 

3.2  水素の製造法
  水から水素を工業的に合成するプロセスとして水電解法がある。これは自然エネルギー等を利用して水を電気分解する手法である。本手法はアルカリまたは固体高分子を含んだ水、あるいは高温水蒸気電解を行い水素を生成する方法である。水電解法における反応過程は


                           正極 : 2H2O + 2e- → H2 + 2OH-
                           負極 : 4OH- → 2H2O + O2 + 4e-
                                ⇒ 2H2O → 2H2 + O2


である。よって、正極側に水素が発生、負極側に酸素が発生する。我が国において特に用いられている手法の1つに水に食塩を混ぜた食塩水を電気分解する方法がある。この方法は


                         2NaCl + 2H2O → Cl2 + H2 + 2NaOH


で表される反応過程で反応が進む。この方法による我が国でのH2生産量は1.2×109 Nm3 / 年 ( = 10万t / 年)である 。

 

3.3  海外の取り組み


  アイスランドでは豊富な水力・地熱発電を利用した水素利用を進めている。この計画では2020年に脱化石燃料、水素社会の実現を目指している。生み出された水素は主にバス、乗用車、漁船への利用が計画されている。このために必要な水素量は8~9万t / 年 (= 4~5TWh)であり、アイスランドで経済的に発電可能な再生可能エネルギーの10%である。また、アイスランドは断層地帯にあり、地震の発生回数が多い。そのため、大規模地熱発電(40000m2 規模)が出来る可能性を秘めている。また、パイプラインを用いて間欠泉から電力と熱の同時輸送を行っている。

  カナリア諸島では地方政府所属の研究所(ITC : Instituto Technologico de Canarias)で風力発電の開発計画が進んでいる。ここでは風力により生み出された電力を用いて、海水の淡水化や水素合成を行っている。最終目標として、風力発電とそのエネルギーを用いて生成した水素のみで全土のエネルギーを賄おうとしている。

  パタゴニア地方(アルゼンチン南部)は強風で有名な土地である。現在はパタゴニアの平原に日本の風力発電所を建設する予定がある。この件に関しては日本とアルゼンチンの間に協定文書が調印されている。そのため、日本の資本を用いて風力発電所を作り、生まれた電力から水素を合成し、日本に輸送するという計画が進んでいる。しかし、現状では現地の風の強さに耐えうる風車が完成していないため、風車の改良を進めている最中である。パタゴニアの開発可能な風力エネルギーは日本の発電送料の10倍である9.7兆kWh / 年、そのエネルギーか可能な水素の生産量は1.9億t / 年 (燃料電池車15億台分)と試算されている。しかし、アルゼンチンは日本から見て地球の裏側に存在するため、電力を超長距離輸送するという課題がある。今後10年間で輸送技術開発を進め、計画では2025年を目途に水素を日本に輸出し始める予定である。

 

4. 燃料電池と応用

 

  燃料電池は燃料として水素、酸化剤として酸素を用いており、以下の反応過程によって電気を取り出すことが出来る。


                         正極 : O2 + 4H+ + 4e- → 2H2O
                         負極 : H2 → 2H+ + 2e-
                               ⇒ 2H2 + O2 → 2H2O + 電気


  特徴として、低温で高い理論効率を持ち、小型で効率低下がなく、低騒音・低振動である。さらに生成物として環境汚染物質をほとんど出さないため環境にやさしい。現在の理論的な発電効率は室温で83%であるが、実際の燃料電池の発電効率は50%以下であり、改良の余地がある。さらに、発熱反応(電気 = エネルギー を生み出す)であるので、原理によると高温においては不利な反応である。 

  燃料電池自動車に関しては主要自動車メーカーが2015年度より販売予定である。しかし、水素ステーションを含めたインフラの整備が課題となっている。政府戦略としては水素ステーションの設置及び水素の低コスト化を進め、2025年に燃料電池自動車と水素ステーションが自立拡大していくと計画している。現在は水素ステーションが東京圏、大阪圏、中京圏、福岡圏のみに設置されており、当面はそこから輸送していく手法をとる。2025年には各都道府県に配置予定である。また、現在は車体価格が1000万円弱と高価である。この主要因は白金が排ガス浄化のための触媒として使用されているためである。

  この代替物として現在開発されているのが、Zr (ジルコニア)酸化物である。これは電池出力あたりの材料費が白金と比較して20分の1程度である。自動車に搭載するためのZr酸化物の作製は今後の課題である。触媒開発を始めとする技術革新 を行い車体価格を500万円程度、将来的に200万円以下にすると計画されている。

 

[質疑応答]


Q. 揚水をあげるエネルギー(ex. やんばる海水揚水発電所 : 再生可能エネルギーの話にて登場)は?
A. 現在は化石燃料を用いた火力を利用している。今後は風力に転換できればよいと考えている。揚力発電はピークカットのために使っている。大規模にすればもっと貯蔵できる。しかし、やんばる海水揚水発電所はヤンバルクイナの生存地付近のため、大規模にするのは現実難しい。

 

Q. トルエンに水素をつけると何になる?
A. メチルシクロヘキサンになる。この状態で日本に持ってくる。これを脱水素して、トルエンに戻す。

 

Q. トルエンに水素はつきやすいのか?
A. 200℃で触媒を用いれば反応させることができる。この化学反応は発熱反応であるのでいちど反応が起こると自然に継続する。

 

Q. 水素がついたのを持っていくの?水素を分離して持っていくの?
A. 千代田化工建設ではプラントを作ってそこから水素をデリバリーするシステムを予定。液体水素になるか、高圧水素になるかは現在実験中。どちらにせよ、トルエンを回収する仕組みを構築する必要あり。

 

Q. ガソリンスタンドに持って行って、トルエンを吸い上げるのか?
A. そうなるかも。

 

Q. トルエンの質量で何%が水素になるのか?
A. 6%。水素貯蔵合金は3%の領域しかできていない。

Q. 体積1リットルあたりのエネルギー密度は?
A. ガソリンと比較すると桁は落ちる。そのため、大量に持ってくる必要はある。大型タンクを使えば体積的なコストは変わらない。

 

Q. 燃料電池車の現状について?
A. 現状、路上駐車は問題ない。しかし、地下駐車においては換気が常にできる状態でないと万が一のときに問題となる。

 

Q. トンネルでぶつかったら?
A. 爆発が起こった例はない。よほどの条件でないと爆発しない。仮にトンネルで燃料電池車同士が衝突しても30秒安全なら問題ない。5台での玉突き事故なら問題である。現在の規制では危険性を考慮して海底トンネルは走れない。

 

Q. 二次電池においてなぜリチウムにしなかったのか?
A. トヨタとかに自信がなかった。

 

Q. 液体水素で運んでくるのは難しいのか?
A. 長距離輸送では自然蒸発があり、減らすには急いで運ぶしかない。しかし、これにはリスクがある。

 

Q. 合金の水素貯蔵がもっとよくなる可能性は?
A. 室温ではよいが、価格が高い、比率が稼げない。アルカリ水素化物は密度が高いかも。アルカリはライドから酸化物ができるかも。Mgも温度条件がからむし、大規模では厳しい。

 

Q. 有機アルカリハライドの方が安いのか?
A. 液体はハンドリングがしやすい、安くするのも可能だが、固体は厳しい。

 

Q. 有機アルカリハライドの発展の余地は?
A. まだわからない。簡単にできるとは思わない。触媒の観点からみるかも。

 

Q. カナリア諸島で海水から作る淡水は飲料水用?水素用?
A. 飲料水にしているのは確か。

 

Q. 電気分解の効率は?
A. エネルギー密度ベースでは7~8割。電気エネルギーベースでは98%(NEDO)。計算方法によって変わるし、吸熱と発熱でも変わる。

 

Q. 水素をつくる場所はやはりパタゴニア?
A. パタゴニアが有力。今後はそこからもってくる技術を確立。もしかしたら、風力発電所も日本製で作るかも。2050年にCO2排出量(温室効果ガス)を半分、2100年に80%減にするとしたら役に立つ。現在の燃料電池車ではCO2をゼロにすることはできない。

 

Q. CO2を減らすために有力なのが風力発電?
A. 輸送までを含めて楽観的であるが、12~13円 / kWと考えている。太陽光では30円 / kWくらいかかる。(cf. 原子力は税金投入をして10円 / kWくらい。)

 

Q. 強アルカリ電解に耐えられるのは金属で本当に大丈夫なのか?
A. 反応を防ぐために炭素素材が候補に挙がっている。

 

Q. マグネシウムに電気を貯める手法が水素のライバルになる?
A. アルミも電気を貯める量では同レベルであるので、産業化されているアルミでもいいのではないか。

 



2013年9月21日
交詢社地球環境研究会例会 講演録 記録:野澤拓磨
講演者:信州大学 朝日克彦 氏
講演題目:「ネパールの氷河変動~フィールドでやること,わかること~」

 

■ 概要
 講演者の朝日氏は,1995年卒業研究のために西ネパールでの野外調査を開始して以来,ヒマラヤの氷河変動史を研究している.本講演においては,地球温暖化の影響で注目の集まっているヒマラヤの氷河変動を中心に,一般的な認識と現場での認識の違いについて触れながら,今現場で起きている氷河変動現象について述べた.

 

■ 氷河とは
 氷河の定義は大雑把に言えば陸上に存在する固体の水であり,傾斜した地形に複数年にわたって雪や氷が体積し圧縮されることでできる.氷河は斜面の上の方で降雪したゆきがズルズルと下の方へ滑ってゆくことで伸び成長してゆくが,先端の方では同時に一部融解してゆく.氷河は非常に敏感に気候変動に反応するため,地球温暖化のバロメータとして考えることができる.

 

■ ヒマラヤ山岳地帯
 ヒマラヤ山脈は標高8000mを越す世界最大の山脈地帯である.ブータン,中国,インド,ネパール,パキスタン,アフガニスタンの6つの国をまたがりこの水系には約7億5千万人が生活している.ヒマラヤ山脈は6月から9月にかけて北上する南西モンスーンを遮断するため,ヒマラヤ南面に大量の降雨を発生させる.ヒマラヤ周辺は気温が低いため,雨は雪となって降る.つまり,ヒマラヤでは夏に積雪するのである.

  しかしながら,近年の温暖化の影響によって夏の降雪が降雨に変わってしまっている.夏に体積するはずの雪がなくなっているため,ヒマラヤの氷河は後退する一方である.また,夏の降雨が氷河の融解を促すため,ヒマラヤの氷河は加速度的に融解している.ヒマラヤの氷河後退は他の地域よりも顕著に現れており,イタリア・ミラノ大などの研究グループによれば,エベレストの氷河の総面積は過去50年で約14%も減少したという.IPCCの第4次レポートでは,2035年までにはヒマラヤの氷河は消滅すると報告されている.多くの研究者達の間ではアジアの大河川はいずれもヒマラヤ・チベットを起源としていると考えられており,ヒマラヤの氷河が融けるとアジアの水資源が枯渇してしまうのではないかと憂慮されている.

 

■ 現場観測からわかること
 朝日氏はエベレスト山域9ヶ所の氷河を対象に,1970年代から氷河末端位置を10年ごとに繰り返し測量して観測している.調査の結果,過去40年間氷河は一貫して後退していることがわかった.

 

  現場の測量だけで氷河のすべてを把握するには限界がある.朝日氏はネパール東部の氷河の航空写真を組み合わせて立体的に把握することで地形図を作成している.朝日氏の地形図によれば,60%の氷河は後退している.一方で30%の氷河は停滞状態であり10%の氷河は逆に成長していることがわかった.温暖化で氷河は後退傾向にあると考えられている中で成長している氷河が存在するのは非常に意外な結果である.
 
■ ヒマラヤ氷河変動をめぐる言説の食い違い
 一般的には,ヒマラヤの氷河は非常に早い速度で後退しており,近い将来にはすべて融解しまうと考えられている.氷河が全て融解してしまったとき,アジアの水資源は枯渇してしまうと考えられているが,本当だろうか?
 アジアの河川の流域面積と比較すると氷河の面積はわずか5%ほどである.ネパールの氷河が融けるのは夏だけであるため,実際にはもっと少ない.つまり,河川に流れる水の中で氷河が起源のものは非常に少ないのである.氷河が全て融解しても水資源が枯渇するということは無さそうである.また,氷河から溶け出した水は粘度などの懸濁物質を大量に含んでいるため,氷河の融け水は農業用水としては利用できない.実際,ヒマラヤの高山地帯ではジャカイモなどを作っているが潅漑などは用いていない.氷河由来の水が無くなっても高山地帯での農作業に支障が出るとは考えにくい.

 

Q&A
Q. ネパールでの食事がどのようなものだったか.
A. 西ネパールは非常に貧しい地域であり,お金があっても食事にありつけないことがある.1週間ものが食べれないかとも.例を挙げれば,良い日は1日2食のじゃがいも,悪いときは麦焦がしのようなものを食べていた.

 

Q. 氷河の観測点は動いてしまわないのか.
A. 基盤岩石は動かないと仮定し,そこに固定した金属ボルトを観測点としている.

 

Q. 観測点はなぜ谷底なのか.上部から見下ろす方が視野が広く適切ではないか.
A. 指摘はもっともだが,観測点自体が到達困難であることがある.食料のない限界状況下での調査のため,最低限のことしかできない.これには問題を感じている.また,70年代にはむしろ氷河の拡大が予測されていたため,観測点は谷底でも問題ないと考えられていた.

 

Q. 氷河の先端はどのように決定しているのか.
A. 基本は谷底における氷河の位置を先端としている.

 

Q. 氷河の先端の後退距離ではなく,減少体積を議論すべきではないのか.
A. 指摘はもっともだが,現状の技術では難しい.

 

Q. 氷河の融け水は役に立たないという事か.
A. 基本的はそうである.ドイツではグレッチャーミルクと呼ばれ,農民には嫌われている.

 

Q. 氷河湖の決壊が洪水で起き,近隣の住民に多大な被害が出る危険があると聞くが実態はどうなのか.
A. ほとんどの氷河湖は安定しており,言われているような危険はない.例えば,イムジャン湖の深さは150mであるが,土手の高さは6m程度である.これが決壊してもせいぜい10m分の水しか流れ出さない.氷河湖の決壊というストーリーは援助を引き出すために作り出されたものという色合いが強い.

 

Q. 土手の決壊では被害はなくても,上部の氷河から大量の氷が落下して水が押し出され洪水になることはあり得ないのか.
A. それはあり得るだろう.

 



 

2013年8月1日
交詢社地球環境研究会例会 講演録 記録:野澤拓磨
講演者:(独)海洋研究開発機構 高橋佳子氏
講演題目:「これからが面白い『水』地球大循環」

 

■ 海洋研究開発機構(JAMSTEC)とは?
 独立行政法人海洋研究開発機構(Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology)は,海洋研究開発および関連する地球物理学研究のために設置された研究所である.深海潜水艇や無人探査機の開発,一時期世界一となった地球シミュレーターの運用など,海洋や地球に関する様々なプロジェクトを行っている.

 

■ 地球シミュレーターとは?
 地球シミュレーターは,神奈川県横浜市金沢区のJAMSTEC横浜研究所に設置されたスーパーコンピューターである.地球規模の環境変動の解明や予測,日本のハイパフォーマンスコンピューティングの維持を目的として,600億円を投じて開発された.2002年6月から2004年の11月にかけて,LINPACKベンチマークでは実行性能においてトップを獲得し続けていた.
 
               地球シミュレーター

 

■ 海洋から地球を望むと何が見えるか?
 現在では地球シミュレーターを始め,様々な大気変動のシミュレーションが行われており,気候変動の予測などに役立っている.近年では,計算科学技術の進歩により,大気・海洋・陸の水の循環を考慮した地球全体のシミュレーションが可能になってきている.
 高橋氏によれば,海は熱容量が非常に大きく,年単位で過去の気候の影響が残っているため,気候予測において海洋の影響を考慮することは非常に重要だという.陸,海,大気を貫く水の循環をシミュレートすることで,さらに精度の高い気候予測が期待できる.

 

■ 気候変動を予測する
 地球全体の平均気温は1890年から2010年まで右肩上がりである.IPCCレポートは,人類の活動がこれらの温度上昇に大きく影響を与えていることは間違いないと主張する.
 地球シミュレーターなどのスーパーコンピューターを用いることで,不確定性はあるものの今後の地球の気候変動を予測することができる.ただし,気候のシミュレーションの精度は,シミュレーションを行うにあたり用いる計算モデルとメッシュの解像度に依存する.気候変動をよく再現するモデルを採用することで,より正確に気候変動を予測できる.現在までに様々な計算モデルが開発されているが,地球シミュレーターが使用している高解像結合モデル(SINTEX-F)は,非常に気候変動の再現性が高い.ダイポールモード現象やエルニーニョ現象については,90%以上の確率で6ヶ月前から予測できる.また,メッシュサイズを細かく取ってやることで局所的な気候の変動を考慮した精度の高いシミュレーションをすることができる.ただし,メッシュの細かさと計算コストはトレードオフの関係にあるため,メッシュの取り方には限界がある.例えば,都市部のシミュレーションではメッシュサイズは500m2が限界である.

 

■ 気象現象を解明する
 気候変動を予測することは,気候シミュレーションの重要な役割であるが,最近では気候現象の予測だけでなく原理の解明が期待されている.例えば,海面水温が長期間に渡り上昇もしくは下降するエルニーニョ現象やラニーニャ現象は,未だにメカニズムが分かっていない.さらに近年では,エルニーニョ現象の様だがエルニーニョとは違った挙動が現れるエルニーニョもどき現象や,ラニーニャ現象の様であるが異なるラニーニャもどき現象などが頻発しており,これらのメカニズムの解明が一層重要になってきている.

 

■ Multi-Scaleな全球シミュレーション
 気候現象は様々な時間スケール・空間スケールで発生している.局所的に短時間で発生する都心のゲリラ豪雨や毎年のように訪れる大規模な台風など様々な現象が地球では見られる.地球シミュレーター誕生以前にはこれらの問題を同時に扱うことは困難であったため,局所的なモデルを計算し.パラメータを調整することで,シミュレーションを行ってきた.しかしながら,実際には地球の大気・水・エネルギーは循環しているため,これらを同時に統合的に捉えてシミュレーションを行うことが望ましい.地球シミュレーターでは,これらの現象の階層間の行き来を可能にする全球シミュレーションを行っている.気候現象をマルチスケールに捉えることで,気候シミュレーションはより正確な予測を示してくれるだろう.
 
          マルチスケールな全球シミュレーション

 

■ 放射性物質の拡散シミュレーション
 東日本大震災後の福島原発の事故の後,放射性物質の話題を良く聞くようになった.地球シミュレーターを用いることで,大気や海洋の流れによる放射性物質の拡散をシミュレーションすることができる. これにより事故後の放射性物質の拡散の様子を知る事が出来,非常時の避難経路の探索に重要な情報を与えてくれる.ただし,生態系に蓄積される放射性物質について考慮することは現状では難しく課題が残っている.

 

■ シミュレーション技術で都市計画を考える
 東京はこの100年間で3℃も気温が上昇し,地球全体の温暖化よりも速い速度で温暖化している.温暖になるにつれ,都市部の降雨状況は大きく変化している.一時間あたりの降水量が50mmを超えることも頻発するようになり,一部の地域では下水道のキャパシティを超えてしまっている.このような都市型集中豪雨のメカニズムの解明は今のところ難しいが,水循環のシミュレーションなどを行うことによって,都市部のインフラ構造が水の流れに与える影響を調べることができる.シミュレーション技術が都市計画の指針を支えるようになっている.

 

■ まとめ
 計算科学技術の進歩により,マルチスケールに気象現象を捉えた地球全体の気候シミュレーションが出来るようになってきている.従来の大気・陸面結合モデルから,大気・陸面・海洋結合モデルに発展させることによって,基本の気候予測,気象の現象解明は大きく前進することになるだろう.


Q&A
Q. 気候のシミュレーションでインプットする情報は何?
A. 初期値パラメータとして大気や水のあらゆる情報を入力する.

Q. 地球はどれくらいのメッシュ(計算領域)に切られるの?
A. 縦横100km2,高さは50kmのメッシュに切られる.このメッシュが集まって球状(地球)を形成するイメージである.また,詳細な情報が求められるエリアは細かくメッシュを切ることも出来る.

Q. ビル群を流れる大気の動きのシミュレーションで建物の裏の温度が高いのはなぜ?
A. 排熱の影響や熱の放射など様々な原因からである.

Q. 海の上の雲はどうやってできる?
A. 暖かい海の上に雲が熱を奪いながら発達していく.実は海面には温度差があ
  りデコボコしている.暖かい所は高く,冷たいところは低くなっている.

Q. 太陽活動の影響をシミュレーションに反映させる取り組みはしているか?
A. 反映させることは可能であるが,現在は反映させる予定はない.

Q. 潮の流れのシミュレーションはどれくらいできている?
A. 1km2のメッシュで切るほどの解像度である.関東沿岸部のシミュレーション
  などはすでにおこなっている.

 



 

2013 年7 月4 日 

交詢社地球環境研究会例会   講演録   記録:澁谷泰蔵
講演者:産業技術総合研究所    安川香澄先生
講演題目:「有望なエネルギー源である地熱発電の未来」

 

■地熱発電について
  地球の体積の93%以上は1000℃以上で,中心温度は6000℃に達する.この熱を蒸気の形で取り出し,タービンを回すことで発電を行うのが地熱発電である.
  下の図に示すように,地下のマグマ溜まりを熱源とし,岩石の割れ目である地熱貯留層に溜まった熱水を利用する.その特徴は,(1) 建設や耐用年数なども考慮した総合的なCO2 排出量が太陽光発電などよりも少なく,地球に優しい.(2)天候・昼夜・季節を問わず発電できる.(3) 燃料の輸入が不要な純国産エネルギーである. という3 点が挙げられる.

  中でも(2)については設備利用率で言えば実績値でも70%を超える.日本の太陽電池の設備利用率が10%台にとどまっていることを考えると,これはかなり有利である.利用する地熱流体の温度で分類すると,200℃以上の蒸気を直接利用する蒸気発電,ペンタンなどの水より低沸点の二次流体を利用することで150℃程度でも可能なバイナリー発電,温泉の高温泉源を発電に利用してから浴用に使う低温バイナリー発電などがある.

 

  地熱発電は地震に強く,3.11でも一時的に送電を止めていた発電所もあるが,施設自体は無事であった事実も特徴として挙げられる.地熱は発電だけでなく,温泉やハウス栽培の熱源として利用したり,道路融雪や住宅の冷暖房としての利用方法もある.

 

■日本と世界の地熱発電の現状
  日本の地熱発電は1966 年に始まり,第一次オイルショック後に開始されたNEDO サンシャイン・プロジェクトに後押しされる形で1990年代には設備容
量が約54万kW に達していた.

  しかし2000 年時点で政府の支援が打ち切られ,現在の合計設備容量は51.5万kW にとどまっている.地熱発電所は北海道・東北・九州を中心に日本全国に点在しており,九州の八丁原発電所が国内最大で設備容量は11.2万kW である.

  世界では米国,フィリピンなどの設備容量が多く,日本は世界8 位である.世界では1970年頃から年間300万kW を超えるペースでコンスタントに伸び続けており,近年はクリーン電源としての注目も集まっている.2008年の産総研の試算では日本の地熱資源量2347万kW であり,米国,インドネシアに続いて世界3 位の資源量を持っている.
  また,地熱タービンは日本企業が世界の70%のシェアをもっている.


■地熱発電開発が進まなかった理由
  発電・送電コストが火力・原子力より高く,生産井あたりの当たりハズレが大きいこと,資源の80%以上が国立公園内にあり,開発不可能であったこと,温泉事業者の理解が得られなかったこと,などが開発が進まない理由としてよく挙げられる.

  しかし,昼夜・季節による変動が殆ど無い,高い年間設備利用率,少ないCO2 排出量,高いエネルギー収支比などの地熱発電のメリットが原子力発電のそれに極めて近いことを考えると,原子力促進政策の中でスケールメリットの小さい地熱が政策的に軽視されてきた事も原因と考えられる.

 

  その結果,法制度も地熱に不利なものが多く,地熱ビジネスがハイリスク・ローリターンのままに放置されている.生産井を掘っても熱水にあたらないリスクもあり,kW あたりの地熱発電所建設費は火力の約3倍である.

  現状では電力会社が地下開発リスクをとらず,地熱デベロパーから蒸気を買い叩くという構造で,特に北海道・東北地域でこの傾向が強い.地熱資源の開発には政策支援が必要である.

 


■3.11 後の規制緩和など
  3.11後,国内での地熱発電は徐々に見直されてきており,2012年4月エネルギー分野における規制・制度改革に係る方針が閣議決定され,規制緩和や補助金の面から後押しが始まった.日本の有望な地熱資源の82%は国立公園などの自然公園特別保護地区・特別地域内にあり,これまで地熱開発が禁じられてきたが,今回の規制緩和で,小型・環境配慮などへの条件を満たせば約30%の資源へのアクセスが可能となった.

 

  日本の国立公園内の特別地域などの区分は,景観や行政的意向が重視された結果であるので,諸外国の基準と比べても,この規制緩和はおおむね妥当と考えられる.一方で生態系保護の観点から自然公園内の区分を見直す動きもある. もちろん,地熱開発業者は環境への影響を最低限に抑えた開発を行うよう努力する必要がある.


  また,事業者をNEDO からJEGMO に移して地熱の調査・開発等に大規模な補助金が交付される.予算規模は年間150億円程度である.ただし,調査のための掘削補助率は50%である. 電力固定買取価格制度については設備容量1.5万kW 未満は42円/kWh, それ以上は27.3 円/kWh で買取期間は15年間というものが提示された.これは評価できる.


■温泉事業者との関係
  地熱発電の開発による温泉への影響への危惧や,都市電力供給目的の

地方での発電への反対を主因として,地元関係者と地熱開発事業者の対立がしばしば指摘される.しかし,この対立は充分な話し合いにより回避可能である.

  まず,適切な調査をすれば地熱発電で利用する地熱貯留層と温泉が利用する温泉帯水層の関係は見極めることができる.2 つの層の間に水の流れを遮断する層があれば,温泉への影響はないし, 双方での利用量が天然の供給量とバランスしていれば問題は生じない.

 

  これに合わせて,地熱発電所を積極的に観光資源として利用できること,発電規模的に地元での利用が合理的であることなどを説明し,誤解を解いていかねばならない.また,温泉事業者は温泉が永続的に利用できるかの科学調査ができていないことが多い.地熱開発事業者が,温泉系などの科学調査を提供することで両者の良好な関係が築けるはずである.


■技術課題
  地熱貯留層は水平な地層ではなく亀裂のネットワークであるため,石油井やガス井のように掘削成功率を挙げるのが難しい.これに対しては地下の電気比抵抗分布を求めることである程度の成功率を上げることができる.

  地熱地帯は水平方向の地下応力が高く, また高温なため, 高度な掘削技術を要する.日本は高度な掘削技術があるが,現在は技術者が不足気味という別の問題を抱えている.貯留層の管理も課題である.過去の例では,坑井の再生可能生産量に対して過剰な設備を建設してしまい,井戸からの生産能力が不足して設備利用率が下がったまま運転している発電所もある.

 

  現在では貯留層に共通した性質はわかってきており,適切な設備,必要に応じた注水により,坑井の持続的な利用が可能になってきている.開発規模や注水に利用する補充井の位置の決定には貯留層の数値シミュレーションが有効である.

  パイプラインへの化学成分の沈着も課題である.これは地熱流体に高濃度で溶解している岩石中の鉱物が原因で,特にシリカの沈着には有効な解決手段がなく,世界的な課題となっている.

 

■将来技術としてのEGS
  EGS(Enhanced Geothermal System)とは人工地熱システムのことであり,場合によっては地下を4~5kmまで掘削し,地層を水圧破砕することで人工的に地熱貯留層を作り発電に利用する.現在は十分な容量を持つ人工貯留層を発生させる汎用的技術が不十分で,採算性が低いが,世界各国でプロジェクトは進行中である.

  技術が確立されれば,将来的にはどこでも地熱発電ができるようになる可能性があり,従来型地熱資源の約20倍のポテンシャルを持つとの試算もある.

  日本では国内実証試験を行なっていないが,微小地震の地下探査,モニタリング,発電技術など個々の技術はトップランナーである.EGS の技術確立が世界に与える影響は大きいため,日本が主導してこの技術を確立する価値は十分にある.

 

■直接利用
  地熱資源は,発電以外にも冷暖房や農業・漁業への利用法もある.日本は浴用・プールへの利用が90%と偏っているが,世界で見れば暖房・温室・養殖漁業などにも多く利用されている.また地下と熱交換を行って地表にヒートポンプを設置し,夏は冷房,冬は暖房に利用する地中熱ヒートポンプシステムが世界的に普及しており,日本でも2000件程度導入されている. 東京スカイツリーの建物部分にも地中熱ヒートポンプシステムが導入されている.熱は熱として使うのが一番得である(エネルギー変換による損失がない)のは言うまでもない.


■地熱エネルギー開発の今後のシナリオ
  2008年の日本地熱学会誌上で江原幸雄らが3つのシナリオを提案している.
  (1) 2008年現在の法制度でも達成可能なベースシナリオと(2)地熱利用に対し社会的な支援を仮定したベストシナリオと(3)地熱開発を促進する明確な社会制度及び技術的なブレークスルーができた場合のドリームシナリオの3 つである.

  2050年時点の発電容量予測値はベースシナリオで160億kWh,ベストシナリオで250億kWh, ドリームシナリオで830億kWh である.現在の日本の状況はベストシナリオでの仮定に近づいており,これが一時の流行に終わらなければ,ドリームシナリオに近づく可能性もある.ドリームシナリオが達成出来れば,日本の電力の10%を純国産エネルギーである地熱で賄うことが出来る.地熱開発には5~10年スパンの時間がかかるため,一時のブームに終わらせずに,人材育成も含め,長期的な視点で調査・開発を行なっていくことが肝要である.

 

■質疑応答
Q.地震の時にパイプがずれたり熱源に変化があったりしないのか
A.変化はない.地下構造物は揺れと同様に動くため,変化を受けにくい

 

Q.経産省と環境省の連携はうまく行っているのか
A.省間での問題は少ないが,環境省の国立公園課・温泉課と地球温暖化対策室の温度差はある.


Q.地熱流体の最高温度はどの程度か
A.500℃程度である.

Q.ここで言う温度に対する圧力はどの程度か
A.200 気圧程度である.蒸気層は深さに対して圧力があまり変わらない


Q.地熱の積極的な利用によって火山の噴火制御は可能か
A.そういう主張も聞くが,現実的な段階にはないと思う
Q.富士山は熱源として利用できるか
A.富士山は火山として若すぎるため,熱源深度が10km 以上ある.利用は難しい.利用できるのは4-5万年前に噴火した中年の火山である.


Q.生産の継続でも,温度・圧力は維持できるのか.
A.圧力は下がるが安定させることができる.
Q.熱水の枯渇は地下水不足か
A.そうだと思われる.熱自体は減らないと考えられている.


Q.スケール(パイプライン沈着物)の中に貴金属やレアアースはあるか
A.そういうケースもある


Q.EGS に関して,東京でも5km 掘削すれば実現可能なのか
A.不明である.わかっている範囲では地下2km までは地下水で冷やされて数

10℃にとどまっている.
Q.詳細なデータがないのはなぜか.
A.注水により微小地震が発生する可能性がある、これを懸念して調査が進められていないからである.

 



2013年6月6日
交詢社地球環境研究会 議事録    記録:野澤拓磨

講演者:東北大学 未来化学技術共同研究センター 教授 小濱泰昭先生
講演題目:「マグネシウム人工燃料発電器の最新開発動向」

 

■ 概要
 講演者の小濱教授は東北大学未来技術共同センター(Niche)で,「21世紀にあるべき持続可能で明るいクリーンなライフスタイルの実現」をテーマに活動を行っている.その研究内容は,エアロトレイン・マグネシウム燃料発電器・基礎流体力学全般・ダイヤモンドコーティング・ナノバブルなど多岐にわたる.特に,エアロトレイン・マグネシウム燃料の研究は,国内外の多数のメディアに取り上げられ注目を集めている.本講演では,マグネシウム燃料発電器の開発状況と今後の展望を中心に,その技術の紹介が行われた.

 

■ マグネシウム燃料電池
 マグネシウム燃料電池は空気電池,燃料電池の一種である.負極に金属マグネシウム,正極に酸素を使用する.電解液としては食塩水が利用される.小濱教授らは金属マグネシウムの代わりに,エアロトレインに用いた難燃性マグネシウム合金を負極に用いることで,従来よりもはるかに長い時間放電させることに成功した.

 

■ 難燃性マグネシウム
 マグネシウムは,実在構造材料の中で最も軽く材料特性に優れた物質であることから輸送機器や産業機器の構造材料として期待されている.しかしながら,マグネシウムは空気中で酸素と反応する活性物質であり,その高い反応性から加工に当たっての取り扱いが難しい物質と言われている.ところが近年,従来のマグネシウム合金にカルシウムを2%添加することによって,発火温度を300~400 K上昇させた合金が開発された.この合金は難燃性マグネシウム合金と呼ばれ,小濱教授のエアロトレインやマグネシウム燃料発電器に利用されている.

 

 

■ 難燃性マグネシウム燃料発電器の性能
小濱教授によれば,難燃性マグネシウム合金を用いた燃料電池はリチウムイオン電池の10倍の性能があるという.本講演では,扇風機・2.9インチテレビ・LED照明を難燃性マグネシウム燃料発電器に接続した実演が行われた.小型のマグネシウム燃料発電器を5つで,これらの機器が約28時間使えるという.また,小濱教授はマグネシウム燃料を動力としたトライクの走行実験を行い,いわき市から仙台市までの110kmを完走している.
 
■ 再利用可能なマグネシウム
発電に使用したマグネシウム燃料は,エネルギーを加えて還元することによって再利用することができる.小濱教授によれば,砂漠に降り注ぐ大量の太陽熱を集光すれば,およそ1200℃ほどでマグネシウム燃料の熱還元が可能であるという.また,砂漠地帯でなくても1200℃程度の熱源さえあれば,マグネシウム燃料の還元は可能である.有効利用されていないバイオマスや排熱を利用すれば,国内でもマグネシウム燃料の還元が可能である.

 

■ 砂漠とマグネシウム燃料の持つ可能性.
 上述のように,砂漠に降り注ぐ太陽熱を利用することで,使用済マグネシウム燃料を還元することができる.還元されたマグネシウムは日本に輸送してくることで,エネルギー源として再利用できる.マグネシウム合金として備蓄することで,蓄電や送電時に発生するようなロスがなく,エネルギーを蓄えることができる.
 小濱教授は,サンベルト帯(太陽が南中する地域)に50km2の土地を確保できれば,原発が無くても日本の電力供給を満たせると主張している.二次電池と組み合わせることで,安定かつ十分な電力を供給することができるだろう.持続可能社会の次世代基盤エネルギー源として,日本のエネルギー供給のシステムを大幅に変えるかもしれない.

 

 

■ 今後の展望
 マグネシウム燃料は熱を加えて還元することで,繰り返し発電器として利用できる.安全性やハンドリング性能の優れたマグネシウム燃料電池は,従来のエネルギー源に代わり,あらゆる場面に登場していくだろう.小濱教授がイメージするマグネシウム循環社会が実現すれば,日本は極めてクリーンで安価なエネルギー供給のシステムを手に出来るはずである.持続可能な社会を実現してゆくために,少しでも早い実用化と普及が望まれる.

 


■ Q&A
Q. この電池はリチウムイオン電池のようなものなのか?
A. ちがう.リチウムイオン電池は充放電の両方が可能ないわゆる二次電池である.この難燃性マグネシウム燃料電池は一度放電すると,再充電はできない.燃料の還元が必要である.

 

Q. このマグネシウム循環社会の構想は先生のオリジナルなのか?
A. そうである.強いて挙げれば,東工大の矢部先生は同種の提案をしてはいる.

Q. 世界の競争相手はいるか?
A. いない.

 

Q.政府は関心を持っているか?
A. 持っていない.政治家は科学技術に疎く,官僚は保守的である.協力企業が増えれば (100社程度) 対応が変わってくるかも知れない.

 

Q. 政府の問題は何か?
A. 日本の中枢には昔から目利きがいない.後に評価される二宮忠八のカラス型飛行機が,日本陸軍で相手にされなかった頃と構造が変わっていない.

 

Q. 現在の課題は何か?
A. 技術的には大きな問題はない.無いのはヒト・モノ・カネである.現在のところニコン,古河電池など10社の協力をうけている他,40社が興味を持っている.ニコンの試算ではMgが一日50万トンあれば,日本の原発を代替できる.三井物産からオーストラリアの塩田で産業廃棄物として排出される400万トン/年のにがりに関してアプローチがある.

 

Q. 今後の世界では砂漠争奪戦が起きるか?
A. 起きるかも知れない.EUはデザーテック構想という北アフリカと中東の砂漠における太陽光発電網のプロジェクトを立ち上げている.

 

Q. メルケル首相の脱原発はマグネシウム循環まで考えてのことか?
A. それはない.砂漠から直接送電する構想である.

 

Q. 使用済みのマグネシウム燃料を還元する際のロスはどの程度か?
A. 10%程度である.

 

Q. 燃料価格はいくらになるのか?
A. マグネシウムは250-300円/Kg 現在は難燃化で20倍の価格になるが,量産化で500円/kg程度になると言う見積りがある.

 

Q. いいことづくめに見えるが,そうなのか?
A. そう考えているが,皆様にも考えて欲しい.

Q. 製品にしたら価格はいくらになるか?
A. 65V, 9Aの非常用電源を一万円で提供できそうである.

 

Q. 家庭での利用イメージは,家庭ごとに発電を行うということか?
A. そうである.送電ロスを考えると,使用地に近い場所で発電するのがベストである.マグネシウム電池はコンスタントに弱い電流しか作れないので,実際にはLi-ion電池のような二次電池と組み合わせての利用を想定している.

 

Q. 難燃性マグネシウムは錆びやすいか?
A. 酸化皮膜はできる.

Q. 難燃性マグネシウムの構造材料としての性質は?
A. 産総研の坂本さんによると,利点はアルミより40%軽いこと,欠点はアルミよりヤング率が低いことである.現在,北海道新幹線の軽量化材料として検討されている.

 

Q. マスコミの関心はどうか?
A. 高い.これまでも,NHKやTBSの番組で取り上げられた他,このプロジェクトをモデルにしたドラマも放映予定である.

Q. この難燃性マグネシウムの電池は小濱先生のところにしか無いのか?
A. 古河電池と共同で製作しているため,古河電池にもある.

 

Q. 特許はとっているか?
A. 7カ国で主張している.

Q. 燃料リサイクル (還元) 後の性能は?
A. 研究室の環境では,ほぼ100%戻ることを確認している.

 

Q. 還元にかかる時間は?
A. すぐである.課題を挙げるなら,還元には真水が必要なので砂漠での真水確保が課題である.

 



2013年5月18日

地球環境研究会例会 議事録      記録:平塚将起
講演者 公益社団法人 日本ナショナル・トラスト協会 事務局長 関健志氏

講演題目:「大切な自然を購入して守るナショナルトラスト」

 

【概要】
 ナショナル・トラスト協会では,自然環境を保全することを目的として自然の残る土地の買い取りや管理を行なっている.本研究会では,ナショナル・トラスト運動の海外や日本における歴史や,具体的な活動の内容について紹介する.またナショナル・トラストの活動において考えなければならない,生物多様性や土壌,上位捕食者を守ることの重要性や,人類が持続可能な開発を行うために直面する課題について解説を行う.

 

【ナショナル・トラスト運動とは】


 ナショナル・トラストとは,1800年代の終わりにイギリスで始まった自然や歴史的建造物の保全のための運動である.自然や歴史的建造物の残された土地を取得し管理し続けることを目的としており,ピーターラビットの生みの親であるビアトリクス・ポターが,絵本の舞台である湖水地方の自然を守ろうとしたのが最初である.

 自然保全のためには膨大な土地を取得する必要があったが,個人で多くの土地を所有するのは税や管理の問題で負担が大きく,また子孫もその土地の所有を希望し続けるかどうかわからない.そこでポターは絵本の印税を元にして湖水地方の土地を購入し,はじめはわずか市民3名で構成されていたナショナル・トラストへと寄付した.

 今ではピーターラビットの舞台であるダーウェント湖の約1/3がナショナル・トラストの所有地であり,自然の保全を目的とした活動が続けられている.イギリスではこうした運動を受け,自然や歴史的建造物の保存を目的としたナショナル・トラスト法が作られ,税制上の優遇が得られるようになった.

 

 

【イギリスのナショナル・トラスト】


 自然の土地を現状のまま維持するには,実は大変な努力が必要である.放っておけば草原は森になってしまうため,長期に渡る人工的な管理が求められる.イギリスのナショナル・トラストには約5000人の職員と370万人の会員がおり,職員だけでなく会員もボランティアで自然の保全活動を行なっている.このように一般の人が自然の保全を行うことがイギリスでは普通のこととなっている.

 また自然だけでなく,多くの歴史ある庭園や,チャーチル首相の家のような建築物もナショナル・トラストで保全を行う.建築物は老朽化が進むため補修を継続的に続けて行かなければならず,多くのお金もかかる.お金は会員の会費等の収入によって賄われ,会員は庭園や建築物の入場料が安くなるといったメリットがある.またイギリスの沿岸を買い取ることで,自然を破壊する開発を未然に防ぐというよう活動も行われている.

 

Q. 保全地域に建物を立てる際は,ナショナル・トラストが許可を出すのか?
A. ナショナル・トラストは許可を出さない.ナショナル・トラスト法によってナショナル・トラスト側も保全地域の自然に手を加えることはできず,また,土地を手放せないことになっている.このためナショナル・トラスト側も,土地の寄付を受ける際には慎重に審査を行う.ただしお城などは,居住者は住んだままでもいいことになっている.

 

Q. 居住者が城等をナショナル・トラストに寄贈した場合,居住者の権利がある程度制限されると考えられるが,どういうメリットがあるのか
A. イギリスでは所得税や贈与所得税がかからない等の優遇措置が有る.日本にはそういったシステムはない.

 

Q. 会員はどれくらい会費を払っているのか.またその量は十分か?
A. 正確なところは分からないが,1万円くらいではないか.足りているかどうかは分からない.イギリスでもナショナル・トラストの規模は縮小している.建物は時間がたつほどお金がかかるため,管理上の問題となる.このため建物の寄付を受ける時は管理のしやすさなども考慮して吟味し,受け取らない場合も多い.イギリスのナショナル・トラストの本部はもともとロンドンだったが,今では田舎に移っている.自然も遷移を止めるのは大変だが,建物ほどではない.

 

【日本のナショナル・トラストの活動例 - 自然環境の保全 - 】


・日本で最初のナショナル・トラスト 鎌倉
 日本で最初のナショナル・トラストの運動は50年ほど前に鎌倉で起こった.鎌倉の鶴岡八幡宮の後ろの土地は私有地だったが,その地にマンションが建設される計画が持ち上がった.マンションが建設された場合には大きく景観を損ねるため,市民がお金を出しあいその土地を購入した.今では日本で最初のナショナル・トラスト運動と言われている.

 

Q. 誰がその土地を管理しているのか?
A. 財団法人で,いまでは鎌倉のナショナル・トラストとなっている.

 

・知床
 70年台には日本中でリゾート開発が進められていた.知床もその対象となり,多くの自然が失われる危機に瀕していた.知床の町長は土地を守りたかったが,町は大きくはなく十分な予算は無かった.それを聞いた朝日新聞の記者が天声人語にイギリスのナショナル・トラスト運動を書き,知床についても紹介したところ,たくさんの寄付が集まって無事に土地を買い戻すことができた.

 寄付の額に応じてパネルに名前が記載されるようになっていた.

 

・和歌山の天神崎
 これも自然を守るために,約40年前に学校の先生が個人で始めた.段々に広がり土地の購入が始まったが,まだ目標の半分程度しか購入は進んでいない.

・柿田川湧水群 富士の伏流水が流れている
 富士山からの伏流水が湧き出る幻想的な光景が見られる土地だが,すぐ近くを道路が通っている.湧水群を開発から守るために市民が個人で買い取っていた.その後市も協力することになり,財団法人が購入を進めている.結果,今では観光地の一つとなっている.


日本における自然環境保全のためのナショナル・トラスト

Q. 湧き水の出口だけ守っても,湧き水が通っている上流を守らないとダメではないか.ナショナル・トラスト協会ではなにか案を考えているか.
A. すでに地元に団体(地域のナショナル・トラストなど)が存在する場合はそちらに任せているため,日本ナショナル・トラスト協会では対策を講じてはいない.行政としては規制によって開発に網をかけていきたいが,そうすると規制によって不利益を被った土地を所有者から買い取らなければならない場合があるため,先に財源を用意する必要がある.このため政府が土地に規制をかけるのは難しい.

 

Q. 保全地域の近くで,ボーリングのような特殊な作業をさせない手段はナショナル・トラストにはあるのか.伏流水は地下を流れているので,近くでボーリングをされると流れが変化し水が止まってしまうことも考えられる.例えば三島では,企業のボーリングによって地下水の流れが変わり,鯉が住んでいた池や湧き水が止まってしまった例がある.
A. ナショナル・トラストではそういう事はできない.国もあまり対策をとっていない.

 

・釧路湿原


   湿原自体は国が保有している.湿原は河川区域であるため,国が法律によって買い取ることが可能なためである.(実は,河川区域であっても,荒川の用な河川区域は殆ど私有地であり,国は買い取ってない.お金が必要となるからである.)このため,ナショナル・トラストは湿原そのものを保有する必要はないが,湿原の周辺の買い取りを行なっている.

   湿原は遷移中の土地であり,最終的には森になってしまう.しかしそれには本来何千年から何万年かの時間がかかるはずである.ところが釧路湿原は,1947年は今よりももっと大きい湿原だったのが,2004年にはそのうちの大きな部分が森に変わってしまった.これは湿原の周りで開発が進み,そこにあった土壌が流入してきたためである.

   このため,本来は湿原のみでなく,周りの土地でも開発を防がなければ湿原を守ることはできない.しかし国は河川地域ではない湿原の周りには手を付けられない.このためナショナル・トラストが所有して保全を行なっている.

 

【日本のナショナル・トラストの活動例 - 絶滅しそうな野生生物を保護 - 】


・ツシマヤマネコ

 

   世界に180匹くらいしか居ない貴重な猫で,対馬にしか住んでいない.対馬は90%が私有地で,今,土地はどんどん外資に買われている.はじめは日本名で購入されていても,転売されることもあって実際には誰が持っているのかは分からない.韓国にすごく近く,観光客の9割が韓国人である.トレッキングと釣りをし,民宿に泊まってくつろいでいくらしい.ツシマヤマネコは交通事故でこの10年で40匹死んでいる.生息地を守らないとならないが,国は全く手を付けていない.そこでナショナル・トラスト協会が,ツシマヤマネコの生息地の中で一番密度の高いところを購入した.


Q. 土地はいくらだったか
A. 安い.数百万の単位.なぜ国はこれを買えないのか疑問に思う.すぐ近くに調査を目的として何億かの建物を立てているのに,より効果的な方法である土地の購入はしていない.

 

Q. なぜ安く変えたのか?
A. 測量がちゃんと入っておらず,実際よりずいぶん安く見積もられている.測量がきちんと入っていないのは,測量にかかるお金が工面できないためである.

 

Q. 韓国からの入国に審査はあるのか?
A. 昔はラフだっただろうが今はある.

 

・アマミノクロウサギ 鹿児島


   原始的な兎で生体が完全には解明されていない.夜行性で,土を掘って子供を育てる.このクロウサギの生息地は数年後に世界自然遺産として申請をすることが決まっており,観光客の増加を見越して開発が始まっている.開発が進められてからでは遅いので,その前に自然保全の手段を取らないといけない.そのため,今年の2月にここをナショナル・トラストが購入した.購入した土地を幾つかの部分にわけ,それぞれの森に名前をつける権利を売っている.(寄付を受け付けている.)
   この土地に関しては,地元と相談をする前に購入したため,はじめは非難もあった.地元と調整せずに急いで購入したのは,公に公開した後に土地を買おうとすると,開発業者がそれを防ぐためにどんどんお金を出すことで土地が高額になり,経済的な利益を優先した議会からナショナル・トラストの購入にストップを掛けられる可能性があるからである.

                          野生動物保全のためのナショナル・トラスト


・黒松内町 ブナの森


   温暖化でブナの森の分布は北に移っている.ブナは原生林の研究者らが集まるような貴重なものだが,近年,製紙会社が森をすべて購入した.伐採が計画されているとのことで,それを知った町が買いなおそうとしているが,町単独では難しい.そのためナショナル・トラストが手をかしている.

 

【ナショナル・トラストへの自然地の寄贈について】


   自らの持っている土地をナショナル・トラストに寄贈しようという例は少なくない.どこにあるかも,どんな土地かも知らない土地を持っているという人は意外と多い.所有者は実際には土地を管理したこともないし見たこともない.昔から持っていた土地をいつの間にか相続した場合もあるし,バブル期に税金対策で購入した場合もある.しかし山林などの土地を所有していて,産業廃棄物等が違法に捨てられた場合,捨てた業者を特定できなければ,現状復帰の責任は所有者に向くことになる.

   このような事情から,子孫にその土地を相続させ続けることを望まず,自治体に寄付しようとする場合が少なくない.しかし自治体は基本的に土地の寄贈を受けることはなく,仕方なく地元の不動産屋にただでもいいから貰ってもらうことになる.しかし不動産屋も上述の理由から長く保有を続けたくないため,インターネット等で安い価格で販売することになる.

   その結果,購入者が誰かもわからない状態となってしまう.実際にニセコの土地などは,中国の富裕層が購入を進めていたりする.かといって地元で管理団体を作るのも簡単ではない.そこで,管理が難しく自然的な価値が大きいところはナショナル・トラストが寄贈を受け付けている.

 

【遺贈と税について】


   遺言で家や土地をナショナル・トラストに残し,それを持ち続けるのではなく,売って資金にして自然保全に役立ててもらおうというケースもある.この場合,現在の法律上は固定資産税,不動産所得税,譲渡所得税などがかかってくるのだが,ナショナル・トラストでは非課税申請を行なっており,今のところ多くが受理されている.今後団体が自然を守りやすくなるように,きちんと税に関する制度を作ってもらえるよう,ナショナル・トラスト法を整備してもらうためのはたらきをしている.

 

Q. 遺贈における相続税についてはどう対応しているのか
A. 亡くなった後に10ヶ月以内に寄付した場合は相続税がかからないという法律があったはずで,それを適用している.

 

Q. 寄付したいという場合,無条件で受け取るのか
A. そうではない.土地を調査させてもらってからにしたい.道沿いで廃棄物を不法投棄されやすい場所だったりすると困るためである.しかし調べさせてくれない場合も多い.信託銀行に守秘義務があり確認が難しい.

 

Q. 小さい,いらないからあげちゃえといった土地が多いのか.
A. 多い.別荘地など,所有しているだけで管理費がかかる土地が多い.そういうのは貰わない.

 

Q. 放棄することは出来るのか?
A. できないのではないか.

 

Q. 放棄は可能だったはずで,放棄すると国のものになる.
A. そういうことであれば放棄すればいいのに,なぜそうしないのか,不思議です.

 

【環境問題 生物多様性】


  なぜナショナル・トラストが自然を守ろうとするのかといえば,やはり生物多様性を守ることが重要であるからである.例えば,抗生物質の多くは土壌細菌から作っているが,自然環境が失われるとともに土壌細菌の数も減り,今では昔と比べて半分くらいの種類しか残っていない.

   日本でもめだかがいなくなってきているが,あまり重要視されていない.食物も同様で,稲は品種改良が進められているが,品種改良の大本になっている稲は今の日本にはもう無い.

   日本で卵が安いのは,鶏の食べる飼料が安定的に供給されているからで,その飼料はアメリカで品種改良によって作られたハイブリットコーンである.ハイブリットコーンは繁殖できないようになっているため,毎回アメリカから苗を購入しなければならない.アメリカは植物の遺伝子を押さえている.

 アメリカは昔日本から植物のサンプルを採取しており,すでに日本では絶滅した多くの種類の植物をニューヨークに保存している.今ではバイオテクノロジー産業が遺伝子バンクとして遺伝子を保存しようとしているが,やはり本質的にはその遺伝子を生んだ自然を守ることが大切である.

 

【土壌の重要性】


   自然を守れというと普通はみんな緑を意識する.しかし実際には土壌も大切で,土壌は1cm作るのに100年以上かかる.太陽と大気と水と生き物と土壌,自然破壊が起きる場合にはこれのどれかが壊れている.
   例えば,四大文明地の一つであるナイルは,もともと砂漠だったのではなく,昔は大森林地帯だった.しかし森を切り過ぎで,土壌が無くなったために滅んでしまった.これは安田先生の花粉分析で分かっている.黄河も,もともとああいう色ではなかった.昔は森林が合ったが,今では上流部の土壌は流されてしまって,人も移動し始めている.また今では工場による取水で多くの水がとられてしまうため,川なのに下流では水がない.
   日本でも,例えばゴルフ場を作る時,土壌は全部剥いで谷に捨ててしまう.2重の自然破壊である.ドイツでは土壌保全が意識されている.日本は昔から土壌が豊かだったので,あまり土壌の重要性に対する意識がなかった.

 

【自然の状態と上位捕食者】


   自然の状態はトッププレデター(上位捕食者)を見ると判断することができる.例えばカラスが東京で増えるようになったのは,東京からオオタカがいなくなったからである.現在は皇居のみに住んでいる.またシカが増えたのは狼がいなくなったからで,

   今ではシカ対策に何百億も毎年かけている.このように生体系が破壊されて上位捕食者がいなくなると,天敵がいなくなった動物が増えて対策が必要となる.このためアメリカやヨーロッパでは,一度いなくなってしまった狼を,持続可能な土地利用のために他から連れてきて増やしてすらいる.こうした土地の利用にナショナル・トラストが使われたりしている.

 

Q. 一次産業に用いられている土地には動物は住まないのか
A. 昔は住んでいた.昔は田んぼにはメダカがいた.しかし最近は田んぼも仕組みが違っていて住めなくなっている.

 

Q. たまに隣の家では農薬を撒いている.うちにも多少の影響があるかと思われるが,それでもうちの庭には昆虫は住んでいる.

A. 小さな虫は小さな土地があれば住んでいける.大きな鳥にはその分より広い土地が必要.日本は木を植えて緑は増やした.しかし実際にはあまり生き物が住んでない.森は増えても杉やなんかでは生き物が住めず,自然破壊をしたのとかわらない.海外はちゃんと猛禽類を飛ばしている.また河を埋めて鯉(外来種)をはなしたり,街路樹として外来種うえたりで,生き物が増えたとしても本来のものではない場合も多い.

 

Q. そういう土地を買って昔の森や生き物を再生したり出来るのか.
A. そういう法律は作ったが,民間では難しい.

 

【持続可能な土地の整備】


   農作地の補助・整備をすることで,作物の生産効率(面積/作業量),つまり生産性は上がった.しかし石油を使っていることで,昔は1で10のエネルギーが得られたものが,今では1で0.36程度しか作れていない.エネルギー生産性が悪く,持続可能ではない.
   ドイツでは,コンクリートで固められた河を,公共事業で昔のような河に戻している.高速道路(アウトバーン)も,森を横切る時は道路の下や上で分断した部分をくっつけ,自然を接続するようにしている.また私有地にも木を植えている.農業の生産効率は落ちるが,その分は国がお金を出している.近年では日本でも,生産量は減っても品質を上げて収益を増やすという産業は生まれつつある.
   また海外では,コンクリートを減らして土壌に戻そうという働きもある.なぜ市民が協力するかといえば,広報が努力したからである.市町村の役場には,どこにどの生物がいるか,どこで繁殖しているかが書いてあり,業者もその部分を避けて開発を行う.遺伝子がまちの資源であると認識している.EUレベルで自然再生の計画もある.
   アメリカはダムを壊し始めている.経済的に持続可能でないからである.例えばミシシッピ川は,長く氾濫が続いており,川沿いの人々が被害を受けていた.しかし,最近では川が溢れてもいいように,川の氾濫を考慮して人が住むようになった.ここ150年くらいの間に川が移動した範囲を調査し,その外に堤防を作った.中は川が自由に動けるようになっている.もともと住んでいた人で立ち退かない人は強制収容してでもそのようにした.

   またゴア大統領の時,フロリダでは,過去に一度真っすぐにした(その結果,水鳥が9割減った)河川をあえて溢れさせ,元の蛇行した状態に戻した.これによって水鳥が戻ることを期待している.増やし続けていた農地をあえて森にして,河への土壌流出を抑える動きもある.土壌がなくなると生き物がいなくなり,生産に化学薬品を使わないとならなくなったりする.
   日本では,治水によって河川の氾濫頻度は10分の1になっても,周りにより人が住むようになった結果,毎年被害額は増えている.これまで日本は色々と開発を進めてきた.しかし人口の減少もあって今後,財政の予算は減少が見込まれる.

   一方で維持管理費は増え続ける.2020年くらいには維持管理費が予算を上回り,何も作れないし維持もできなくなる可能性がある.

   アメリカ・ヨーロッパはすでにこのシミュレーションをしており,問題として議論されている.水道が出なくなる日もちかい.実際に,すでに北海道では人が住む土地が減少してきている.人が住めなくなったら,その土地はどう管理するか.技術は存在してもお金や人が減ってくる.こういう場合の人の住み方をどうするかという点で,ナショナル・トラストの役割が問われている.ナショナル・トラストは,自然環境を何処どう残していくか,また人の住む場所をどう管理していくかという問題を対象としている.

社会資本に使うことができるお金

 

【質疑応答】


Q. ~トラストというのが今では沢山あるが,なぜこんなに増えたのか.関さんが音頭をとったからか
A. そうでもない.もともと自分の街のことについてはみんな頑張ってやっていた.それを監督していたのが環境省だったが,全国にたくさんあって管理しきれず,今ではトラストという団体が管理するようになった.

 

Q. どういうところを選んで購入を進めているのか.効率的なところを選んでいるのか.
A. それもある.他には不法投棄がされづらく管理がしやすいところなど.

 

Q. 何箇所あるのか.管理責任があるのですよね.
A.  あります.20箇所くらい.ホームページに記載されている.

 

Q. 寄付金のみで運営しているのですか.
A. 会員と寄付だけです.事業はない.

 

Q. ナショナル・トラストとしては,人が広範囲に広がりすぎるよりは,一箇所に集まっていた方が効率が良いという考え方をどう思われるか.限界集落を守るといった活動はしているのか.最近インターネットで都市に人を集約し効率化すべきという意見を目にするので.

A. 限界集落への対応などはあまり考えていない.持続性が重要だと思う.無いところに無理に持ってきて住むというのは持続的ではなさそうである.日本で問題なのは,河付近で危ないところに人がたくさん住んでいるという点.氾濫区域に人口の50%が住んでいる.資産の75%がそこある.かといって,簡単にその区域から立ち退くという訳にはいかない.しかし利根川だって必ずあふれる.利根川はスーパー堤防を立てるとのことだが,大量の時間とお金がかかる 持続可能とは思いがたい.

 

Q. 前回の研究会の集まりで,遺伝子組み換え食品の話があった.米国では遺伝子組み換え食品の方が生産性が高いので,世界の人口を養うには遺伝子組み換え食品の普及が必要であると言われている.遺伝子組み換え食品ついて,ナショナル・トラストとしてはどういうご意見か

A. ナショナル・トラストはあまり意見を言いはしないが,今のところ技術や安定性が確立されていないので,ノーの立場をとっている.

 

Q. これまで人類は,治山治水を掲げて生活圏を増やしてきた.アメリカの例は,これを続けた上で上手くバランスをとろうとしているのか,それともこれからは自然に任せようと考えたのか.このバランスが難しいところだと思います.
A. 人類は今になってその選択を求められるようになってきた.自然への撤退政策も出はじめている.日本にはダムを作る技術はあるが,壊す技術はない.これまで選択肢に無かった.アメリカだって大雑把に壊してきた.ひょっとしたらそこもビジネスチャンスになるかもしれない.

 

Q. 一度作ったものを壊すというのは,それを作った人達にとっては残念なことだと思うが,それはどうか
A. 作った時はGDPが上がり続けると考えており,それを前提とした維持を考えていた.しかし今はそういう状況ではない.これは人類が初めて直面する問題である.

 

Q. 橋の老朽化について,危険はないか.普段,橋の下で焼き鳥を食べているが.
A. 国は橋の老朽化についてチェックを行なっているが,県や市レベルでは手が行き届いていない.



 

2013年5月9日
地球環境研究会例会 議事録  記録:野澤拓磨
講演者 国際食料農業貿易政策協議会(IPC)元理事
 東京農大客員教授 白岩 宏氏
講演題目:「最近の世界食料事情『メガトレンド 過去,現在,未来』〜日本の農業政策へのインプリケーション」

 

■ IPC (International Food & Agricultural Trade Policy Council)
 IPCは,「生産性と持続可能性(Productivity & Sustainability)」,「食の安全性(Food Security)」,「経済成長と発展(Economic Growth & Development)」を考えることを目的とした非営利団体(NPO法人)である.

 

■ 国際的に農業問題を取り上げる必要性
 食料は,安全で栄養価のあるものを,妥当な価格で国民に供給されなければならない.しかしながら,経済発展の過程でその供給の仕方は,大きく構造を変える.各国の経済発展や政策などにより,その構造は常に変わり続けるため,農業部門の構造は簡単に決めることはできない.農業部門の構造は国際戦略的に非常に重要であるため,農業のあり方というものは,国際的に取り組まれるべきである.

 

■ 20世紀の農業政策の変遷
 1960年代,第二次世界大戦が終わり,食料不足から余剰に転換した.米国は膨大な穀物保有コストを減らすため,減反政策を行った.しかし1972年,ソ連が歴史的な大干ばつ見舞われ,米国の余剰小麦を大量に買い付けた事を機に,穀物価格は4倍以上に上昇.インフレを加速し,世界市場は大パニックとなった.加えて,1973年の大豆産品輸出規制と石油ショックに見舞われ,世界食料危機が訪れた.石油ショックで大きく儲けたサウジアラビアは,国内での小麦生産を開始.米国は減反から増産へと舵を切った.1980年になると,カーター大統領が対ソ連穀物禁輸指令を発令.これにより,行き場のないデッド倉庫が生まれ,マーケットは大暴落した.国際穀物価格は歴史的な低水準に落ち込み,途上国農民が困窮した.このような緊急時にガット(General Agreement on Tariffs and Trade)は機能しなかった.レーガン大統領はラウンドの立ち上げを要請し,当時米国通商代表(USTR)のクレイトン・ヤイターは,「関税ゼロ・補助金ゼロ」を提唱した.これが,ウルグアイ・ラウンドである.1993年にはウルグアイ・ラウンドが合意され,WTO(世界貿易機関)が設立された.

 

■ 21世紀の現状
 9・11のテロ事件契機に,2001年11月にドーハ・ラウンドが立ち上げられた.ドーハ・ラウンドのテーマは,「発展途上国の開発・発展に貢献する」というものであるが,新興国との対立により,未だ合意には至っていない.2008年は,世界穀物価格が劇的に上昇した.原因として考えられるのは,エネルギーコストの急増・バイオ燃料減量需要の急増・米ドル安・世界穀物在庫の歴史的な低水準・輸出規制・投機的取引などである.
 IPCとしては,現在は世界の農政の転換期であると考えている.2008年から飢餓人口は大幅に増加しており,市場は供給主導から需要主導に転換している.しかしながら,穀物価格の急騰は,バイオ燃料の巨大な需要や気候変動,途上国需要増加のなどの影響が,さらに頻繁に起こる可能性がある.
 また,バイオ燃料政策への転換は容易ではない.バイオ燃料の増産は農産物価格に直結するからである.備蓄在庫を確保しつつ,供給を安定させるために,アフリカなどへの農業投資を増やす必要がある.

 

■ RTA(地域FTA)の戦略目標
 国際貿易政策専門家のロバート・スカレイ教授は,FTA(特恵貿易協定)をヌードルボウル(スパゲッティボウル)と呼び,全体の複雑さを表現した.
20世紀型FTAと呼ばれる既存のFTAは,多くの分野の例外や長期的な調整を含んでおり,非常に複雑なものであった.21世紀型のFTAであるTPP(環太平洋貿易投資協定)やTTIP(環大西洋貿易投資協定)が目指しているものは,高品質の包括的な協定である.既存の二国間のFTAを破壊して,もっと大きな協定に統合するのである.これによりFTAの複雑さを解消しようとしている. こうした次世代のFTAは,世界貿易の自由化に貢献すると,元USTRのカーラ・ヒルズ氏は主張している.


■ 2050年問題
 途上国と新興国では食料需要が急速に拡大している.2050年には90億人以上を養うために農業生産を70%拡大する必要がある.2050年の穀物需要は30~32億トンと予想されているが,現在の最高生産量は23億トンである.したがって,農作物を増産する必要があるが,世界的に水の競争が激しくなっている.水問題を抱える一方で,バイオテクノロジーの進歩によりGMO(遺伝子組み換え作物)が生み出されている.GMOは病気や気候への適応を強化し,増産に貢献するが,消費者の抵抗がその採用を遅らせている.しかし,途上国ではGMO栽培を積極的に進めている.
 FAO(国連食料農業機関)は,2050年問題について定量的なデータを提示している.FAOは2050年には人口は92億人に達し,途上国向けの穀物は3倍以上必要になると主張している.

 

■2050年問題を解決するために
 WWF(世界自然保護基金)のJason Clay副社長によれば,2050年には食料供給を3倍にする必要があるという.Clay氏は2050年においての貧富のグループ分けを行い,貧困層と中間層の食料供給が重要だと主張し,それを実現するためには,バイオテクノロジーやその他の技術革新が必須だと言っている.
 ロンドン大学のトニー・アラン教授はバーチャル・ウォーターという思想を展開している.食料輸入をしている国が,その食料を自国で生産するとしたら,どれほどの水が必要だろうかを明らかにしようというのだ.アラン教授によれば,その場合,水の運搬コストが食料輸入のコストを大きく上回るという.実は人類が活用できている水は,地球上に存在する水のわずか1.5%である.ただし,その多くは必要とされている場所に降らないのだ.こうした観点から食料貿易の重要性を訴えている.
 ゲイツ財団は,アフリカ開発のため,2006~2011年の間に,農業開発支援,営農技術支援,種子開発などに1700億円分の投資をしたという.サバンナ地域が将来の穀倉地帯になり得るかもしれない.

 

■ 日本の農業政策の問題点
 日本は時刻で生産できるものは関税で保護,できないものは輸入に依存している.しかし,TPPのような次世代型FTAを前に,日本の農業政策のあり方が問われている.自由貿易制度への最大の障害は関税であり,日本は各国から関税の引き下げを求められている.日本が関税を引き下げるなど,自由貿易にコミットしていかないと,交渉が進まないのが現状である.資源の乏しい日本が基本的国益を追求するためには,世界の自由貿易体制が必要,という立場が戦後一般して貫かれてきた.日本の農政の基軸をどのように国際化していくのか,長期的展望を踏まえ,抜本的な改革案を議論していく必要がある.

 

■ Q&A
Q1, 日本の豆腐は遺伝子組み換え大豆を使用していないと聞くが,実際はどうなっているのか?
A1, 日本国内では遺伝子組み替え大豆を栽培することは禁止されているが,遺伝子組み換え大豆を輸入するのは可能である.近年では,遺伝子組み換えでない大豆を手に入れるのが難しい.農家は,純正大豆を作るよりも遺伝子組み換え大豆を作る方が,大きな利益を見込めるようである.

Q2, トウモロコシの生産量が増えているのは,遺伝子組み替えによって強くなっているからであろうか?
A2, その通りである.

Q3, 巨額な投資を行っているゲイツ財団だが,遺伝子組み換え種を売って儲けようとしているからでは?
A3, そうではないようである.以前ロックフェラー財団が遺伝子組み換え種で儲けようとしていたようであるが,失敗している.

Q4, サウジアラビアが農業開発にあたって,化石水を使おうとしているらしいが,実際はどうなっているのか?
A4, 詳しい情報は公開されていないので,わからない.

Q5, 遺伝子組み替え分野で,日本の化学業界はどれほど進出の可能性が残されているのか?
A5, 現状はあまり取り組んでいない.

Q6, GM種を作る事に積極的なのは,ネスレなどのグローバル食品企業であるか?
A6, はい.植民地開発に携わってきた企業が多い.

Q7, GMOがアクセプトされない理由はなにか?
A7, 宗教的な考え方から.「種」を加工することに抵抗がある人が多い.

Q8, ここまでの話を聞いていると,食料危機は起こりそうも無いように思えるが・・・?
A8, 少なくとも日本では起こりえない.問題はアフリカなどのように貧しい国である.

Q9, 種を栽培者自身が増やせないような品種改良は良くないのでは?
A9, 良くないと思われるが,資本的な理由からそうしないのであろう.例えば,日本のコシヒカリなどは,海外に持ち出され



 

    2013年3月16日
地球環境研究会・議事録    記録:関洋
講演者:アジア航測株式会社総合研究所理事フェロー技師長・千葉達朗氏
「富士山の地形から噴火の記録を読み取る-赤色立体地図で見る裸の富士火山-」

■概要
  等高線表記や陰影図など古くから平面の地図から立体的な情報を得ようという試みはなされていたが、各表現法において実際に地図を立体的に見せることに関して様々な欠陥があった。講演者の千葉氏は赤色立体地図という新しい画期的な表現法を開発し地図を立体的に見せることに成功した。このことにより、今までにはわからなかった地形、地質状況がわかるようになる、これを富士山に適用することで富士山の成り立ちや火山活動が研究できる。

 

■赤色立体地図
  いままで等高線表記や陰影図など平面の地図から立体的な情報を得ようという試みがなされてきた。特に平面地図を視覚的に立体的に見せるために陰影図や斜度図、高度段彩図など様々な手法が考案されてきた、しかしながらこれらの手法には様々な問題が存在する。

  陰影図は地形にある方向から光を当てたと想定して光が当たっているところは明るく、影になっているところは暗くするように描くことで立体的に見せる地図であるが、光があたる方向が変わると印象が変わってしまう、逆さまにすると凹凸が反転してしまうといった欠点がある。

  また,斜度図は斜面になっているところを濃く表現する地図であるが、微地形はよくわかる一方凹凸の区別がつかないといった欠点がある。また、高度によって彩度を変化させる高度段彩図は大地形の把握はできるが微地形は判然としないといった欠点がある、しかしながら千葉氏は開発した赤色立体地図では地形を立体的に見ることができる。
  赤色立体地図とは赤色の明度と彩度の2つを用いて視覚的に地図を立体的に見せる。まず、地形が尾根となるところを明るく、谷となるところを暗くする。
  次に、地形の傾斜が大きいところの彩度を大きく(より赤色に)して表現する、この2つを合成すると図1のように地形が立体的に見えるようになる。

 

                図1.赤色立体地図の原理


  赤色立体地図に必要な地形データは航空機によるレーザー計測によって得ることができる。レーザー計測とは航空機からレーザーを照射し、地面によって反射したレーザーを測定することで正確な距離を測るというものである。航空機はGPS によって位置を測定され、最大で20cm 四方程度の地形の高度を測定出来る。また、赤色立体地図のために新しくデータを撮り直さなくても、以前測定したデータがデータベースの中に存在すればそれを利用することができる。
  このようにして得られたデータはデータ処理によって森林などによる高度変化を排除し、裸の地形のデータとして用いられる。
  赤色立体地図は他の表記法の地図と併用することでより威力を発揮できる、たとえば等高線と合わせることで凹凸だけでなく、具体的な高さまでひとつの地図で表すことができるようになる。また、赤色立体地図の手法は他の色でもできるが、赤が最も立体的に見やすいことが分かっている。

             

■赤色立体地図からわかること
  赤色立体地図を用いることでたくさんのことが新たにわかってきた。ここで
はいくつか例を挙げて説明する。図2に示すのは同じ地形で等高線表記されたものと赤色立体地図で描かれたものを並べたものである。右が等高線によるもので、左が赤色立体地図である.等高線ではぼんやりとしていた凹凸がはっきり明瞭になることで火口列などがはっきり見えるようになった。

 

                                 図2.等高線と赤色立体地図の比較

 

  また、等高線の揺らぎのように見えていたものが道路や溶岩じわであったりすることまでわかる。また、図3では図の右から左に向かって溶岩流が流れていきどこまで到達しているかなどが直感的にわかる。このような地形は航空写真では森林などにより地面が隠されてしまうため見ることができない。

  また、現地に調査にいっても視界が限られてしまうことで俯瞰的に理解することはできない。地面の凹凸がはっきり見える赤色立体地図だからこそこのような地形が見えるようになる。このように地形を見ることによって地質などを判断する材料ができる。

 

                図3.溶岩による地形の形成

 

  図4は赤色立体地図から青木ヶ原溶岩流がどのように分布しているか調査した図である。このようにどこからどこまでがいつのどの噴火でできた岩石かといった情報が現地で細かく調査しなくても判断できるようになる。ほかにも赤色立体地図によって断層がどこにあるのか、地震によって倒壊した建物はどこかなど様々な情報を得ることができる。富士火山の理解にも非常に役に立っている。                 

                                

                                   図4.青木ヶ原溶岩流の分布

 

■富士山
  富士山は日本の110 箇所の活火山のうちのひとつである。富士山は平均して200 年に1 度噴火していると言われており、このように噴火が多発したことで傾斜が緩やかでありながら日本一の高さを誇る山となった。最後の噴火は1707年の宝永の大噴火であり、このときの火口が富士山の側面に大きな穴をあけている。注意しなければならないのは200 年に1 度起きていると言われている噴火が現在300 年以上も起きていないということである。近年の調査で富士山の下にあるマグマの増加量が昔と変わっていないということが報告されており、その分次に起こる噴火は非常に大きなものになる可能性がある。

  富士山が噴火すると周辺への溶岩流などの心配もさることながら、火山灰の影響も大きい。


  図5は富士山が噴火したときに降灰する可能性がある地域を示した図である。このように首都一体に降灰する可能性がある.首都一体に降灰すると首都機能が停止してしまうことまで考えられる。富士山は今後100 年、1000 年の間にはほぼ確実に噴火すると考えられるから、これに備えて準備することが非常に重要である。

 

                  図5.富士山降灰可能性図(出典:富士山防災協議会)

 

Q & A


Q. 富士山の噴火の予測はできないのか。
A. 宝永の大噴火程噴火が大きければ予兆を観測できるかもしれないが、それより小規模だと予兆がわからないと考えられている。


Q. 噴火と地震は関係があるのか。
A. 噴火と地震は非常に密接な関係がある、東日本大震災が起きた時も富士山周辺で地震があり,噴火するのではないかと冷や冷やした、このとき噴火しなかったことからかなり硬い地盤にマグマ溜まりが囲まれているのではないかと考えられる。その分、噴火したときは大規模になる可能性がある。また、南海トラフなどで地震があると近年言われているが、ここで地震が起きることで富士山の噴火が誘発されるということも考えられる。


Q. 富士山が噴火し、降灰するとどのような影響が考えられるか。
A. 現在、電力のほとんどを火力発電に頼っているが、灰が火力発電に使われているタービンに入ると動かなくなる事が考えられる。これにより関東一体に電力を供給できなくなる可能性がある。また、高速道路は水が流れるだけの勾配はあるが、灰を流せるだけの勾配はないため、除灰がうまくいかず、交通が麻痺してしまうかもしれない。また、磁気のカードが使えなくなってしまう、飛
行機がしばらく飛べなくなってしまうなど様々な影響が考えられる。